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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第三章 ヴィルドと森の生活編
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229 ヘルホーン狩り

翌朝。少し早めに目が醒めた。

シンハは隣で眠っていたが、僕が目覚めたと知ると、ぐぐっと伸びをして、くわらっとあくびをした。

「おはよ。」

と声をかけると

『おはよう。』

と答えた。

僕は寝室の隣に作ったトイレで用を足す。

初期の頃にはトイレは開放的に外でやっていた。それはそれで気持ちいいのだが、安全を考えて、旅の時はテントの中に設置したトイレを使っている。

完全消滅のクリーン魔法が使えるようになっているし、特に今回は女性陣(妖精だけど)と一緒の旅なので、なおさらだ。

それから全身にクリーンをかけてハミガキも済ませると、外に出た。


空には雲がない。東の空がバラ色だ。

今日もいい天気だ。軽く伸びをする。

「うーん。おはよ。」

「おはよう、サキ。」

「おはようございましゅ。」

メーリアとフューリに挨拶すると、二人ともいい笑顔で返してくれた。

昨夜、シンハがメーリアもどうたらと言っていたっけ…。

たしかに、メーリアは美人さんですよ大人の色気があるしお胸も…。

こほん。

うん。何も考えないことにしよう!僕は未成年!

気分を切り替え、さっそく火を起こし、朝ごはん作りに専念する。



シンハがぺったり伏せの格好で座って、食事ができるのを待っている。

本人には言えないけど、それが可愛い。とても王様には見えない。くふふ。


今朝は野菜と魔兎肉のスープにする。魔兎肉は酒と塩コショウとほんの少しのニンニクで軽く炒め、野菜を投入。さらに軽く炒めたのち、メーリアに池の中央から汲んでもらった美味しい湧き水でコトコト煮込む。アクも適宜取って、さらに塩を加えて味を整えてから、最後に魔鶏の溶き卵を入れ、泳がしてできあがり。その合間にオーク肉のステーキを下味をつけて焼く。僕はそれと昨日摘んできたグリーンレタスとトマトを、軽くあっためたパンにバターを塗ってから乗せ、さらにチーズを乗せてあぶり溶かし、サンドする。メーリアとフューリには、肉は薄切りにして野菜多めの肉チーズサンド。

魔兎のスープと、あとはポムロルがいいというので出してあげた。


二人ともうさぎさんに切って、というので、そうする。

ついでに小さな一角もつけて、魔兎の完成。牙はないけど。

すると二人とも、魔兎だ、魔兎だわと、すごく喜んでいた。精神年齢、同じっぽい。

シンハ。どうみても、お嫁さんの話と繋がらないんだけど。


シンハにはオーク肉の分厚いステーキと、パンに野菜とチーズを一緒に挟んだものも一枚。魔兎のスープと僕の手から出したお水。ポムロルはいつものようにまるごと1個。

「なんか…サキといると、贅沢になっちゃうわ。」

「ほんとでしゅ。」

「え?そう?だいたいいつもの朝ごはんだよ。そんなに豪華じゃない。」

シンハ用に肉を焼くので、どうしても豪華に見えるのかもしれない。


「だって、美味しいお肉にたっぷり野菜、豊富な調味料、真っ白いパン、スープには魔鶏の卵!どこをとっても贅沢よ。」

「しかもスープに入っているお肉は魔兎で、チーズもあって、パンはふっくらでしゅもの。」

「そうそう。ふっくらの白いパンなんて、これまで食べたことなかった。」

「ヴィルドのパンは、ライ麦パンや全粒粉の小麦パンだからな。」

ライ麦のほうが多く栽培されているとか、小麦の精製度が低いとか、いろいろ理由は思い浮かぶ。僕としては、どれもそれぞれ美味いし栄養もあるから好きだ。なにより、余計な添加物がない!それが健康的。


「これは精製した小麦粉を使っているから白いんだ。ポムロルの酵母を使っているパンだけど、葡萄やヨーグルトでもふっくらパンはできるよ。でも僕は堅めのスコーンや、ライ麦パンのプンパニッケルも好きだけどね。」

