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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第四章 大寒波の冬編
241/529

241 30日の海猫亭、の続き

そうこうしているうちに、キャイキャイ!と聞いたことのある声が。

「あ、テオ!ミケーネ!」

「ばう!」

シンハの声に、ミケーネがすぐに反応した。

「キャイ!」

タタタと走ってミケーネがシンハの前にやってきて、喉をゴロゴロ鳴らしつつお辞儀する。

シンハも鼻キッスだ。

まったく。仲良しだねえ。

「やあ。サキ。久しぶり。」

にこっと笑う笑顔がまぶしい。

わあ、ほんっとテオさん、いつも紳士でさわやかー。ホレてまう。


「どうも。潜ってました?」

「いや、昨日帰ってきたんだ。護衛の仕事でね。」

「あー、なるほど。」

テオさんはダンジョンより護衛仕事が多い。品が良いし腕も確かなので、商人や貴族にも、人気者なのだ。

「うん?あったかいな。」

「結界。」

「あー、やはり君のせいか。」

「えへへ。シンハがこっちでないと嫌だっていうから。」

「そうだな。ミケーネもテラスがいいからな。寒いだろうと思って、今日は早く帰ろうと思ったが。これなら長居できそうだ。」

「僕は8時くらいまで、かな。シルル置いてきちゃっているから。」

「そうだな。小さい子はさすがにな。」

「うん。一応誘ったんだけど、酔っ払いばかりだろうからって。意外にサバサバ見送られたよ。」

「はは。しっかり者だものね。シルルちゃんは。」

「うん。我が家で一番しっかり者かも。時々食器は壊すけどね。」


それからは、パーティーの食べ物をつまみながら、テオさんとしばらくおしゃべり。

「サキは護衛の仕事はしないのかい?」

「まだしたことはないですね。未成年だから、テオさんみたいにご指名とか無いですから。」

「今度一緒に受けてみるかい?」

「そうですね。機会があれば。経験しておきたいかな。」

「今は寒いから、春になったら誘ってみよう。」

「お願いシマス。先輩。」

テオさんとなら安心だ。

「テオさんは寒いのに護衛の仕事、受けたんですね。」

「ああ。知り合いからの依頼でね。義理というやつさ。王都までだったから、受けたんだけど。途中の吹雪はさすがに参った。」

「今年は異常ですからね。」

「ああ。」


「王都は、どうでした?」

「相変わらず、かな。」

「行ったことないんで。」

「ああ、そうか。…そうだなあ。人が多くて一見華やかだけど…ちょっと裏道に入ると、貧富の差が激しくてね。あと、ここより下水が臭った。」

僕が清掃していたのを知っているんだな。

「じゃあ、僕が王都に行ったら、まずドブ浚いで稼ごうかなあ。」

「王様から指名が来るかも知れないよ。」

「いやですよう。」

「ふふ…。ああ、それから、この冬は寒いから、毛皮が大流行でね。特に魔兎は貴族のご婦人方にひっぱりだこらしいよ。僕もちょっと聞いていたから、実家に少し持っていったんだ。おかげで親や妹とかにすっごく喜ばれたよ。」

