231 風の宰相との戦い
明けましておめでとうございます。
今年もぽちぽち書いて行きます。
よろしくお願いいたします。
「わからずやの宰相だな。戦いに来た訳じゃないのに…。宰相だなどと言っているが、誰があんたをそう認めたのだ?とても女王が認めたとは思えない!」
「無礼な!粉々に砕いてやる!さあ、杖を構えろっ!いくぞ!」
喧嘩っ早い奴だな。
おそらく、周囲の瘴気が影響しているのだろうけれど。
「皆、僕の中へ避難!」
『馬鹿言え。お前にかばわれるつもりはないぞっ!』
とシンハ。
「私たちも戦います!」
「もちろん、あたちだって!」
メーリアもフューリもそう言って魔力に戻るのを拒んだ。
「ほう。いいだろう。何人でも同じこと。さあ、かかってくるがいい!」
「もう。みんなも血気盛んだなあ。判った。好きにしていいよ。行くぞ!」
「「はい!」」
『おう!』
まずはメーリアが水を出す。それをフューリが竜巻で巻き上げ、それを宰相に向けて放った。
「水龍!」
「風渦!」
ほうほう。はじめてとは思えない連携プレーだ。
巨大な水の渦が、そのまま宰相に打ちつける。
だがそれを正面から受け止め、はねのけた宰相もたいしたものだ。
「ほう。なかなかやるな。だが私を倒すにはいささか大味だな。」
にたりと笑って宰相は、
「お返しだ!」
とばかりに、
「風神裂刃!」
と鋭い刃を放ってきた。
それもかなり強力なものを多数!
「危ない!」
僕は我々を守る結界を10枚に増やした。
カキンカキンカキン!ビシッ!ビシビシッ!
3枚は貫通された。
『ほう。なかなかだな。次は俺の番だ!サキは手を出すなよ!!』
と言うとシンハは、ガオーン!!と威圧が籠もった雄叫びをあげ、風を纏って宰相めがけて飛び掛かった。
「おっと。」
すぐに宰相は人の姿を解除して風となり、そのまま無数の刃となってシンハに襲いかかった。
「シンハ!」
『大丈夫だっ!』
僕が手を出すより先に、シンハは自身を光と風の防御結界で包んだ。ガシンガシン!と刃がぶちあたったが、シンハを傷つけることはなかった。
いつのまにあんな技を覚えたんだ?
「シンハすごい!結界できるんだ。」
『お前のを見ていたからな。今、できるようになった!』
「って今ですかっ!すごっ!」
即席だったみたいだ。
にしてもすごいな。
『空を飛んでる時の盾と同じだからな!』
戦いながら解説までしてくれた。
シンハは風刃の攻撃の隙間を縫って宰相に飛び掛からんと何度もジャンプする。
「ガウッ!ガウガウ!」
威圧をかけながら、人化した宰相に噛みつかんと襲いかかった。
だが宰相はさっと人化を解いてただの風となり、また人化しては風となりを繰り返して、シンハの攻撃を避けた。
シンハは合間にかまいたちも出すが、やはり相手が風の上位精霊ゆえ上手く当たらない。
「しつこい獣だ!それっ!」
宰相は手をシンハにかざし、
「裂刃!!」
ゴオオオ!!
と最大級の嵐をその手から繰り出し、シンハに向けて放った。
さすがのシンハも、すさまじい突風に目を背けながら、かろうじて攻撃をかわし、それ以上の攻撃を断念した。
『むう。手強い奴め。』
物理攻撃が効きにくい相手だから仕方がない。
「ふん。味方の戦いぶりに見とれていていいのか?それそれ。次は貴様がターゲットだ!」
そう叫ぶと、宰相は今度は僕自身に刃を繰り出してきた。
ガシンガシン!僕も結界を強化して防ぐ。
「芸がないぞ。もう技は終わりか?わっぱ。どうせ人間の魔力では、ものの数分と持ちこたえられまい!どうする?ふははははは!」
ガシンガシン!とわざと当たってくる。
そのたびに僕は後ろにずるっずるっとあとずさりさせられた。
「仕方ない。どうなっても知らないぞ!」
僕は杖に魔力を込める!
