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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第三章 ヴィルドと森の生活編
208/530

208 やっぱりシルルはまた変身&シンハの望み

領都の自宅で迎えた翌朝。

『朝だぞ。ねぼすけ。』

はいはい。もうそれ、慣れたし。

「んー。おはよー。」

と声だけ返事はするが、僕のからだはなかなか起きてくれない。

昨日、働き過ぎた。


昨夜は我が家の図書室から持ってきた古代魔法陣の本をながめているうちに、寝てしまったんだっけ。

僕はうつ伏せになる。すると、ぐい、ぐい、と今日はシンハに前足で肩甲骨あたりをふみふみされた。

あ、これ意外といいわ。肩こり、とれそう。

「うー。重いー。でも気持ちいいー。もっとー。」

『あほか。やってられん。』

ぶるるっと首を振って、シンハは僕の上に前足を乗せてからジャンプでベッドから軽く飛び下りた。

「グエー!」

ふんづけられた僕はカエルのような悲鳴をあげる。

『ふん。』

シンハは知らぬ振りをして、のっしのっしと部屋を出て行ってしまった。

「うう。死ぬかと思った。」

いちおう力の加減はしてくれたらしく、僕の肩甲骨は折れずに済んだが。


シンハと入れ違いに、とんとんとん、と階段を上がる音。

「ゴシュジンさま!おはようございます!」

勢いよく扉が開いて、シルルが。

「わっ!し、シルル!扉を開ける前に、ノックを!って。あれ?また子供になってる。」

僕はあわてて半分はだけていた布団をかきあつめ…るのをやめてまじまじとシルルを見た。

シルルは森から帰って一晩たったら、元通りの10歳くらいに縮んだようだ。

僕はパジャマ派だからまだいいが。

「あぁ、すみません。目が覚めたらまたこうなってたでしゅ。ごしゅじんさま、朝食できてます。スープ、さめちゃうのでおはやめに。」

ぜんっぜんすまないと思っていない風情で、シルルがそう言った。

「ああ。うん。そうだね。起きよう。君のスープを飲みたいし。…今日はなんのスープ?」

「はい!アタリガニのトマトスープでございます。」

「ん?アタリガニ?」


アタリガニとは地球でいうところのワタリガニである。

縁起がよい名前に変化したらしい。

それにしてもそんな美味そうな食材、あったっけ?

「あら、ゴシュジンさま、お忘れでしゅか?ダンジョンの海で捕獲したとかいう魚介類が、たんと冷凍庫にありましゅよ。それを使ったのでしゅが…。いけませんでした?」

ああ、地引き網にいくつか入っていたやつだな。隠しボスの核のことが印象的すぎて忘れてた。

「いや、いいよ。すごくいい!今後もいろいろ使って、お料理してみてほしい。」

「はい!よろこんで!」

シルルの笑顔はまぶしいくらいに生き生きと輝いていた。


朝から豪華にカニのスープ!すっごくおいしかった!

シルルって、本当は料理上手だったんだね。

『おい、ねぼすけ。今日はどうするんだ?ダンジョンか?』

とシンハ。

「その呼び方禁止。…えーとね、今日は一日家にいるつもりだよ。いろいろ作りたいものがあるし、魔法陣も組みたいからね。」

『つまらん。』

「ふふ。なんなら森で遊んできてもいいよ。テレポートで連れて行くよ。」

『それでは用心棒にならん。』

「僕は家にいるだけだから、用心棒はしなくてもいいよ。」

『駄目だ。俺は常にお前の傍にいることに決めているんだ。』

「判った。ありがとね。」

『ふん。礼などいらん。俺は俺の主義を通すだけだ。』


たぶん、シンハの中では以前一緒に旅をした吟遊詩人のセシルさんを、ちょっと目を離したすきに死なせてしまったという思いがまだ強く残っているのだろう。

僕はその彼よりはいろいろと自分を守るすべを持ってはいるのだけれど、シンハからみたらやはり人間はもろい存在なのだろうな。

「じゃあ、午後には一緒にお風呂にはいろうか。しっかりシャンプーしてあげる。」

『しゃんぷーは苦手だが…。まあ、いいだろう。』

そう言ってるけれど、尻尾はかなりフリフリしていて、ご機嫌だとわかる。結局風呂好きなんだよねー。変な犬。ふふ。


その日、僕はいろいろと地道な作業をした。

まずポーション各種を作成。中級の特上とか、上級の特上とか。

アラクネ侍女長さんのお話に出たエリクサーとエクストラヒールについては、アカシックに聞いたところ、魔獣に使用してもどちらも全く問題なし、との回答だった。そうだろうとは思ったけどさ。


じゃあ、エリクサーではなく中級ポーションでは?と聞くと、一般のアラクネさんに対しては効果はあるが、女王の場合は、僕の作った中級の特上ポーション以上でないとダメらしい。

『アラクネは魔獣の中でも魔力が多くグレードの高い生命体である。特に女王は一般のアラクネよりはるかに魔力量が多い。そのため、女王の場合は、通常の疲労であれば、中級の特上ポーションや上級ポーションでも効果はあるが、種の営みにかかわる魔力および生命力の完全回復のためには、エリクサーでないと効果は望めない。ただし分量は瀕死の重傷ではないので、半分の量で効果が見込まれる。』


