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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第三章 ヴィルドと森の生活編
225/530

225 ヴィーゼルとの戦い 

「イ・ハロヌ・セクエトー!エクストラヒーーーーール!!!!!全部治りやがれ、コノヤロー!!!」

言葉では乱暴に叫んだが、ちゃんと心は冷静に、ひとつひとつの傷、骨折、血管の損傷その他諸々を意識し、きちんと「在るべき場所」「在るべき姿」へと、魔力全開で治癒していく。目や手指の欠損も、尻尾の欠損部位も、丁寧に祈り、治癒する。


僕の乱暴な言葉とは裏腹に、慈悲深い暖かい光が、彼女を包んだ。それは僕を通して、世界樹の力が振り注いだ瞬間だった。


最後に僕は、

「クリーン。」

と小さく唱えた。

「これでにおわないだろ?シンハ。」

『うむ。いい魔法だった。言葉は酷いがな。』

「あはは。効きめ絶大だったんだから、大目に見てよ。」


治癒された戦士は、呆然としていた。

なんだ今の暖かな光は…。まるで神様に包まれたような…。

「!手が!…尻尾が!」

誰かが叫んだ。顔の包帯を取ると、目ももちろん治っている。

「おお!神よ!世界樹様よ!」

「奇跡だ!ヴィーゼル様が、治った!」

「治った!」

「治った!」


僕は戦士がすっかり治癒できた姿に満足すると、くるりと踵を返した。

「マ、マテ!!」

「しっかり栄養をつけて、戦う準備ができたら、いつでもアラクネさんに言いなさい。このサキ・ユグディオが、相手してあげるから。」

と言い捨てて、洞窟を出た。


『なかなかカッコ良かったぞ。』

「ふん。僕だって、やるときはやるんだい。」

とシンハに答えると、ツェル様が笑った。

「本当に。カッコ良かったですわ。」

「うう。言わんといて。今になって恥ずかしくなってきた…。」

と顔を覆うと、ツェル様とシンハに笑われた。

『情けないヤツ。』

「う、うるさい。」


「サキ様、あれはどなたの事でしたの?王族に近い偉い方のことって。」

「ああ、ヴィルドの領主、辺境伯のことですよ。女性でね。…特殊な事情があって…。彼女の孤独は普通の人よりずっと深いのです。」

「まあ…。」

「でも、いつも領民の幸福を考えている。そして、いつも明るく振る舞っている。凄いひとなんです。」

「そうなのですね。いつか、お会いしてみたいわ。」

「いずれ。そのうちに。うん。アラクネ布のこともありますからね。」

「そうでしたね。楽しみにしておきますね。」

「はい。あ、僕が彼女のことを言っていたことは、ナイショですよ。」

「ふふ。わかりました。」


ツェル様に見送られて、短距離テレポートでシンハの洞窟まで戻る。

今日は少し、畑の手入れをしてから帰ろう。

いつも土妖精さんたちにばかりさせているから。


自分で言葉にしてみて、あらためて思った。

本当にコーネリア様は凄い人だなと。

エルガー執事長がいろいろ言っていたけれど、恋愛感情は別にしても、あの方と知り合いになれてよかったな、と思った。


おそらく、僕の家でやったような庶民的なパーティーに参加する機会など、これまで本当になかったんじゃないかな。

いつもいろいろとストレスの多い彼女が、僕の家でしこたま食べたり飲んだり、そして屈託なく笑ったりしていた。パーティーに呼んで良かったなとしみじみ思った。


「ふふ。」

薬草摘みをしながら、僕が思い出し笑いをしていると、

『なにをニヤついている。気味悪いぞ。』

と、暇潰しにメルティアをつまみ食いしているシンハに突っ込まれた。

「るさいな。僕だって、いろいろ考えることはあるの!」

『そうか。そろそろ帰るぞ。腹が空いた。』

「はいはい。まったく。神獣さまは呑気でいいねえ。」

『何か言ったか?』

「べつにー。」


僕達はいつものように、じゃれた会話をしながら、シンハと一緒にヴィルドの草原へとテレポートするのだった。


その2日後、ヴィーゼルから戦いを申し込まれた。


戦いと言っても殺し合いではなく、どちらかが武器を取り落とすか、戦闘不能もしくは降参を宣言すれば終了というやつだ。

どうやら、僕に敵対する気持ちはすでにないらしい。


アラクネさんたちの、ラーミルに対する態度を見て、味方と認識しただけでなく、そのアラクネさんたちが、僕を主人として慕っていることを知ったかららしい。


戦いの場では、半身蛇だったはずのヴィーゼルは、人化して現れた。人化すると、ちゃんと普通に足があった。


ルールは、魔法なし、弓なし、純粋に接近戦闘のみ。

ただし、お互い身体強化と防御魔法は使用可とした。そうでないと、大けがをするからね。

ヴィーゼルは槍と剣を使うというので、僕もそれに合わせた。


結論から言うと、僕が勝った。

ヴィーゼルは相当に腕力が強く、槍も剣も凄かったが、実は僕も、見た目より腕力があるのだ。そして僕のほうがすばしっこく、剣さばきも速かった。

何度もわざと打ち合い、彼女の腕と手指に疲労が蓄積したところを、武器を強打して取り落とさせた。彼女の腕はしびれて武器を再び持てず、かつ僕の剣の切っ先が彼女の喉元に当てられ、チェックメイト。

わずか10分足らずの戦いだった。


「どう?気が済んだ?」

と訊ねると、なんとヴィーゼルはその場に片膝をついた。


「サキ様は、世界樹の加護あつき方とお聞きしました。なのに、私は愚かにも死にたいとサキ様のお慈悲を乱暴な振る舞いを持って拒絶しました。それは万死に値するほどの、とんでもない罪だと、ようやくわかりました。サキ様。どうか私に罰をお与えください。」

「いや、罰を与えるつもりは…。」

「しかし!」

「うーん。わかった。たしかに、僕のエリクサーを吹っ飛ばして粉々にしたからね。それは明らかに罪だ。あれは貴重品だからな。」

「はい。」


「よし、じゃあこうしよう。10日間、アラクネさんのもとで、アラクネ布を作る仕事をすること。今人手不足なんだ。しっかり働いてね。」

「お言葉ですが。それは罰にはならないのでは。皆もその仕事に従事しております。」

「みんなにはお給金が出ていると聞いているよ。食べものや衣服、果物やお菓子。それから生活に必要なものなどを、仕事の対価として与えていると。

でも君の場合は罰としてだからね。食事はちゃんと出すけど、ほかはなし。それが罰だ。」

「…わかりました。…サキ様、あらためて誓います。ラーミルの戦士ヴィーゼルは、貴方様とアラクネ女王様に、忠誠を誓います。」

「うん。その誓い、しかと受け取った。」

「私も、受け取りましたわ。」

とそれまで僕とヴィーゼルのやりとりを見守っていたツェル様も、はっきり言った。

「今、ラーミルは戦士が不足している。罪を償い終えたら、また戦士としてみんなを守ってほしい。」

「御意!」



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