261 ギルド長はエルフでした
受付嬢は狐耳の獣人さんでした。
隣国から逃げてきた人かも知れないと、勝手に想像する。
「いらっしゃいませ。」
「すみません。ヴィルドから来た冒険者です。」
と受付でカードと、ギルド長から此処のギルド長あての手紙を出す。
「ヴィルドのギルド長から、壁の修理の手伝いをするよう言われてきました。」
と言ってみる。
「…少々お待ちください。」
といいながら、受付嬢はなんども僕の顔とカードを交互に見る。
はいはい。未成年でBは珍しいものね。もう慣れた。
そして、手紙とカードを持って奥に消え…ほどなく戻ってきた。
「2階へどうぞ。ギルド長がお待ちです。」
また偉い人と会うのね。
2階の奥にギルド長の部屋があった。
受付嬢に連れられて、突き当たりの奥の部屋に入っていくと、背の高いエルフの男性が、暖炉前のソファに座って、僕のカードをくるくる回していた。ちょっと神経質っぽい。ちょっとだけカークさんにイメージが似てる?
「かけたま…!フェン!」
椅子から飛び上がるように立ち上がる。
僕はしいっと口に人差し指を立てる。
どこかのドワーフさんと同じ反応と僕の対応だ。
「こほん。かけたまえ。シャナ。もういいよ。ありがとう。」
「失礼します。」
どこかのギルド長とまったく同じじゃん。
僕のカードを返してくれながらも、シンハをちらちら気にしている。
「えーと、こちらがシンハ。フェンリルです。それからこちらがシルル。僕の親戚の子です。」
「シルルでしゅ!」
「うむ。ようこそ可愛いお嬢さん。寒い中、ご苦労様。さあ、暖炉近くにどうぞ。」
「はいでしゅ!」
シルルの受け答えに、ギルド長はふっと目を和らげた。
「こほん。私はフィレンディア・ラ・ポルトーデウム。フィレンとかポルトーとか呼ばれている。で、君がサキ君だね。フェンリル殿を連れてくるとは、エストは書いてくれていない。まったく。わざとだ!私を驚かそうとしたんだ。絶対!…ふう…。で、エストの手紙だと、この街のではなく、国境の壁修理ということだが、それで間違っていないかね?」
「はい。」
「ふむ。壁修理をしたことは?」
「ないですね。建物の解体をしたことや、レンガ積みはしたことがありますけど。」
すると、片眉を上げていぶかしげに、
「…。手紙には、『極めて優秀な魔術師を派遣する。壁修理も簡単にやり遂げてくれるだろうと信じている。』と書いてあるが。これは…どう解釈すればよいのかな?」
僕は首をすくめ、
「さあ。ヴィルドのギルド長さんが、僕を過大評価しているだけでしょうね。」
「ふむ…。とにかく、君には早急に国境の壁直しに行ってもらわねばならない。今のところ、帝国側から襲撃されたという報告はないが、危険を伴うことは理解してほしい。…で、その子もつれていくつもりか?」
「はい。あ、大丈夫です。いろいろ防衛手段はありますので。」
「本当に?…なんなら、我が家であずかろうか?」
「いえ。大丈夫。シンハもおりますので。」
「そうか…。わかった。だが、国境はダンジョンなみに危険だと思っていたほうがいい。」
「わかりました。ご忠告、感謝します。」
と僕は真面目に答えた。
「あの、僕たち今日着いたばかりでして。2、3日は旅の疲れを癒やしつつ、国境へ行く準備を整えたいと思っています。壁の修理も初めてなので、まず、明日はこの街の壁の修理の様子を見学させていただきたいのですが、可能でしょうか?」
「手配しよう。少し一緒にやってみたほうがよさそうだな。」
「はい!ありがとうございます。それと…ヴィルディアス辺境伯様から手紙を預かっておりまして、ユーゲント辺境伯様にお渡しせねばなりません。アポイントを取りたいのですが、どうするのが早いでしょうか。」
「辺境伯閣下とのアポイントか。では私から使いをだそう。それが一番早いだろう。」
「ありがとうございます。」
「時に…立ち入ったことを聞いて済まないが、君はどうして神獣フェンリルを連れているのかね?」
うわ。ストレートオ。
「森で僕はシンハに拾われたんです。一緒に暮らしながら旅をして、ようやくヴィルドにたどり着きました。道中、いろいろシンハに教えてもらいました。だから、シンハは僕の師匠で、かつ相棒なんです。」
「そうか…。なるほど。良き縁に恵まれたな。」
「はい!あ、でも、シンハがフェンリルということは、どうか広めないでください。」
「そうだな。わかった。では、私はいろいろ手配をしておこう。明日、ひとまずギルドに顔を出してくれ。」
「わかりました。よろしくお願いします。」
と言って、僕は立ち上がった。ギルド長も立ち上がって僕と握手。やはり背が高い。2メートルあるんじゃないかな。
