27 家を改造する 3 後日談
なんやかやとシンハに呆れられながら、材料調達を除けば、結局わずか1日で建物を作ってしまっていた。
魔法って凄いよね。
さて、一通り思った通りにトイレと風呂も完成し、洞窟のほうも雨漏りを直して大家さんにあたるシンハから快適だとお墨付きをもらった夕暮れ。
僕とシンハは外広場に作った竈(別名バーベキュー所)でささやかな完成記念ディナー(?)を食していた。
その日は午後遅くから次第に風が怪しげに吹き始め、嵐の予感。
それでもまだ青空が少し見えていたので、外での食事にしたのだ。昨日、レンガ作りの合間に仕留めた魔山羊の肉をあぶり、塩とハーブ、森で見つけたコショウを振って焼いている。骨はスープのダシを取るために煮込み、山羊肉とともにタマネギやニンジン、ジャガイモをざく切りにしたものを入れて煮込む。
アクは丁寧に取り、ダシを取った骨はスープとは別にシンハの前にお供物のように木の皿に盛りだくさんにして差し出すと、野菜たっぷりの山羊肉スープより先にバリボリと美味そうに食いはじめた。
毎食思うが、結構いい匂いさせて調理しているが、僕たちを襲うような魔獣はやってこない。どうやら僕の結界と、シンハの威圧で近づきたくとも近づけないようだ。
それに気づいてからは、匂いはできるだけ高く上に飛ばすように心がけているし、匂いが強い時は空に向かってクリーンもかけているのが効いているようだ。余計な戦いはしないほうがいいしね。
目の前に広がる森は、鬱蒼としており、嵐を含んだ風にざわついているし、夕暮れの森はもはや真っ黒で、それだけで不気味だ。
だが僕は少しも怖くはない。シンハがいるし、目の前には美味しいものがあり、竈の火は明るい。火の中には仲良くなったサラマンダもいる。
「なんだか降りそうだねえ。」
と僕が表面パリッと中ジューシーに焼いた山羊モモ肉にかじりつきながらつぶやくと、
『今夜は嵐になるだろう。さっさと食べて、洞窟に入ったほうがいい。』
とまだ骨をバリボリしながらシンハが言った。
「うん。そだねー。」
と食べながら答えつつ、竈の中をちょろちょろするサラマンダに、僕の魔力団子を飛ばして食べさせ、火力を上げさせる。
「サラマンダ。いつも火加減、ありがとねー。」
と声を掛けると、
「キャウア」
とご機嫌そうに啼いた。
本当になぜかこの火の精霊クンは、僕を気に入ってくれて、火をおこすと必ず現れるし、起こそうとしただけでも現れてくれる。すっかり懐かれてしまった感が強い。
目の前の黒いざわざわする森も、僕には安らぎさえ与えてくれる心地よい風景だ。
と、遠くでゴロゴロと鳴り出した。
「おっと。さすがにそろそろやばいか。食べたら中にはいろ。」
『ああ。』
「初めてのお風呂は、残念だけど明日の朝かな。」
『そうだな。我慢しろ。』
「うん。」
風呂場は洞窟に接しているとはいえ、まだ扉は完成しておらず、このままでは雨や風は入り放題だ。食事もそこそこに、割った竹で取り急ぎ作った仮の扉を、風呂場の入口にしっかりくくりつけた。洞窟の入り口も木戸を作っていない。冬場の寒さ対策に木戸を付けようと思っていたが、こんな嵐があるなら、まず洞窟の入り口に大きな木戸とシンハ用の潜り戸を付けないと。
今夜はとりあえず雨風よけに入り口を結界魔法でカバーする。
これは空気は通すが魔物は入れない。風と雨もよけてねー、とイメージすれば、そういう結界が僕は作れた。
僕たちが洞窟に入ると程なく、サアアア…と音がし始め、雨が降ってきた。
次第に嵐となり、雷も近づく。そして黒い森はますます不穏にざわめき、時折ザザッ、ゴオオオと木々が鳴る。
「結構本格的な嵐だなあ。」
僕は熊の毛皮を敷き、魔羊の掛け布団にシンハと一緒に潜り込みながら、時折ピカッガラガラ!という激しい雷鳴に耳を半分塞ぎつつ、外を見ていた。
「屋根、飛んだりしないよね。」
『あれだけがっしり作ったんだ。心配してないでもう寝ろ。』
「うん…。」
シンハを無意識に何度も撫でながら、僕はできあがったばかりの風呂場とトイレを気にした。
それでもやがては睡魔に勝てず、いつしか眠っていた。
翌朝。嵐は過ぎ、晴天となる。
急いで外に出てみる。
心配した風呂場兼トイレはまったく問題なく、燦然と朝の光を浴びてそこにあった。中も雨漏りひとつしていなかった。うん!我ながら上出来!!
『ほらみろ。まったく無事だったではないか。』
シンハが得意げに言うが、夕べはシンハもきっと内心屋根が飛ばされないか、心配だったはずだ。その証拠に、寝床では、尻尾は僕に撫でられているというのに、ほとんどぱたりとも動かなかったし、代わりに白い耳がやたらとせわしなく動いていたからだ。
「無事で良かった。シンハも心配してくれてありがとねー。」
『俺は心配などしていないぞ。』
「謙遜は美徳だもんねー。」
『…。褒めているのか。けなしているのか。』
「単に君で遊んでいるだけだよ。ふふ。」
『むう。勝手にしろ。』
「ふふ。」
勝手に、と言いながらも、シンハは僕の足にぴったりと身を触れさせている。
最近は昼間でもこうして僕にぴとっとくっついていることが多くなった。
それだけ僕を信頼してくれているということだろう。
いや、信頼というより、子を守る親のようだ。
それでもいいや。
シンハがくっついてくれるのが、僕もうれしかった。