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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第四章 大寒波の冬編
248/530

248 馬と馬車を手に入れる

シルルは魔力に溶かせばなんとでもなるが、この雪の中、歩きとか走る、はさすがに人外すぎるし(できなくはないけど。)四六時中飛ぶのもなあ。(できなくはないと思うけど。)

そこで、今回は馬車を調達することにした。

そういえば初めての馬車での旅だ。

ユリアのことを思うとちょっと気持ちが沈んだけれど、(だって、まだちゃんとデートできていないんだよう。)ようやく少しワクワクしてきた。


ごく普通の馬車を買い取り、それを魔改造することにした。

馬は、馬車屋で冬でも歩きたそうにしていた子を2頭、選んだ。

こちらはレンタル。とりあえず2ヶ月の契約。

「ちょっと長旅だけど、付き合ってくれる?」

と話しかけると、

「「ヒヒイン!(いいよー!)」」

と元気よく答えてくれた子を選んだ。

ちなみに2頭とも若いオス。

馬車と馬をそのまま家に連れてくる。


馬たちは、当初からあった厩に入れ、温風で暖房し、たっぷりの干し草にメルティアを混ぜて食べさせた。

すると

「あったけえ!此処、サイコー!」

「美味い!これ、なに!?え、メルティア!?ありがたや!」

と言って喜んでくれた。

ちなみにこれは馬語です。傍目にはヒヒイン、ブルブルとしか聞こえない。獣の中には、こうして種族特有の言葉(念話に近いもの)で意思疎通できるものがいるのだ。

僕の魔力水を混ぜたぬるま湯も、美味しいと言って飲んでくれた。

「冷たくないのがいいねえ。」

「力が沸くぜ。」

と気に入ったみたい。

クリーンをすると、それもまたうれしいと喜んでいた。

「俺たちにクリーンかけてくれるニンゲンなんざ、珍しいな。」

「まったくだ。良かったな。アニキ。」

「ああ!」

「え、兄弟なの?」

「ちがう。でもアニキはアニキだ。かっこいい馬だろ?だからアニキさ。」

という。そうか。


「なんて呼ぼう。名前いや、呼び名、つけてもいい?」

呼び名だぞと思いながらつければ、契約扱いにはならないのだ。

「おうよ。」

「いいぜ。」

「うーん、なにがいいかなあ…。じゃあ、アニキさんの呼び名が、ロムルス。弟くんが、レムス。」

もちろん、ローマ建国の、狼に育てられた双子の名前だ。

「気に入ったぜ。」

「俺も!」

「ニンゲンさんよ、あんた、名前は?」

「僕はサキ。」

「馬語がわかるなんざ、珍しいな。よろしくな。サキさんよ。」

「うん。こっちはシンハね。」

「神獣様はシンハ様ですかい。よろしくお願いしやす。」

「しやす。」

『うむ。』

シンハが偉そうだ。

馬たちは僕よりシンハに深くお辞儀したぞ。くっそー。ま、いいか。シンハ様だもんな。


それより、僕は馬車の魔改造に取り組む。

まずは車輪。

さっそく、分厚くスライムゴム引きしたワイバーン革を、表面に3重巻にして打ち付ける。

それから揺れ軽減と重量軽減の魔法陣を描いた魔石を、本体底部に仕込む。

座席はクッションを改良。スプリング入りにして、かつアラクネ綿も入れ、アラクネ布で作ったゴブラン布張りとする。ふっかふかー。

壁紙は全面張り替え。貴族は絹張りらしいが、僕は手持ちの紋織のアラクネ布を貼った。

天井には魔石入の照明。さらに、空間魔法で中を広げ、前方にはお茶の支度ができる程度の空間を。そして御者席と行き来できる扉も付ける。


後方には、かなり広い部屋を作る。その部屋に行くために、ソファの一部を補助席のように折りたたむと、扉が現れるように細工した。後ろの部屋は、全面毛足の長いカーペット張り。床に座ることも想定している。優雅に食事ができるように、大きめのテーブルと、簡易ベッドにもなる大きめソファ。そして豪華なシャンデリア。

これら家具や照明、カーペットなどは、例のダンジョン「誰もいない屋敷」の残骸から再生したもの。もちろん、呪われているなんてこともなく、なにもかも新品だし、聖属性さえ帯びている美麗なるものですよ。

ついたてとカーテンの向こうにもう一部屋つくり、トイレとバスタブ。そう。馬車の中で快適に生活できます。

この部屋に窓はさすがにない。そこで、前の席から見える景色が、後ろの部屋の窓でも見えるよう、幻影魔法をかけた。これは古代魔法書にあった、「目の前にない風景を写す魔法」を応用したものだ。これで、密室の圧迫感が軽減されるだろう。

