表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第四章 大寒波の冬編
305/529

305 一味の護送

「ありがとう。」

ため息のような小さな言葉が、僕の胸に響いた。


その一言で、彼の立場がわかった。

おそらく、彼は奴に「飼われていた」のだろう。雑用係か、性奴隷まがいか。わからないが。彼にとっては地獄のような日々だったのだろう。


だから、僕は賊たちすべてに聞こえるように言った。

「これまでのことを、すべて尋問官に正直に話せば、あるいは罪が軽くなるかもしれない。とにかく、正直に話すことだ。

もし残念ながら死刑になっても、きっと世界樹が、本当の罪の重さを量ってくれる。地脈での禊ぎの時間が、短くなることもあるだろう。最期まで諦めず、静かに自分と向き合いなさい。」

そう言って、僕はその場を離れた。


『まるで聖人みたいで、良かったぞ。』

シンハが言った。しきりに前足で顔を洗いながらだったけど、別にからかったわけではないようだ。

「僕は聖人じゃない。」

『お前はまだ、人を殺すことに慣れていない。』

「盗賊は結構殺したよ。」

例の盗賊討伐も経験している。


『それでもだ。レカンのような手強い人間と、サシで勝負した経験はほとんどない。よくやった。ああ、デュラハンは別格だぞ。』

「そうだね。…ありがとう。」

僕を励ましてくれるシンハに、救われた気がした。

寝不足のせいもあってどんよりしている重たい気持ちが、少し救われた気がした。


「おーい!サキ!いるかぁー。どこだー?」

ようやくケネス隊長のお出ましだ。

僕は気分を変えて立ち上がった。

「はーい!ここですぅー!」

あ、やばい。シルルを隠さないと。


「シルル。君を帰さないと。隊長に見つかるとやばい。」

「はう!そうでしたぁ!」

そういうと、僕の魔力にまず入った。

置き忘れたバスケットも魔力に取り込む。

「(シルル、ありがとね。美味しかった。)」

「(うふ!いつでもお呼びくだしゃい!)」

と魔力の中で胸をはるのが可愛い。

シルルを我が家のキッチンに帰した。


「おう、ここだったか。」

「どうも。おはようございます。」

「まったくよう。心配かけやがって。」

と言ったのは、副隊長のテッドさん。

一緒に来たの?街の守備は大丈夫?

