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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第四章 大寒波の冬編
323/530

323 石鹸とか接着剤とか

それから3月の特筆すべきことは、石鹸を特許登録したこと。ハーブ入りの薬用石鹸や、洗濯用の粉石鹸、液体石鹸も含んでの登録だ。


石鹸はこの世界に一応すでにあるが、あまり良いものが無くて、洗い物には、植物のサイカチに近いイサカチという実や、灰汁(あく)、稀に小麦粉が使われている。

あとはクリーン魔法。でも、全員が自分以外のものにクリーンをかけることができるわけではないし、魔力も使うので、庶民はもっぱら灰汁とイサカチの実なのだ。


地球では、普通手作り石鹸を作るとなると、苛性ソーダを使う方法が一般的だ。しかし、ここでは流通しているものではないという。森にあったナトロンを使うことも考えたが、これも大量に採れているものでもないらしい。


そのためもあってか、石鹸は高価で貴族の使うもの、というイメージがあるようだ。

だが、衛生や病気の予防を考えると、庶民にこそ広まって欲しい品物だ。


そこでまずは、原始的に獣脂や植物油と灰で作ってみた。だが、それだけだと泡立ちがイマイチ。そこで、グリューネたちにも相談し、獣脂と植物油、灰を基本に、イサカチやハーブ、水スライム液、そして固化の補助材としてベラン草を入れた。すると泡立ちも香りもよく、衛生的で、お肌にも環境にも優しい、異世界の固形石鹸となった。

しかも材料費はお安い。

ベラン草などは雑草扱いだもんね。

これを基準に、粉石鹸や液体石鹸も作った。


それからシャンプーとリンス。シャンプーは石鹸の応用だし、リンスはすでにある化粧水の応用。

香りは万人受けする控えめの柑橘系で登録した。


それらすべての作り方を生産者ギルドで特許登録し、石鹸を中心に、薬師経由で広めてもらっている。感染予防に重要だからね。

特に配慮したのは、安価にできることと、使った水を大量に川に流しても大丈夫と、妖精達にも認められること。これは本来なら相当にハードルが高いことだったが、妖精達の協力で、実現できた。


もちろん、発案者は匿名。利益受け取りは生産者ギルドを代理にしてもらっている。どうしても利益はとれ、とエッダさんに言われたので、最低利率の1パーセントにしてある。地球の知識と、この世界の石鹸が基礎になっていて、ゼロからの僕の発明ではないので心苦しいが、強く言われると拒否しきれない。一応、この世界の材料を使い、工夫もしているからね。

にせものの粗悪品が出回ってもよくないし。


今のところ販売は領都ヴィルド中心なので、ささやかな利益だろう。

それに、この世界は大人ならクリーンが誰でも使えるから、どこまで石鹸が広まるかは不明だ。

クリーンの強さは人それぞれだけれど。

むしろ、洗濯石鹸のほうが売れるかもしれない。


さらに、石鹸と連動で、アイディアだけ出して、ゲンさんに特許を取らせようとしているのが、最初から泡で出るポンプ式の液体石鹸容器。

これは、実は自分がお風呂ですでに使っているので、怪しまれぬよう、石鹸の登録からあまり間を置かずに、ゲンさんに特許を取ってもらおうというワケ。


こちらは絶対ヒット間違いなしだと思うんだけど。

これは「泡で出る」というところが重要。石鹸に限らず、泡で出したいものは特許案件だ。石鹸以外はすぐには思いつかないけれど、少しはゲンさんの懐も潤うかもしれないと期待している。

一応、原理と形はすぐ出来たんだけど、ゲンさんは凝り性なので、今、バネの材質で錆びないものはないかといろいろ実験している。さすが、職人の鏡だ。


容器は、金属とガラスを使った容器になるだろう。

この世界にはプラスチックの容器はない。


プラスチックで思い出したが、スライムゴムの特許を、いつ取ろうか、迷っている。

これはあまりにも画期的な素材だからだ。

この世界に、ゴムによく似た素材をもたらすだけでなく、ベラン草の配合比率によっては、プラスチックに似たものにもなる。

以前は、スライム液とアラクネ糸のセルロース、そしてトレント材から出る樹脂で作っていたが、ベラン草を使うことで、高価なアラクネやトレントを使わず済むように改良できた。アラクネなどを使う方が堅牢なものができるが、安価に、となるとベラン草に軍配があがる。


