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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第四章 大寒波の冬編
304/529

304 馬車追跡

だいぶ近づいてきた。

拡声魔法で呼びかける。

「そこの馬車!止まりなさい!」

止まるわけもないが。


はっとして奴らは空を振り仰ぐ。

「やべえ!見つかった!」

「急げ!」

見知った顔がある。

ユリアに絡んでいた冒険者たち。

「死の舞踏」とかいう、レカンのパーティーだ。


「だから言ったんだ。ボスを待ってないで急げって。」

「でもよう。まさかボスがやられるなんて、思わねえじゃんかよう。」

「止まらないと、撃つ!!」

僕は矢を構える。

すると


「くそ!走れ走れ!森に入ればこっちのもんだ!」

と馬車の馬に拍車を入れた奴がいた。

一味は、またぞろ速度をあげた。

しかも、拍車をかけた奴は、僕に向かって

「ファイアボール!」

と魔法を打ってきた。

「ああ。もう死罪確定だ。」


僕らは難なくファイアボールをかわすと、矢を放つ。

そいつの背中を狙う。

ピシュ!

パキン!

だが、相手はそれなりに強いようだ。僕の矢を剣で振り払った。

たぶんBランク。

僕はすかさず2本同時に放った。今度は追撃付き。

ピシュン!!

パキン!と一本はまた剣で切り払ったが、もう一本が逸れてユーターンし、ふと前を向いた奴の眉間を射貫いた。

「ギャ!」

そいつは絶命し落馬した。


「アニキ!くそ!」

隣を走っていた弟分?が、何かを投げつけてきた。

だが僕達には当たらず、落下。すると、黒い靄を出し、木々を燃やし始めた。

「なんだアレ!?黒魔術か!」

『魔石のようだ。あんなやばいもの、持っていたのか!』

僕達は追跡をひとまず中断して、消火にあたる。消火というか、浄化だな。

「浄化!浄化!こっちも浄化!」

火と黒い靄が晴れたところで、やばい魔石を収納し、追跡を再開。すると、少し開けたところに出た。


「シンハ!テレポートする!」

『おう!』

僕に同調したシンハとともに、僕達は馬車の前方に短距離のテレポートをした。

「止まれ!!」

ヒヒィイイン!

草原からずっと走りっぱなしで、止まりたくて困っていた馬車の馬たちは、ここぞとばかりに止まった。


「くそ!動け!この駄馬ども!」

「ブルルル!(やだー)!」

「ブルル!ヒヒィン!(もう走りたくなあいー)」

馬たちの話が聞こえてくる。

ロムルスとレムスではないが、やはり会話はわかった。

もう馬たちは動かない。

賊どもは立ち往生。


「死にたくなければ馬から降りろ!武器を捨て、地面に伏せろ!両手は頭に!早くしろ!」

ガウウウウ!!

僕とシンハが、本気の殺気で威圧すると、賊は皆、闘争心を喪失。観念し、武器を捨てた。


「バインド!」

僕は手持ちのロープを使い、魔法で次々縛る。

武器は集め、すべて亜空間収納へ。

無力化された男は死んだやつ以外で5人。

まったく抵抗せず、文字通りお縄になった。


木の幹にそいつらを縛ると、ようやく馬車へ。

外からの鍵を壊し、中を覗くと、エルフと、獣人、合計10名が、途方に暮れて座っていた。うち半数が子供。可愛そうに。大人も子供もおびえている。

そりゃそうだ。

僕が別のグループの悪党かもしれないのだから。


「もうだいじょうぶですよ。」

と声をかけた。

「悪党はもう、捕まえました。ゆっくり出てきて。」

クフーン。ワフ!