「えへ。遠くに逃げられる前に、なんとか間に合いました。避難所、火事はどうなりました?」

「ああ。あっちもだいじょうぶだ。」


一味の一人が、避難所の魔石のあったあたりで、黒焦げ死体で発見されたそうだ。

火付け役だったらしい。

逃げる間もなく、あの地獄のような業火に焼かれてしまったのだな。

火事といえば…収納した魔石。

此処に来るまでに、賊たちが投げつけてきたものだ。

あれらは黒魔術で黒く濁らせた火の魔物の魔石だった。

ひとつは火属性持ちの火狐、ひとつは火食い魔熊、そしてもうひとつが火猫のものだった。いずれもそれなりの強さがあるダンジョンの魔獣だ。


だが、レカンならそれらの魔獣を倒すのもたやすいだろう。

とにかくそれらの魔獣の魔石に、黒魔術で黒い靄を取り込んだもの。だから、その過程で生け贄が捧げられたはずだ。魔獣ならまだいいが。人間じゃないだろうな。

いずれ、そのあたりも一味には語って貰わねば。

そして、この騒動を画策した人物。おそらくジャック・ド・フーパー。奴に繋がる証拠があればいいが。


テッドさんは主に賊たちのほうに付き、隊長はエルフの護衛と総指揮。

僕は、エルフや賊たちをヴィルドに連れ帰る帰り道で、密かにコウモリのハピを召喚した。

「(キキ!どうした?ゴシュジン。)」

「(悪いけど、仲間をフーパー商会と奴の自宅に、潜ませることはできる?)」

「(できるよー。)」

僕はフーパー商会のイメージを送った。自宅はわからないから、それも含めてコウモリ達に調べて貰うことに。

「(この事件を知ったら、必ずフーパーは、慌ててなにか燃やしたり、処分したりすると思うんだ。それを阻止したい。見つけたら、すぐに僕に連絡を。できそう?)」

「(やってみる。面白そう!キキ!)」

「(秘密の部屋とか金庫とかのありかもよろしくねー。)」

「(リョウカイ!キキ!)」

『おい。首を突っ込みすぎではないか?』

「(そんなことないよ。このまま放置したら、絶対逃げられて、またエルフたちが狙われる。ユーリだって危険になる。絶対フーパーだけは捕まえないと。)」


帰り道の途中で、ようやくカークさんたちが来てくれた。

「おう。カーク。賊はどうやらおまえさんたちの管轄だぜ。」

とテッドさんに言われ、賊達を見ると、むっとした顔をした。

「そのようですね。お手数をおかけしました。」

「だがギルドには渡せない。このまま領主様の牢屋に入って貰う。」

とケネス隊長。

「もちろん、それで結構です。こいつらは王都所属です。ギルドとしては、王都で裁くことを希望します。詮議はさらに厳しいものになるでしょうね。」

「ああ。ただの平民ならまだしも、冒険者が人身売買に手を染めたんだ。これは極刑しかありえんだろう。」

「その通りです。拷問もあるでしょうね。」

などと、恐ろしい話をわざと奴らの前でしている。

あの一番下っ端の彼などは、すっかり青ざめて震えていた。

「カークさん、ちょっとお話が。ケネス隊長も聞いてください。」

僕はお二人に耳打ちする。もちろん、防音魔法を発動し、口元も隠して。


「この事件の裏には、ジャック・ド・フーパーがいるようです。なんとか彼を裁きたい。」

「「!」」

「それから、「死の舞踏」ですが、犯罪に積極的な奴と、そうでない奴がいます。特に、一番年下らしい…緑髪の子は、まだ未成年と思われます。レカンが死んだと聞いて、ありがとうと、ひっそり言われました。彼もレカンの犠牲者かもしれない。そのあたりをお考えの上、しっかり詮議をお願いします。」

僕はわざと表情を変えず、目を賊に向けぬようにしつつそう言い切った。

「…わかった。」

と隊長。


「「ありがとう」か…。演技ということも考えられるぞ。」

とケネス隊長。

「はい。彼がこれから何を話すのか。それによると思います。でも、未成年なら、情状酌量もありますよね。」

「まあな。内容によるが。」

「はい…。ですから、きちんと正直に話すよう、「死の舞踏」全員に、伝えたつもりです。

…もし、僕の傍にシンハも居なくて、強い人に脅迫されて、どうしても逆らえなかったとしたら…。僕も彼のようになっていたかもしれません。そう思うと、どうしても彼の肩を持ちたくなってしまうんです。」

「……。」

「…。だがな。サキ。」

とそれまで沈黙を守っていたカークさんが続けた。


「仮にそういう状況だったとしても、冒険者は自己責任だ。すべては、自分の意思、責任ということになる。もし、だれかに脅されてどうしてもしかたなく、という状況になったとしても、ギルドに駆け込むことはできたのではないか?」

「…。殺されるかも知れなくとも、ですか?」

「…。そうだ。もし、窮地にいる冒険者を保護することもできないギルドなら、存在意義がない。」

「…」

「しかも、王都にあるのは我々の本部だ。それが出来なかったとすれば、ギルドのあり方そのものを、考え直さねばなるまい。」

「…」

「君が言ったように、未成年なら、なおさら罪を減じる方策はある。私からも、意見をあげておく。あまり気に病むな。」

「ありがとうございます。」

僕は深くお辞儀して、防音魔法を解き、二人の傍を離れた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