233 眷属はヨメ候補ではない!
フューリは目を輝かし、頬を染めつつも頬に手を当て、体をくねくねと…照れてるんだよな。子供だけど。
「え、ちょ、ちょっと待って。風の女王。私よ。わかる?水の女王よ。」
メーリアが慌てて名乗り、傍に飛んでいく。
「おお!そなたか!久しいのう。息災であったかや?」
「ええ、ええ。私はぴんぴんよ。ところで。サキの眷属はフューリ…貴女の娘だけじゃないの。『私も!』眷属なのよ!」
「なに?水の精の頭たるそなたまで、眷属とな。これは面妖な。」
「めんようもさんようもないの。とにかく、フューリがサキのお嫁さんなら、その前に私が第一夫人、ですからね!」
ええー!?お願い、勝手に決めないで。
「あ、でもたしか、サキには人間の娘でユリアとかいう子もいたわよね。
あと、ヴィルドに行ったことのあるハカセや妖精たちの話からすると、コーネリア、だっけ?「ちょっと不思議な」辺境伯も、サキがお気に入りだっていうじゃないの。
サキ。どうするの?私はいいわよ別に。第二夫人でも第三夫人でも。ユリアはいい子みたいだし、たぶんコーネリアも良い子なんでしょ?妖精たちが悪くないというんだから。」
「ちょ、ちょっと待って。えーとー」
一瞬ココロが真っ白になる。だが、さすがにすぐに我にかえった。無理矢理、冷静になる。すぐに状況判断できるのは、これもスキルだろう。
「あー、こほん。メーリア。僕がらみの話は、今は置いといて…まずは、女王陛下の『呪い』を解きたいと思うのですが。」
「そなた、よく『見えた』のう。この黒い靄が。さすがよの。」
「はい。その靄が、女王陛下の魔力を、絶えず吸っているようです。体が四六時中だるいのではありませんか?」
「うむ。その通りじゃ。もう諦めていたが。治せそうかえ?」
「やってみます。メーリア、シンハ。手伝って。メーリアには清らかな水の魔力を。シンハには聖属性の魔力を、僕に分けてもらいたい。」
僕はメーリアとシンハに助力をお願いした。一人でできなくはないだろうが、このあと僕はほかにも魔力を大量に使う予定があるからだ。
「わかったわ。協力するわ。古い友人を助けたいもの。」
『我も承知した。』
「おお、もしやフェンリル殿かっ!これは…かたじけない。二人とも、よろしく頼む。」
「あたちは?あたちはなにをしゅれば?」
とフューリ。いや、君から魔力を貰う訳にはいかないでしょ治ったばっかりなんだから。
「お母上が落ち着いていてくださるよう、手を握って励ましてあげて欲しいな。」
「わかったわ!」
「メーリアとシンハは僕に触れて。…あ、メーリア、肩がいいかな。」
ぎゅむっとされそうになって、先に肩にと提案した。(そうでないと、また腕をがっちり捕まれそうだった。ふう。)
僕は世界樹の葉を先に挟んだ杖を取りだした。そして杖を真横に構える。左側にはメーリア、右にはシンハが僕の傍でお座り姿勢で、左の前足を僕の足の上にちょんと乗せた。そうしてメーリアとシンハと、一つの結界の中で魔力を繋ぐ。
「じゃあ、行くよ。イ・ハロヌ・セクエトー…世界樹よ。我らの魔力をもって、風の女王の呪いを解呪せよ!」
杖も僕もシンハもメーリアも、きらきらんと輝き、そのきらきらの粉がそのまま女王と、ついでにフューリにも降りかかる。すると黒い靄は一瞬身もだえ、僕に向かおうとしたが、メーリアが水の女王らしく
「ウォーターアロウ!」
と唱え、水の矢で撃退。靄が怯んだ隙に
「浄化!」
僕が強くそう祈ると、靄は蒸発するように消え去った。
女王はきらきらと輝き、ゆったりと陶酔するように体を揺らした。
「おかあしゃま!」
「ああ、娘よ。大丈夫じゃ。」
「終わりました。成功です。」
「体が軽い。もう飛べる!昔のように!」
そう言うと、女王は寝床から抜けだし、そこら中を飛び回った。
ひとしきり飛び回ると僕の目の前に来て停止。
「サキ殿。」
「は、はい!」
えと。顔、近いんですがっ。
今にもキスしそうな至近距離!
「礼を言う。心より礼を申す。」
花の香りの微風が、僕を包む。ふわああ。やばい、これ、絶対『魅了』魔法だって!
「は、はい!いえ、どういたしましてっ!」
僕はあわてて3歩下がる。
「あん!おかあしゃま!サキしゃまを誘惑しないで!」
「どうして?私もサキの眷属にしていただきたい。娘より、力は上ですよ。お役に立てましょう!」
「いえいえ、ぼ、僕には過ぎたお申し出。もったいないお言葉です!」
「んん!女王陛下。サキ殿がお困りです。」
宰相さんナイス!
