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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第三章 ヴィルドと森の生活編
215/529

215 エルガー執事長の訪問 エキスの価格訂正

翌日。


僕が地下で薬の調合をしていると、シルルが呼びに来た。

「ご主人しゃま。エルガー執事長しゃまがいらっしゃってましゅ。」

「ん?エルガーさん?わかった。すぐ行く。応接間にお通しして。」

「かしこまりましたあ。」


もしかして、魔獣の血がコーネリア様のお体に合わなかったのだろうか…。

そう思いながら急いで地上への階段を昇ろうとすると、シンハは庭でひなたぼっこをしていたはずだが、階段のあがりっぱなでちょんとお座りして待っていた。同席してくれるようだ。

「魔獣の血のことかな。それともアラクネ糸の契約のことかな。」

『さあな。わからん。』

そんなことを会話しながら、応接間へ。


「お待たせしました。」

「おはようございます。」

「どうぞおかけください。」

シルルがさっとお茶を持ってきてくれた。

僕の作ったクッキーなどをおすすめしつつ、お茶を飲む。

「あの…魔獣の「エキス」は、もう試飲されましたか?」

恐る恐る訊ねてみる。

「はい。昨夜さっそくに。」

「で、いかがでした?」

「それはもう、たいそうお喜びで。」

とにこやかに執事長は言った。

「お体に不調などは…。」

「いいえとんでもない!大変美味で、しかも体調もご気分もよいとのことでございました。」

「ああ、よかった!それを聞いてほっとしました。」

「大変ご満足されております。…実はその「エキス」のことなのですが…。」

と取り出されたのは一枚の羊皮紙。見ると「エキス」の値段表だ。

ん?

「あれ?お値段が。」

「はい。」

訂正されている。しかもかなり高く。


「実は主人が申しますには、極上のお味でしかも素晴らしい効能まであるというのに、こちらが提示した値段では、辺境伯としての取引値段とは言えぬ、納得いかぬと申されて。」

「はあ。」

「森の奥地で狩ったものであること、新鮮であること、しかもお体に良き効能まであること。そして…『世界樹のコクとうまみが加わっていること』。」

「!」

『!』

執事長の発言に、シンハまで緊張したことが伝わってきた。

「通常の「エキス」ではない、大変特別なものだとおっしゃられて、価格改定をご自身でなさったのがその表でございます。」

「…」


「私は普通の人間ですので、さすがにサキ様の「エキス」の特別な効能やお味の違いまではわからず、昨日は失礼な取引をしてしまいました。どうぞお許しくださいませ。」

と言って、立ち上がると深くお辞儀した。

「え?いや、そ、そんな。頭をお上げください。なにもエルガーさんは謝るようなことなどしておられませんよ。」

「いえ。サキ様が世界樹のご加護を受けておられることを感じ取れなかったのは私の未熟。神獣様とご契約していることからも、もっと早く気づくべきでした。主人に言われるまで気づかぬとは。辺境伯に仕える執事長として失格でございます。」

「そんな…。と、とにかく、おかけになってください。」


なんとかエルガーさんを椅子に座らせる。

執事長は話を続けた。

「主が申すには、世界樹のことはサキ様にとってはおそらく重要な機密事項。したがって、世界樹のうま味が秘められた「エキス」の取引については、他の方とはなさらぬのが肝要とのこと。国やら教会やらから目を付けられたくはないであろうから、と申しておりました。」

「確かに。確かにそうですね。あ、でもそうすると肉は?僕が…その…『マジックバッグ』で保管している魔獣の肉も取引ダメかな。」

亜空間収納したから世界樹のにおいとかがついちゃったとすれば、敏感な例えば獣人とかにストック分を売るのは危険だろうか。


「主人はこうも申しておりました。此度のことは、こと「エキス」に関してだったから気配が表れただけで、普通は気づかぬであろうと。肉も「魔素たっぷりのおいしい肉」で済むであろうと。「エキス」だから、そしてお相手がコーネリア様だったから気づかれた、ということでしょう。もちろん、シンハ様は別でしょうが。」

『うむ。俺は別だな。普通は気づくまい。言っただろう。人の匂いなどかすかだと。

獣人なら少しはサキの匂いや、お前が聖属性を帯びていることがわかるかもしれぬが、世界樹の加護持ちだとすぐにわかるとは思えない。経験豊富なコーネリアだからわかったのだろう。

