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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第三章 ヴィルドと森の生活編
230/530

230 風の原と風の宰相

今年最後の投稿です。

来年も続けて書いていきますので、引き続きよろしくお願いいたします。

どうぞ良いお年を。

二人の妖精たちが飛び去った方角へ急いで僕たちも進路をとる。

僕もシンハを手伝って、かなりスピードをあげたのだが、なかなか追いつけない。

ふと、フューリとメーリアの気配が、ある地点で停止したのを感じたので、急いでそこへ急行する。

二人の姿を夕暮れの闇の中で視界にとらえた時、僕はそこが森ではなく、荒野であることを知った。


「風の原?」

『ああ。だが以前とはかなり様子が違う。』

「昔は、たしか草原だって言ってたよね。」

『うむ。おだやかな風が通る、良い草原だった。』

「…。どう見ても荒野だ。」

『そうだな。』

それが何を意味するのか。嫌な予想しかできない。


荒野を飛ぶ風は、狂気を孕んでいて、尖っていて、何をどう言っても、禍々しい雰囲気だ。

ゴォォォ!!…とすさまじい音を立てて、風が渦を成して右へ左へ、上へ下へとがんがんに吹き荒れている。

僕とシンハはバリアを張っているので、風に翻弄されずに空中にいられたけれど。

話には聞いていたけれど、ただの荒野じゃない。

荒れ狂う風は、瘴気を孕んでいる。大地のあちこちから瘴気が湧き出しているのを感じる…。

「どうしてこうなった?」

『知らん。だが、知らねばなるまいな。』

「うん。そうだね。」


フューリはメーリアにすがって泣いていた。

「おかあしゃま!何処!返事して!」

そう叫んだが、ゴウゴウという狂ったような音ばかり。

「とにかく、降りよう。」

空中ではバリア無しでは一カ所に留まるのも難しい状況だ。

僕たちは一旦地上に降りた。

赤茶けた大地には草も生えていない。

おそらく、以前の穏やかな草原を知るフューリにはとてもショックだろう。


フューリたちと合流すると、風を遮れそうな大岩を見つけて避難した。

そうでもしないと、僕なんかはふっとばされそうだったから。

重力魔法とバリアを使っていたので、実際にはそうはならないが。

「どうしてこんな。こんなに荒れた土地になっちゃったの?あたちのせい?あたちが、あたちがっ!」

「フューリ。落ち着いて。」

暴走しそうになるフューリを抱き寄せてなだめる。

「サキしゃまぁ…。ううっ…。」


悪い魔術師にフューリが捕まり、母である風の女王がそいつを倒してフューリを救い出してくれた。けれど、「光の牢獄」は解除できず、不憫に思った母は、娘を眠らせた、と聞いた。

そのあとのことは、フューリは眠ってしまっていたから、何も知らず。僕が「光の牢獄」から彼女を救い出す時も、自然消滅の危険さえあった。


それからフクロウのハカセが言うには、此処を仕切っているのは風の女王ではなく、宰相だとか。

だが何故今は荒野なのかについては、誰も言及していない。

こんな荒れた大地になっている理由を、皆知らなかったということだろう。

「まずは風の宰相に会おう。此処を取り仕切っているはずだ。」

「そ、そうですね。ほら、フューリ。もう泣かないの。ね。」

「ううっ。」


すさまじい嵐のような風の中、僕は岩陰から気配を必死に探していた。

言わずと知れたこと。僕が探しているのは「宰相」と呼ばれる風の精霊の気配だ。

水の女王のメーリアやアラクネ女王のツェル様、魔蜂女王のビーネ様の気配を考えれば、いわゆる大物の気配というものはなんとなく察しがつく。そう思って、そういう気配はないかと探しているのだが…。風の精霊のせいか、なかなかつかみどころがない。

