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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第四章 大寒波の冬編
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246 むかしのはなし

閑話、です。

冬のある日。

僕は暖炉の前でシンハをブラッシングしていた。


シンハの話では、セシルさんはさる貴族の妾(第二夫人でもなかった)の子。子供の時はそれなりにいい暮らしもしていたようだが、母親が死んで、さる大貴族の小姓という名の性奴隷にされそうになり、あわてて逃げ出したそうだ。

それから教会に助けを求めたが、そこでもエロ神父に酷い目にあわされ、また逃げて。

綺麗な顔だったので、食うに困ってやむなく男娼になり、そこで貴族家に出入りする有名な吟遊詩人に会ったらしい。吟遊詩人は、娼館の客として来たのではなく、ある大きな宴会に呼ばれたのだった。

セシルが余興で楽器を演奏し歌っていたのを見て、弟子にならないかと言われた。

すでに娼館への借金も払い終わっていたので、それからはしばらく、師匠の身の回りのお世話をしながら、吟遊詩人の弟子をした。

旅先で師匠が決闘で死に、あとは一人で旅暮らしをしていたそうだ。


シンハと出会ったのは、一人で旅暮らしをして2年くらいたった頃。

街道沿いの森の入り口で盗賊に会い、瀕死の重傷を負ったところをシンハに助けられた。

それからはシンハと別れがたく、そのまま一緒に旅することに。


ただ、今より従魔の扱いは酷くて、一緒に泊まれる宿は少なかった。そのため、街に入る時にシンハだけ森に放されることもたびたびあったそうだ。離れがたくて、セシルは野宿をすることも多かったそうだ。

春夏秋はまだいいが、冬がつらかったようだ。野宿ではシンハに暖められてようやく生きていた時もあったそうだ。


それでも吟遊詩人としては腕がいいほうで、愛想もいいので馴染の貴族もそれなりにいた。

師匠とまわった顔なじみの貴族家に、冬中お世話になったことも。シンハが一緒でもいいと言ってもらえる家もあったが、犬は駄目と言われて、シンハだけ近くの森で冬を越したこともあるそうだ。

路銀が無くなりかけた時は、シンハが数当てや文字当てをして稼いだこともあるそうだ。

念話はほとんど出来なかったが、なんとなく意思の疎通は出来ていた。

シンハがどうしてもセシルに伝えたい時は、シンハが文字板を並べたり、文字表を指し示して、示したこともあるらしい。


最期は知っている。

出入りの貴族の気まぐれで、戦争に連れて行かれ、最期は負け戦。激戦の中、シンハもセシルを守って果敢に戦ったが、ちょっと目を離した隙にセシルは敵の馬に蹴られて死んだ。享年32才。

亡骸は戦場に放置されるのが嫌で、シンハが近くの森まで運ぶと、たまたま通りかかった近くの村の女性が哀れんで、夫を呼んでくれて、丁寧に弔ってくれたそうだ。

セシルが身につけていた、出自を表す唯一の、母の形見のペンダントは、そのお礼にその人たちにあげたそうだ。


セシルさんと旅をしたのは、もう、80年以上も前のことらしい。

そうした話を、2年近く一緒に過ごすうちに、シンハはぽつりぽつりと、僕に話してくれた。要約すると、およそそういうことらしい。

2年近くもかかった。

それだけ、セシルさんとの思い出が重たかったのだろう。

今では多少懐かしく語ることもあるけれど。


賢者レスリーさんの時はもう少し気楽だったようだ。

最初からシンハをフェンリルと知って、一緒に来ないか?と誘ったらしい。

相当な魔術師だとわかったし、もらった魔力も美味しかったので、気まぐれでついていったそうだ。


エルフのレスリーさんは森で暮らし、魔法や妖精、神獣についても研究していた。

だから蔵書も膨大で、それを亜空間収納に入れていたそうだ。

ただ、レスリーは料理はへたくそ。味音痴ではないが、研究心が旺盛すぎて、とんでもない料理も出されたらしい。

その時は、食べずに鼻で押しやっていたとか。

冒険者もやっていて、魔法での戦いを見せてくれたという。


親友が剣聖でウルという。

ウルは時折レスリーとダンジョンに潜る。

そんな時は、ウルがよくシンハ相手に剣術の稽古をしていた。

レスリーも、ウルの剣術に興味を持ち、基礎から体系的に学んで、本にまとめようとしていた。

そういう理由で、シンハはウル流にとても詳しい。

僕もウル流の剣術をシンハからたたき込まれた。


セシルはほとんど魔力が無くて、生活魔法に毛が生えたくらいしか使えなかった。

だがレスリーは桁違いだ。

知識量も全く違う。

シンハは古代魔法語を、レスリーの傍でなんとなく覚えたらしい。


レスリーさんの最期は知っている。

夢で見た。

レスリーはセシルと違って大往生だったし、出会ったときからもう相当な高齢だったから、シンハも覚悟はできていた。

だから、彼の死を看取って森に戻ったが、寂しくはあったけれど、セシルの時ほど悲しくはなかったそうだ。レスリーはエルフ(おそらくハイエルフ)だから、死ぬと遺骸も残らず、精霊になる。つぶつぶの、妖精の子供として、生まれ直すのだ。