それから、スライムの体液は、討伐しなくとも採れる。スライムに痛点はないので、体に太い注射器みたいなものを入れて吸い出せば、命まで取る必要は無い。

すでにスライム溶液を使った化粧水は開発されているし、貴族家の下水の始末のためもあって、今ではスライムを専門に育てている業者もいるらしい。

そういう点でも、安価に作れるのだ。


スライムゴムもスライムプラ(仮称)も、地球上より滅びない材質だが、燃やせば燃えるし、燃やしても草を燃やす程度しか空気を汚さない。溶かすこともできるが、手っ取り早いのは、スライムに食べて貰うことなので、環境汚染の心配はない。

心配はないが、文明をあまりに飛躍的に前進させる懸念がある。特にスライムプラ。


「どうしようかなあ。」

『世界樹に相談してみたらどうだ?お供えをすれば、お前になら示唆くらいくれるだろう。』

「あ、ナルホド。」


という訳で、礼拝室でお菓子をお供えしてご相談してみた。すると

『構わないよ。作る過程で魔力も使う。大規模には当面、出来にくいはずだから。』

だそうで、オーケーが出た。

アドバイスをしてくれたくせに、シンハが

『まさか本当に、世界樹が神託を降ろすとは思わなかった。』

と呆れていた。


世界樹の許可も出たので、4月になったら、特許を出そう。

スライムゴムにスライムプラ、スライムスーパーボール、膠スライム糊と偽漆スライム糊。

関連の品々を、一挙に出願することにした。

書類作成、忙しくなりそうだ。



「ちょっとぉ、サキくん、アレ、なんなの!?」

ある日、商店街を歩いていると、ばったりレジさんに出会った。

「アレって?」

「んもう!ちょっと馬車に乗りなさい。」

「はあ。」


拉致同然で馬車に乗せられると、レジさんは自分で防音魔法を発動した。

「石鹸とかシャンプーとか。最近の特許よ。どうせあんなすごいのを登録したのはサキくんでしょ?」

「さて。どうでしょう。」

「否定しないということは、つまりそうなのね。んもう。専属契約したかったのにぃ。」

「すみません。特に石鹸は街の人たちの衛生面の向上のため、なるべく安価に広めたいので。薬師中心に広めてもらっているんです。」

「なるほどね。でも、生産体制を考えると、うちみたいな大手を嚙ませた方がいいと思うわ。固形石鹸はともかく、シャンプー・リンスよ!あれは貴族にもウケるわ!大ヒット間違いなし!」

「そうですか。どうぞお好きに。」

「んもう。本当に欲がないのね。その気になれば、大金持ちになれるのに。」

「僕は商人には向いていないので。3年間の特許料だけで充分です。」

特許料は、3年が基本。あとは入ってこない。申請時に希望すれば5年とか10年とかにもできるが。僕はどれも3年にしている。


「さっそくうちで作ってみたのよ。でも、もうワンランク上のものも考えているの。相談に乗ってくれない?顧問料、出すから。どう?」

「それくらいなら。」


というわけで、僕はライム商会とアドバイザリー契約をすることになった。

後日、シャンプー・リンスは、天然素材の香り成分を入れて、柑橘系、フローラル系、ハーブ系の3種を展開。そして貴族用には凝ったガラスビンに入れて限定販売、平民中心には簡易な容器で売り出した。

するとライム商会の宣伝効果もあって、王都を中心にいずれも大ヒット。

さらに、育毛効果を狙って、メルティアを入れた高級品も展開することになるが、それはまた後日の話。

レジさんがはまると、派手な展開になるんだよね。でもまあいいか。

人々の衛生面に寄与できたことで、僕は満足だ。



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