左手で結界を張り続けながら、右手で杖を持ち、呪文を唱える。
「イ・ハロヌ・ヤクートウ・レス・ウヌバージェス!」
目の前に望みどおりの魔法陣があらわれ、それが大きくなり、どんどん広がって、刃に化けた宰相を一気に包み込む。宰相はまた風に戻ろうとしたが上手くいかず、何故か人化する。
そして魔法陣はそのまま宰相を拘束する鎖となった。
「む!何をした!」
「何をって。教えてやらないしー!」
そう言うと、もがく宰相に
「サンダー!」
と上から雷を叩きつける。
「うぐっ!」
さすがに宰相は膝をつく。
「人化も解けぬ。なんだっこの鎖はっ!」
「そういう魔法陣だ。」
「くそっ人化させたのも罠かっ!」
「人聞きの悪いことをおっしゃる。貴方が僕を殺そうとしたからでしょ。」
そう言いながらも、さらにもうひとつ魔法陣を出す。
「イ・ハロヌ・レム・シャリフォーゼ・エ・トルメネーク!七色連鎖!」
「ううっ!」
僕はもうひとつの魔法陣で、さらに鎖を強化した。
そのため、宇宙独楽のように鎖が立体的に風の宰相をとりまき、ますます拘束ははずせなくなっている。
「ボルテック・ストーム!」
僕は雷魔法を、拘束した風の宰相ではなく、その周囲全体に落とした。
すると
「ぎゃぁぁぁぁ!」
と周囲にいた「何か」複数のものが悲鳴をあげた。
「やめっ!やめろっ!仲間に罪はない!」
「貴方に力を与えているのだから同罪です。」
ピカッ!バリバリバリッ!
僕はさらに宰相の周囲の風精霊たちに雷魔法を落とした。
「ギャァァァァ!」
「ヒィィィィ!」
「わ、判った!降参するっ!頼む!やめてくれっ!」
風の宰相が懇願した。
フューリも
「サキしゃま…。」
と僕の攻撃に驚き、おろおろしている。
「攻撃をやめて欲しかったら、僕たちへの敵対行為を止めてください。これでは話しができませんから。」
と僕は顔色を変えずに言う。
がくっと宰相が膝をつき、
「判った。お前の言うとおりにする。皆、風を止めよ。」
と周囲に命令すると、今までの嵐のような風が嘘のようにぴたりと止んだ。
「まったく。最初からそうしていただければ、こちらも荒事はしませんでしたのに。」
凪のように静かになった空気の中で、僕は杖を亜空間に仕舞ったが、それでも用心してバリアは解除しなかった。
宰相の拘束はもちろん解除していない。
「さて。宰相殿。お答えください。風の女王はいずこに?」
「…。」
なかなか答えようとしない宰相の前に、フューリが一歩出た。
「お願い。教えて。おかあしゃまに会いたい。会わせてくだしゃい!お願いしましゅ!」
フューリが懇願する。
「宰相殿。フューリは光の牢獄で何年も眠っていた。フューリの話によると、閉じ込めたのはある魔族の魔術師。それを風の女王が倒した。けれどフューリはその魔術師の呪いのために、光の牢獄から救出することはできず、あわれに思った女王が、フューリを眠らせた。幸いこうして牢獄から救出できたのだけど、女王の気配がどこにもない。どうかフューリを女王に会わせてやってほしい。ようやくここまで来たのです。」
「…まことにあの王女なのか…。」
「あたちはおかあしゃまに『小さくて元気な心臓』って呼ばれていたわ。あまりにおてんばだったから。」
「おお。思い出しました!確かに女王陛下は生まれて間もない姫様をそんな風に呼んでおられました。」
「思い出してくれたのね!」
「すみませぬ。貴女とそこな人の子を試したのです。本当に信じられるかどうかを。サキとやら。戒めを解いてくれ。女王のもとに案内する。」




