表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第四章 大寒波の冬編
269/530

269 ユーリの出自

その夜。

ユーリ君の両親にまた呼ばれて、シンハと一緒に、あの部屋で話を聞いた。

シルルは僕の魔力の中で眠って居る。

ユーリ君も自分の部屋で、疲れて眠ったという。


「サキさんが言われたとおり、あの子は私たち夫婦の実の子ではありません。…実は、帝国から逃げてきた女性から、託されたのです。」

要点をまとめると、次のような話だった。


ユーリ君を連れてきたのは、ある高貴な姫の乳母だという。その高貴な姫が、恋をした。相手はハイエルフの男性。どうやって知り合ったのかというと、おてんばな姫は、ある時、「はじまりの森」に冒険に入った。帝国から森に入るには、「中立地帯」と呼ばれる、「はじまりの森」との境界エリアを通って行かねばならない。ヴィルドがすぐに森に面しているのとは、事情が違う。


その中立地帯には、帝国から逃れてひっそり暮らす人々…亜人、獣人たちや、先祖が罪人で、帝国から放逐された人間たち…が作った集落がいくつかある。

帝国は、そういう集落を時には厳しく取り締まったりもするが、大抵は森からの魔獣を防ぐ防波堤と見ていて、魔獣を討伐する代わりに、彼らの生存を大目に見てやっていた。


帝国ではもちろん、亜人であるエルフやドワーフと人間族が夫婦になることは許されていない。もしわかれば、平民は死罪。貴族は中立地帯に放逐。運良くそういう集落に拾われて生き残ればいいが、大抵は魔獣にやられるという。


さて、そのおてんばな姫は、冒険者となって、従者たちを引き連れて森に入った。

だが、帝国側の「はじまりの森」は、ヴィルド近くの森と違い、3キロメルを待たずに危険地域となる。

そこでアンデッドの群れに遭遇してしまった。必死で逃げる姫と従者達。それを救ったのが、たまたま森にアンデッド狩りにやってきていたハイエルフの冒険者だった。

ハイエルフは聖魔法が得意。だから、アンデッド狩りに来ていたのだった。


二人は恋に落ち、契りを交した。ハイエルフは魔力が高い。魔力の高い者との間に、子供は生まれにくいといわれている。それもあって、姫は大胆にも契ってしまったのだろう。

もう会うこともないかもしれぬと思いながら別れ、家に戻った姫。ところが、運命のいたずらか、姫は奇跡の子を身ごもってしまっていた。


堕ろすことは絶対に嫌だと、結局、姫は密かに修道院で子供を産む。

喜びもつかの間、父親であるハイエルフの冒険者が、黒龍に遭遇し、命を落としたという話が飛び込んできた。

嘆いた姫は、折しも大流行していた流行り病にかかり、赤ん坊を産んでわずか一ヶ月後、この世を去ってしまった。

密かに生まれた赤子は、そのまま修道院で、静かに、大切に、育てられるはずだった。だが、敵の貴族にその情報を察知され、修道院は襲撃された。


姫の忘れ形見を養育していた乳母は、修道尼らに護られながら、なんとか脱出。王都から国境近くまで逃れてきた。だが、またしても追手に追われ、一行は赤子と乳母以外全滅。乳母もそれなりの手練れなれど、赤子をかばいながらの大移動。瀕死の重傷を負って、なんとか越境。そしてたどり着いたのが、「トカゲの尻尾亭」だった。


元冒険者が開いた宿ということで、この二人ならば、きっとこの子を護ってくれるのでは、と一縷の望みを託したのだった。

乳母はその晩のうちに、宿で息を引き取った。

その時、この子の身分を示すものとして預かったのが、紋章のあるブレスレット。

ところが。


サキの前にそのブレスレットが出された。

「その紋章。調べたんです。そうしたら…なんと帝国王室の紋章だったんです。」

「!」

なんですと!?

