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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第四章 大寒波の冬編
289/530

289 ようやく帰還

副団長と親方による検分は、結局全部は見て貰えなくて。10キロメル北の丘の入り口と、20キロメル南の、元の穴付近とかを見て終わった。

ツルツル壁は非常に満足してもらえたし、ディグした空堀も喜ばれた。

南の終点の、海の中の壁は、ちょうど海を背景に記念撮影した写真があったので、それで確認してもらった。

念写の写真にも驚かれたけどね。

副団長も親方も、なぜか、空虚に笑っていた。

「これでB…。ヴィルドの冒険者ギルドの基準がわからん。」

「まったくだ。」

ともつぶやいていたが。


施工中、2、3度、危ないことはあった。

穴から難民が出ようとして兵士に尋問されていたら、急に暴れ出して、こっちに走って来たとか、このあたりとしては珍しい「まだら蛇」が、冬眠半分でエサを求めて人食いしようとして襲ってきたとか。

前者のスパイはまだ未成年の僕を、人質にしようとしたらしい。

軽く電撃食らわせて、すぐ拘束してあげたけどさ。

蛇については、当然退治して、食糧にしたよ。

でも、最初に捕まえたような、魂が黒いほどの人には出くわさなかったのでよかった。


帝国から矢を射かけられるのを心配していたが、そういった攻撃は意外なほどまったくなかった。

シンハの推測では、それが発端となって突然戦争が始まるという事態を、恐れたのではないかとのこと。戦闘態勢が整っていないのに、壁を何キロも同時に修理してしまう正体不明の大魔術師が、今現在、壁近くにいる訳だから、帝国側としては、それはそれは恐ろしかっただろうという。

んー。恐ろしい大魔術師って誰さ。


あの魂の黒い男は、結局領都まで連れて行かれ、厳しい尋問の末に首を刎ねられたそうだが、その首が飛んでいって、尋問官にかみついたとかかみつきそうだったとか。

一応、教会の聖職者を呼んでお祓いをしてもらったそうだが。僕も祈っておこう。あとはどうか、世界樹様、よろしくお願いします、と。


領都に出発する日の早朝。

僕はちょっと思いついて、砦の屋上に上がった。

そして、カナメになる角の石など数カ所の石ブロックに、魔法陣を飛ばして刻んだ。

それは、空中の魔素を取り入れて発揮される、いわば自動発動方式の結界である。

そう強いものではないが、帝国からの矢による一斉射撃くらいは、楽勝ではじくものだ。これでこちらの兵士の被害はかなり防げるだろう。

さらに、せっかく積み上げた石も破壊されたくないので、非破壊も組み入れた。だから、結界と非破壊の魔法陣である。


「ふむ。これでよし。」

と自己満足に浸っていると、いつものようにシンハが

『まったく。それがどんなに非常識な魔法か、わかっていないんだよな。お前は。』

とかつぶやいていたけれど、知るもんか。

本当は壁すべてに刻めばよかったんだけど、昨日思いついたからさ。残念だが砦だけだ。

壁全部が非破壊だったら、そりゃ騒ぎにもなるだろうけれど、砦だけなら、戦争の時だって、きっと魔法兵による結界だと思うだろうし。

僕だって、それくらい考えてらあ。


帰り間際。

僕が鍛冶屋の弟子でもあると知った砦のバリスタ兵に、屋上に設置している複数のバリスタが、少し不具合だと相談された。見ると、支えの足が不安定だったり、引きの力が弱かったりまちまちだった。

なので、より強力かつ精度がさらに正確なものになるよう、ちょいちょいと直しておいた。

そのあたりは鍛冶屋の弟子としての本領発揮。バリスタ直しは結構楽しかった。

そして、皆に別れを惜しまれながら、砦を離れた。


領都では、「養子の件は、大変ありがたいお申し出ですが、お断り申し上げます」という答えを持って、領主邸に行ったのに、幸か不幸か、辺境伯様は不在だった。王都に行ったらしい。ちょっとほっとした。

なるべく丁寧な言い回しをしたお手紙と、砦直しを手伝ってくれた妖精のサラちゃん用に、小さなお菓子をいっぱい入れた包みを執事長さんに託し、とっとと領主邸を出た。(辺境伯が妖精と契約していることは、執事長さんはご存じでしたので。)


領都では、またお土産(主に食べ物)をたっぷり買って、ギルド長さんにもご挨拶して。

最後にもう一度教会にも寄り、ささっとお祈りしてから出発した。


街道に出てほどなく、周囲に誰も居ないのを確認してから、テレポートでヴィルドの南門側の草原に戻った。

ああ、やっと!帰ってきた!