換気については部屋の天井に換気口を作り、その奥に亜空間を作ってゆっくり吸い込ませるようにした。新鮮な空気は、扉の隙間から自動的に少しずつ取り入れられる仕組み。


「こんなもんかな。シンハ、乗り心地、どう?」

『いいぞ。これに乗ったら、他の馬車に乗りたくないだろうな。』

「えへ。そうかな。シルルー。シルルも乗ってみてー。」

「はあい!…わあ!しゅごいでしゅ!ごしゅじんしゃまは、すごいまじゅちゅしなんでしゅねえ。」

「あはは。ありがと、ありがと。」

素直に喜ぼう。

ついでに料理するシルルと僕のために、簡易キッチンも付けた。なはは。


それにしても、シルルは10才の姿なのに、言葉はいまだに4、5才くらいの幼児語だ。

どうしてだろうとシンハに聞いたら、料理や買い物をするのに必要だから10才の姿でいるが、4、5才の姿の頃が一番楽しかったのかもしれぬ、とのこと。

なるほど。アルマちゃんとの思い出を大切にしているのかもしれないな。


さて、馬車改造に満足し、遅い昼ご飯を食べ終えて一服していると、来客があった。

なんと、コーネリア様だ。執事長と一緒に訪ねてきた。

「お呼びくだされば、伺いましたのに。」

「いや、急に来てすまぬ。というか、ユーゲント辺境伯領行きの件じゃ。承諾してくれたと聞いてな。取るものも取りあえず、来てしまったのじゃ。」

とコートも脱がないままで、そう言うと

「ほんにすまぬ!」

といきなり90度のお辞儀をされた。

「な!頭をお上げください。とにかく、こちらへどうぞ。」


暖炉にすでに火が入っている居間にお通しする。

そこでコートを脱いでもらい、暖炉前のソファを勧めた。

シルルがタイミングよくお茶を入れて持って来てくれる。

執事長にも座ってもらい、お二人にお茶を勧め、ほっと一息すると、コーネリア様が話し始めた。

「ユーゲント辺境伯は、レジの従兄弟での。私とも知己の仲。辺境伯同士、いわば盟友みたいなものなのじゃ。今回の大寒波で、一番被害を被っておるのはユーゲント卿よ。人でなしの帝国が、民の流出を止められぬ。その難民たちは、暖かで穏やかなユーゲント卿の領地になだれ込んできておる。」

「…」


「民が増えるのは、悪いことではない。だが、あまりに急での。今、そなたも知っておろうが、我が領でもユーゲント辺境伯領の難民を多く引き取っているところじゃ。

国王陛下も、王妃が帝国出身ゆえ、なんとか戦を回避出来ぬかと模索しておるが…。春になれば、本当に戦になるやもしれぬ。」

「それで防壁を、強化したいということなのですね。」

「うむ。領都の防壁はなんとかなりそうだが、国境にある防壁は、修理が後回しになりがちで、痛みが目立つそうじゃ。それの修理に、魔力量の多い冒険者を紹介してもらえないかと泣きつかれての。」

「…」


「幾人か候補はいたのだ。冒険者ギルドのケリス殿とか、カーク殿とか。だが生産職ではないゆえ、壁が造れるかは不明。

そなたの…孤児院でのことは、ちょっと耳にはしておったゆえ、おそらくそなたなら、できそうだとは思ってはいたが…まさか護衛も断るとは。

どうする?今からでも、カークあたりをつけようか。それとも、Aランクくらいの冒険者パーティーを、護衛にするかえ?」

「いえ。護衛は不要です。」

「しかし。」

「コーネリア様。コーネリア様ですから、本当のことをお話しします。実は護衛は邪魔なのです。」

「…」


「ご存じのように、僕もシンハも、ちょっと特殊です。僕の場合、どうやら普通の魔術師と比べて、相当に魔力量が多いようですし、半分エルフの血ゆえなのか、あるいは世界樹の加護のおかげか、暑さ寒さにはめっぽう強いのです。はっきり言って、真冬に雪の中、薄着でも寒くないのです。変でしょ?」

「…いや、我も心当たりがあるゆえ。」

「なるほど。あるいはそうかなとは思っていましたけど。…とにかく、もし普通に護衛をお願いしたら、きっとその方が凍死しないか、心配しながらの旅になりそうなので。それに、僕もいろいろ他人に知られたくないことも多いので。それでお断りしたのです。」

「そうであったか。」


「あ、そうだ。さっき、馬車の改造も終わったところです。ちょっと乗ってみませんか?」

と僕はいたずらっぽく笑った。

「僕とシンハだけなら、『走って』行くこともできるんですけど、今回はシルルも連れて行くことにしたので、馬車を調達して改造してみました!ちょっと自慢させてください。」

と言って、コーネリア様たちを馬車へ案内した。



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