「…???スコーン?プンパ?」

『ああ、気にするな。時々サキは奇妙なことを言うんだ。』

「え?僕、変なこと、言った?」

『ああ。少なくとも、スコーンとかプンパなんとかは、俺は知らん。』

「そう…か。ああそうだね。こっちでスコーンはまだ見かけないけど、プンパニッケルに近いのは…携帯用のライ麦パンだ。ただし、あれと違ってもっと軟らかいけどね。」

『あれか。俺は酸っぱいから嫌いだ。』

「うん。そうだったね。知ってる。でも、クリームチーズと一緒なら美味しいのに。お酒にも合うと思う。」

『ふん。酒は飲まん。お前も飲めぬだろうに。』

「まあね。まだ子供だからね。」

料理のことになると、どうしても僕は饒舌になる。


「あ、そうだ。今度スコーンを作るよ。スコーンはお菓子だよ。」

ベーキングパウダー無しで作るスコーンも、サクサクで美味いのだ。

「お菓子!?」

「ぜひ!?食べてみたいわあ。」

「うん。スコーンは甘さ控えめだけど、甘いクリームや蜂蜜、ジャムをつけると美味いんだ。」

「甘いのねっ甘いのね!?食べたい!」

「ふふ。判った。そのうちね。」

「絶対よ。絶対!」

「はいはい。」

やけに二人の女性に食いつかれた。


確かにこの世界は、まだ全体に甘味が足りない。

砂糖はまだ貴重品。干し柿とかハチミツが甘いものの代表なのだ。

いずれ砂糖を作って流通させる。

うん。そうしよう。


朝食を終えて、僕たちはまた空の旅を続ける。

『サキ、ヘルホーンがいる。狩るか?』

「そうだね。食べてみたい。」

『判った!美味く焼けよ。』

「了解!」

僕たちの狩りの基準は食べたいかどうかだ。


立派な角のヘルホーンが1頭、草原を走っていた。ヘルホーンは水牛やバッファローに似た魔獣だ。ハグレだろうか。かなり大きい。

『デカイな。回り込む。電撃で足止めしろ。俺が倒す。』

「了解。」

狩りのチーフはいつもシンハ。僕は指示どおり、弱い電撃で足止めする。

「サンダー!」

ビリビリッと上から雷撃を落とすと、たまらずヘルホーンはつんのめるように倒れた。

僕はすぐにシンハから離脱。

「ガウッ!」

とシンハが喉を狙って飛び掛かる。

ところがヘルホーン、なかなかの奴で、飛び掛かったシンハを寝っころがったまま前足で蹴ろうとした。

シンハはすぐに反応して空中でジャンプして避ける。

おや、今のは風魔法のフライの応用か。

むっくりとヘルホーンが起き上がり、ブルルッと頭を振る。

まだしびれてはいるようだが、なかなかタフだ。

ウウーッとシンハが威嚇。


ヘルホーンが前足で地面を数回蹴り、ブロロッと不機嫌な声を出す。

ほう。やる気満々じゃないか。

ブロォ!!と一声啼いて、ヘルホーンがシンハに突進してきた。

角で射殺そうというのか。森の王に向かって。すごいな。

ガウッ!

とシンハが本気で怒り、突っ込んでくるタイミングに合わせ、跳躍。ヘルホーンが飛び上がったシンハに狙いをつけて角を突き上げたが、シンハは空中で急に角度を変えてヘルホーンの首もとに乗った。そしてそのままガブリ!

嫌がるヘルホーンは必死に首を左右に振り、転げてシンハを下敷きにしようとする。

だがシンハは首を放さず、ぐるぐると一緒に廻りながら深く牙を立てる。

そのうち、ヘルホーンはぐったりし、起き上がろうとしたができなかった。

グルルルル!

ヘルホーンの太い首は、もう半分近く千切れていた。

噛み付きながら、風の刃を出したんだな。シンハ器用だな。すげえ。

ピクピクと断末魔の痙攣を起こしたあとは、もう二度と動かなかった。

鑑定さんは「ヘルホーンの死体」と出した。


「お疲れ。お見事。」

と僕はシンハをねぎらう。

ガウ!

と短く吠えて、シンハは口元の血をべろりと舐めとると、僕のほうに悠然と歩いてきた。まだ息が荒いし殺気だっている。

僕はわしゃわしゃと頭を撫で、クリーンし、手から水を出して飲ませた。

ようやく殺気が消えた。


旅程は順調で、早くも明日には「風の原」に到着できるだろう。

シンハが屠ったヘルホーンは、その夜のごちそうとなった。

大型の個体だったが、だからといって大味ということはない。むしろ、大きい方が美味しいことが多い。ワイバーンもそうだ。おそらく、魔力量も関係しているのだろう。

解体は亜空間収納内で行なったので、出した状態はロースのステーキ用肉の状態だ。

「ヘルホーンって美味しいんだね。臭みもないし。」

『うむ。森の西側にしかいないから、西へ旅する時のごちそうだ。中央部ではほとんど見かけない。』

「なるほど。それでこれまで食べたことがなかったんだ。それにしても、草食系だって言ってたけど、シンハに立ち向かってくるとは思わなかったな。」

『俺も驚いた。なかなか根性のある奴だったな。図体はデカイし、このあたりのボスだったのかもしれん。』

「普通はもっと小さいの?」

『そうだな。ホルストックぐらいだ。』

「なるほど。それなら確かに、かなり大きい個体だったね。普通に焼いてみたけど、どう?」

『うん。美味い。』

「そう。良かった。」

シンハと僕のいつもの会話。妖精たち二人は何も言わず、もくもくとステーキを食べている。


「二人ともどう?焼き加減とか。」

「美味しいわ。」

「うん。美味しい。」

「はじめて狩りの様子を見たけど、凄かった。」

「うん。しゅごかった!」

と言うので、

「僕は何もしてないし。シンハがね。やっぱり森の王者なんだよね。」

と持ち上げると、

『ふん。ワイバーンに比べたらたいしたことはない。』

とのお言葉。

『それに、黒龍戦を考えれば、全然たいしたことはないだろう。』

「あれは…別格だよ。もう一枚、焼く?」

『ああ。』

王様は4枚目をご所望だった。

4枚目をジュウジュウ焼いていた時だった。


ゴオオオオ…。


遠くから、邪気を帯びた風が突然吹いてきた。

「ん?」

「何?」

「まさか!」

「あっ、フューリ!」

フューリは突然血相変えて、風に変化すると、今吹いてきた方角へ、ビュンッと飛んでいってしまった。

「フューリ!待って!」

メーリアの制止も聞かず、フューリは行ってしまう。

「メーリア、先に追って!」

「わかったわ!」

「何がいるか判らないから、気をつけて!」

「了解!」

僕たちももたもたと、いやなるべく急いで火の始末や広げていたテントを収納すると、二人のあとを追って空へ飛び上がった。



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