「時に。カークは元気か?」
「!あ、はい。登録の時も、その後も、なにかと面倒を見てもらっています。…もしかして、ご親戚ですか?なんとなく、似ておられるかなと。」
「あいつは私の甥っ子なのだ。あいつの母親が私の姉なのだよ。」
「そうだったのですか。奥様のハイネさんともお会いしました。僕の引っ越しパーティーにお二人で来てくださって。仲の良いご夫婦ですよ。」
「そうか。二人とも元気なら、それでいい。」
ふっと優しい目になった。
「俺は武闘派だが、あいつは頭脳派でな。一族の中で一番頭が良かった。魔塔で学者になるのかと思ったが、何を思ったか、冒険者になどなりやがって。」
「おじさんをお手本にしたんじゃないですか?」
「うん?さあ、どうだかな。とにかく、俺と違って、奴は優秀だよ。冷たい感じがするかもしれんが、結構あれでアツイ男だ。」
「僕もそう思います。」
「こほん。とにかく、カークによろしく言っといてくれ。」
「わかりました。」
厳格そうだが、結構甥っ子のカークさんを可愛がっているんだろうな。
「では、また明日会おう。ごきげんよう。」
「はい。失礼いたします。」
「ふう。なんとか偉い人との面会もクリアした。それにしても、カークさんの叔父さんだなんて。事前に教えておいてほしいよ。」
『ふふ。お前を驚かせたかったのは、ギルド長だけでなく、カークもだということか。』
「まったく。人が悪いな。ヴィルドの偉い人たちはっ。」
そういえば、僕が出かける時、丁度カークさんは不在だった。言うヒマも聞くヒマもなかった、ということかな。でもギルド長は教えてくれても良かったよね。まったく。
それから、少し商店街を歩き、必要そうな日用品や食べ物などを仕入れ、夕方に宿屋に到着。夕飯は宿屋の食堂に行くと、ユーリ君が居た。僕たちは彼に暖炉に近い隅の席に通された。
「許可、貰えそう?」
と小声で聞くと、ちょっと唇を嚙んで。でも、こくりと首を縦に振る。
絶対女将さんから許可を取ります、という意思表示だ。
「うん。もし無理そうなら、僕も手伝ってあげるから。僕を呼んで。いいね。」
と言うと、ちょっとうれしそうにはにかんで、こくりと頷いた。
かわいー。弟がいたら、こんな感じかなあ。お兄ちゃん、溺愛して甘やかしちゃいそうだよ。
オーク肉やジャガイモ、にんじんが入ったクリームシチューは、美味しかった。パンは堅めの黒パン。僕は堅いのも好きだな。シンハにはアラクネ布を敷いてテーブルの下に座らせ、シンハ用食器で僕のお水以外は僕やシルルと同じシチューと、さらに魔兎のステーキを付けた。これはシンハのオーダーだ。たまには魔兎のステーキが食いたいと。さらにシンハには森のポムロル。
僕たちのデザートは、女将特製のチーズケーキと紅茶にしてみた。ほう。いいじゃん。そうか。此処は牧畜もそれなりに盛んなのだなと思った。酸っぱくなかったので、シンハにも少しケーキをあげると、
『うむ。この宿は当たりだったな。』
と言った。
一通り食べると、シンハは暖炉に近いところでくるりと回って座り、僕たちが食べ終わるまでうたたね。他の人もいるところでこうするのは珍しい。
やはり長旅で疲れたのかな。今日も一日中連れ回したしな。
「らっしゃい!」
女将の声でちらと見ると、魔狼を連れた冒険者だった。すでに壮年で、傭兵っぽい感じ。
魔狼はまだ若いだろうが、それなりに風格がある。よく訓練されているようだ。
女将さんは僕たちとニアミスしないよう、カウンターに案内しようとしたようだ。だが、魔狼のほうが、シンハに気づき、ウー、と低く唸った。
ぴくりとシンハが耳をそばだて、顔を上げた。
大きく伸びをして、くわらっとあくびする。
それからじっと魔狼を見た。
とたんに、魔狼のほうが、キュンキュンと啼いて、尻尾を股の間に入れた。
どっちが格上かわかったのだろう。
シンハは僕に寄ってきて、
『そろそろ部屋に戻るぞ。』
と言った。
「うん。そうしよう。…ごちそうさまでした!」
と女将に声を掛け、席を立つ。
魔狼連れのおじさんは、シンハにおびえた相棒にちょっと驚きながら、僕をじろりと見た。
僕たちは知らんふりして階段をあがる。
ユーリ君が追いかけてきた。
「うん?」
『今夜、必ず許可もらう。』
と書いてある。
「わかった。がんばって。」
と言うと、うん!と大きく頷いた。
いつも、いいね!や評価、ありがとうございます。
冬の他領への旅。過酷なはずなのに、相変わらず人外なサキとシンハ。
可愛い弟みたいなユーリ君も登場して、ストーリーはさらに佳境に。
これからもよろしくお願いします。