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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第三章 ヴィルドと森の生活編
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206 魔蜂の引っ越し先

『何処へ行っていた?』

「ああ。うん。ちょっと。(あとで話すよ。)」

シルルはお茶を入れるのを手伝いながら、僕のパイのお相伴にあずかっている。アラクネの女性達は、最初は妙齢の女性姿のシルルを警戒していたようだが、ツェル様が親しげに連れ回したので、すぐになじんだようだ。よかった。

そのツェル様はと見ると、女性陣に僕のあげた裁縫箱をうれしそうに披露していた。

こちらには気づいていないみたい。良かった。

オージェさんはと見ると、男性陣でお酒(僕が提供したハチミツ酒の甘くないヤツ)を舐めていた。が、僕をちらと見る目にやはりトゲがあるように感じた。

ツェル様とはそういう仲じゃないっつーの。

でも、恋するとそうなるのかもな。


彼の態度はいかがなものかとは思うが、あの目を見れば、ツェル様を大切に思っているのは確かのようだ。おそらく早死にも覚悟の上の恋なのだろう。

ツェル様も、オージェのことはまんざらでもないようだ。それに、3人も夫君に先立たれたというツェル様が、かわいそうだと思うのも事実。

だからなるべく早く、解決してあげたい。



さて、思いのほかアラクネさんの巣で時間をとってしまったが、僕達はツェル様にご挨拶して、次にビーネ様のところへ。

分蜂の相談だ。「蜂の原」の近くまでテレポートして、そこからは少し歩きで移動する。

急にテレポートして、魔蜂の警備係さんに刺されたらやばいからね。

シルルはシンハに乗ってもらい、僕はシンハの横を歩く。

「蜂の原」ではブンブンうなる蜂の羽音にびびりながらも、僕たちを刺すようなお馬鹿に会うこともなく、警備係さんにビーネ様のところまで平和に案内してもらった。


「まあ!サキ様。よく来ましたね。」

「おはようございます。ビーネ様。」

「昨日はありがとう。ほら、見て。貴方からもらったブレスレット。こんなにきらきら輝いて。それに花の形のペンダントも綺麗。今日もうっとりしてながめてばかりいるのよ。おほほ。ところで、不敬にもシンハ様にまたがって来た貴女はいったい誰なの?」

後半のお言葉、殺気を含んでちと恐い。

ちょうどシルルがもたもたとシンハから降りたところだった。

「ああ、シルルです。昨日会ったでしょ?」

と僕が言うと

「えっ!?あのシルルちゃん?」

「はい。シルルでしゅ。森の魔素のせいで大きくなったみたいでしゅ。」

何故幼児語?もうなりはハイティーンだろうに。


「そう。そんなこともあるのねえ。…サキ様、妙齢の女性を傍においても大丈夫?」

「え?どういうことです?」

妙齢といっても、シルルは家守りの妖精だし。向こうに戻ればまた子供の姿になる可能性が濃厚だし…。

「ああ。無自覚なのがサキ様の魅力ねえ。まあ、シルルや、良からぬことを考えず、きりきりサキ様のために働くのですよ。」

「は、はいでしゅ!」

ここでも何か女性どうしにしかわからないことを言われているような気がする…。うん。気にしないでおこう。


「こほん。実は昨日聞き忘れたんだけど、分蜂先にさっそく花を植えてこようと思って。どんな花がいいかと相談に来たんです。」

ちなみに僕は、ビーネ様と眷属契約しているので、敬語を使わないでよいと言われている。なので、ツェル様にもビーネ様にも、最低限の敬語にとどめている。でも、お二人のほうが、敬語で話しかけてくるんだよね。

