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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第四章 大寒波の冬編
250/529

250 野宿

街道には雪がある。王都へ行くヴィルディアス街道は、広くて通行量も多いので、轍跡がたくさんあって雪もとけ気味だが、ユーゲント辺境伯領へ向かうユーゲンティーリア街道(別名ラルディーリア街道)は、少し細くて、雪を踏み固めた感じで滑りがちだ。

今は道も平らだからいいが、この先、山道になると、結構大変かもしれない。


ヴィルディアスとユーゲント領の間には山脈が走っているため、直接行き来するのは困難。

夏なら登山して直接入ることもありうるが、馬車で通れる道ではない。

冬は完全に通れなくなるので、ヴィルディアスから行くには、南東にあるラルド侯爵領に入り、山裾を迂回していくルートが一般的である。


冬でなければヴィルドからユーゲンティアまでは馬車を急がせて6日というところだが、冬で急いで行くこともできないため、ラルド侯爵領都ラルディアまで4日、そこからユーゲンティアまで4日の計8日は最低でもかかる見込みだ。これが途中悪天候となればさらに旅程は延びるだろう。


ラルド侯爵領は、もし広大で肥沃なユーゲント辺境伯領が帝国に奪われた場合、次に国境となってしまう要地である。そのため、王に特に忠実である事が求められた。もしラルド侯爵が帝国に加担したりスパイになったりしたら、ユーゲント辺境伯領は帝国と挟み撃ちにあってしまう。そのため、ユーゲント辺境伯は、妹をラルド候に嫁がせるなど、常に親密な関係を保つよう努力してきた。王としても、帝国への盾の一部がラルド侯爵領であると認識してきたらしい。


らしい、というのは、僕がアカシックさんから無理矢理聞き出した情報からの推察も含んでいるからだ。

あまり現在の世事について、アカシックレコードは教えてくれないが、歴史となれば答えてくれるから、なんとかここまでの基礎知識を入手できたのだった。

ラルド侯爵あての手紙は、使わずに済めばそれに越したことはない。

あまり貴族には自分から接触したいとは思わないからな。


一番困るのは、いわゆる不敬罪というやつだ。

コーネリア様のように、気さくな方なら良いが、貴族に下の者から話しかけるのは、貴族同士でもお行儀がよろしくないとか。まして平民から何か申し上げるのは、かなり無礼なことらしい。誰が決めたの?そんなこと。あーやだやだ。絶対お貴族様とは関わりたくないよね。


それなら、まだ世界樹様とお話していたほうがいいじゃん。

僕が作ったお像は、お留守番よろしくお願いしますと祈って、櫃の扉を閉めてきた。

あ、領都ラルディアに着いたら、教会にも行ってみようかな。


早めの昼休憩をとり、しっかり馬たちを休ませつつ、僕たちは昼食。

本日は、シルル特製お弁当。

オークカツを挟んだボリューミーなサンドイッチに、あったかいオニオンスープ。あとは定番ポムロルパイ。

馬車の後ろの部屋で、二人と一匹で食べた。

馬たちの周囲には防御と暖房の結界を張っている。


『うーむ。旅という感じがしないな。普通に部屋だからなあ。』

「嫌ならいいんだよ。さむーい外で食べても。僕たちは行かないけど。ねー、シルル。」

「はいでしゅ。」

『またそのような意地の悪いことを。』

「ふふ。…ところで、このペースだと、今日は野宿かなあ。タニア村まで行ければいいけど。」

僕は地図を見ながら言った。


実は、走っている訳ではないのだが、馬たちが張り切っていて、普通のペースより早い。そのため、普通だったら途中で昼休憩に立ち寄る村を、二つもすっ飛ばしている。

急ぐ旅ではあるので、良い事ではあるが。


『この部屋があるからな。野宿でも構わんだろう。』

「そだねー。あ、厩は作らないとな。それから…シルル、着替えの服、また作ってみたから。あとで着てみて。…はい。セーターと、スカートと、スパッツと…。」

「わあ!ありがとございましゅ!」

「一応、靴下も含めて、一通り冬用のを作ってみたから。これらも着てみてね。魔力を通すと、体に合うはずだから。不具合あれば、遠慮無く言ってね。」

「あい…。ありがと、ございましゅ。」

僕はなるべくさりげなく、下着類もあわせて、どかっと渡した。

シルルは顔をちょっと赤くしながら、さささっとそれらを大事そうに抱えて、部屋の隅にあるクローゼットへ仕舞いに行った。

「シンハもなにか欲しい?手袋とか。耳ガードとか。」

『…いらん。』

「だよねー。」

『わかっているなら聞くな。』

うふふ。


ちなみに僕も、冬の旅装。今まで着ていたローブを黒龍革を表にし、魔兎の黒い毛皮をフードの縁に付け、黒ケープにも魔兎の毛で縁を装飾している。中には目の詰まったアラクネ布製の冬用ジャケットに、魔兎の襟巻をし、風を通さない黒龍の黒パンツに、内側に魔兎の毛皮を貼った黒龍ブーツを履いている。黒龍手袋の縁にも魔兎の毛で装飾だ。

当然、鑑定阻害魔法を掛けまくっているが、高級そうなのは明らか。貴族かと間違えられそうだが、ジャンビーヤを腰に指しているから、きっと冒険者には見えるだろう。…たぶん。


