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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第三章 ヴィルドと森の生活編
207/529

207 魔蜂の引っ越し先を整備する

僕は世界樹の杖をフルサイズで取り出すと、まず、広範囲にクリーン魔法を使いながら、土の一番くんグラントを呼び出し、魔力を与えて土魔法を使った。

「耕せ、大地を!」

「ばぶう!」

もりもりと畝が出来ては土が掘り返されていく。

土埃が舞わないように、水も適当に与えながら行なっている。

同時に土に潜んでいた瘴気のケガレも消えているようだった。

そして、肥料として亜空間収納に大量にある魔兎の骨を亜空間内で細かくすりつぶしたものをまいて、またもっこもっこと土を耕す。

するともともと魔力のある良い土壌だったようで、畑のような土になった。


今度はグリューネとトゥーリを呼び出し、道中手に入れた草花を亜空間収納から取り出すと、シルルにも手伝って貰いながら、各所にかためて植えたり、種を蒔いたりした。それから、魔法を使う。

「育て。集いし草花たち。咲け。かぐわしき花たちよ。」

「それ!育てー!」

「暖めてあげるわ。花、はやく咲いて!」

すると種はすぐに小さな芽を出し、苗も広く根をはり、早送りのビデオを見ているかのようにすくすくと育ち始め、あっというまに花で一杯の、花の原となった。

「わあ!きれい!」

シルルがぴょんぴょん飛び跳ね、手を叩いて喜んでいる。


『サキ。やりすぎだぞ。魔力は大丈夫か?』

「ぜんぜん大丈夫。むしろもっとやりたいくらい。やっぱり周囲の魔素が多いと、楽だねえ。」

『まったく。お前はいろいろと底無しだな。』

いやいや、底はありますから。ちゃんとそれは自覚してますから。

「これくらいは平気だよ。黒龍を亜空間内で解体した時のだるさを考えれば、ほとんど眠りながらできちゃう感じ?」


小腹が空いてきたので、花畑で食事にすることにした。

アラクネ布を敷きつめて。

その上でいろいろなものを取り出す。

鍋ごとつっこんであるあつあつの野菜スープに、魔兎とワイバーン肉のミニステーキ、ポテトサラダ、クロワッサンにカマンベールチーズと魔蜂のハチミツ。ワインは飲めないので葡萄ジュースと水、それにポムロルを剥いて。兎さんの形に切ってあげると、シルルだけでなく、グラントやグリューネ、トゥーリたちがうれしそうに、耳のところから食べたり、逆に耳を最後まで残したりして食べていた。


