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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第四章 大寒波の冬編
240/529

240 ヴィルドでの初めての年末

初めての年末年始。

今年の12月は31日まで。年によって、30日だったり、32日だったりする場合もあるらしい。


12月29日。

サリエル先生の治癒院で、今年最後のお手伝いをしていたら、夕方、奥様のサーシャさんが顔を出した。

「あら、サキ君。久しぶりね。」

「あ、お久しぶりです!」

うん?

なんか、サーシャさん、すっごく生き生きしている、というか…幸せオーラが僕には見える。

なんだろう。光の幼体が、サーシャさんの周りできゃぴきゃぴしているんだ。特に、お腹周り…。

!もしかして!

僕はこの現象を町中で見たことがある。

妊婦さんだ。


「あの…間違ったらごめんなさい。…もしかして…おめでた?」

「!やだぁ!どうしてわかったの?お腹だってまだぜんぜん大きくないのに!もう!やだぁ!」

ばしん!と叩かれた。

「いて。わ、わあ。おめでとうございますう!」

「うふ。数日前にわかったばっかりなの。うふふ。」

「じゃあ、3ヶ月、ですか。」

「そうなの。でもどうしてわかったの?あ、あのひとがバラしたのね。やだわぁ!」

ばしん!

お願い。叩かないで。


「俺は何も言ってないぞ。サキ。どうしてわかった?」

サリエル先生が診察室から顔を出して、不思議そうに言った。

「あら。あなたが言ったんじゃないの?じゃあどうして?」

「えと…。光の子たちが、サーシャさんのまわりでうれしそうにぴかぴかして跳ねてるんで。あ、僕、ちょっと妖精とか見える不思議ちゃんなんで。」

と言ってみた。自分で「不思議ちゃん」って、言いながら、確かにそうだと今更ながらに自覚した。


「まあ!そうなのね!妖精が見えるなんて、素敵だわあ。」

「ふむ。妊婦はお前にはいつもそう見えるのか?」

「はい。まあ、大抵は。」

子供を授かったことを、妊婦が喜んでいれば、だが。

「ふむ。俺はこの子の父親なんだが、キラついてはいないのか?」

「あー、父親がそう見えたことは、ない、かな。一緒に歩いていれば、ある程度一緒にキラキラ見えたかも知れないけど。」

「今は?隣にいるが?」

「うーん…。キラついてはいないですね。」

正直に言うと、ふっとサーシャさんの顔が曇る。もしや妊娠を先生は内心喜んでいないのでは、と思ったのか?

「あ、ただ、幸せオーラは強くなりましたね。」

と僕は慌てて付け加えた。サーシャさんの顔がまたふわっとうれしそうになった。

「ほう。そういうのも見えるのか。不思議だな。なあそれ、論文にしないか。」

「しません。」

「即答かよ。」

「学者じゃないんで。」

「惜しいな。」

「じゃあ、お先に失礼します。おめでとうございます!どうぞよいお年を。」

「ああ。どうもな。よいお年を。」

「ありがとう。サキ君。よいお年を。」

今3ヶ月だから…来年の初夏に生まれるのか。なんだか僕までうれしくなった。



30日。マーサさんの宿でパーティー。

31日でないのは、大晦日は家族と過ごすべき、というマーサさんの考えによるらしい。

いつも大晦日の前日にやると決めているそうだ。

夜6時の鐘がなったら、と聞いていたが、少し早めに行ったのにもうできあがっている奴もいて。結構顔見知りの冒険者もいる。というか、冒険者と守備隊ばっかじゃねえかよ。

入り口で、忙しい時に手伝いに来ているタニア姉さん(既婚者)に会費を払っていたら、

「ウイー!よう!サキじゃねえか!ルーキーのご登場だぜ!みんな、拍手―!」

「「おおー!」」

と煽るのは、他ならぬテッドさん。

「どーもどーも、サキでぇーす!…って、もう酔ってるの!?」

「さっき、ゲンさんがえらく強い酒を持ってきてね、それをがぶ飲みしちゃって。」

とマーサさんがいっぱいのご馳走を運びながら教えてくれた。

ゲンさんはもちろん鍛冶屋のゲン爺さんだ。…あ、居た!


