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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第四章 大寒波の冬編
281/530

281 引き続き壁修理

「トレース!チェンジ!ヒール!グラインド!エト・ディグ!」

エトはアンドの意味。フランス語なら「エ」と発音するが。

時折、古代語が地球語と似ていることがあるんだよね、なんて別のことを考えながら、作業を進めた。

500メルずつになったので、すぐにさっきの仮小屋に着いた。

でも、それを通り越し、さらに500メル。また500メル、次は600メル…としていくと、左の壁は、1時間も掛からずに5キロ分が終わった。


「さて。そろそろお昼だよね。砦に戻ろう。」

『ああ。』

僕たちはぱかぱかと馬で戻り、砦で昼食をとることにした。

だが兵士たちに昼食はない。ポムロル1個、干し肉、乾パン、水。それらを夕食までに適宜とる程度。だから食堂も閉まっていると聞いていた。


僕たちは馬たちを厩に入れ、かいばや水などをおやつ程度に与えてから、自分たちの部屋で、サンドイッチと串焼きをとった。それが豪華に思えるほど、兵士の食事は粗食なのだ。

「兵隊さんたち、大変だね。」

『夜はさすがにマトモらしいがな。酒も出るらしい。』

「ふうん。僕はお酒はいらないな。ポムロルジュースのほうがいい。でも、僕が兵士だったら、3日で音を上げるな。」

『俺は1日だって嫌だ。』

「セシルさんの時は、結構粗食だったようだけど?」

『その分魔素を取り込んで補っていたからな。』

「なるほどー。」

『…。肉は必須だからな。』

「ふふ。僕、何も言ってないよ。」

『言わずともわかる。お前はすぐに俺を魔素だけで生きられるだろうと虐待する。』

「あ、ひどーい。僕がいつ虐待したのさ。ちゃんと料理、同じもの以上に出してるよね。」

『まだ今はな。だが、あわよくばそうしようと虎視眈々と狙っているではないか。』

「ふふ。考えすぎだよ。くくく。」

つい笑ってしまった。

やっぱりシンハは食い意地が張っていて、可愛いなあ。


「シンハったら。あはは。」

僕はやたらとシンハを撫でまくった。

『やめろ、馬鹿。食えんだろ。撫でるのは、俺がちゃんと食い終わってからにしろ。』

「あはは。撫でるなとは言わないんだ。あはは。」

なんだか、昨夜からなんとなく喧嘩していた感じだったが、ここに来て完全にシンハと縒りが戻った感じだった。


午後。厩に寄って、馬たちを出してくると、なんだか砦まわりの壁ぞいに人が多い。

壁の屋上には、危ないはずなのに職人たちも上がっているし、兵士たちもいる。

副団長さんと親方が下に居たので、

「どうしたんですか?」

と聞いてみた。まさか敵が大勢近づいてきたとか!?


すると、二人とも僕をなんとも言えない目で見ている。

ああ、こういう時は…覚えがある。僕の魔法のことだろう。

「こほん。いや、なんでもない…とは言えんな。すごい事をまたぞろお前さんがやらかしたので、皆で見学していたところだ。」

僕は壁を振り返った。

そういえば、屋上にいる人たちは、皆危険を顧みず、帝国側の下のほうをのぞき込んでいる。

「ああ、グラインドですか?ツルツルにしたから。」

仕上げにはこだわりましたからねえ。

「それもある。」

と副団長さん。


「?ほかになにか?」

あとなにかやったっけ?

きょとんとしていると

「空堀が、以前にも増して深くなっている。」

ああ、ついでにやった、アレか。

「ああ。ディグというやつです。初歩魔法ですよ?」

なんでそんなに珍しいのかな。

と思っていると。


「お前さんには初歩魔法でも、その規模がな。もはや大魔法の部類なんだよ。」

「さっき、領都から魔塔の幹部が来たんだ。どうやら領主様から、君の様子を見てこいといわれたらしい。

ところが、君が今日だけでこのあたりをやったとか、砦を昨日だけで終えたとか、幽霊の大軍も祓ってくれたとか言っても、信じなくて大変だったんだ。それで実際仕事の成果を見せたら、本当に気絶してしまってね。

今、彼は医務室で寝ているよ。」

「はあ。」

そんなこと言ったって。

僕のせいじゃないもん。

なんだかむっとした。


「気絶するヒマがあったら、少しでもいいから手伝って欲しいのになあ。国境の壁に派遣された魔術師は、今のところ僕一人ですよ。僕よりずっとお給料がいい魔塔の人たちが数人でも来てくれれば、職人さん達だって効率よく作業できるのに。」

とついグチる。

「こんなことで驚いているなら、魔力量の多い領主さまが一人来たほうが、魔塔の魔術師よりずっと効率よく修理できそうですよね。まったく。あと何キロメル残っていると思ってるのかなあ。」


僕はそう言いながら、その場を離れた。

今日中に、左20キロメルは終わらせたい。

優雅な魔塔の方々とは違うんだい。


僕は半ば腹を立てながら、馬を急がせた。

16時には此処は夕暮れになる。

それまでに、できる限り仕事を進めたかった。


「…。どうやら天災坊やは鬱憤がたまっているようだな。」

と副騎士団長。

「ふむ。此処はいつ戦場になるかわからないからな。慣れない職場で緊張して、大魔法もぶっ放して。疲れもたまっているのだろう。」

「そういえば、まだ歓迎会もしていなかったな。幽霊を祓ったお礼の宴もしてないし。」

「今夜あたり、やりますか。ぱあっと!」

「はは。やりたいのは親方のほうでは?」

「そりゃドワーフは宴会と酒が好物ですからね。」


僕は黙々と、左20キロメルを終えた。

終えた時間は16時ジャスト。

ここから馬を走らせても、道は凍り始めているし、危ないので、テレポートで厩に戻った。

「やれやれ。お疲れさん。ロムルスもレムスも、寒くなかった?」

「ゴシュジンが結界で守ってくれたから、大丈夫ー。」

「明日はもっと遠いから、馬車で行こうか。昼も戻らないで、そのまま馬車で野宿もいいかもね。」

『うむ。次第に砦から遠くなる。そろそろそうすべきかもしれんな。』

「僕、シンハや馬たちといるほうが、気が楽だ。」

『まあ、言いたいことはなんとなくわかるが。』

とシンハは後ろ足で耳をかく。

『だが遠くなると、今度は敵がいても、兵士たちに守ってはもらえんからな。自分たちでなんとかしないと。』

「それは今までだってそうでしょ。むしろ僕たちが捕り物のお手伝いしていたくらいだし。」

『そうだが。油断はするなよ。』

「うん。」

ここは前線だ。それはその通りだ。


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