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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第四章 大寒波の冬編
257/530

257 解呪しちゃおう

「横になって。…僕の話を聞いてください。これは一種の呪いです。」

「呪い?」

「はい。だから、エリクサーがあまり効かなかったんです。」

「呪い…。」

「今から解呪しますから。楽にして。目を閉じてください。」

僕は杖を横に構え、呪文を唱える。

「イ・ハロヌ・セクエトー…世界樹よ。非道なる黒き呪いを解きたまえ。…イル・ハーベン、ディー・レ・ラ・プントス・ヒーリーヤ、ラ・プントス…解呪!そして、エクストラヒール!」

ぱあぁっとあたりが光り輝いた。そしてその光はあたたかくシャルルさんの体を包み…そして特に目を包んだ。

その数秒後。光は消えた。


「痛みは?」

「…ない。」

「包帯、取ってみましょうか。」

シャルルさんは半信半疑ながら身を起こすと、僕にサポートされながら、包帯を取る。

包帯を取り終えた時だった。


外が騒がしくなって

「さっきの光はなんだ!?貴様!俺の患者に何をした!」

とアズベル院長が、騎士団長の手を振り払ってなだれ込んできた。

「見える!」

シャルルさんが叫んだ。


僕は手持ちの手鏡を見せる。

シャルルさんは鏡に映る目を見た。

「治ってる!」

「奇蹟だ!」

と騎士団長。

「こ、これは!」

とアズベル院長。


「これは黒魔術による呪いだったのです。だからエリクサーでも治らなかった。今、解呪して、エクストラヒールしましたので。もう大丈夫だと思います。」

「異議あり!」

と叫んだのは院長。


「黒魔術による呪いを解いた、だと!?あり得ない!黒魔術によるものならば、特に難解な呪いのはずだ。当然、それを解呪するためには、高度な知識と技術が必要だ!君は何処でそれを学んだんだ!?」

「…独学です。」

「独学う?そんな妖しげなことを、俺の治癒院でするとは。当然、医師免許か治癒術師の免許は持っているんだろうな。」

「…ありません。」

「!誰か!不審者だ!こいつを捕まえ…うう!!」

すると、いままで病床にいたシャルルさんが、飛び起きて、アズベル院長をがんじがらめにし、口まで塞いだ。


「サキ!出て行かないでくれ!俺との約束を果たしてくれ!ジュリを!ジュリウスを治してやってくれ!」

『サキ!行くぞ!』

僕はシルルをシンハに乗せて、廊下に飛び出すと走った。

病室はすぐにわかった。索敵で片足の人を検索したからだ。廊下のずーっと遠く。なぜにこんなに離したのか、解らなくもないが。


「失礼します。ジュリウス・ド・サーベイさん?」

「あ、ああ。君は?」

「シャルル・フォン・レジオンさんの依頼です。その足、取り戻します!時間が無いので、すぐにしますね。イ・ハロヌ・セクエトー…世界樹よ!力を貸したまえ!解呪!からのエクストラヒール!」