午後は、少し登坂が多くなり、道も細くなった。ラルド侯爵領はヴィルドより標高が高い位置にある。

昨夜も雪が降ったのか、轍の跡も消えかかっている。

そのため、馬たちのスピードもがくんと落ちた。

シンハの予言どおり、午後3時ころには雪がちらつき始め、4時にはもう周囲も薄暗くなっていた。


「やっぱり野宿だな。」

目標にしていたタニア村まで、あとまだ数キロある。うす暗い雪道で馬車を走らせるのは難しい。

普通なら、すでに通り過ぎたオロセ村というところで一泊だろうけれど、僕たちは村と村の中間地点、川に近い林の中で、野宿すると決めた。


「よし、まず厩を作ろう!」

僕は雪が激しくなるのも構わず馬車から降りると、最初に、馬車を中心として林の中に広い結界を張った。

この結界は雪や風、来るかも知れない狼などの外敵を防ぐもの。もちろん、暖かさもキープ。

それから、作業しやすいように、光球をあちこちに浮かせる。

亜空間収納から保管しているブロックを久しぶりに取りだし、ぱたぱたと魔法で積んでいく。積みながら間にパテを塗って、即、乾かしていく。

あっという間に、素敵なレンガ造りの厩ができた。

「ふう。こんな感じかな。あとは、寒くないようにっと。」

レンガの内側を温め、ほんわかと厩の中の気温を18度くらいに保つ。

藁もいっぱい敷いて、座っても寒くないようにする。


「できたよー。シルル、お馬さんたち、馬車からはずしてくれる?」

「はーい。できましたあ。」

「ロムルス、レムス。お疲れ様。今日はよく走ったね。此処でゆっくり休んでね。」

「うひょー!すげえ!ゴシュジン、すげえ!」

「あんた、ナニモノ?俺たちの住まい、出来ちゃったじゃんかよ。」

「ふふ。こういうのが得意なだけだよ。干し草にはメルティア混ぜといたし、お水は…これね。少しあっためといたよ。体、クリーンかけるねー。」

「ふわああー。クリーン、キモチええわあ。」

「ほんと、夢みたいだなあ。藁もいっぱいじゃん!」

「お、ニンジンもある!うめー!」

「ほかに、何か欲しいものとか、ある?」

「「ない!」」

「うん。じゃあ、ゆっくり休んでね。あ、此処は結界の中だから、あったかいし、魔獣とか、恐いやつらは絶対来ないから。来てもやっつけるから。主にシンハが。安心していいよ。」

「「はーい。」」

「何かあったら、呼んでね。じゃ、おやすみー。」

馬たちからは、馬車も見えているし、きっと安心してくれるだろう。


馬車に戻ると、シルルが晩ご飯を作ってくれていた。

「もうしゅぐ、できましゅでしゅ。」

「いい匂い。今日はカレーだね。」

「はいでしゅ!」

そう。ヴィオールの先生の実家である雑貨屋さんで、カレー用の香辛料を取りそろえることができたんだ。

それで、ごくたまにだが、カレーも食べることがある。

『俺は食わんぞ。』

「シンハにはシチューとステーキだよ。大丈夫。」

シンハはカレーパンくらいなら食べられないこともないが、辛くなくとも香辛料で舌がひりつくらしく、カレーは食べない。

だからシンハ用には、その日は同じ具材でシチューを作る。


でもカレーはほとんど辛くないのを作る。シルルも辛いのは得意ではないからだ。

僕も少しだけ、できあがりのカレーにコショウを加える程度。

3人(?)とも、辛さには敏感なのでした。

それでもカレーが食べたいと思ってしまうのは、やはり日本人だからだろうか。


「「いただきまーす!」」

今では、シルルもカレーが大好物。

ストックしてあるナンも焼いて、本格的。

今度はラッキョウや福神漬けが欲しくなり、ラッキョウは探しているところ。どうやらこれも東方の国にあるらしい。

福神漬けは、自分で作った。

本来は、ダイコン、キュウリ、ナス、レンコン、ショウガ、シソ、そしてナタマメが材料らしい。ナタマメは残念ながら見つけていないが、ほかはすでに入手済。それを全部入れなくともよいが、ダイコンは必須でしょう。とにかく、福神漬けは作った。

今ではカレーには必ず添える大切なツケモノである。たとえライスがなくてナンだとしても。

ああ、日本人だなあ。


ご飯のあとは、先にシルルにお風呂を使わせ、そのあとで僕とシンハがゆっくり入浴。

3人(?)でソファーベッドに並んで横になる。

なんだか合宿か修学旅行みたい。

実はどちらも前世では行ったことないんだけどさ。


『外の索敵は、できているんだろうな。』

「うん。結界は張っているけど、ちゃんと索敵もしているよ。大丈夫。」

『ならいい。いくらこの部屋が快適でも、油断するなよ。』

「うん。…明日も早いから。寝ようか。」

『ああ。』

「おやすみ。シルルも、おやすみー。」

「おやしゅみなしゃいでしゅ。」


部屋は真っ暗にはしない。

いつも、淡い光玉を灯している。

なにかあっても、すぐに動けるように。


雪は、結界の外ではかなり降っているようだ。

結界の天井を少し三角にして、雪が落ちやすくなるよう変形させておいた。

道が解らなくならないといいなあ…。おやすみなさい。


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