約3週間の旅が、ようやく終わったのだ。


馬車はひとけのない草原にいるうちに、馬たちを外して車体を収納し、あとは少しの間、ロムルスとレムスに交互に乗って、南門へ。

門を入った街の入り口で、ロムルスとレムスを貸し馬車屋に返す。

もちろん、昨日や今朝は、美味しいメルティア入りかいばとか、新鮮な森産のニンジンとか、魔素水とかをあげて、ブラッシングも念入りにしてあげている。


「名残惜しいぜ、ゴシュジン。」

「このままゴシュジンの馬になりたいす。」

「ごめんよ。僕は普段、馬車も馬も使わないんだ。ずっと厩に繋いでおくばかりじゃ、お互いにとってもいいことじゃない。でも、また長旅の時には、必ず指名するからさ。許してね。」

と言うと

「わかったす。ぐすん。」

とレムス。

「泣くな、弟よ。俺たちにはまた新しい冒険が待っているぜ!」

「うーん。わりと平和だけど寒くて辛い、王都行きの馬車馬に戻るだけのような気がするよ。アニキ。」

「それを言うなって。むなしくなるだろうに。」

「時々、顔を見に来るよ。ニンジン持って。」

「うう。ゴシュジンー。」

「泣くなって。弟よ。うう。」


ごめんよ。ロムルス、レムス。

君たちがいて楽しかったよ。ありがとう。またね。


ギルドに寄って、ユリアにただいまを言ったら、本当に帰ってきたんだなと思った。

おみやげに真珠のピアスをあげた。港町ランカで、真珠をルースで買って、僕がピアスに仕上げたものだ。エルフは赤ん坊の時にピアス穴を開ける風習がある集落が多いらしい。

僕の耳に穴はなかったが、ユリアにはあったので、今回はピアスにしてみた。

魔法付与はヒールを付けておいた。

もちろん、すっごく喜ばれたよ。ただ、勤務中だったから、ささっとあげて、すぐに仕舞って貰ったけど。


ギルド長が王都に行っているそうで不在で、カークさんに終了報告をした。

「聞きましたよ。とんでもない魔法を連発していたとか。」

「ははは。じゃあ、詳しく聞かないでください。大魔法のぶん、報酬、もっともらいたくなっちゃいますから。」

「…わかりました。ギルド長も今は不在なので、今日のところは聞かないでおきましょう。」

僕は苦笑い。


「ユーゲンティアのギルド長さんが、カークさんにくれぐれもよろしくって、言ってました。」

「ああ。聞いたんですね。私の叔父だと。あのひとはエルフのくせに武闘派と称して、勉強をサボっていたようで。いまだに妖精語は苦手なんですよ。」

「あは。ご自分でそう言っておられました。」

「まあ、それでも獣人語はかなりの種類できるので、なんとかあそこのギルド長が務まっているようですがね。」

「そうなんですね。それは聞かなかったなあ。カークさんが一族の中で一番優秀で、学者になるとばかり思っていたって。」

「魔塔にいても理論ばかり。実際、珍しい魔獣や、薬の効果を見るには、冒険者になって、かつ此処のギルドで仕事をするのが一番でしょう。」

「なるほど。実践のため、という訳ですね。」

「ええ。ですから、サキくん。新しいポーションを開発したら、すぐに連絡を。生産者ギルドにばかり卸したりしないように。」

「ふふ。わかりました。」


それから、ぶっ放した大魔法にはまったく不釣り合いの、残り半分の報酬を貰ってギルドを出る。

そして、ようやく家に到着した。

ただいまー。




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