「へえ。なるほど。そういう時って、もとの毛皮で持っていくんですか?それとも加工したストールとか襟巻とか?」


「今回は…実は護衛したのがヴィルドの商人…ライム商館長でね。」

「!ライム商館長!?レジさん!?」

「うん。魔兎で作った製品を持っていたから、持っていた毛皮と物々交換で、ストールを譲ってもらったんだ。きみも知り合いだってね。」

「はい!最近知り合いになりまして。そっかあ。レジさんね。」

「うん。本当は君にも護衛を頼みたかったって言ってたよ。だけどずっとダンジョンに潜っているからダメだったって。」

「あー、うん。そうなんです。ちょっと長く潜っていたんで。」

潜っていて良かったかも。いや、テオさんとは行きたかったなあ。

「テオさんとなら、行きたかったです。王都。」

「ありがとう。ライム商館長、すごーく残念がってたよ。」

と意味深な目でにやにやしながらそう言われた。

「あー。悪いひとじゃないんですけどねえ。ちょっと苦手かなあ。あはは。」

「まあ、個性的だからね。でも、商人としてはかなりやり手だね。」

「でしょうね。護衛はテオさんとミケーネだけ?」

「フリーはね。あとは商館専属の護衛6名だった。」

「結構大きなキャラバンだったんですか?」

「まあ、ライム商館は、毛皮だけではなく、魔石や宝石も扱うからね。馬車3台だったけど、護衛は少ない方だよ。商館長自身も相当の腕前だからね。」

「そうなんですか!?」

あの体格だから、少しはやりそうだとは思ったけど。


「1度だけ他領地を抜ける時に、盗賊に襲われたんだが、ほとんど彼一人で退治してたね。」

おっとー、すげえな。

「凄いですね。商人さんって、そういう人が多いんですか?」

「いや、あそこまでできる人はいないな。僕が雇われた理由が、元騎士だったからで、道中毎日、商館長の剣のお相手をさせられたよ。どうもそれが目的だったみたいで。」

「…。ご苦労様でした。」

「本当に。今度は君が居てくれることを願うよ。」

「あははー。僕には剣のお相手は無理ですけどね。」

「またそんなご謙遜を。僕が知る限り、君はなかなかの腕前ですよ。」

「そ、そうですか?うれしいなあ。はは。」

実はさらに腕前を磨いていたんですけどね。

でも、いくらデュラハン師匠に「免許皆伝」と言われても、驕るつもりはない。師匠に一度も勝てていないし。

どうも初護衛はレジさんのキャラバンになりそうだなあ。


テオさんと思いのほかいろいろな話で盛り上がっていたら、隊長さんも顔を出して。でもなにかマーサさんに差し入れして、すぐに帰って行った。お金かな?部下達がいっぱい来ているから。でも奥様が気になるんだろうな。たしか、まもなく臨月だ。


それから、なんと枢機卿が顔をだした。

「レビさん!来ると思った!」

「よう!レビ爺さん!やっぱり来たな!」

とあちこちから声が掛かる。

え、常連さん!?

「今日は一人かい?あんまり飲み歩いていると、「お孫さん」に嫌われるよ!」

とマーサさんに言われている。

ということは、よく此処にアルテアさんと現れるということか。

「ほっほっほ。まあ、そう言わず、一杯飲ませておくれ。せっかくの休日なんじゃからのう。…おお!これはこれは!」

うっく。見つかってしまった。

まっすぐこっちに来る。

「「聖者さま」ではありませぬか!その節はどーも。」

と僕にふかぶかとお辞儀する。

な、なんと言うことを口走るのですか!?

「え?ああ、いえいえ。こちらこそ。」

と言って。僕も立ち上がり、ふかぶかとお辞儀を返した。


「せいじゃぁ?こいつはサキだよ。冒険者のタマゴ。聖者じゃないよ。ひっく。」

と酔ったノブおじさんが言った。

ノブおじさんというのは、斧使いの冒険者だ。

「おう、そうか、そうじゃったかの。」

とすっとぼけた返事。

「爺さん、もうどっかで引っかけてきたな。足元がふらついてるぜ。」

「ほっほっほ。」

まったく。お茶目というかやんちゃというか。

「もう。やだなあレビさん。僕が聖者だったら、レビおじいさんは枢機卿様ですよ。あはは。」

「そ、そうなるかのう。ほっほっ…。」

僕の逆襲に、さすがにぎくりとしたようだ。

周囲の人たちが、クスクス笑っている。知っている人もそりゃ居るよな。レビさんの正体を。

「(あんまり飲むと、アルテアさんに言いつけますよ。)」

と小声で忠告。

「(うっく。それは勘弁してくれ。ようやっと抜け出して来たんだから。)」

たぶん、元旦のミサの準備とかで教会は今一番忙しいところだろうに。

「(だったら、聖者よばわりは絶対やめてくださいね。僕は教会に縛られるつもりはないですから。)」

こほん。

「(わかりました。残念ですが。)」


そんな感じで、あっという間に8時。

シンハもいろいろ食べて満足したようで、僕の足に顎を乗せて寝たふり。

ミケーネもテオに撫でてもらってゴロゴロと喉を鳴らしている。

「じゃあ、僕、そろそろ。」

「ああ。シルルちゃんによろしく。」

「はーい。どうぞよいお年を。」

「そちらこそ。」

キャイキャイ!


座ってお客に肩を揉ませているマーサさんにも挨拶して、僕とシンハはおやすみなさいを言って海猫亭を出た。


家に帰ると、もうシルルは寝ていた。

今夜は僕が作ったミートパイとポトフを食べたみたい。

妖精だから、食べなくとも平気ではあるが。

ごめんね。いつも留守番ばっかりで。

明日は一緒にギルド長のお宅に行こうね。


座ってお客に肩揉ませてる飲み屋のママさん。居そうですよね。

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