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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第一章 はじまりの森編
23/529

23 エルダートレント

ある朝。

ズウゥゥン…ズウゥゥゥン…。

微かな振動と、何かが動く音に、僕ははっとして反射的に飛び起きた。

「な、何!?」

何か森に居て、動き回っている?もちろん魔物が!

僕が飛び起きると、シンハも目を醒ましたが、こちらはふあーあ、とあくびをして、四肢をうーんと伸ばしてから余裕たっぷりに起き上がった。

『トレントだな。』

「え、トレント?木の魔物?」

『そうだ。』

シンハが前足で猫のように「顔を洗い」ながら念話で教えてくれた。

「これまで動き回るトレントにはほとんど会わなかったよね。」

魔物の位置を知る索敵くんで魔物の居場所はわかっても、すべてに出会っている訳ではない。枝は結構拾っていたけど。

『いちおうなるべく避けるようにしていたからな。ただ数はそれなりに居る。あまり積極的に歩き回ったり、襲ったりはしないからな。今歩いている奴は…エルダートレントだな。結構でかい奴だろう。遠いのによく足音が響いている。』

「上位種?」

『そうだ。普通のトレントならこんなに振動までしない。響いてもせいぜい数百メルだろう。もっとも、このあたりは森の中心部だからな。魔物たちも強い。普通のトレントでも人間には脅威だろうな。』

「ふうん。」

トレントによる脅威ってなんだろう。

「攻撃は?根がトゲトゲになって刺してくるとか?」

『ああ。よく判ったな。その通りだ。トレントは普段は穏やかだしあまり動き回らんが、ひとたび敵認定されてしまうと、とことん攻撃的になる。枝葉による攻撃は当然だが、足元にも気を配らないとやられる。特に人間はどんくさいからな。あっという間に串刺しだ。』

「へえ。恐いんだ。」

『俺は恐くないがな。』

「まあ、シンハだからね。」

僕だったらどうだろう。どんなふうに戦えるのだろう。

「ね、ちょっと見学に行きたいんだけど。」

『ふん…。まあいいだろう。ただし、気づかれないようにしろよ。お前はまだどんくさいからな。』

「う。判ってるよ。襲われないように、遠くから見るよ。」

僕たちはそんな会話をしてさっそくエルダートレント見学に出かけた。


索敵くんによれば、確かに結構洞窟からは遠い。約5キロメートルいや、5キロメルも先だ。僕の索敵くんは、順調に育ち、今ではやろうと思えば10キロメル先の魔獣も感知できる。

確かに、10キロまで広げて、トレント種を索敵すると、結構な数がヒットした。エルダーが20本、普通のトレントが…100本近くはいる。

大きくなったシンハにまたがって、すいすいと木々の間を抜けていくと、さっきのドゥゥン、ドゥゥンと言う足音だけでなく、枝葉が鳴るザザザという音や、周囲の普通の樹木を倒すバキバキバキ!メリメリドスン!というような音まで聞こえてきた。

「おぅ。結構我が道を行くんだねえ。エルダートレント。周囲を薙ぎ倒して大移動かぁ。」

『エルダートレントはあまり動かんのが普通なんだがな。縄張り争いでもあったのだろうか。』

「あ、いた。」

ようやく姿が見える場所までやってきた。

木々の間から見えたのは、想像どおりのトレントの姿…よりは確かに巨木だった。

何百年も生きてきたような樫の大木で、樹肌はぼこぼこしてなんだか禍々しい。顔がその大木の中央よりやや上部についていて、意外に鼻が高い。目も口もついていたが、目は木のウロに見えなくもない。つまり真っ暗闇の目だ。やけに恐いぞ。

そのエルダーがちょうど普通のトレントの近くを通った。

無謀にも、普通トレントは自分の縄張りを犯して近づいてきたエルダートレントに、果敢にも立ち向かうことにしたようだ。

よいしょっという掛け声でも聞こえそうなほどに、普通トレントは根を足のように使って立ち上がり、移動をはじめた。といっても、めっちゃ遅いが。

そして、相変わらず平気で近づいてくるエルダートレントに向かって、ようやく少し速度をあげて近づき、まずは話し合いをせんとしたようだ。

エルダーは少しも立ち止まらず、ドウゥゥゥン、ドウゥゥゥン…と足音もさせながらトレントに近づいていった。

そして、ついにエルダートレントと普通のトレントが相対するはずの場所まで接近した。どんな話し合いがもたれるのだろうと、内心僕はわくわくしながら見守っていた。

が。

エルダートレントはまったく止まらず、普通トレントに向かって歩いて行き、そして普通トレントをそのままただ邪魔だとばかりに根や枝を槍のようにとがらせて攻撃しつつ、押し倒したのである。

普通トレントの樹皮にある顔が、驚きの表情をしたかと思うと、ピー、というか、ギャーというか、そういう悲鳴のようなものが聞こえ、あとはメキメキ、バリバリ!と木がへし折れる音。

「あ?」

『やはりな。』

あっけにとられた僕に対し、シンハは普通トレントが善戦むなしく玉砕するのを予測していたようだ。

『ある意味自業自得だな。エルダートレントに歯向かおうとしたことは驚嘆に値するが、ああなってしまうのはまあ、自明の理。ただの「無謀」の結果、だな。』

まったく身も蓋もない。

「もうちょっとさあ、同情してあげようよ。あれは酷すぎるよ。会話成立以前に、力押しで相手もう踏んづけられて瀕死じゃん。ていうか、もう生きてないんじゃない?可哀相に。」