レスリーさんと旅をしたのは、50年くらい前らしい。


セシルさんとは眷属の契約はしなかった。そんな契約を知らなかったし、知っていても、セシルの魔力量が少なくて、とてもできなかっただろうという。だから、セシルには「ルーク」という名で呼ばれていたけれど、ただ「相棒」として傍に居ただけだった。


レスリーとも正式な契約はしなかった。眷属の契約ではなく、「対等な友として傍にいる」という準契約的なものをしただけだそうだ。

そのため、正式な名付けはされておらず、「呼び名」として、シンハはレスリーに「白」とか「白いの」と呼ばれていた。名前を付けるように促したが、レスリーは自分の命がそう長くないことを悟っていたために、あえて名前を付けなかったようだ。情が移りすぎるとお互い別れがつらくなるから、だそうだ。

ただ、レスリーの魔力が多いせいか、二人の間で念話は自在に出来た。


レスリーを看取った後は、シンハは「はじまりの森」に戻った。そして気まぐれに、森で迷った旅人を森の入り口まで案内してやったり、ゴブリンから女性冒険者を守ってやったりしながら、森で魔獣退治をして暮らしていたらしい。

妖精たちからも頼られ、強い魔獣を退治してやったりしているうちに、母と同じく森の王と呼ばれるようになった。だが別に偉くなったとも思わなかったと言っていた。

気まぐれに森の見回りをしていて、浅いところで冒険者に矢を射かけられたりもした。だから、あまり人と関わりたくはなかったようだ。

僕が空から降ってくるまでは。


シンハいわく、僕といるのは面白いらしい。

魔力は美味いし、始めて見る料理も美味い。

そして僕は非常識でとんでもないことを3日に2度くらいはやらかすので、見守っていないと危なっかしいという。(そうかなあ。3日に2度はないよう。せいぜい…1週間に…2回、くらい?)

見たこともない魔法を使うし、想像以上の魔法を作り出してしまう、らしい。

僕としては一生懸命考えて、その時々に応じた魔法を作ったり使ったりしているだけなのだけど。

そもそも、魔法を作り出すことが特異なことらしい。


料理もそう上手なわけではない、と思う。凝った料理をしている自覚もない。前世の食事を思い出して、食べたいなあと思ったものを、こんな感じだったっけ、なんて思いながら作っているだけだ。もちろん、この世界の食材に合わせてアレンジはしているけれど。


とにかく、一緒に居て面白いようだから、それは良しとしよう。

僕を成長させることが世界樹から託された仕事みたいに考えていて、僕とは運命の出会い、みたいなものらしい。

セシルさんやレスリーさんとはまた違った意味で、僕の傍に居てくれているようだ。危なっかしい僕を守るためには、強い契約をしないと心配だったようで、結局「眷属」という一番強い契約をしてくれた。

セシルさんの時のように僕を「失いたくない」、という思いが強かったからだ。


シンハの毛を専用のブラシでとかしてやると、気持ちよさそうにしている。

今も僕の膝に顎を乗せて、半分寝ながらブラシがけされている。

シンハの毛は飛ばない。抜けた途端に霧散してしまう。掃除は楽でいい。本当はシンハの毛でクッションを作ってみたかったのだけれど。


「レスリーさんとかセシルさんにも、こうしてブラシがけしてもらってたの?」

と聞くと

『レスリーにはほとんどしてもらったことはないな。クリーンはそれなりにかけてくれたが。セシルは気が向くとやってくれた。』

「ふうん。」


こうして過去のアルジたちをなんとなく話題に出来るようになったのは、つい最近のことだ。僕もレスリーさんの最期を夢に見たり、シンハが少しずつ二人のことを話してくれたことで、ようやく普通の会話に織り交ぜることが自然にできるようになった。


「おかゆいところはありませんか?王様」

と聞くと

『うむ。次は腹だ。』

とごろりと腹を出す。

「はい、王様。…まったく。僕はすっかりシンハのエサ係、ブラシ係だよねー。」

と言うと

『お前ももふもふは好きだというではないか。』

と開き直る。

「まあ、そうだけど。」

と言って、尻尾もふっさふさにブラシする。

冬の一日。

暖炉の前のソファで、シンハの毛の手入れをしながら、僕ももふもふを十二分に堪能した。


むかしのはなし、でした。

次はまたぞろ新しい冒険、のようです。


いつも、いいね!や評価、ありがとうございます!

楽しんでいただけたら幸いです。

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