「フューリ。風の宰相は名前とか呼び名はあるの?」

「呼び名と言えるものは「宰相」しか。」

なるほど。誰かと契約をしていない限り、通り名となるが、宰相は宰相でしかないか。ならば。


僕はすっくと立ち上がると、杖を立てて踏ん張り、声に魔力と威圧をこめて、荒野に響くような声で叫んだ。イメージは拡声器。

「風の宰相!居るなら返事をしろ!居ないなら、此処は僕が支配するぞ!」

ちょっと強引だが、そうでもしないと出てきてくれなさそうだからな。

威圧をたっぷり周囲にかけながらそう言うと

『おうふ。サキ。お前にしては荒療治だな。』

とシンハ。

「こうでもしないと、風が止みそうにないからね。」

『まあ、一理あるな。』

僕はさらに威圧をかけて、もう一度同じセリフを言った。

僕の威圧は眷属たちにも多少は影響するようで、メーリアとフューリはシンハにきゅっとしがみついていた。


「サ、サキしゃまの威圧、きついですう。」

「んー。ちょっと辛抱してねー。」

僕はそう言いつつフューリたちのほうへは威圧が向かぬようにしながら、威圧は続けた。

案の定、風は次第に僕たちの周囲でおだやかになった。

小さな風の精霊たちは僕たちの傍に寄ることができなくなったからだ。

やがて、かなり風が収まってきた。かと思うと、ようやく殺気を帯びた大型の精霊の気配が猛スピードで近づいてくるのを感じた。


咄嗟に結界を三重に張る。

再びゴウゴウというすさまじい風が吹き荒れ、同時に我々のすぐ近くで轟くような声で言い放つ男の声がした。

「誰だ!我が庭で支配などと、勝手なことを言い散らす命知らずはっ!」

「宰相殿か?もしそうなら、姿を見せてもらいたい。まさか人の姿もとれぬほど位の低い風精霊ではないでしょう?」

「ふん!人間のこわっぱ風情が偉そうに。貴様に我の人化した姿など見せたくもないわ!」

「ほう。人化もできぬのに宰相とは片腹痛し。風の宰相はその程度と、言いふらしましょうかね。」

「言わせておけばぬけぬけと。良いだろう。見せてやる。我が威圧で気を失うでないぞ!」

という荒々しい声と共に、男の姿で宰相は現れた。人化した彼の周囲には、まだ荒れ狂った風がゴウゴウと息巻いていた。


確かに威圧はものすごい。だがそれを僕は防御バリアでプロテクトし、眷属たち(とりわけフューリ)に危害が及ばぬようにした。

「これはこれは。凛々しいお姿。どうかご無礼は平にご容赦願いたい。風の宰相殿。こうでもしないと、貴方は此処に現れぬと思ったゆえ。」

僕は丁寧に頭を下げて、無礼を詫びた。

「ふん。その威圧はなかなかのものだが、我が貴様のような未熟者と話すことなどない。去れ!」

「風の女王の娘、つまり王女を連れてきたと言っても、何も聞かずに追い返すつもりですか?」

「む。なんだと?風の、王女だとっ!」

さすがに反応したか。

「わっぱ。もし嘘であったなら、八つ裂きだぞ。」

「嘘かどうかご自分でお確かめを。フューリ。」

僕はフューリを呼んで、隣に立たせた。

フューリは緊張のせいか震えている。

「フューリ。落ち着いて。」

僕はフューリにヒールしてあげる。するとようやくフューリは落ち着いたようだ。

そしてりんとした声で言った。でもなあ。幼児語だからなあ。


「あたちは風の王女。今はこちらにおりゃれる主しゃまから、フューリという名をいただきまちた!宰相、わしゅれたの?あたちを知っているでしょ!」

「む。確かにまとっている魔力に覚えはある。だが王女は死んだはず。魔法をかけられて。それに…姿がちと小さいような…。そなたは何者だ?」

「だからー、あたちがその王女よ!悪い魔法使いに光の牢獄に閉じ込めりゃれていたの!それをサキしゃまに助けていただいたのよ。」

「サキ…とは、そこな人間の少年のことか?」

「そうよ!」


「宰相殿。風の女王のことを教えていただきたい。フューリの母上だ。会わせてやりたいのです!」

「ふむ。いいだろう。ただし条件がある。」

「条件?」

「お前はただの人間ではないようだ。我に勝てたら、教えてやろう。我を威圧などで呼び出した罰だ。さあ、魔術師なら、杖を構えよ!私と勝負せよ!」

「はぁ?戦えと?」

「そうだ!此処では力こそがすべて。私にものを尋ねるなら、それなりに力を示してもらおうか。できなければ立ち去れ。いや、此処で死ねっ!」


そう言って、殺気とともに風の刃を放ってきた。

もちろん、僕が結界を作っていることを承知でだ。

カキンカキン!と風の刃は結界にはじかれた。

宣戦布告ということか。



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