表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第四章 大寒波の冬編
275/529

275 幽霊将軍と幽霊兵たち

『はー。お前は。気持ちはわかるが、お人好しすぎるぞ。』

大金貨1枚で浄化の仕事を請け負った僕に、シンハはため息をついた。

「(だって、祓っておかないと、僕のこれからの仕事にも支障が出るんだもの。大金貨をいただけるだけで十分だよ。むしろ、忘れずにお代を請求した僕を褒めて欲しいな。)」

と、副団長の前なので、こそこそと念話でシンハと話す。

シンハはまたため息をついた。

えーそんなに僕、お人好しかなあ。ちゃんとお金を貰う交渉はしたよ。


「こほん。では、さっそく今夜、祓いの儀式を行ないます。砦の屋上をお借りしますね。」

「雪だらけだぞ。魔法陣を描くのか?せめて雪かきくらいは、させてくれ。」

「ありがとうございます。ではお願いします。」


屋上の雪かきを兵士達がしてくれた。

それが終わると、僕は明るいうちに石の上に魔法陣を描いておいた。

それから、ポーションのチェックと称して砦の保管倉庫に入り込み、ポーションすべてに浄化の魔法もこっそり込めておいた。これで、ポーションを飲めば浄化魔法も効くはずだ。


夜8時。

まだ幽霊はおとなしい。

僕は厩に行き、結界を厚くし、寒くないように毛布を掛けてあげたり、温度も上げてやる。そして、馬たちに事情を話す。

「今夜、大規模なお祓いの儀式をする。でも此処は結界で、外の音や幽霊が見えないようにしておくから。大丈夫だよ。明かりもつけておくね。安心して眠っていいからね。」

「「ありがとーゴシュジン。」」

「おやすみー。」

「「おやすみなさーい。」」


夜10時。

屋上にあがる。

そろそろかな。

すると。

ズズン…と急に空気が重くなった。

そしてガチャガチャと武器や鎧がこすれ合う音。馬の嘶きなどが、砦の両側から聞こえてきた。

ケルーディア側を見下ろすと、おびただしい数の骸骨兵が、うじゃうじゃ居た。200どころではない。ざっと1000は居る。これでは霊障が酷いのも道理だ。

そしてアルムンド帝国側。城門前に、2000以上の骸骨兵。


「うわあ。計算、間違えた!」

『すごい数だな。』

「地面から出てくるなんて、反則だよう。」

『あとの祭だな。』

「うう…ところでシンハ、幽霊苦手じゃなかったっけ?」

『あれは骸骨兵だ。アンデッドの魔物と同じだから、恐くない。』

「あっそう。でも実体ないから、かみつけないね。」

『ふん!魔法なら効くはず。かまいたちなら幽霊でも首を飛ばせる。森で経験済みだ。風魔法で体ごと吹き飛ばしてもいい。』

やる気満々なわけね。


「じゃあ、僕は浄化魔法を編むから、その間、護衛をお願い。」

『承知した!』

僕は杖をフルサイズで取り出すと、杖を横に構えた。

そして呪文を唱える。

「イ・ハロヌ・セクエトー…大地に眠り、夜ごと戦いし過去の者たちよ。我が声を聞け。そなたらはすでにこの世の者らにあらず。むなしき戦いをやめ、ただちに昇天せよ。さもなくば、世界樹の名のもとに、無理矢理にも地脈に沈めねばならぬ。心安らかに保ち、自ら昇天せよ。汝らはすでに肉体は滅び、魂のみの者たち。安らかに眠りたまえ。イ・ハロヌ・セクエトー。ラ・プントス。ヒーリーヤ、ラ・プントス…。」


そうして、浄化!と唱えようとした時だった。

『我らの戦を妨げるは何者ぞ!!』

と大音声で術を妨げた者がいた。

「!?」

シンハがピクリと反応し、ガルルル!と唸る。


僕たちの前に、将軍風の鎧に身を包んだ大男の亡霊が現れた。

どうやら過去のケルーディア王国の英雄のようだ。

だが、彼は魂となっても長きにわたり戦の庭に居たため、このままだと怨霊化してしまう。

「魂が黒く染まりかけている。どんなに生前英雄であっても、これは見逃す訳にはいかないな。上手く祓えるといいが。」

『お前は祈りを続けろ!』

「そうしたいのは山々だが、すぐにはできそうにない!」

というのも、この将軍の亡霊が現れた途端、味方の兵の幽霊兵たちは沸き立ち、敵方すなわちアルムンド帝国側の幽霊兵たちは、怨嗟の声を上げて、この砦に殺到してきたのだ!


