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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第四章 大寒波の冬編
252/529

252 魔熊退治

GUGYAAAAA!!


魔熊の、とんでもない恐ろしい声に、馬車屋のほうから僕の馬たちの悲鳴というか、嘶きが聞こえた。

「ヒヒイイイン!ゴシュジン、早く来てよう!こええよう!」

「泣くな弟!大丈夫だ!ゴシュジンは俺たちを見捨てたりはしねえし、強い男だ。…たぶん。いや、ゴシュジンが仮に弱っちくとも、ほら、あの神獣シンハ様が、きっと敵をささっと倒して、俺たちを救ってくれるさ。うろたえるんじゃねえ!」

「弱っちくて悪かったね。」

駆けつけた僕はついツッコミを入れた。


「あ!ゴシュジン!き、聞こえてたんすか!失礼を!」

「ふえええーん。」

レムスは相変わらず泣いている。

僕は馬を解放しながら指示を出す。

「どうどう。落ち着いて。とにかく、きみたちも村の奥へ避難して。大丈夫!シンハが倒してくれるからっ!」

『おい。』

「「はい!!」シンハ様、よろしくお願いしますよ!クサバの陰からお祈りしてますから!」

まだ死んでないだろうに。

「アニキ、クサバじゃなくて、藁の陰からだろ。ぐすん。」

「なんでもいい!走るぞ弟よ!」

「ヒヒイイイン!」

どうもロムルスとレムスを見ていると、日本のお笑いコンビを思い出す。

そのまんまでデビューできそうだよまったく。


そうこうしているうちに、魔熊が村の閉ざされた門に突進をかました。ドシィン!

門はトレント材、塀は普通の木材だが、丸太をみっしり並べて固定した頑丈なもの。村にしては、かなり立派なもので、多少の魔獣の突進なら、びくともしないものだ。だが、相手は文字通り口角泡飛ばす狂気の魔熊。とんでもない馬鹿力だ。

ドシィン!ドシィン!と2度、3度とぶつかるうちに、門と木塀は揺らぎ始めた。やばい。


「門強化!丸太強化!土台強化!」

門や柵だけでなく、突進でゆるみかけた地面も、強化して固める。これで、ちょっとやそっとじゃ壊れないはずだ。ふう。

さらに杖を出して

「イ・ハロヌ・セクエトー…。結界!」

僕は結界魔法で村全体を、門や木塀ごとバリアで覆った。

これでひとまず村は大丈夫。


何度も突進を試みた魔熊は、門や木塀が思い通りに壊れないことにいらだち、

GUGYAA!GUGYAA!!

と不満げに奇声を上げて、結界をガリガリガリッと爪でひっかいた。

どうやらよじ登ろうとしているようだ。結界だよ。登れやしないさ。


「シンハ、このままじゃ埓が明かない。出るよ!」

『気をつけろ!奴はただの魔熊ではないようだ!』

「承知!」


僕は、村の門から魔熊の注意を逸らすため、200メルくらい門から離れた右側のところで、

パンパンパン!と盛大に爆竹のように爆破魔法で爆発をさせた。

魔熊がそちらに走る。

「今だ!」

僕は大きくなったシンハにまたがり、門から左20メルくらいのところに、フライで木塀を跳び越え、ふわりと着地した。

自分で張った結界は、僕たちが出るのを妨げない。それがこの世界の不思議法則。


「こっちだ!」

GYAUA!

ようやく僕達に気づき、殺気を帯びて走ってくる魔熊は、やはり血走った真っ赤な目をしていた。

森でほかの魔獣をいくつか屠ってきたのだろう。

すでに口も爪も、血でどす赤黒くなっている。


「アイスランス!」

氷弾より強い、アイスランスを3本、回転させて発射。

一本は眉間を、もう一本は心臓を、のこり1本は足を狙った。

だが、魔熊は思いのほかすばしこく、眉間、心臓のランスは回避、足のランスだけが、うまく避けられずに右前足を地面に串刺しにされた。

ランスはミサイルと同じく、避けても追いかける追撃魔法も掛けてあるのに、避けたのだ。

よほど素早いか、強い魔力で魔法を遮断したか。とにかく、3本中2本が避けられた。


GYAAAA!!

足を負傷した魔熊は、さらに不機嫌に殺気をまき散らした。

怪我をしても、無理矢理こちらに向かって走ってくる。速い!

魔熊の口の何か赤黒いものが見えた。

僕はとっさに

「雷撃!」

バリバリバリ!!

と雷撃を放った。

と同時に

『避けろ!』

シンハの声に、とにかく横へ転がる。

すると、今し方僕が立っていたところに、魔熊は黒い火炎のようなものを口から放っていた。ブレスだ!熊が龍のようにブレス!?

