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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第四章 大寒波の冬編
259/529

259 「トカゲの尻尾亭」のユーリ

「ユーリ!お客さんだよ!」

そう言って手元のベルをリンリンと鳴らす。

すると、10才くらいの男の子が顔を出した。

髪は女将さんの栗色に近い色。目は緑。肌は色白で綺麗な子だった。


「(あれ?)」

その子を見た時、一瞬、心の中を心地良い風が通ったような。

「リィン!」とベルが鳴ったみたいな気がした。

この鈴の音。覚えがある。いつだったっけ?


ああそうだ。

ヴィルドの薬屋さん「メレンゲ」のミレーユさんに初めて会った時。

それから、そのお孫さんで冒険者のセレスさんと初めて会った時だ。

気のせいかと思って、2回ともあまり気にしなかったんだが…。

3回目となると、さすがに気になる。なんだろうな。


でも今は、それよりユーリくんのこと。

女将さんの、息子さんだって?いや、なんとなく違うような…。

ぺこりと僕にお辞儀する。

首から黒く塗った板を提げていた。

もしかして…。

「312だよ。」

と言って鍵を渡す。

何も言わずに少年は、火種と薪の入ったバケツを持って、僕たちを先導した。


『おい。この子…』

「(うん。ほぼ間違いなく、話せないね。)」

『…。』

「(髪も染めてるし。このうちの子じゃないみたいだね。)」

『…。』

「(それに、光の妖精が一人、ずっとくっついてる。)」

シンハには、僕がどうしたいかわかったみたいで、ちょっとため息ついてる。

『俺は知らんぞ。』

「(僕、なにも言ってないよ。)」

『言わずとも解るんだ。』

「(あっそう。…まあ、もっと仲良くなったらね。)」

『そうだな。』


少年は部屋に入ると、小さな暖炉に薪を入れ、それから火種を近づけた。

ぽっと薪に火が付き、すぐにぱちぱちと良い感じで燃えだした。

おやおや、今のは魔法を使ったよ。

確かに、子供でも火種の魔法は使えるけど、こんなに上手に薪にすぐ火を回すことはできないものだ。


「魔法、上手だね。」

と後ろから声を掛けると、

「!」

びっくりしたように振り向いた。

「今の、魔法でしょ?僕も魔術師だから、わかるんだ。」

と言って、ベッドに座ったまま無詠唱でライトを空中に出した。

すると、困ったような顔をしてから、口元に人差し指を立てた。

「うん?ナイショって?」

こくこく、と頷く。

「わかった。僕はサキ。こっちはシルル。白いのはシンハ。よろしくね。」

彼はぺこりとアタマを下げる。そして

「ユーリ」

と書く。きれいな字だ。


「ユーリ君、だね。ところで夕食は何時から何時まで?」

と聞くと

「6時半から10時」

と板に書いた。

「朝は?」

と聞くと、黒板を袖で拭いて

「6時半から9時半まで」

と書いた。

「髪染めるなら、眉毛も染めないと。」

と言うと、眉を慌てて両手で隠す。

「まつげもだ。」

今度は目も両手で塞いだ。

ふふ。可愛いな。


僕はパチンと指を鳴らす。

そして亜空間から出した手鏡を持たせた。

「!?」

ちゃんと眉とまつげが栗色になっているので、驚いている。

「ふふ。そういう魔法もあるんだよ。(今、作ったんだけどさ。)」

と言ってみる。

すると、急に少年は跪き、僕に祈りのポーズをした。

そして黒板に書く。

『弟子にしてください!』

さすがに僕は驚いた。


「え。それは…僕たち、旅人だからなあ。」

また黒板に書いてもう一度見せる。

『弟子にしてください!魔法、もっと上手くなりたい!』

「うーん。まだはっきりしないけど、もし、少し長く滞在できることになったら、此処にいる間だけなら、ちょっと教えることはできると思う。」

と言うと、ぱあっと明るい笑顔になった。