シンハが、わざと可愛い声で吠えた。

「わんわん!」

小さい子が反応した。

「だ、だめよ。あぶないわ、サリー。」

「ああ。だいじょうぶですよ。シンハは強いけど、子供には優しいから。」

クゥーン。シンハは荷台に乗り、サリーの差し出した手を舐める。

「わんわん。うふ。くすぐったい。かわいい。」

サリーちゃんが笑った。

皆ほっとする。


僕は空に向かってピウィ!と指笛を吹く。するとロビンが飛んできてくれた。

「ゴシュジン、おはよ!どうした?何したい?」

「おはよ。朝っぱらから悪いんだけど、手紙、届けてくれる?ギルド長とケネス隊長。わかる?」

「わかるわかる。はげかけたオッサンと、まだ髪ふさふさのオッサン。」

ぶふ。

あまりに的確で、つい吹いた。

上から見るからなあロビンは。


「ふふ。その通り。たぶんケネス隊長はこっちに向かってる。ギルド長は、ギルドかな。居なかったらカークさんに。髪の長いエルフだよ。」

「リョーカイ!」

木の実をご馳走して、手紙を足につけて飛ばした。

3人のイメージを念話で伝えたから、間違わないだろう。

文面は同じ。

「敵はレカンを含む2名死亡、5名捕獲。西の森の入り口にいる。応援求む。エルフと獣人10名は全員無事。」と。


「シルルの朝ご飯、間に合わないなあ。」

『呼べば良い。』

「此処に?…フム。それもそうだな。」

縛った奴らには目隠しをしてある。耳栓もしておこう。

あとは初対面のエルフと獣人たちだ。問題なさそう。


「(シルル。聞こえる?)」

「(はいでしゅ!)」

「(今、何してる?)」

「(朝食、作ってました。ゴシュジンしゃまは?お怪我、ありましぇんか?)」

「(ないよー。あのさ、お願いなんだけど。)」

僕は、かくかくしかじか、10人前以上の具だくさんスープをここでつくるから、手伝って欲しいと言ってみた。

「(それから、シルルの卵焼き、たべたいなあ。)」

「(わかりましたでしゅ!材料、ありましゅか?)」

「(あるある。)」

「(では、ここはおかみしゃんにお任せして、あたしが行くでしゅ!)」

おう、はりきってくれてる。

「(お願いねー。)」

ということで、シルルを召喚した。


来てみると、シルルは手に大きなバスケットを持ってエプロン姿。

「じゃーん!シルル参上!でしゅ!」

バスケットの中味は、シルル愛用の包丁や、10名分以上の食器類にカトラリー、お玉や菜箸、そして特製調味料など。それから、紅茶セットも。

すっかりピクニックセットだ。

それからはシルルとクッキングタイム。

火をおこした竈に、大鍋をかけて、シルルの指示に従って野菜を切って入れる。

スープを作っている間に、シルルは卵焼きをいっぱいつくる。甘くて美味しいやつだ。


「できたよー。」

僕達は、エルフと獣人たちに、朝ご飯を配る。

あったかい具だくさんスープに、軽くトーストしたコッペパンみたいなパンの真ん中を縦に切り、サラダ菜やチーズ、卵焼き、あぶったソーセージも配る。特製ケチャップもご用意。

「パンにはこうして具を挟んで食べてねー。」


皆、目の色をかえてがつがつ食べていた。

たぶん、帝国ではこんな食べ物を、食べたことがないのだろう。

おいしい、と泣きながら食べている大人もいた。

デザートは、もう食べられないだろうから、あとでおやつで食べてねと、小さめのポムロルを1個ずつ渡した。


とらえた奴らにも食わせてやるか。

どうせあとはくさい飯しか食べられないだろうからな。

「おい。お前。」

一番、おどおどしていた若いやつの目隠しを取り、話しかける。

緑髪でハーフエルフっぽい、痩せこけた少年だった。

「仲間の食事だ。お前が作って食わせてやれ。」

と言って、ソーセージパンを支給。スープは汁だけ。


「お前達はレカンの居た「死の舞踏」パーティーだな。」

と訊ねると、ぎろりと睨む奴もいた。

「レカンは死んだ。お前達は冒険者だ。奴隷売買に関わったから、まちがいなく縛り首だろう。これが最後のまともな食事かもしれない。味わって食べるといい。」

レカンが死んだと聞いて、さすがにがくっとしたようだ。いずれボスが助けに来てくれると思っていたのだろう。その憔悴ぶりはすごかった。


「…本当に…死んだの?」

仲間の世話をしていた男…まだ、未成年かもしれない…が、仲間に聞こえぬよう小声で言った。

「ああ。最期は、自分で自分の首を切り落とした。もう生き返らない。本当だ。」

すると、ほっとしたように、小さくため息をついた。

「ありがとう。」

つぶやくように言ったその言葉が、胸に響いた。


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