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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第五章 春の嵐編
327/529

327 先駆け

「東からのスタンピードだと!?」

冒険者ギルドは騒然としている。

僕も冒険者。何が出来るかをとっさに考える。


カークさんが叫ぶ。

「皆!静まれ!ヴィルドには防御結界がある!落ち着いて行動すれば大丈夫だ!」

それでも迎撃しなければならないことは確実だ。

一瞬静かになったが、またがやがやわあわあとさまざまな声が飛び交っている。

「我々はどうすればいい!」

「ギルド長は!?誰か呼んでこい!」

「回復ポーション、足りるか!?」


ユリアはとみると、すでにギルド長を呼びに階段を駆け上がって行くのが見えた。

僕は何か言おうとしているカークさんの腕をひっぱり、彼の耳元で言った。

「カークさん!僕、シンハと偵察に行ってきます。空飛べるんで。」


僕が言うと、カークさんは目を見開いて僕を見た。なので、大丈夫というふうに、にっこりしてみせる。

一瞬の空白。どうすべきか、彼は迷っている。だが、僕の威圧が効いたのか、先日の壁直しを思い出したのか、うむ、と頷いてくれた。

「絶対無理するな!勝手に攻撃はするな!必ず帰ってこい!」

「はい!」

僕は騒然とするギルドの大扉へと走る。シンハとともに。


そして扉を出る時、ちょっと振り返り、無表情のカークさんにまたにこっと微笑んで高くブイサインを出してから出かけた。ブイサインが何を意味するかなんて、知られてないでしょうけど。

「まったく。なんて奴だ。」

カークさんの独り言を誰も聞いてはいなかった。


僕はギルドを出ると、風魔法「俊足」を使って走る。シンハも大きくなった。

『乗れ。』

「あいよ。」


東門は駆け込んでくる人々を検問なしに受け入れている。

その一瞬の隙間を、僕を乗せたシンハが駆け抜ける。

「ちょっといってきまーす。」

唖然とする守備兵さんたちの目の前を、びゅんと通り過ぎた。

「え!?え!?」

まあ街を出る時はいつも検問もないし、問題ない、はずだ。


すぐに街道から外れ、索敵を前方10キロメルまで広げる。まだ魔物の軍勢はいない。さらに索敵を50キロに広げると。

「うわ。真っ赤じゃん。」

すごい数の敵がレーダーの縁に現れた。


「シンハ、そろそろ飛ぶからね。そのまま空中を走るよ。」

『うむ。』

「グラヴィティ・ライト。フライ」

するとシンハはもう慣れたもので、走り方を変え、ポーンポーンと前へと飛び跳ねるようにしながら空を飛んだ。

「おお。上手になったねえ。」

『無理に褒めなくていい。お前は魔法と魔物に集中しろ。』

「了解。」


さて、空から遠くを眺める。

すると、遠くに凄い土埃が見える。そしてその上空には飛行物体もいる。ワイバーンのようだ。

僕はさらに目に遠見の魔法をかけた。

凄い数の魔獣だ。ほぼ平原の左端から右端まで、視界のすべてに魔獣が広がっている。

うーん。さて、この状況をどうやって報告するか。


空を飛べるから偵察ができる、という事までしか考えていなかった。

テレポートで戻って報告してもいいが、せっかくだから早く手を打ちたい。魔力も無駄にしたくない。だから戻りたくない。


さらに魔獣の群れに近づくと、ますます深刻さがわかった。

やはり早急に数減らしをしておきたい。

状況報告に、眷属たちを使うか。いや、妖精とか鳥とかだし、念話はできるけど…。

「!いや、もう一人、居たよね。」

でも…。映像を流すのははばかられた。


今はおそらく無人の穀倉地帯を魔獣たちが進んでいるだけなのだが、手前には農家がぽつぽつと点在する。子供を抱えて必死に走っている人たちも居る。


そのはるか後方に、街道をこちらへ向かって全速力で走る商人の馬車がいる。全速力なのだろうが、どうも荷物が満載であまりスピードが出ていない。このままだといずれはあの魔獣の波にのまれてしまうだろう。

その映像を、「彼女」に送るのはしのびない。というか、絶対したくない。

そう。送り先はユリアだ。


彼女は僕とシンハの念話をキャッチできる。こんな遠くではできるかどうかわからないが、たぶんできるような気がするんだ。


『おい。どうする?あの荷馬車、やがては追いつかれるぞ。』

「もちろん助けるよ。でもその前に。」

僕は精神を集中し、強くユリアをイメージした。

「(ユリア。ユリア。聞こえる?)」


一方。こちらは冒険者ギルド。ギルド長とカークは1階のカウンター奥の机で、情報収集をしていた。


此処にはギルド長と副ギルド長の机がある。カークはよく此処で職員の動きを監督しながら公文書にサインをしたりしているのだが、ギルド長がこの席にいることはめったにない。通常は3階で執務をしているからだ。

だが今日は違った。刻一刻と入ってくる情報を得たり、指示出しをしたりしている。


受付嬢たちは、ある者は回復ポーションの在庫確認に倉庫へ走り、ある者は窓口で今回のスタンピード討伐に参加する冒険者の受付をしている。ユリアは集まってきた冒険者リストを、ランク別に振り分ける作業を手伝っていた。


とそこへ

「(ユリア。ユリア。聞こえる?)」

と唐突に此処に居ないはずのサキの声が頭の中に響いた。

思わず立ち上がり、あたりを見回す。

「サキ?サキなの?何処にいるの?」


急にしゃべり出したユリアに、カークとギルド長が気づいた。

「どうした?ユリア。」

とギルド長。

「もしかして、サキ君からですか!」

ユリアの傍にカツカツと大股に歩いてきて、カークは訊ねた。

でもサキとの「会話」は続いている。


「今、東の上空なんだ。」

「え!?東って…」

「ユリア。落ち着いて聞いて。でないと、念話が途切れるから。」

「わ、わかったわ。」

「そこにギルド長はいる?」

「ええ。いるわ。カークさんも。」

「じゃあ。今から状況を言うから、僕が言ったことを一字一句、二人に伝えて。できる?」

「できるわ。」

「おっけー。まず、僕から念話が入っていると伝えて。」


「ギルド長、カーク副長、サキ君から念話が私に入ってきています。今から一字一句、お伝えします。」

ユリアが言った。

二人の大人は無言で頷いた。

「サキ、いいわよ。」

「じゃあ始めるね。」

そしてサキの報告が始まった。



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