『それでいいです。是非!』

「…わかった。ただし、女将さんに許可をもらったら、ね。」

というと、急に暗い顔になり、ちょっと唇をかみしめる。

女将さんから、魔法は使うなと言われているのかな。

でも、すぐに決心したように、こくこくと首を縦になんども動かした。

絶対に許可を取り付けるつもりらしい。

「でも君も仕事があるようだから、お互い、あいた時間にね。」

こくこく!と頷き、うれしそうにぺこり!として、部屋を出て行った。


『またそんな安請け合いして。お前の仕事は国境付近の壁直しではなかったのか。』

「そうだけど。国境って、泊まるとこないと思うよ。それなら此処とテレポートで行き来すればいいかと思って。あの子、一生懸命だし、真面目そうだ。なにより…髪、僕より白いくらいの、プラチナブロンドだよ。もしかしたら、ハイエルフの末裔かも。」

ハイエルフは髪が白っぽいと聞いた気がする。


僕がなにげに言った言葉に、シンハが反応した。

『ハイエルフなら、お前の親戚かもしれんな。』

「え?」

『世界樹はハイエルフの姿だと言われている。』

「そういえばそうだっけ。」


僕は自分の髪をつまみ上げる。

いつも教会などで見る幻や、夢の中の世界樹様が、たしかに僕と同じ白っぽい金の髪色だと思い出す。


「僕のことより…あの子、いろいろ事情がありそうだ。聞き出せればいいけど。」

女将さんとのやりとりを見た限りでは、特に虐待されているようではなかった。むしろその逆。女将さんはあの子…ユーリ君を、ちゃんと息子として愛している感じだ。

でも、魔法を使うなって。どうしてだろう。ちらと見ただけだけど、魔法で火を付けた時も、極端に魔力を消費するとか、特にそういう違和感はなかったけどなあ。ただ、あまり基礎訓練をしていないようではあったけど。

魔力量も結構大きかったし…。このまま放置は不味い気がする…。

それに、光の妖精…つぶつぶに等しいくらいのちっちゃいやつ、がくっついていた。友達なのかな?


「ちゃんと字も書けるって、平民の子でも普通なの?」

『いや、おそらく意思疎通のために、必死で覚えたのではないか?綴りも正確だった。』

「おぉ、さすがシンハさま。人間語の綴りが正しいとわかるなんて!」

『あのなあ。お前に人間語を教えたのは誰だと思っているんだ?』

「あはは。そうでした。シンハ師匠デシタ。…あ、話は変わるけど、シルルはどれくらい文字が書けるの?」

「こほん。人間語も妖精語も、ついでに魔法語も、ばっちりでしゅ!」

「ふぇ!?そなの!?」

「男爵しゃまの家の図書室には、たくさんの言語の本がありましたでしゅ。あたしはそこがお気に入りでしたので。覚えちゃいました、でしゅ!」

「それは大変失礼いたしました。」

「えへん、でしゅ。」

『となると、お前が一番、言語に疎いかもしれんぞ。たまに綴りを間違えるであろう。ちゃんと勉強は続けろよ。』

「げっ!やばい。精進します。」


シルルの衝撃の事実を知って、ショックを受けつつも、僕たちは馬たちと馬車を宿にお願いして、教会に向かった。

街なかはシルルが危ないので、魔力に入れた。

魔力内からでも、街は見えるらしいから。


僕とシンハで歩く。一応、手綱も付けてみた。

もうすぐ昼。お祈りしてからどこかで食べてもいい。

この街の名物料理は、なんと海鮮料理らしい。港を持っている領地に来たのは初めてだし。楽しみだ。


ヴィルドの薬屋「メレンゲ」のミレーユさんとお孫さんのセレスさんのことは、これまで書きませんでしたね。セレスさんは、サキが骨折を治してあげたジャンニ・シュレーダーくんの相棒で魔法使いの冒険者です。ミレーユさんは、サリエル先生御用達の、エルフの薬屋さんです。いずれあらためて触れたいと思いますが、此処ではそういう人もいるんだな、程度で流しておいてください。すみません。

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