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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第四章 大寒波の冬編
301/529

301 真夜中の大火事

出かける支度をして玄関ホールに降りると、ユーリたち一家がいた。

ユーリが不安そうに、お母さんにくっついている。

シルルはすでに玄関でランタンを持っている。

ユーリの頭を撫でて、僕はなるべく笑顔で言った。

「だいじょうぶだよ。シルルの言うことを聞いて、お留守番しててね。」

こくん、と頷く。

「行ってらっしゃいましぇ!」

「うん。あとよろしくね。」

「了解でしゅ。」


僕は玄関を出るとすぐに、大きくなったシンハに飛び乗り、そのまま門を飛び越え、現場と思われる中央区へ急いだ。

火が見える。

「ギルドじゃないね。教会通り?」

『うむ。教会ではないがな。もっと東だ。』

どうやら他の冒険者達も集まってきたようだ。ギルド前から東に向かって走る人たちがいる。

「避難所だ!避難所が燃えてる!」

「早く火を消せ!」

「襲撃か!?ただの事故か!?」

「わからねえ!」

「とにかく、火を消せ!」

「すげえ火だ!こりゃただの火事じゃねえな。」

「魔法で燃やしやがったな!」

魔法で?


ゴォォォォ!!!

現場は確かに避難所だった。その火の勢いたるや、凄まじい。

『たしかにこれは、ただの火事ではないな。』

「うん。(メーリア!聞こえる!?)」

「(んんー。なによう。むにゃ。眠い。)」

「(寝てたとこ起こして悪いんだけど、手伝ってくれるかな?今、ヴィルドが火事なんだ。それも凄い勢いで。)」

「(はっ!火事!?サキとシンハはだいじょうぶなの!?)」

「(うん。僕達はだいじょうぶ。でも手伝って欲しい。)」

「(わかったわ!)」

「よし。メーリア、召喚!」


メーリアはすぐに来てくれた。

火事を見て

「うわっ!ナニコレ!?」

と叫ぶ。

「メーリア、手伝って!」

「消せば良いのね!」

「そう!」

「雨よ、降れ!いっぱい!降れ!」

ザァァァ!…

土砂降りが避難所に降る。

だが、なかなか火は消えない。というか、ちっとも衰えない。


「サラマンダ、居る?」

とメーリア。

「たぶん!」

「召喚して!私だけじゃ、荷が重いわ!火の勢いを弱めてもらいたいの!」

「わかった!」

と言っていると

クエェェェ!と啼きつつ、サラマンダが僕の前に現れた。

なに!?ワニくらいあるんですけど!?

「サラマンダ!あんた火の王でしょ!あれ、なんとかしなさいよ!」

「キュウ…」

そんなこと言われても、という感じか。

だが


ギュオォォォン!

と一鳴きすると、サラマンダがワニとは思えない素早さで火の中へと飛び込むと、煙ごと、火を吸い込み始めた!

うほ。すげえ。

さらにサラマンダが火元らしいところへ入っていくと、突然、火が小さくなった。

「うん?何をした?」


メーリアはずっと雨を降らせている。

サラマンダが念話で映像を送ってきた。

中庭の中央に、赤黒い魔石が見えた。それをサラマンダがぱくりと食べたのだ。

それで火が途端に弱まった。


僕のところに戻ってきたサラマンダ。

「(それ、火元の魔石?食べてだいじょうぶ?)」

と訊ねると、

グウゥゥゥ…と啼いて、魔石をまた口から出した。

火が消えていたが、黒っぽく点滅している。

瘴気だ。

グゥゥゥ…とサラマンダが、気分悪そうに唸ったかと思うと、ぱっと消え…いや、小さくなった。いつもより小さいくらいだ。


「どした?」

『(キモチワルイ)』

初めて聞いたサラマンダの念話がこれですか。

いつも綺麗な赤なのに、今日は赤黒い。そして黒い靄を出している。

僕は杖をサラマンダに向け、

「浄化。」

と唱えた。

サラマンダは良くなったようで、黒い靄も消えた。そして今度こそぱっと消えた。

僕の魔力の中で眠るようだ。

「ご苦労さん。ありがとね。」


それから、赤黒い魔石に向き合う。

「これが原因だね。浄化!」

魔石から出ていた黒い靄がほぼ消え、赤黒い不気味な点滅も消えた。そして、パキン!と音がして、魔石は割れた。

「ふう。」


「サキ!」

「サキ!だいじょうぶか!?」

「ケネス隊長。それに…ノワイエ近衛副団長?」

ああ、そういえば、避難所のことは領主がらみだったな。

「お前、どうしてこんな所に居る?」

「ひどいなあ。火を消しにきたんですよ。凄い火事だったから。…原因はこれです。もう割れたけど。」

と言って、まだ地面でくすぶっている魔石を杖で指し示す。

ケネス隊長が魔石をのぞき込む。


「あ、触らないで!それ、まだ呪われてますから。」

「な、んだと!?」

「ああ。サキ君!君のおかげで「また」助かった。礼を言う。火事のことだけじゃないんだ。君に貰ったお守りのおかげで、僕は今まだ生きている。」

とノワイエ副団長はそう言って、割れた水晶を僕に見せた。

「!」

「帝国の隠密に、呪い付きのクナイを投げられてね。でもこれが僕を結界で守ってくれたんだ。」

「良かった!お役に立ててなによりです!」


「と、ところで…こほん。こちらの美しいご婦人は?」

と副団長がメーリアを見て言った。

あ、見えてるんだっけ。

「あらん。メーリアよ。色男さん。」

「キ、キリアス・フォン・ノワイエです。近衛師団副団長を拝命しております。」

「自己紹介ありがとう。でも、ごめんなさい。私、サキの「許嫁の一人」なの。うふ。」

と言って、腕を絡めてくる。お胸が…。

「え、ちょ、ちょっと。メーリア。」

「おうふ。サキ。やるな。」

「ケネス隊長まで。」

などと茶番をしていると


「賊だ!捕まえろ!」

という声。

反射的に走り出すケネス隊長。

「おっと。仕事だ。失礼!素敵なお嬢さん。」

と言いながら副団長もマントを翻して走り去る。

「あら。かっこいい。」

とメーリア。うん。たしかにかっこいい。


「僕も行かないと。メーリアありがとう。お礼はまた今度!湖に送るよ!」

僕は軽くハグする。

「あん。もうサキったら!」

そう不満を述べるメーリアを、なんとか湖に送り返す。

だって、火事はまだ続いているし賊は追わなきゃだし。

いくら妖精の女王でも、危ないからね。


僕も魔石を収納し、走り出す。


「賊だ!」

「捕まえろ!」

と騒ぐ声。

同時に、馬が数頭、もの凄い速度で、裏道を走って行くのが見えた。後ろから、馬車も走っていく。護送馬車のような箱型だ。

「エルフたちが攫われた!」

「追え!」



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