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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第四章 大寒波の冬編
308/534

308 事件の顛末と、産婆のおばあさんの家の整理

「死の舞踏」パーティーがそれからどうなったか、僕が知ったのは、ずいぶんあとになってからだ。

というのも、彼らは王都の冒険者であり、かつ重大な事件に関わったので、王都に移送され、長く過酷な取り調べを受けたからだ。


風の噂で、あのハーフエルフの少年以外は全員縛り首、彼(名前をゼンというらしい)だけは、未成年で、パーティー内部で虐げられていたことも明らかになったので、追放処分で済んだという。

冒険者にはもうなれないが、生まれ故郷のカイエルン王国に帰り、冒険者時代に身につけたシークのスキルを生かし、当面は薬草取りや狩人をして、暮らすらしい。


彼をもっと早く、暴力的なレカンから救えなかったことをギルド本部は重く受け止め、彼にはこれからの暮らしに必要なスキルを学ぶ機会を与え、かつ故郷まで、ちゃんとした冒険者パーティーを付けて、送ってやったそうだ。


さらにかなりあとに聞こえてきた話では、その護衛してくれたパーティーのリーダー(男性)とは恋仲となり、やがて結婚して薬屋を開いたとか。

薬屋?もしやあの時、避難所の全員が見事に寝こけていたのは、彼の調薬のせいか?

よく極刑にならなかったな。

たぶん、冒険者ギルドがなにかがんばって擁護したのだろう。


そしてジャック・ド・フーパーだが、慌てて重要書類を焼き捨てようとしたのを、潜伏していたコウモリが僕に知らせてきた。

僕はすぐにフーパー商会にテレポートすると、隠微スキルで侵入し、ただちに証拠物件を押さえた。それは、難民の拉致に使われた馬車の注文書。さらに、峡谷のトンネル整備に関する書類だった。

そして、ついでに奴とその片腕だった執事を簀巻きにして放置。

それからコーネリア様とレジさんに、ロビンたちを使って密告。偶然を装い、フーパー商会に乗り込んだレジさんが、簀巻きの彼らを見つけてわざと大騒ぎ。

そのまま領主邸に連れて行き、証拠物件をコーネリア様が突きつけた。


そして、例の空き家のトンネルが、壁抜けのためであることや、峡谷のトンネル整備の書類などをもとに、フーパーを告発。

結局、御家取り潰し、貴族の権利剥奪。

商会や奴の個人資産などはすべて没収。幾ばくかはコーネリア様に避難所修理代金とか迷惑料とかで支払われたが、ほとんどが国庫に入り、王家が潤った。やがて始まる戦争の準備資金にも充てられたらしい。


だが、限りなく黒に近いダーラム侯爵までは捜査の手は届かなかった。

フーパーが子飼いの貴族であったことは認めたものの、すでに絶縁したと言い、口頭注意だけで済んでしまった。

帝国との折衝にも関わる国務大臣を、今すぐ罷免という訳にはいかなかったという大人の事情ゆえだった。


フーパーは、難民拉致については失敗したゆえに「未遂」として無理矢理処理され、貴族特権で極刑は免れたものの(ここでも莫大なお金が動いたらしい)、壁抜けの罪は、商人ギルド会長だったこともあって、とても重い罪ということになった。

そして、死ぬまで執事ともども鉱山送りとなった。


過酷な鉱山では、元貴族の彼らが、長く生きられる見込みはなかった。半年とたたぬうちに、執事は病死、フーパーもほどなく転落死という情報を耳にすることになる。これらが暗殺だったのかどうかは、結局わからずじまいだった。


黒い呪いが籠もった魔石の入手先、加工した者なども、結局解らずじまい。

フーパーと執事は誰かを恐れて口を割らず。(たぶん口にしたら即死する呪いが掛けられていると思う。)出所にダーラム侯爵が絡んでいそうだったが、あまりに大物すぎて、決定的証拠でもないと、家宅捜索などもできず。

という、なんともモヤモヤする結末となった。


それから、エリカ姉さんが言っていた、ユリアをデートに誘っていたという「Aランクのパーティーメンバー」とは、「死の舞踏」のチンピラのことではなかった。

僕も面識のある、エセル・ジャンドというAランクのエルフの冒険者。「風の輪廻」というマトモなパーティーのリーダーなのだが、これが結構チャラ男な兄さんで…。

案の定、ユリアをナンパしようとして、同じパーティーメンバーの女性陣に、髪だの耳だの引っ張られて、あえなく退散していったそうだ。


彼らはもう王都に戻ってしまったそうで、今回、僕は会えなかった。

エリカ姉さんは、「Aランカー」というとすぐわかってしまいそうなので、ぼかすために「Aランクのパーティーメンバー」という言い方をしたようだ。


さて。もとはといえばこの事件は、「トカゲの尻尾亭」の引っ越し先をどうするかの話から始まったのだ。

で、その宿屋の件だが。


土地購入の話はトントン拍子で進み、王都からちょうど戻っていたコーネリア様の許可もすぐに下りて、2月頭には僕が土地を先生から売ってもらい、2月の半ばには、宿屋が開店出来る見込みになった。