「よう。サキ!」

「師匠!ども。なんか、強いお酒、持って来たとかって。」

「ああ。秘蔵の酒なんだが、こいつ(テッド)め、エールみてえに飲みやがった。」

「あららー。ご愁傷様。」

「まったくよう。」

「シンハさまも、ごきげんようー。ヒック。」

とテッドさん。

『俺は外にいる!酒臭くてかなわん!』

と自分からテラス行きを希望。なのでゲンさんに挨拶して僕もテラスへ行くことにした。

今日は大勢らしくて、テラスにストーブを出していた。

「じゃあ、僕たちは外にいますねー。」

と通りすがりのマーサさんにも声がけする。

「寒いだろうに。大丈夫?悪いね。これ、持ってお行きな。」

と温石やら毛布やら持たされた。


テラスは、ストーブを焚き一応テラスまわりを囲ったりして、風は防いでいるようだが、さすがに外だから寒い。

僕たち以外にも寒さ知らずの冒険者数名がテラス席に居た。さすがだね。

こういう時こそ結界の出番。暖房と風よけの魔法陣を描いた結界石を適当に置いて。

「結界張ってあったかくしますねー。」

「結界?おお、サキよう。そんな芸当もできるのかい?お、すげえな。本当に寒くねえ。」

と外テーブルの冒険者たちに驚かれた。

料理とジュースを運んでくれたマーサさんが、

「あら、本当だ。寒くないわ。でも魔力、すっごく使うんでしょ。無理しちゃだめよ。」

と言ってくれた。

「石に込めただけだから大丈夫。明日の朝には勝手に切れるやつなので。」

「そうなのかい。ありがとね。」

と言って、シンハちゃんにも、と焼いた肉をたっぷりくれた。


「もう飲めねえ、いや、まだ飲むぞう。むにゃ。」

ふらふらとやってきたテッドさんは、僕の前に座ると、そう言った。このまま寝そうだ。

「テッドさん、ほら、これ飲んで。」

僕は無理にも丸薬を口に入れさせる。

「む、薬なんか!くすり…うめえなこれ。」

「飲んだこと、あるでしょ。酔い覚ましだよ。はい。お水。」

「ん。ありがとな。サキは、いいヨメになるぞう。」

「はいはい。」

「………。はっ!此処は!?俺はナニを。」

「酔っ払いだったんだよ。目が覚めた?」

「うう。今何時だ?ナニ?まだ6時過ぎじゃねえか!なんで俺、そんなに酔ったんだ?」

「なんでもすごく強いお酒を飲んだらしいよ。」

「あー。思い出した!ゲンさんが持って来た、「ドワーフの火酒」を飲んだんだ。喉が焼けるかと思ったぜ。」

「さっきの薬にヒールの成分もあるから。喉も大丈夫だと思うよ。」

メルティア入りだからね。

「よし!完全復活だ!違うの飲んでくる!ありがとな!」

「!あーあ。行っちゃった。」

『まったくあやつは。困った奴だな。だからいつまでも独身なんだ。』

「本気で探したら、すぐお嫁さんみつかりそうだけどね。」

『当分無理そうだな。』

シンハはマーサさんが持って来てくれた特製焼き肉を食べながら言った。


マーサさんのあったかいポトフ(んー、家庭の味!)を食べていると

「あ!サキだ!こんちくしょうめ!」

「うん?」

今やってきた冒険者に、いきなり罵られた。

顔をあげて声のした方を見ると、魔術師のノイエノールト・ブリュッケンという、エルフの魔術師さんだった。たしかBランク冒険者だ。

エルフにしてはちょっと低めの背丈。髪はブロンドで目は茶色。エルフが皆高身長という訳ではないそうで、集落によっても違うらしい。

のっしのっしとやってきて、腕組みしながらぷりぷりしている。


「こんばんは。ノイエさん。どうしたの?」

「どうもこうもない!氷魔法使いは、みんなお前のせいで疲れてるのを知らないのか。」

「…ちょっと長くダンジョンに潜っていたから。どういう事です?」

「はー。あのな、お前、いろいろ特許登録しただろ?料理の。」

「はい。」

「その中に、あいすなんちゃらとぷりんなるものがあるな。」

「あー。はい。」

なんとなくわかったぞ。

「それが今のヴィルドじゃ大人気なんだよ!シロタエギクのオーダーが増えたのはまだいい。「冷やし庫」が馬鹿売れなんだ。そのせいで、魔石に氷魔法を込めろってオーダーが殺到して、おれっちはずーっとギルドにカンヅメで作らされたんだぞ!」


言わずと知れた「冷やし庫」は、こちらの世界の冷蔵庫。氷属性の魔石で冷やす。魔石の強さで冷凍室も作れる。最初から氷属性の魔石を使えば良いのだが、氷属性の魔石は貴重なため高価。そのため、スライムの無属性や水属性の魔石に氷魔法を込め、人工的に氷魔石を作る方式が一般的である。

「あららー。それは…すみませんでした。」


すると、傍にやってきたノイエさんの仲間のルト・コジモさんという斥候さんが、

「いや、サキ、お前が謝るこたあねえ。こいつ、俺たちに長らく借金しててよ、ちっとも返さねえから、氷魔石でも作って返せってことになって、俺たちがギルドに頼んでそうしてもらったんだ。サキのせいじゃねえ。」

なんだよ自業自得じゃないか。

「るせーよ。俺だって早く返そうと努力はしたんだぜ。けどよう。なにかと物入りだったんだよう…。」

急にトーンダウンした。


「ふざけんじゃねえ!花街の女にいれこんで、サイフをいっつも空にしてんのを、俺たちが知らねえと思ってんのかよ。サキに謝れ!このすかんぴんのゆるゆる野郎が!」

うわ、酷い言われよう。

「うう。わ、悪かったよ。」

「すまんな。きつーく言っとくから。」

「はあ。」

「いててて!」

嵐のようにノイエさんの耳を引っ張って奥のテーブルへと去って行った。

『ふっ。災難だったな。』

とシンハ。涼しい顔で言われてもねえ。

それにしても、冬だというのに「冷やし庫」が売れるなんて。

ヴィルドも豊かになったものだ。



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