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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第四章 大寒波の冬編
256/530

256 ラルド侯爵との謁見&騎士団治癒院

騎士団長とともに玄関を入ると、執事長みたいな人に先導されて、するすると応接室へ。

騎士団長は、執事長と何か話し、どこかへ。

おそらく、僕を連れてきたことや、さっきお願いした「手短に」の件などを、侯爵閣下に伝えに行ってくれたのだろう。


応接室では、高そうな紅茶とクッキーを、メイドさんがサーブしてくれた。

シンハには僕の魔力水をあげる。クッキーはいらないそうだ。

では、僕もいただこう。どれどれ。まずは紅茶から…。

おお、いい茶葉だ。香りがいい。


などと思っていると、シルルが

「(かたいでしゅ。)」

と念話で言って、食べていたクッキーを一口でやめてしまった。

僕も試しにクッキーを食べ…堅い。それに、やはり少し甘さが足らない。これはこれで良さもあるが、ちょっと素朴すぎる。やはり改良せねば。


「(ゴシュジンしゃまのクッキーのほうがずっとおいしいでしゅ。)」

だよねー。

「(ありがとねー。)」

そりゃそうだ。魔鶏の卵やバニラビーンズを使ったり、魔蜂の蜂蜜か、砂糖、そして魔羊のバターをしっかり使っているものね。などと考えていると、

「待たせたな。」

と入ってきたのがラルド侯爵だった。


年の頃は50がらみか。

壮年の侯爵様だ。

僕はすぐに立ち上がり、相手が高位の貴族様なので、ちゃんと貴族風なお辞儀をした。ユリア先生に習っておいてよかった。

僕の隣では、シルルもちゃんとカーテシーをしている。偉いぞ。

「エズメネディオ・フォン・ラルドと申す。貴殿がサキ・ユグディオ殿か。」

「はい。閣下。お会いできて光栄です。」

「私もだ。前途有望な冒険者に会えてうれしい。こちらのお嬢さんは?」

「私の遠縁で、シルルと申します。」

「シルルでございましゅ。」

「おぉ、可愛いのう。」

シルル、壮年の男性にもてまくりじゃないか。


「で、こちらがそなたの従魔か?」

「はい。シンハと言います。僕の相棒です。」

ばう。

「そうか…。まずは掛けたまえ。」


それぞれがソファに座り、シンハは僕の脇におすわりし、侯爵様もソファに落ち着くと、再度新しい紅茶がサーブされた。


「急ぎの旅だと聞いた。足止めしてしまい、すまんな。てこずっていた魔熊を退治してくれたとのことだったので、是非私から直接会って礼を述べたいと思ったのだ。なにしろ、精鋭の騎士達も送り出したのだが、酷く負傷して帰還した。とんでもない奴だったと聞いておったゆえ。退治してくれて、本当に助かった。礼を言う。」

「わざわざご丁寧にありがとうございます。なんとか倒せて良かったです。」

「うむ。執事長。」

と指示すると、執事長が盆に革袋を乗せてきた。

「些少だが受け取って欲しい。」

「いえ、すでに報奨金はいただいております。閣下が上乗せなさったと聞きました。」

「それはそれ。これはこれだ。こんなに早く退治してくれたのだ。是非受け取って欲しい。」

「…。わかりました。では遠慮無く。ありがとうございます。」

と言って革袋を押し頂き、ささっと通称「マジックバッグ」に仕舞った。ちなみに、肩掛け鞄ではなく、今日は蛇皮ポーチだ。


「時に、私あてのヴィルディアス辺境伯からの手紙を持っていると聞いたのだが。」

「はい。…こちらです。」

僕は封筒を渡した。

もちろん、未開封である。

侯爵は裏の封蝋を確かめ、執事長にペーパーナイフを渡されて封を切ると、書面を広げ一読した。


「ふむ。君はだいぶ優秀なようだな。コーネリア殿が熱っぽく君たちをくれぐれもよろしくと書いている。

「買いかぶられておられるのかと。でもありがたいことです。」

「ふふ。謙遜はせずともよい。魔熊を退治した英雄であるからな。」

「…」


「時にこのあとユーゲント辺境伯領に行くとか。」

「はい。」

「もしや、壁を直しにか?」

「たぶん。そうなるのではないかと。」

「うん。私も話は聞いている。

私の1番目の妻は、ユーゲント辺境伯の妹でな。

帝国が大寒波で不穏な動きを見せている。人手が足りぬ、なんとかならないかと私も相談された。だが、我が領内は魔熊のことで手一杯。冒険者が多いヴィルディアス辺境伯に頼んではどうか、となったのだ。