それに、世界樹の加護は確かに珍しいが、皆無という訳ではないからな。教会にいけばそれなりに居る。』

「そうなの。はぁよかった。」

「?」

エルガーさんにはシンハの念話は聞こえないので、不思議そうな顔をした。


「ああ、シンハが、教会になら世界樹の加護持ちはそれなりに居るって。」

「そうですね…。確かにおられます。それに、聖属性をお持ちの方は、ある程度世界樹と関わりがあると言われます。加護までお持ちの方は少ないですが。皆無ではありません。」

それは人間族の場合、聖者と呼ばれるのだとはエルガーは言いづらかった。


「わかりました。とにかく、「エキス」の売買は当面コーネリア様のみといたしましょう。警告、ありがとうございましたとお伝えください。前もって教えてくださって、助かりました。教会あたりに薬の材料として売ろうと思っていたところでしたので。」

「薬に加工してしまえば、気づかぬだろうとも申しておられました。薬は聖属性を示すものが多いですから。」

「ああ、なるほど。そうですね。「エキス」を使った薬、いくつか作ろうと思っていたので。やってみます。」

増血剤とか、心臓病の薬とか。「エキス」で作れる薬がある(とアカシックさんが教えてくれた)。せっかくストックがあるのだから、自分でも活用したいと思っていた。


「それから、主は昨日サキ様からいただいたプレゼントを大変お気に召しまして、ぜひなにかお返しをしたいと申しております。ところがサキ様はなんでもご自身で作られてしまわれる。服もアクセサリーも薬さえも。

また宝物庫から選んでいただいてもいいがそれも芸が無い、とおっしゃられて。サキ様の望みを一つ、辺境伯として出来る範囲でかなえましょう、と申しております。」

「そんな。あれはお誕生日のプレゼント。お返しなど何も必要はございません。」

「まあそうおっしゃらず。一応、念書をお持ちしました。」


そう言ってさしだされたのは、コーネリア自筆サインのある書類で、僕の願いを1つ、自分の出来る範囲でかなえる、という内容。しかも有効期限は無期限。思いついたらこれをもってこい、ということだ。

羊皮紙のりっぱな巻紙を広げて読んで、僕はため息をついた。

「お心遣いはありがたいですが…。」

「まあ、ある種のお守りと思って、お持ちになってください。」

「ありがとうございます。…わかりました。ありがたく受け取りましたとお伝えください。」

と言って僕は丁寧にくるくる巻いて付属のリボンで縛ると、うやうやしく巻物に一礼してから亜空間収納に仕舞った。


「あ、お茶、醒めてしまいましたね。入れ直しましょう。」

「いえいえ。冷めても美味しゅうございますよ。」

「ではおかわりを。」

「ありがとうございます。」

僕はエルガー執事長に新しいお茶を入れてさしあげ、クッキーをすすめる。

僕自身もおかわりを飲む。うん、この茶葉、エッレさんにもらったやつ。美味いな。

「コホン。本当は、コーネリア様はサキ様がお望みなら、ご自身をサキ様に「貢いでもよい」と頬を赤らめて仰せで。」

「ぶふ!ごほっ、はあ!?」

本気で紅茶を吹くところだった。人間、驚くと本当にこうなるんだなあ。

「エ、エルガーさん。またそのようなご冗談を。ははは。」

「いいえ。これは冗談ではございません。コーネリア様は本気でサキ様にホレたようでございますな。」

「え、えぇー。そ、それは…あー、ありがとうございます?」

シンハが小声でグルグル笑ってる。こら笑うな、シンハ。


「なんならいっそのことご結婚あそばされて、ついでに辺境伯にサキ様ご自身がなってしまうというのもアリかと。」

「は!?…あははー…。」

このひと、執事長だよね。なんという大それたことを。にこやかな顔で。

僕はご冗談をと苦笑するしかない。

エルガー執事長はごく普通の会話のように、平然とお茶を飲んでいる。


「こほん。エルガーさん。僕への信頼度が高いということはよおくわかりました。ありがとうございます。大変光栄なことですが、どうかそのような冗談はもうおっしゃらないでください。辺境伯様の執事長様がそんな「重たい冗談」を言うと、こっちの心臓が止まってしまいます。」

「いいえ、サキ様。私はそれもアリだと本当に思っているのですよ。」

「!」

エルガー執事長の表情は本気だった。

笑い飛ばして終わりにしようと思ったのに。


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