美味い。我ながら美味いと思う贅沢なピクニックだ。

此処はもとはあの血なまぐさい戦闘のあったところ。

そしてゴブリンたちが寝起きしていたところ。

けれど僕はもう、平気で此処で美味いと思いながら食べている。

それほど今のこの場所は、すでに全く別の土地に生まれ変わっていた。

静謐で澄みきった空気になっている。

森の自浄作用もあるからだろう。

僕が行なったクリーンのおかげでもあるだろうけど。

今はまったく凄惨な過去を思い出させるものはなく、実にのどかな花の原っぱとなっていた。


と、偵察だろう。数匹の魔蜂が飛んできた。

「やあ。こんなもんでどうだろうね。あとはロゼットを植えれば一応完成なんだけど。」

声をかけると、その中のひときわ大きめの蜂が、念話を送ってきた。

他の蜂たちはさっそく持ち帰るのか、僕にお辞儀したあと、あちこちにわかれて、花粉や蜜を採取しはじめる。

『驚きました。もう花が咲いているとは。さすがサキ様。お見事です。』

「シェリー嬢は気に入ってくれるだろうか。」

『大丈夫です!これなら今すぐにでも引っ越してこれそうです!ありがとうございます!』

と頭上で八の字ダンスをしてくれた。

これは最高の歓迎方法。喜びを表す方法である。

「そう。それは良かった。よろしく言ってください。」

『はい!さっそく伝えます。ありがとうございました!』

他の蜂を引き連れ、ブブーンと飛んでいった。

それにしても、念話できるなんて。あの蜂はきっと特殊な奴なのだろうな。

普通の働き蜂は僕の言いたいことは判っても、念話はできないから。

きっとシェリー嬢のお婿さん候補に違いない。でも、どうか食べられませんように。


周囲を見渡し、僕はふと、林の奥に見覚えのある木を見つけた。

さるすべりだ。

あの時ユリアを助け出し、少し走ったところで見つけた木。そしてそこにユリアを避難させ、繭のようにガードして取って返し、ゴブリンキングを倒したのだ。

ということは、そこから振り返ったこの方向が、アリーシャたちがいた小屋があったところか…。

僕はそこまで戻り、土を見ると、やはり幽かに焼けた痕跡があった。

そこに真っ赤なロゼットと、真っ白なロゼットを植えた。

赤はアリーシャ、白はマリン…。

そんなことを思いながら。


たくさん、植えた。

そして魔法でもっと成長させ、周囲をロゼットだらけにした。

それはまるで原っぱの中にロゼットの島が出来たように見えた。

高貴な香りはまさしく地球上の薔薇と同じだった。

僕はがらにもなく、そのロゼットの群生の前で、片膝をついて頭を垂れ、右手を胸に置いて、静かに祈った。

思い出すのは、二人の強い意志を秘めた目と。

さよならを言った時の、綺麗な笑顔。

今はもう、心は静かだ。

でも忘れないよ。アリーシャ。マリン。

安らかに。


ゴブリンのアジトだったところを僕は「花の原」と勝手に名付けた。

そのほうが雰囲気いいし。


シンハに、どのあたりまで「幻影結界」を張るか相談する。

『魔蜂の活動範囲は広いからな。本来なら森の入り口付近まで結界を広げたいところだが、さすがにそうも行くまい。ダンジョンから少し奥まったところまでではどうだ?その分、森の奥へとテリトリーを広げておけば、問題ないだろう。』

「そうだね。人間たちも魔獣狩りに森には入るから、「花の原」を自然に避けるように迷路も作ろう。」


範囲が決まり、いよいよ「幻影結界」を張っていく。要所要所に僕の魔法を込めた石を地面に埋め込んでおくのだ。

この魔法は、自宅にあった魔法陣の初歩の本に記されてあった魔法陣を応用して、僕が復活させた古代魔法だ。

初歩の本の魔法陣はどれも呪文が少し間違って記載されていたので、発動しても不安定だったり、酷く魔力を消費したりする魔法陣だったに違いない。

僕は複数の魔法陣を見て、今回の「幻影結界」魔法陣を描いてみたのだが、最終的にはアカシックさんで確認した。すると古代にはやはりこの魔法はすでに存在していることが判った。なので、僕が作ったというより、僕が復活させた、が正しいのである。


現在のこの世界では、どうやら妖精語がわかる人はほとんどおらず、古代魔法の言語もなかなか解読できていないらしい。だからよほど強力な魔術師でなければ、この結界に気づくこともないだろうし、仮に気づいたとしても魔法を破ることは難しいだろう。

もちろん、蝶や小さな虫、リスなど森の小さな魔獣や妖精たちには影響ないようなゆるい魔法だ。はじくのは人族や獣人族、エルフのような亜人族。魔族もはじいておこう。ただし、エルフは森と同調しやすいので、防ぎきれないのは仕方ない。

大型の魔獸は魔法の霧には迷うが、完全には防げない。だが魔蜂さんの食糧でもあるから、逆に都合がいい。


ちなみにアカシックレコードに僕が接続できると言っても、すべての情報にアクセスできるわけではない。やはり段階がある。特に魔法については知らない魔法まで全部ではなく、まずは自分で何々の魔法を調べる、とか何々の魔法を実現したい、というしっかりしたテーマがあって、かつある程度自分で予想し、構築できないとアカシックさんは教えてくれない。


さて、「幻影結界」の魔法陣を、道すがら亜空間収納に入れてきた石にコピペで仕込む。

収納の中では次々にコピペされていった。その石を取り出しては僕の魔力を込めて「幻影結界」を発動させてから地面に埋めていく。石を埋める間隔は、適宜、としか言えないが、ぽつりぽつりである。歩いていて結界が薄くなりかけたところでまたひとつ石を埋める感じ。ちなみに消費される魔力はごく微量だ。そういう効率的な魔法陣を組んであるからね。


「幻影結界」を張り終えると、「花の原」は晴れているが、周囲は魔法の霧で覆われ、一挙に幻想的になった。


一度「蜂の原」に戻り、「幻影結界」を張ったことをビーネ様に報告。

それから、結局シェリーも、正式に僕の眷属として登録した。

というのも、「幻影結界」の防備が100パーセントではないので、結界が破られたり何も知らないエルフが紛れ込んだ時には、僕に念話で知らせることができるようにするためだ。

ヴィルドに近い巣なので、それがいいとビーネ様とも相談して決めた。シェリーは僕の眷属になって、むちゃくちゃ喜んでたけど。後日メーリアとツェル様に話したら、なぜか微妙な顔をしていたが、気にしないことにしよう。


ビーネ様のところを出たら、もう夕暮れ時だった。

僕たちはテレポートで領都が見える街道近くの丘まで飛び、そこから何食わぬ顔をして自宅のある領都へ戻った。

今日はすっごく仕事をした感じがするよ。

おやすみー。


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