空き家になっていた産婆のおばあさんの家は、僕が土地の所有者になったその晩、真夜中に建物とその中味も一緒に、まるっと収納した。

そして翌日。

先生を僕の家に呼んだ。

「ホールに、おばあさんの遺品を全部出しました。

ちらっとでいいですから、見てください。そして、残したいものを、取り分けてください。」

「わかった。」

「なお、家屋には地下室がありまして。」

「?」

「宝石類が出てきました。これは先生にお渡しします。」

と言って、絹の袋3つをテーブルに置いた。


「いや、それはお前が報酬としてとっていい。」

「いいえ。先生。これは、僕が関与すべきものではありません。きっと、おばあさんが、先生にいずれお薬代としてお支払いしようと、取っておいたものでしょう。…おばあさんは、最後は「子供に戻って」いませんでしたか?」

「たしかに。彼女は聡明だったが、最後は痴呆もわずらっていた。遺言書はそうなる前に書かれたもので、レビエント枢機卿に立会人になって貰っている。「家土地含め、残った全財産を俺に」、とまだ元気なうちから何度も言っていたし、書面にもそう書かれていた。」

「なるほど。ではなおさらこれは、正統に先生のものですね。お薬代として先生にお渡しするのを、忘れちゃったか、あるいは、宝石には思い出が一杯で、最期まで持っていたかったのか、わかりませんが。」

「…そうだな。」


「それから…オルゴールもありました。カギはこれ。」

「カギもあったのか。」

「ええ。これは机の引き出しに、無造作に入っていました。」

「そうか…。」

「僕は開けていません。先生が開けてください。」


先生がオルゴールを開けると、その中にも宝石がいくつか入っていた。

オルゴールの踊り子が回り始めた。

自動で始まるオルゴールは、魔石の力で動くもの。

可愛らしいメヌエットのような音楽が、鳴り出す。


「おばあさんのお名前、伺ってもいいですか?」

「え?ああ、言っていなかったか。メアリーだ。メアリー・バトラー。どこぞのエルフの落とし子だとか言っていた…。だが、名前は短かったな。偽名かもしれないが。」

エルフは名前が長いことが多いのだ。

「偽名ではないようですよ。」

「?」

「オルゴールにイニシャルが。」

「そう、か…。」

「ホールは夕方まで使えます。どうぞゆっくり、選んであげてください。」

「あ、ああ。」

僕は先生を残して、ホールを出た。

先生は、結局夕方まで、ホールでメアリーおばあさんの思い出に浸り、対話していたようだった。


『なんのかんの言いながら、あやつも人の子だな。』

「先生は、もともと情にあつい人だよ。いつもはつっけんどんだから、そう見えないだけさ。」

『そうか。お前も、お人好しだが、あいつもさらにお人好しだな。貧乏人から金を取れないとは。』

「そうだね。あ、僕はお人好しじゃないよ。やりたいことをしているだけ。元手がかかったものには、ちゃんと対価ももらっているよ。」

『魔法はばんばんぶっ放すではないか。タダ同然で。』

「だって、元手、あんまりかかってないもん。魔力供給源のエリクサーだって、材料費ほぼタダだし。」

『まったく。無自覚ほど恐ろしいものはない。』

「えーそうかなあ。」


先生が、結局何を選んだのかは知らない。

律儀な先生は、オルゴール本体は持っていったが、宝石類の一部を、僕にと置いていった。

だが、僕も結構頑固なんです。


置いて行かれた全部の宝石をお返ししようと思ったが、一粒だけ気になるものがあった。

鑑定すると、「龍眼」となっている。金色に光るそれは、中央部分が龍の眼のように、縦に細く赤く光っていた。

本物の龍の眼にしては、あまりにも小さすぎる。でも直径3センチはあるから、宝石としては大きい方だが…。キャッツアイみたいなものか?

鑑定さん…いや、アカシックレコードによると

「龍眼…ドラゴンアイと呼ばれる宝石。古代龍の額の奥にあると言われる第3の眼の化石と言われるが伝説の域を出ない。出土時から真円であるのが特徴。魔力を溜めることができ、その最大量は膨大である。しかし、その魔力を引き出して使用できる者は、魔術を極めた者でないと困難といわれる。硬度はダイヤモンドと同等であり、非常に硬い。宝飾品に加工するのはダイヤモンドより困難であるため、カッティングせずに用いるのが通例である。」


「シンハ。これ、なんか、すごーく硬くて、カッティングは難しいみたい。それより…中に魔力がある程度あるんだけど…。どう思う?」

僕は龍眼をシンハに見せた。

『ふむ。たしかに、穢れとは言えないが、妙な気配だな。』

「うん…。」

『これは奴に返さず、お前が持っていた方がいいだろう。普通の人間が持つには、少々危険な気がする。』

「やっぱり、そう思う?」

『ああ。お前の亜空間収納にでも入れておけ。そのうち使い道もお前なら出てこよう。』

「将来どうかはわからないけど…。じゃあ、これだけ貰っておくとしよう。」


その他の宝石類は、オルゴールの中にテレポートさせておいた。

「「龍眼」という石1粒だけいただきました。ありがとうございます。他はすべてお返しいたします。生まれてくる子に、プレゼントです。」

と書いたカードを添えて。

こうすれば、さすがに戻してはこないでしょ。


ホールに残ったものは、すべて一旦収納し、領都外の川辺でサラマンダの業火で焼却。残ったわずかの灰は、浄化の呪文を唱えつつ、川に流した。


その晩、空になったホールで、清めのヴィオールを弾いた。清めになったかどうかは解らないけど。ツブツブの精霊達には、喜ばれた。

いつのまにか、シルルとユーリがちょこんと階段のところに座って、聴いていた。


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