どうやらそれも、ユグディオ君のおかげで解決しそうだな。」

「お役に立てるとよいのですが。」

「大いに期待している。足止めしてすまなかった。ユーゲント辺境伯によろしく伝えてくれ。」

「わかりました。」

侯爵閣下が立ち上がり、僕に握手を求めてきた。

僕も立ち上がって握手に応じる。

「本当に、まだ信じられん。こんな若い冒険者が。従魔がいたとはいえ、魔熊を退治してくれたとは。ありがとう。感謝する。」

「お役に立てて光栄です。ご無礼の段は、平にご容赦を。では、御前、失礼いたします。」

ユリア先生に習った、退出の挨拶を述べ、僕たちは部屋を辞した。もちろん、部屋を出るところで、振り返ってのお辞儀も忘れずに。


謁見は無事終わった。

ふう。

貴族との面会は、緊張する。


サキたちが退去した応接室。

見送ったラルド侯爵はソファに座り直し、心の中でつぶやいた。

「(ふむ。完璧だ。あの年齢で礼儀までも備えているとは。貴族であれば、即、我が家の婿に迎えたものを。実に惜しい。)」


ラルド卿の心のつぶやきなど知らず、僕達は執事長に案内されて、玄関へ。

すると騎士団長が待っていた。

「息子さんは治癒院ですか?」

「騎士団本部にある治癒院に入院している。息子はシャルルという。もう一人も同じところにいる。ジュリウス・ド・ハーベイという騎士だ。

息子とは幼なじみでな。息子をかばって、足を喰われた。背中も酷い傷で。それはエリクサーで治したが、何故かまた紫色に腫れ、背中が痛いと訴えている。もちろん、無くした足も、痛いと。気の毒なことだ。

息子も自分の目より、親友の受けた災難に、酷くショックを受けている。二人とも、とても仲が良かったから、なおさらかわいそうで…。」


騎士団長の目の奥に、光るものがあった。

「失礼。それからほかの者たち…出撃した騎士達も全員、まだ本部の治癒院にいる。

一度は上級ポーションで傷は治ったのだが、まだ痛いと訴えてな。やはり傷のところがまた紫色に腫れてきた。ポーションを飲んだり、ヒールをしてもらったりを繰り返しているのだが、何故か完全に治らないのだ。」

「…とにかく、まずは息子さんにお会いしましょう。」

僕は魔術師らしく杖を出し、騎士団本部の治癒院へむかった。


騎士団本部の治癒院に入る時、シンハもシルルもまとめてクリーンした。シルルも顕現してもらっている。場合によっては助手をしてもらうためだ。

治癒院は、うめき声が聞こえていた。

「(シンハ、魔力内にいる?)」

『いや、このままでいる。どうも症状が気になる。』

「(わかった。)」


治癒院を進むと、女性の看護師さんと、教会の神父服を着た人が歩きながら話している。

「どうしてヒールが効かないんだろう。」

「変ですね。」

彼らが僕たちに気づいてこちらにやってきた。

「すみませんがここには従魔は…。」

「クリーン。バリア。これでよいですか?」

「え?えーと。」

「毛は飛びませんし、病原菌もありませんので。人間よりも安全です。失礼します。」

と笑顔で言って、そのまま通った。

わかるように、わざとシンハのバリアには少しブルーの色を付けた。


『治癒院ではヒールもしたようだな。』

「(うん。でもあまり効果がなかったみたいだね。)」

遠ざかる神父と看護師の話から、そのようにわかった。


騎士団長は、長い廊下の奥まで歩いて、片隅の扉をノックした。

「シャルル。入るぞ。」

と言いながら開ける。

一人の青年が、呆けたように座っていた。右目の包帯が痛々しい。

「父上。」

「客人を連れてきた。サキ・ユグディオ君だ。」

「こんにちは。」

「どうも。」

「こんにちは、でしゅ!」

「ふふ。いらっしゃい。お嬢ちゃん。」

シルルを見て、シャルルさんはようやく笑った。可愛い子供は癒しだものね。


「ユグディオ君は魔熊を退治してくれたのだ。」

「!あの魔熊を!?まさか!?」

そう思うよねえ。僕みたいな中途半端な若造がって。

「いや、失礼。…でも…本当に!?」

「そうだ。彼はヴィルドの冒険者。なんとBランクだそうだ。」

「B!?…」

「はい。でも今日は魔熊討伐の報告ではなくて…貴方を治癒しに参りました。」

「治癒?」

「はい。聖属性が使えます。できるかどうか、確信はありません。でも、試させてください。」

「…わかった。」

とやっていると、医師、いや、治癒術師らしい白衣の人物が怒ったように入ってきた。


「おい君、従魔は…!騎士団長!?」

「アズベル院長、ちょっといいかね。」

「しかし!」

「まあすぐ終わるから。実は…」

とアズベル院長を病室から連れ出してくれた。


僕はささっと診察する。

「目は、痛みますか?」

「ああ。」

「どんな風に?」

「奥がズキズキと。」

「頭痛も?」

「あるな。なあ、ユグディオ君といったか。」

「サキでいいですよ。」


「サキ君。俺より、あいつを…ジュリウス・ド・サーベイを診てやってくれ。あいつ、俺をかばって足を持っていかれた。エリクサーを飲んだのに、効かないなんて。あり得ないだろ!?きっと偽物を売られたんだ!」

「貴方のあとに、必ずサーベイさんも診ますので。落ち着いてください。今、痛みは?」

「ある!ずっとだ!気が狂いそうなくらいだ!」

「わかりました。動かないで。」

僕は少し興奮気味の彼に、圧を掛けた。

それでようやくおとなしくなった。


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