「将軍を祓うのはあとだ!まずはアルムンド帝国側をなんとかする!」

そう言って、僕は将軍の怨霊に向かってダメ元で叫んだ。

「勇ましき将軍殿とお見受けした!私はケルーディア国の魔術師!まずはアルムンド帝国側の兵を退けたく思う!ゆえに私に協力をしていただきたく存ずる!返答はいかに!」

『ふむ。わっぱ!そなたケルーディアの者か。ならば、将軍ガリード・ラ・オストラーヘンが守ってやる。わっぱは隅で小さくなって隠れておれ!我が、敵を皆殺しにしてやるほどに!』


そう言うが早いか、

『全軍!整列!』

と大音響で号令をかけた。

すると

『『オー!!!!!』』

と幽霊兵たちの同意の雄叫びが階下から聞こえた。

屋上からまず声のしたケルーディア側をのぞき込むと、幽霊兵らは見事に整列していた。

それだけではない。いつの間にか、屋上のあちこちに弓隊が現れて、アルムンド帝国側を狙って弓をつがえ始めた。

同時に、ケルーディア側の前庭に居た弓隊も、砦の両サイドの城壁に移動し、矢をつがえていた。

一方、アルムンド帝国側の雪原には、遠くまで幽霊兵であふれかえっている。

今にも一触即発。

そして。


『弓隊!放てぇ!』

ピュンピュンと風切り音を立てて、砦や壁のあちこちから矢が放たれた。

すると、アルムンド帝国側の兵の霊たちが次々に矢に射られて倒れ、消えていく。

『騎馬隊!歩兵団!かかれ!』

『『オー!!!!』』

アルムンド帝国側の城門が開き、騎馬隊が城門から飛び出し、襲い来る敵をばったばったとなぎ倒すと、続いて歩兵隊がわれ先に続き、アルムンド帝国側の雪原では、幽霊兵たちの白兵戦が始まった!


「うお!まじかっ!本当の戦だ。血は飛び散っていないけど。」

白兵戦の中を、さっきまで僕に殺気を向けていた将軍が、いつの間にか眼下の雪原に躍り出て、次々に敵の騎馬を中心に倒していく。


将軍が乗っているのは魔馬、の幽霊。

魔馬は、普通の馬より一回り大きく、魔獣の馬だが、草食性で賢く、飼い慣らすことができる。

だが、よほどの御仁でなければ乗りこなせないので、めったに見かけない。

おそらく、生前の将軍の愛馬なのだろう。

その魔馬に乗った将軍の、勢いたるや凄まじく、徒の兵士たちは吹っ飛ばされ、騎馬兵たちも次々首が宙を舞っていった。

まるで前世で見た中国映画のように、敵兵が将軍に吹っ飛ばされ、宙を舞っているのだった。


だが敵は2000、こっちの倍もある。

闇の雪原の彼方から、まだ次々幽霊兵がやってくる。

これでは将軍一人がいくら強くとも、いずれはやられてしまう。

『サキ!今のうちに祓え!』

シンハの声にはっとした。

シンハは、屋上までよじ登ってきた敵兵の首を、かまいたちで斬り落としていた。

「わ、わかった!」


まずは敵兵たちから。

僕はあらためて魔法陣の真ん中に立つと、そのまま上空に浮き、アルムンド帝国側の兵たちがよく見える位置に移動した。そして中空で杖を横に構えて再び呪文を口にする。

「イ・ハロヌ・セクエトー。アルムンドの過去の兵達よ!そなたらの肉体はすでに滅んだ!そなたらの現実の姿を見よ!もはやこの世にあってはならぬ。我が引導により魂は浄化される。心静かに地脈に戻れ!イ・ハロヌ・セクエトー、ヒーリーヤ、ラ・プントス!ラ・プントス、ヒーリーヤ!…浄化!!」

杖を雪原へと向ける。なにしろ2000もの敵兵だ。魔力もかなり込めて浄化を放った!

すると、敵兵の魂が僕の魔法に触れて浄化され、一瞬、生前の姿になり、すぐに白い粒々になって、天へと昇っていった…。


『おお!敵兵が、消えていく!わっぱ!やるではないか!がはははは!!』

「はあ。どうも。」

僕は苦笑い。

『ものども!勝ち鬨を上げよ!』

『『えいえい!おー!!えいえい!おー!!』』

勝ち鬨を上げ、がちゃがちゃと武器や盾を打ち鳴らして呼応するケルーディアの幽霊兵たち。


だが、彼らもまた、祓わねば。

『宴じゃ!宴じゃ!!』

『わははは!』

「いや、あのですね。」

僕の焦った声は、幽霊兵たちの声にかき消される。


『おい。サキ!なんとかしろ!うるさくてかなわん!』

『おお!白い獣よ!そちも飲め!』

『サキ!』

「わかったわかった!将軍様!折り入ってお話が!」

『む?なんじゃ。せっかくの祝いの宴というのに。』

「シールド!」

僕は将軍と静かに話をすべく、僕とシンハ、そして将軍の周囲に結界を張った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