「じゃあ、ユーリ君は…。」

「10年前になくなった、皇帝の4番目の娘、イシス・フロレンシア・ド・アルムンドの息子、ということになるのです。当時お亡くなりになった姫君は、その方しかおりませんので。」


乳母の話や、後日夫妻が調べたところによると、敵というのは、おそらく皇帝の座を狙う第2王子か第3王子、あるいは第4王子か。いずれにせよ冷酷な兄たちだったらしい。

皇位継承争いに邪魔な姫が死んで安堵したのもつかの間、隠し子がいたと知り、刺客を放ったのだ。しかもハーフハイエルフということで、ますます皇室に汚点を残すからと絶対に殺せとの命令だったようだ。

それで幼い頃から髪を染めさせていたのだった。


ドラマみたい。と思いながらも、こりゃ大変だ、深刻だ、とも思う。

「…このことは、辺境伯様やギルド長とかは?」

「知りません。誰かに話すのは、初めてです。」

うわあ。なんでだよ。僕は頭をかかえた。本当に、抱えた。

「こんな若輩者に…ですか。」

「でも、頼れるのは、今はサキさんしか…。」

混乱する頭で、考える。


「…。ユーリ君の出自と、今回の誘拐について、少し考えてみましょう。」

と言いながら、

「(シンハはどう思う?)」

と聞いてみた。

『うーむ。今回はあくまで「生きたまま攫おうとした」。だが、赤子の時は、明らかに殺そうとしている。』

「(そうだね。じゃあ、ユーリ君を襲った黒幕は、今回と過去では違う?)」

『目的が途中で変わったのでなければ、一応そういうことになるな。』

「(じゃあ、過去にユーリ君を殺そうとした奴とは無関係?)」

『そう考えたいが。奴隷商がなにか自白していないか、気になる。』

「(確かに。となると、まだ結論は急がない方がいいね。)」

『ああ。だが、最悪を考えるなら、なるべく早く、此処からユーリを移動させることだ。』

「たしかに。」

「「??」」


夫妻が、僕がじっとシンハを見て黙っていたこと、急に言葉にしたことに怪訝な表情を浮かべた。

「(あ、やばい。シンハ。君と僕がおしゃべりできること、夫妻に言ってもいいかな?)」

『…やむをえんだろう。今後のこともあるからな。』

「わかった。ありがとう。」

「あの…?」

「あー。すみません。実は…シンハと僕はおしゃべりができるんです。シンハはすっごく賢いんで。で、今、犯人像について、シンハの意見を聞いていました。

シンハが言うには、赤ん坊の時は、ユーリ君と乳母様を、執拗に追いかけて殺そうとしたということですよね。でも今回は、ユーリ君を生きたまま帝国に送ろうとした。今回の帝国の黒幕からは、殺せという命令ではなかった、ということになります。」

「確かに。」

「ということは、過去の黒幕と、今回の黒幕は違う可能性がある。そうなると、あの呪いで死んだ貴族もそうですが、ユーリ君の正体は知らなくて、ただハイエルフらしい、ということで攫った可能性が高くなります。」

「なるほど!」


「もちろん、これはあくまでも推論。まだ奴隷商がなんと言ったのか情報がないのでわからないのですが、今回の誘拐は結構単純な理由で、ユーリ君を産んだ母親がだれかという事と無関係かもしれないです。」

「それなら、少し安心かしらね。」

「いや、安心はできんだろう。」

「…。」

「僕のはあくまで推論。楽観的見方かも知れませんが。でも、いずれにせよ、僕も、ユーリ君をもっと安全な場所に移すべきでは、と思います。また同じように、ハイエルフらしい、とか、綺麗だから奴隷として価値がある、と狙われることは考えられますから。」

「そうだな。」

と旦那さん。


「…これまで、その兆候は?」

「…宿の客はさまざまです。中には刺客や隠密系だと思われる者たちもいます。なるべくユーリにはそういう客に目を付けられないよう、裏方の仕事をさせたりしていたのですが…。

最近、特になんとなく物騒な連中が多くなりました。戦争の兆しのせいかと思っていましたが、今思うと、ユーリを監視しているようだったとも言えます。戦争の兆しがあって物騒だから、目立つことをしないようにさせていたんですが…。

我々が忙しければ、近所にお使いに行ってもらったり、家の裏や厩で一人で仕事を任せたりしないと、宿が回りません。」


旦那さんが続けた。

「でも、今日あんなことがあったのです。もう、あの子を此処にはおけない。」

「あんた…」

「こんなこと、もう二度と。あの子に恐い目にあってほしくないんです。」

「でも…ユーリを手放すなんて、私には…私には…。」

女将さんは泣いた。ユーリ君と別れる決心がつかないようだ。

「マリー、仕方無いだろう!ユーリが可愛いなら、どこかで生きていてくれさえすれば、また会える。」

「そんな!あたしはやだよ。あの子はあたし達の子だよ!苦労して育てたんだ。たった一人の、息子なんだようぉぉぉ。」

ぐすぐすと泣き出す女将さん。

「えーと。なにも別れて暮らすことはないかと。」

「「え!?」」

今後についての提案の前に、まずは聞いておきたいことがある。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