21 弓矢の稽古、魔法修行
弓矢の訓練も本格的にはじめた。
これまでは槍での物理的攻撃や、石つぶてや火の玉などを使った魔法「バレット」、風魔法の「かまいたち」と「真空斬り」、雷魔法の「いかづち」など、強化した物理か魔法を試して使っていたけれど、通常は狩りの飛び道具といえばやはり弓矢だろう。
弓矢の必要性は最初から自覚していたので、物知りなシンハ師匠にアドバイスをもらいながら、なんとか弓と矢を作ることが出来た。弓矢の「仕上げ」は優秀な亜空間収納くんにお任せしたので、素朴な石矢でも狂いがない。
ちなみに狩りで一番よく使うのが、「ストーンバレット」。これはまさに石製の弾丸で、石弾を超回転させて発射しているのだが、石弾の後部に火薬を小爆発させるイメージで火魔法と風魔法も加味してある。つまり複合技の魔法で、これは複数の魔法を同時にバランス良く発生させないと失敗する。僕はほぼ最初から、無意識にそれら複数の属性系魔法を使って石弾を発射しているのだが、威力もコントロール力もかなり上がってきたので、今は魔法が使えなかった場合も想定して弓矢という古来からの飛び道具を訓練している。というか、バレット系での狩りに飽きてきたんだよね。打ち出して終わりだし。それに、傷口がとても小さくて、中から石つぶてがでてきたら、珍しがられる可能性もある。僕の攻撃方法が注目を集めるのは、あまりよくないと思うんだ。
あとは僕の得意技は氷弾と雷魔法ね。でも雷は威力が強すぎる。音も光もハデだし。
まだこの世界に降りたってひと月弱だけれど、前世とは比べものにならないくらい、腕っ節は強くなった。それでもシンハに勝てる腕力はないから、魔法以外は飛び道具がもっぱらの僕の得物だ。
というわけで、弓の名手ロビンフッドへの憧れもあって、地道に(?)弓矢の鍛錬に夢中。弓ってやっぱり難しい。だからこそ憧れる。
弓矢に慣れてきたら、僕は狩りで実践した。
最初は魔兎を逃してしまったけれど、慣れてくると、的が一つならかなりの確率で仕留められるようになった。
魔法でコントロールしての矢であれば百発百中。魔法なしでも9割5分はいける。
魔法なしの時には矢は必ず放物線を描いて飛ぶ。
それを感覚で覚えねばならないが、何故かこの体も目も高性能で、すぐに覚えられた。
そして魔法を使った時はかなりの遠距離まで基本的に一直線に飛ぶ。
重力無視、空気抵抗無視だからである。
追尾機能を魔法で付与すると、ありえない軌道で飛んでいき、確実に敵にあたった。
90度曲がるとか、ブーメランのように敵を通り過ぎてからぎゅんと回れ右して後ろから攻撃なんてこともできてしまう。しかも追尾魔法はミサイルを連想して作ったから、一度ロックオンして発射すれば、あとは矢に付した追尾魔法によって、矢が勝手に敵を仕留めてくれる。僕のコントロールなしで敵を屠ることができるから、発射後の僕は別の魔法や攻撃手段に専念できるのだ。
魔法ありも、魔法なしも、当然ながら木の枝の合間を狙うのが難しかったけれど、やがて矢の通る道が見えるようになり、はずさなくなった。
もはや「呼吸のように矢を放つ」くらいにはなれた。
これははっきりいって凄いと思う。達人レベルだろう。
でもこれもきっとチート能力だから、この世界の人たちにとっては、ずるだ。
それを判っているから、なおさら真面目に精進した。
特に、なんらかの理由で魔法が使えない場合でも、はずさないように。
追尾魔法は風魔法と索敵という無属性魔法の融合なのでありえるけれど、シンハの話ではエルフ以外で使用しているのはほとんど見た事がないそうだ。
それから強い魔獣は魔法防御や物理防御を持っていることがあるそうだ。
そうなると、いくら矢が的確に敵の急所を狙うコースに飛んだとしても、はじかれるおそれがある。
ただ、こちらのかけた魔法が上位でよく練られたものであれば、はじかれないらしい。