『まあ、お前もああならんように気をつけ…おい、こっち見てるぞ。やばい!気づかれた!』

「え?」

エルダートレントが、僕たちに向かって、わっさと枝を揺らした。すると、爆弾のようにヒューヒュー風を切って、木の実を撃ちだしてきた。

「おわっ!まじっ!あたったら即死。」

とバスケットボールくらいの大きさの木の実(?)を撃ちだしてきたものだから、着弾するとドダダダダ!ドスンバリン!ドスンヒュードスンメキメキ!とすさまじい音だ。

「ひええ!」

僕は咄嗟に大木の後ろに隠れつつ、魔法で僕とシンハの周囲に結界を5重に生み出し、防御に徹した。

結界は2枚こわされ、3重が残った。なんとか直撃は避けることができた。

防御結界が成功しなかったら、今頃、盾にした大木に押しつぶされたか、木の実爆弾の直撃でミンチだろう。

「うわ。第一波、なんとかやり過ごした。」

『油断するな!本体がくるぞっ!』

ドスン!ドスン!と大地を揺らしながら、エルダートレントが僕たちめがけてやってくる。

シンハが咄嗟に適度に大きくなると僕の襟首を銜えてほおりあげ、背に乗せた。そしてエルダーの後ろ側へと回り込むように走った。

エルダーはゆったりと回転し顔を僕たちの方向へ向けようとしている。しかしさらにシンハが回り込んだ。それに追いつかんと同じく右廻りにもたもたとエルダーもまわる。

「いいぞ。そのまま回り込め。」

しかしエルダーはかしこかった。スピードでは追いつかないと判ると、急に回転をやめ、また木の実爆弾を準備しはじめた。しかも僕たちが廻りこむであろう場所へ予測して撃ちだそうとしている。

「木の実爆弾だ!結界張るよ!」

『気をつけろ!』

ドゥ!バキバキ!メリメリ!

広範囲に木の実爆弾が落ちてくる。

僕たちはその第2波もなんとかよけきる。

『ちっ。やっかいな。』

「だいじょぶ。僕たちのほうがかしこいよ。あいつを凍らせよう。」

『む。できるか?』

「やってみる。」

僕はエルダーが第3波の木の実爆弾を撃ちだす前に、

「メガフリーズ!!」

とありったけの魔力をこめてフリーズを撃ちだした。

エルダーはちょうど爆弾を撃ちださんと、枝をしならせ、幹をのけぞらせたところ。

そこへ僕の強さマックスのフリーズ魔法が襲ったからたまらない。しなった枝ごと、のけぞった幹ごと、エルダーは凍った。

「ピィィィィ!」

もちろん、爆弾発射には至らなかった。

『おお。サキもやるではないか。』

「えへん。どう?芸術的でしょ?」

確かに枝も幹ものけぞったまま凍ったエルダートレントの姿は、まるでCの文字のような、三日月のような格好で固まっている。しかも真っ白な霜に覆われた樹皮や、枝から伸びた氷柱が陽光にきらきらして美しかった。

「とどめ、必要だよね。」

『できるか?』

「なんとか。顔狙い?」

僕は太い竹槍を亜空間から取り出した。

『ああ。急所は顔だ。』

「やってみる。…せーのっ!」

残り少ない魔力で竹槍を強化し、自分自身も強化して竹槍を思いっきりエルダーの顔に向かって投げた。

竹槍は見事にコントロールされ、超回転しつつ、奴の右目のウロへと吸い込まれ…そして「ギャァァァァァ!」

とウロの中を響くような声をあげた。

エルダーの生命が絶たれた証拠に、光の粒がたちのぼる。あれは生き物の魂が昇天する時に起きる現象だと、シンハから聞いていたので、僕がちゃんととどめをさせたことが判った。

『ご苦労。』

「ふう。ありがと。…でも、もうムリ。眠い。寝る。シンハ。悪いけど、このまま寝床まで連れてって。」

僕はそういうと、あとは気絶するようにシンハの背中で眠りに落ちた。急激な魔力消耗と急激なレベルアップに、脳も体もついて行けないのだろう。

『あ、おい。サキ!…ったく。困った奴だ。』

というシンハの声を子守歌のように聞いたような。

だがあとはもう何も覚えていなかった。


凍らせたエルダートレントは翌日回収した。

氷も融けて、いい感じにまっすぐに戻っていた。材木として超高級品なんだそうだ。

でかい木の実はココナッツみたいな感じだがさらに大きい。食料だけでなく薬の材料にもなるそうだ。

いくつかは魔獣や動物たちにちゃっかり持っていかれていたが、それでもかなり回収できた。

「なんだかエルダーの木の実だけで何ヶ月も食料不足にならずにすみそうだね。」

『俺はいやだぞ。さすがに飽きる。木の実としてはまあうまいほうだがな。』

もちろん、食材のひとつとしてですよ。そればっかりじゃあ、僕も飽きます。

堅い殻を魔法で割ると、水気はなくてマカダミアナッツか栗みたいな味の実が現れる。試しに蒸してみると、今度はサツマイモのような甘みが出た。しかも香りは栗だ。いかにも高級そう。

『もぐ。ふむふむ。これはうまい。塩だけでもうまいな。』

これはなんとか蜂蜜か砂糖を手に入れて、いつかスイートポテトマロン・メイドフロム・エルダートレント、を作りたい。


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