25 家を改造する 1 洞窟改良工事と建材調達
僕は森の様子や日毎に変わる温度変化、そしてシンハからの情報により、この森は温帯性の湿潤な気候にあると知った。四季もあるという。
ということは、まもなく梅雨。
そして夏がやってきて、秋があり、冬が来る。
寒さはどうやら北海道ほどではないにしても、雪も積もるということだし、相当だろう。洞窟では厳しいかもしれない。
僕はシンハの了解を得て、洞窟を改造することにした。
この洞窟は、岩と岩の間にできた隙間空間らしい。そのため、上部にところどころ隙間があるので、中でも火を焚ける構造だ。
洞窟は岩山の根元にできていた。
岩山に登ってみると、高さはないが、それなりに広がりのある岩山で、上が平坦に近い。
周囲を見渡すと、平らな樹海の中に、ところどころにこのような丘のような低い岩山が見える。覚え立ての飛行魔法でもっと高いところから眺めると、小さな草原がぽつぽつあったりもする。時々行く蒼い湖もすぐ近くに見えた。湖は結構広い。
北の奥には龍が住むという高い山も幽かに見える。
全体にはなだらかな地形の森が果てしなく続いている印象だ。
「大丈夫だよ。」
シンハのもとに降りると、僕の覚え立ての飛行魔法に心配していたようなので、そう声をかけて撫で繰り回した。
『急に飛び上がるから焦った。』
「あは。ごめんごめん。」
そんな会話をしつつ、僕たちが住む岩山の頂上を再度確認する。
洞窟は、まだこの岩山の十分の一にもなっていない浅さだった。
山頂は木々がなく、岩がむき出しの場所が多い。
洞窟の天上の亀裂がある場所は、すぐに判った。
大雨にはそこから雨漏りがしてちょろちょろと流れるくらい、雨水が洞窟に入り込むという。
冬になれば上からも冷気が降りてきてしまうだろうから、ある程度穴を塞ぐ必要があった。
僕は化学的に正しい意味での「セメント」や「モルタル」は材料の不足から作ることはできなかったが、セメントもどきやモルタルもどきは作ることができた。粘土に魔力を込めればモルタルもどきに。さらに砂利を加えればセメントもどきだ。しかもどちらも固まるととても堅牢だし耐久性も十分だった。それに、岩を魔法で直接溶かすこともできた。ここでは大火力を活かして上部の岩を溶かしつつ、大きな亀裂はセメントもどきで隙間を埋めることにした。もちろん、煙突となる亀裂だけはきちんと残しておく。
まず岩山の頂上付近の下草を刈り、地肌を出す。
雨漏りがしていた部分は、地面に亀裂があった。
土魔法と火魔法で計画どおり、煙突になる中央の亀裂以外を、岩を溶かしたりセメントもどきで埋めたりしていく。
煙突になる亀裂には、雨が入らないように切った竹を使って、円錐形に組んで屋根をつける。竹の柱を魔法で岩を溶かした穴に打ち込み、紐は藤蔓を利用した。
魔獣避けの結界石も置いて、亀裂や煙突屋根にいたずらされたり、巣をつくられたりしないように、整備した。
酷い煙の時には風魔法で強制換気すればいい。
次は水に関すること。
今のところ、水は大量に湧き水を汲んで亜空間収納で運び、大甕にいれている。
水魔法で水を出すこともできるので、生活用水には困らない。畑の水やりも思いのほか水が少なくて済んでいる。むしろ魔力供給のほうが大切のようだ。
畑用の水はまた別に考えるとして、今は風呂とトイレのことだ。
異世界で目覚めて以来、ずっとこの二つが欲しかった。
(これまで小は、最初はワイルドに洞窟前のメルティア広場の隅の崖っぷちでしていた。真下は小川で、この川は湧き水のある川とは別の川である。だがクリーンを覚えてからは、メルティア広場の隅っこに、土魔法で三方囲いを作り、穴にして土をかぶせ、クリーン処理していた。大も同じである。)
風呂とトイレは洞窟に隣接して木造の小屋を建てようと思ったが、シンハから魔獣にすぐに壊されるぞ、と言われた。
そこで、外に出ずにいけるように、洞窟の入り口向かってすぐ右手に石とレンガで頑丈な建物を建て、L字型の通路をくっつけるように設計した。
手前に洗面所にトイレ、しきりをつけた奥が風呂場である。
一番簡単なのは、土魔法で全部家を作れれば良いのだが、土で壁を作るのはできるが、それ以上に複雑なものは、今の僕の魔力量や魔力操作能力では出来なかった。
「まずは建材確保だな。」
僕はシンハと一緒に、洞窟の下を流れている川を遡ることにした。
この川は洞窟の反対側、つまり北のほうから流れてきて、南にある湖には向かわずに東のほうへ流れている。その先はかなり遠くで湿地帯になっているらしいが、僕はまだ行ったことがない。
この川の水源は5つくらい遠くに見える小さめの岩山だ。
川沿いの石は特に宝石を含んでいない普通の石がほとんどだ。堅牢なので建材には向いている。
洞窟付近は流れもおだやかで丸い石が多いが、上流に行くにつれてごつごつした巨岩も目立つようになっている。
僕はシンハの案内で、その上流へと向かった。途中で魚も獲りながら、のんびりと岩採取。もちろん亜空間に収納だ。
ついでに川砂とか砂利もゲット。
川のはじまりは、複数箇所から水が湧き、流れが集まって川になっていた。小さな滝もあった。
森林浴を堪能しながら、岩を採取。バスタブにする大岩も見繕う。
いい具合に岩を採取すると、帰り道では亜空間収納内で、採取した岩を適当な大きさに砕いた。これで石の建材は確保できた。
木材は先日のエルダートレントと、畑を拡張した時についでに退治した普通トレントで十分だ。畑のトレントは、トレントと気づく前に倒しちゃったんだけどね。
亜空間収納内で十分乾燥させ、角材に加工。
エルダートレントは普通トレント以上に堅いらしいが、僕の亜空間収納の中での作業は、魔力とイメージでできるから、あまり関係なかった。
まあ、魔力はかなり使っていたみたいだが。
僕としては負担になるほどではなかった。
結局、建材調達でまる一日使ってしまった。
いや、たった一日で調達できたことが奇跡だ。