「で、では、僕は外に居ます。まだやることがあるので!フューリ、しばらくお母様のお相手を。シンハ、メーリア、行こう!」
「あん待って!」
「おかあしゃまっ!」
フューリが、母をがしっとつかまえて、ようやく僕たちは逃げるように洞窟から出た。
「ふう。驚いた。」
外に出てみると、先ほどまでとは打って変わって、風は止んでいた。
だが、どんよりとした雲が広がっている。
風がなくなってみると、地面のあちこちから瘴気がもやもやと立ち上がっているのがわかった。
なるほど。強風が吹いていたのは、荒れ狂っていたからもあるだろうが、この瘴気を祓おうとしていたのもあるのだろうな。
僕は、世界樹の葉を挟んだ杖を横に構え、そして唱える。
「イ・ハロヌ・セクエトー…浄化の雨よ、降りたまえ。そして瘴気を、消したまえ。イ・ハロヌ・セクエトー…レイラ・レイルーヤ・トリクムーン。シェイラ・シェイルーナ・トリクムーン…」
サァァァァ…と音を立てて、やわらかな雨が降り出し、大地をぬらした。
すると、立ち昇っていた瘴気は消えはじめた。
浄化の雨「聖雨」は、やがてザァァァァ…という音に変わり、かなりの土砂降りとなった。
あちこちに水たまりが出来、それが集まってやがて川となるほどだった。
地中に溜まっていた瘴気も、ようやく浄化し消え始めたようだった。
ほどなく雨は小降りになり、雲間から太陽が顔を出す。
西には見事な夕焼け。東の方には大きな虹まで見えた。
大地のあちこちでは、ぽつぽつと新芽が出始めた。
もう、黒い靄も見当たらない。
聖雨に濡れた小さな若葉が、きらめいて美しい。
「綺麗だわ!ここもいずれ、緑を取り戻すのね。」
「うん。そうなるといいなと思って。祈った。」
「きっと大丈夫よ。」
「うん。僕もそう思う。」
フューリはしばらく女王のところに泊まることになった。
親子水入らずでおしゃべりをするそうだ。
女王の黒い靄は祓えたけれど、あまりにも魔力を失っていたので、僕の魔力団子とエリクサーをあげた。
宰相にもエリクサーを。
これは妖精にも効くと、アカシックさんから教えられている。
「サキ様の魔力、なんと美味なのでしょう!やはり私もぜひ眷属に!」
「おかあしゃまはだめ!風の代表はあたち!」
とフューリが慌てて止める。
「娘よ、独り占めはずるいぞよ。このようないい男子、皆で共有せねば!メーリアもそう思うであろ?」
「あら、その意見には賛成できませんわ。なにしろサキ様の眷属には女王格が私だけではなく、魔蜂のビーネ様やアラクネのツェル様もおりますし、ほかにもたくさんお持ちですし。」
「あー、すみません、僕、これ以上眷属を増やすつもりはないので。ごめんなさい。」
と言っていると
『人気者だな。サキ。人族以外もターゲットか。』
とシンハがにやにや。
「(もう。余裕ぶっこいてないで、助けてよ。)」
『ふふふ。…風の女王よ。まずは落ち着け。宰相も困っているぞ。』
たしかに風の宰相は困っている。というか、なんで僕をジト目でにらむのさ。あ、もしかして、宰相、女王様に「ほの字」ですか!?
「こほん。女王陛下。私より、貴女にふさわしい方は、もっと身近におられるようです。今少し冷静に周囲をご覧くださいますよう。」
と言ってちらりと宰相を見る。
「わ、私は、そのようなヨコシマな考えはっ!」
と宰相が慌てる。
「僕は何も言っていませんが?」
「ごほ、ごほ。」
「フューリ、しばらくお母様と親子水入らずで過ごすといい。帰りたくなったら、僕に連絡を。僕の魔力に呼び戻すから。」
「はい!おかあしゃまを説得しましゅ!」
「こほん。(ぜひよろしくね。)」
と小声で伝える。
さらに念話で
「(宰相が女王陛下に想いを寄せているみたいだから、じょうずに確認して。もしそうなら後押ししてみて。)」
と告げた。
「(!わかりまちた!)」
これは私の使命よ!と言わんばかりに目を輝かせている。ま、これで大丈夫だろう。
では僕たちはこれで、と風の女王の住まいを辞する。
もっと居て欲しそうにしている女王だが、さすがに宰相のことに多少は気づいたようで、
「そ、そうかえ。サキ殿。今日は誠に大義でありんした。心から感謝いたしまする。追ってお礼の品々を、届けさせましょう。」
「どうぞお構いなく。フューリ、じゃあ、あとはよろしくね。」
「はい!」
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