呪文省略。その分、杖の先には世界樹の葉を付け、魔力をマシマシにして祈った。

すると光が満ち、そしてジュリウスさんの体が光った。


「!まさか!?俺の足が!?背中も、痛くない!」

「良かった。他の騎士達は全員同じ階にいるんですよね。」

「あ、ああ。みんな痛がっている。傷がまた広がって、膿んできたやつも。」

「わかりました。」

僕はそう言いながら、ドアを開け放ち、廊下に出ながら、ただちに祈った。

「イ・ハロヌ・セクエトー…解呪!からのエリア・ハイヒーーール!!!!」

すると、あたりは光に満ち、やがて。

「傷!治った!」

「痛くない!」

「俺もだ!」

「お前もか!」

「「ばんざーい!」」

「奇蹟だ!」

「おお、世界樹さま!」

「神よ!感謝します!」

廊下に騎士達が飛び出して来て、皆で喜び始めた。


「みんな!この「聖者」様が、治してくださったんだ!」

「「わああ!聖者様、ばんざーい!」」

「いえ、ちが、ぼくは。わー!」

「「「ばんざーい!ばんざーい!」」」

胴上げが止まない。


廊下の奥ではアズベル院長が、怒り心頭で何かを叫び、僕を睨んでいた。

わかるー。絶対僕が悪人だよね。

僕は胴上げ半ばでテレポートで外に出た。


「わ!いてて」

空中で顕現して、そのまま地面に落下。バリア張ったけど1枚。

腰をヒールしていると、シンハとシルルも建物からすぐに出てきた。

『ふふ。災難だったな。』

「うう。少しは同情してよう。面白がって。」

僕はシンハに八つ当たり。


「このままずらかるよ。ユーゲント辺境伯領に出発だ!」

僕が急いで馬車に乗ろうとしていると、

「お待ちくだされ!」

と騎士団長が追いかけてきた。


アズベル院長は…来ていない。よかった。

「ありがとうございます!なんとお礼を申して良いか。」

「ではひとつ、いや、3つお願いが。第一に、騎士さんたちに、僕は「聖者」ではないと強く言い聞かせてください。言ったら、今度は僕が呪いますよ!

第二に、僕がしたことを口外しないように。騎士さんたちに、これもよく言い聞かせてください。

第三に、あの院長さんのことです。僕には医師免許どころか、治癒術師の免許もありません。厳密には治癒術師が貴族を治すのは、免許がなくとも違法ではありません。でも此処はあの方が院長をしている治癒院。勝手に診察し治癒したと、訴えられるかもしれません。そうならぬよう、ぜひよろしくお願いします!」

「あいわかった!少ないが、ひとまずの謝礼を受け取ってほしい。」

「いりません。無料なら、罪も軽いでしょうから。では!」

僕は馬車を急がせた。


「このご恩、孫子の代まで忘れませぬ!」

そう叫んだ声を聞きながら。

ふと後ろを見ると、騎士団長が、僕に向かって片膝をつき、祈りのポーズをしていた。まるで世界樹に祈るかのように。やめてー。


「ふうー。散々な目にあった。」

街道に出て、ようやく僕は人心地がついた。

「野宿のほうが気が楽だ。」

『ふっふ。まあ、この馬車があれば、そうかも知れぬな。』

「うん。その土地の料理は食べたいけどね。」

『ご苦労だったな。』

「うん。…でも、治癒したこと、後悔は、してないよ。」

『そうか。』

シルルには美味しいクッキーと紅茶を出してあげた。

ああ、美味しい。


今日はいいお天気。寒いけど。

気分もさわやか。

シャルルさんやジュリウスさん、ほかの騎士さんたちの喜びの笑顔を思い出したら、後悔なんか、するはずがない。

でも、何か忘れたような…。


「あー!!」

『どうした!』

「教会、寄れなかったー!」

『…帰りに寄れば良い。』

「帰りは…通らない。」

『どうしてだ。』

「テレポートするから。」

『そうか…。まあ、そういうこともあるさ。いずれまた、な。』

「うう。…わかった。帰りはラルディアまでテレポートして、なるべくこっそり教会に行って…いや、やっぱり、ユーゲンティアに着いたら、なるべく早くテレポートして、ラルディアの教会に行って…ああ、でも、ユーゲンティアの教会が先だよね。どっちも行く時間あるかなあ。」

『…まあ、がんばれ。』


その日の晩。野宿。

僕は夢を見た。

世界樹様が、ちょっと拗ねたように笑っていた。

『教会なら、どこでもいいんだよ。教会でなくとも、いいんだ。君が僕を思ってくれるだけで。本当だよ。』

朝、目が覚めて、僕は数十分間、真面目にお祈りした。

教会、ラルドは諦めた。でもなるべく早くお祈りに行きますんで。世界樹様、ごめんなさい。




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