「!?」

しかもあれは黒魔術の呪いに近いもの。あのブレスに当たれば、全身腐って死ぬか、アンデッドにされるか。

ありえない。雷撃を受けながらもブレス、だと!?

魔熊ができる技ではない。


ふと、奴の首元に黒い首輪と、それに埋め込まれた黒い石が見えた。

首輪は奴隷用のような太い金属製で、黒い石は魔石のような?

あれだ!

僕は直感した。

あれが魔熊を狂わせ、とんでもない能力と魔力を引き出しているに違いない。


魔熊はブレスを放ったものの、さすがに雷撃で瀕死状態。

GUUUUUU…。


そこにシンハが

ガウッ!!

と耳脇にかみつく。首はがっちりした首輪でかみつけないからだ。

魔熊はさすがにそれを嫌がり、爪でシンハを攻撃!

「シールド!」

咄嗟にシンハを守るため、魔熊の両手を丸い結界で覆った。

だが魔熊はかまわず立ち上がり、両手を振り回し、シンハを振り落とそうともがく。

グルルル!グルルル!シンハは唸りながらも魔熊の頭から離れない。


普通の魔獣が相手なら、そのままシンハに任せるが、相手は呪いを使う変異体。

かみついたシンハまで毒に冒される可能性もある。

だから、僕は魔剣を亜空間収納から取り出すと、魔熊の背後から奴の胴めがけて横薙ぎに払った!

「でやあああ!!!」

なにしろ、木塀の太い丸太6、7本分もある巨体だ。

気合いとともに、魔剣に魔力を通し、刃を「振動」させつつ刃を伸ばしながら斬った!

魔熊の胴体を、見事に横薙ぎに両断していた。

ズズン!

と真っ二つになった巨体が、ようやくこときれ、死体となった。

だが、

それだけでは終わらず、どろどろに溶け始めた。

「シンハ、離れて!」

僕は咄嗟に魔剣を仕舞い、代わりに杖をフルバージョンで取り出すと、

「イ・ハロヌ・セクエトー…穢れたる魂を、救い給え。浄化!!」


すると、溶けかけていた死体は溶けるのを止め、魔熊の魂は、黒い靄をまとったまま、空へ。

『ガルルル…ふう。…いったい、こいつはなんだったのだ?』

ようやくシンハが殺気を仕舞いながら言った。

念のため、かみついたシンハにも、毒消しキュアを込めたヒールをかける。


「おそらく、これが元凶だね。」

僕は、シンハの爪によって鎖が千切れ、地面に落ちていた首輪を、手を触れずに空中に浮かせた。すでに黒い魔石は粉々に砕け、砂のように滅んでいた。

『む。まだ禍々しい気配がしている。』

「うん。…これを誰かが魔熊につけて、狂わせていたんだと思う。黒魔術の呪いの一種だろうね。」

『こいつ、さっきやけに素早かったし、龍のようにブレスまで。それらもこの黒い石のせいか?』

「解析してみないとはっきりは言えないけど。おそらくそうだろうね。」

『恐ろしいな。』

「これも「誰かの実験」、なのかもね。」

『こんなものを作るのは…魔族か、狂った人族か…。』

「だろうね。」


あまり考えたくない仮説だが、黒い魔石付きの「呪いの首輪」が作れるのは、魔術師しかいない。つまり、魔族か人族かは不明だが、とにかく人工的に誰かが作って、魔熊の首に付けた、としか思えない。何のために?しかも「村」なんかを狙う?たぶん何かの「実験」、でしょ。

どうも帝国の影がちらつく、と思うのは、僕だけだろうか。

「うん?」

一瞬だが、誰かに見られている気配がした。

「…気のせい…だといいけど…。」



とある場所のとある実験室。

周囲にはさまざまな魔獣が、ホルマリン漬けのように、透明ガラスの筒の中に入れられている。多くの管が魔獣の体に繋がっている。


「フム。この実験は、失敗だな。」

謎の人物が、薄暗い室内の中で、水晶玉に映し出された映像を見てつぶやいた。

「出力が不安定で、団体行動には向かない。発想はユニークだと自負するが。やはり魔熊では、龍のブレスは荷が重すぎたようだ。」

男はそうつぶやき、さらさらとメモすると、映像に映ったサキとシンハを見つめた。

「またしてもこいつらか。だが今は放置しておこう。そのほうが実験の成果がわかりやすい。なにより、楽しい。…『決戦』が楽しみだ。」

にたりと笑う男からは、黒い靄が立ち昇っていた…。





え!?誰!?…

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