ではヒール系は?と尋ねると、これも

『エクストラヒールを推奨。』

とのこと。それ以下ではあまり期待できないようだ。

まるで難病のようだ。

となると、「種の営み」のあと、魔法を掛けるためにたびたび僕が呼ばれてもお互い困るので、ここはエリクサー一択ということになるだろう。


ちょうどアラクネ布の販売でアラクネさんたちへの報酬を何にするかと話題になっていたから、侍女長さんには前振りしておいて、さりげなくエリクサーを入れておけばいいかも。アラクネ布の件が軌道に乗れば、そうしよう。


まずはやはり、数本、念のため侍女長さんに届けておくことにしよう。

でも、僕からだと聞いたら、ツェル様はきっと侍女長を叱責するだろうな。何故自分にまず言わなかったのかと。そんな気がする…。事が事だけに、僕からツェル様に実は、という訳にもいかないし…。うう…。


悩みながらも、森で摘んできたハーブを室内に綱を張って干したり、新しいシルル用のメイドドレスをプレゼントして喜ばせたり、魔法陣の本を見ながら、古代魔法語を正しいものに訂正しつつ描いたりした。


あっという間に昼になり、シルルが作ったサンドイッチで軽く食事。

そして午後には約束どおり、シンハと一緒に大浴場で入浴。

シンハを泡だらけにして全身シャンプー。

シンハは気持ち良さそうに目を細めている。

シャンプーを流して、僕もついでに髪を洗い、一緒に湯船につかった。


風呂の中で、シンハが僕に尋ねた。

『明日からはどうするのだ?しばらく家に籠もるのか?』

「実ははやく「風の原」に行ってみたいと思ってるんだ。」

『フューリの母のことか。』

「うん。「風の宰相」なら、何か消息を知っているかもしれないし。」

『だがフューリを連れていくのか?まだ目覚めたばかりだろう。』

「うん。まだ妖精としても魔力が安定していない感じだったね。」


『ああ。お前がヒールを施していたが、それでもどこかからもれているかのように、とても疲れやすくなっている。

あれは長くあの牢獄にいたせいだろう。長く魔力的に飢餓状態に置かれていたため、なかなか元通りにはなれないのだろう。

普通の妖精ならきっと形を保てずにとっくに「昇天」していただろうな。』

「じゃあ、風の王女だから、どうにか目覚めることができたというのかい?」

『そういうことだ。もちろん、お前がヒールをしながら呪いを解いたからでもあろうな。』

あら、気づいていたのね。さすが神獣サマ。


『もともとあの子は魔力のキャパシティが大きいはずだ。だからこそ、蘇れた。今少し、メーリアに任せて休養させる必要があるだろうがな。』

「判った。できれば連れていきたいけど、長距離の旅はいくら風の精でもまだ辛いだろうね。僕のほうも、数日は旅の準備をしたいと思っているんだ。まず明日は、今日の続きでまだろくに見ていないこの屋敷の図書室の本を、じっくり見ることにする。それが終わったら、次は領主屋敷の図書室訪問だ。」


『うー。俺はどうすればいいんだ?』

「だから。森で遊んでくればいいのに。」

『それは駄目だ。お前の傍を離れたくない。』

「強情だなあ。でもありがとう。」

僕はほっこりとうれしい気持ちで、シンハを連れて風呂を出た。


脱衣所で、一緒にポムロルジュースとお水を飲む。

それから、ぶわーっと火と風の魔法をコントロールして熱風を作り、僕の髪とシンハの体を適当に渇かす。これをドライヤー魔法という。

渇かしすぎるとばりばりになるから、適当なところでやめるのがコツ。

シンハはさらに僕がわしゃわしゃしてあげて、毛の奥まで魔法で渇かしてあげる。

あとはブラッシング。

シンハは神獣だからだろう。毛が飛ばない。というか、抜けた毛はふわわと空中で消えてしまう。

だから湯船も脱衣所もそして家の中も、毛だらけになることがなくて便利ではある。


ガウンをひっかけた姿で、シンハのつやつやの毛をモフモフして堪能する。

んー。いい香りだ。ハーブで作った自作のリンスインシャンプーは大成功の一品だ。

もちろんメルティア入り。

シンハも僕と同じ匂いのシャンプーが気に入っている。

僕はベンチに腰掛け、シンハは僕の腿に顎を乗せて甘え、僕のブラッシングに目を細める。

「至福の時だねえ。」

『うむ。』

ふっさふっさと尻尾を揺らす。


『わがままを言ってもいいか。』

「なんだい?」

『俺はやはり、森はお前と一緒に見回りに行きたい。』

「そう…。うん。僕もだよ。」

いつも僕と一緒に居てくれるシンハ。

「ありがとう。」

シンハを撫でる。

シンハの尻尾が揺れている。

「でも、全部君の仕事につきあってたら、僕はなかなか魔法の勉強が進まない。冒険者の仕事もしないといけないし。ポーションとかも作りたいし。」

『…そうだな。』


いつもサキの傍に居たい、シンハなのでした。

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