だから魔法の習熟も熱心にやった。
実際の呪文は知らなくとも、魔法に必要なのはよく練られた魔力と集中力、そしてイメージが大切だ。
そうしたことも考えながら、僕は真面目に訓練していた。
『お前はいざとなると、集中力は凄いな。まあ、いつもはネジがどこか緩んでいる感じなのにな。』
とシンハに褒められつつ貶された。ちぇ。
それから人間は魔法が下手で、体内にある魔力しか使おうとしていない、とシンハは言っていた。僕は最初から体内の魔力は起爆剤、周囲の魔素を活用、ということをしていた。シンハは人間に周囲の魔素を使うことを教えたこともあるそうだが、上手くいかなかったらしい。
『つまりお前は人間族というよりエルフ族に近い、ということだな。耳は短いが。』
とのこと。全体の容姿もエルフっぽいらしいので、そういうことなのだろう。
「じゃあ、エルフも普段は僕みたいに緩いの?ってそんなことはないか。はは…。」
やばいやばい。エルフに怒られちゃう。
『…自覚ありか。まったく。』
またシンハに笑われた。言わなきゃよかった。
シンハとの各種特訓のおかげで、今では(手加減してくれた)シンハと並走できるくらいに足も速くなったし、シンハの攻撃もうまくよけられるようになってきた。
自分でも成長が明らかなので、訓練も楽しい。
体力強化魔法とかクロックアップとかシールドとか、自分にかける魔法をいろいろ使っているうちに、複数の魔法を同時並行で行える「並列思考」スキルにも磨きがかかった。
不思議なのは、自分が初めて思いついて使う魔法でも、自然にその魔法の術名と詠唱が、古代魔法語で思い浮かぶことだ。魔法とはそういうものらしい。
『魔法とはそういうものだと、昔、魔術師が言っていた。それがこの世界の理だ。すでに存在している魔法だけではない。たとえもし本当にお前が最初に発明した魔法だったとしても、この世界を見守っている世界樹が、その魔法を認めた証として術名を与え、詠唱も認証する、と解釈されているそうだ。』
「なるほど。それで誰に習ったわけでなくとも、術名や詠唱つまり呪文が、思い浮かぶんだね。」
『そういうことだ。』
「ところで、その魔術師さん、すごい知恵者だと思うんだけど…名前を聞いてもいい?」
『言っていなかったか?レスリー・ハインツェッタという。エルフ族の学者でな、人族の間では賢者と呼ばれていたな。』
「げっ、シンハ、一緒に旅した魔術師さんって、賢者さんだったの!?」
『少しの間だけだ。』
「あー。ごめん。」
『何故謝る?』
「え、だって…。思い出したくないでしょう?悲しくなるもの。」
『いや。』
「え。」
『セシルと違って、天命だった。だから、「やっと死ねる」、と喜んでさえいた。』
「そう、なの?」
『ああ。俺に看取られて光栄だと言っていた。ただ…。』
「?」
『俺をひとり残すのが未練だと、言ってはいたがな。』
「…」
『賢者のくせに愚かな奴だ。フェンリルとは常に一匹だけの存在だというのに。』
僕は、シンハをなで続けている。
「僕にはわかるな。レスリーさんの気持ち。」
『…』
「だって、もし僕がその賢者さんと同じように、シンハを残して病気か天命かで先に死ぬとなったら、やっぱりそう思うもの。」
『…大丈夫だ。俺がお前を死なせない。今度は絶対にお前を守り抜くし、誰にも殺させやしない。』
「シンハ…」
『それに、お前は病気を自分で寄せつけないようにできるだろ。』
「うん。今のところは。」
『だから。大丈夫。セシルのようにはならないし、レスリーのようにもならない。お前はエルフっぽいから長命だろうしな。心配いらない。』
「ん。」
『さらに。』
「?さらに?」
『誰かに殺されんように、俺がお前を死ぬほど特訓して鍛えてやるからなっ。』
「え、ちょっと待って。それはちょっと…。手加減してよ。」
『いいや!手加減などせん。明日からもっとびしびしいくからなっ!』
「ええー!!」