「まあさっそくに!ありがとうございます。わざわざ。娘を呼びますね。これ、シェリー。サキ様がお見えよー。」

ちなみにビーネ様の愛娘にシェリーと名付けたのは僕だ。ビーネ様に名前をつけてくれと頼まれて。

眷属にしたつもりはないのだが、なんとなく眷属のようになっている。

「はーい。あら、サキ様!ごきげんよう。」

とブブンと羽音をさせて、もう一匹の若い女王蜂が姿を現した。


「ごきげんよう。シェリー。今度分蜂する場所に、花を植えに行くんだけど、どんな花がいいかなと思ってさ。」

「まあ、まあ!なんてお優しいのでしょう!ありがとうございます!ところで…そのシンハ様にすがっている不埒な女は誰ですの?」

「え?ああ、家守り妖精のシルル。僕の眷属だよ。よろしくね。」

「よ、よろしくお願いしましゅでしゅ。」

「そう。貴女がシルル。こんなに大きな子だとは聞いていなかったわ。ちょっと…問題ねえ。」

「森に来たら、魔素の関係でちょっと成長しただけだよ。問題ってなんだい?」

「いいえ。なんでもないの。シルルちゃん。判ってるわよね。いろいろと。」

「は、はいでしゅ!」

またさっきと同じような会話。


「こほん。まあいいわ。ところで…花のことでしたわよねえ。サキ様。」

「え、あ、うん。」

「そうねえ。サキ様が食べたい蜜の花でよろしいのだけど…。トレントの林も小川を越えたところにあったし、ハリエンジュールの木も豊富にあった。ポムロルやオランジュ、ラベンドール、ブルーベリアもあったから、あとは草花ね。甘い香りのする花なら、なんでもおいしいんじゃないかしら。メルティアはもちろん、レンゲルやシロツメ、サルビス、キロンソもいいものよ。」

「そうなんだ。なるほど。樹木の花も重要なんだね。」

「ええ。でも、植えていただきたいのは、草花のほうね。」

「判った。レンゲルにシロツメ、サルビス、メルティア…。ふむふむ。それならなんとかなりそうだ。」

僕はメモ帳を取りだして、さらさらとそれらの植物をメモした。

ハリエンジュールはハリエンジュ。これはニセアカシアのこと。花以外は毒があるが、蜜源として有名だ。ブルーベリアはブルーベリー、ラベンドールはラベンダーで低木。レンゲルはレンゲ草、シロツメはシロツメクサ、サルビスはサルビア、キロンソはキリンソウ。

植物の名前が似ているのも、偶然ではなく、かつて、というか古代文明時代に、やはり同じように地球から落ちてきた人がいて、いろいろなものに名前をつけたからだ。だから野生のものほど古代語が残っている。


僕は薬草を採取するので、薬草以外でも、どのあたりにどんな草花が咲いているか、なんとなく覚えている。なので、今話題に出た草花なら、楽勝で手に入る。種がなくとも、少し移植しておくだけで、根付きそうな草花ばかりだ。

「あ、あともしあれば、白か赤のロゼットも欲しいわあ。」

「ロゼットね…。うん。なんとかするよ。絶対。」

ロゼットはいわゆる薔薇のこと。

品種改良前の野薔薇タイプなので、薔薇よりカラタチに似ているかもしれない。

「見つけたものからさっそく移植してみるよ。根付くといいけど。」

「ふふ。楽しみね。うちの若い衆を毎日偵察に行かせて、根付いたかどうか確認することにするわ。」

「うん。自生してもらわないと。僕も世話にはいけないから。」

「あら、そんなさびしいこと言わないで、たまには顔出してくださいね。サキ様。」

「あ、はい。善処します。」

ねっとりした眼差しで僕の顎に前足を添えてそう言われたら、さすがに僕もびびるよ。

「ほんと、サキ様って可愛いわあ。人間にしておくのは勿体ないくらいイイ男。食べちゃおうかしら。」

「駄目。それは勘弁して。」

アラクネさんではないが、魔蜂も交尾後は雄を食べるという噂があるらしい。こっちは本当かも…。

「うふふ。冗談よ。私もまだシンハ様に噛み殺されたくはないわ。」

シンハ、ありがとう。でも殺気はしまおうね。

隣でシルルまでうーうー小声で唸ってる。シンハの真似はよそうね。


「じゃあ、道すがら花を探しながら行ってみるよ。ありがとう。またね。」

「こちらこそありがとう。サキ様。愛してるわ。」

「あはは。ありがとう。またねー。」

「あん。本気なのにい。」

「これ。娘や。」

「なあに?お母様。」

「あまりサキ様を惑わすようなことを言うでない。シンハ様が本気でお怒りにならぬかとどきどきしたぞよ。」

「ふふ。ごめんなさい。お母様。だってサキ様、なんだかまだ初々しくて、からかうと反応が可愛いんだもの。うふふ。」

女王は娘の様子にため息をつくのであった。


やれやれ。なんだか危うい女の人って感じで、ちょっとやばかったよ。

さすがに魔蜂の女性と結婚はちょっと難しいよね。せめて人化してくれれば…ううん。やっぱり無理。たぶん。ごめんよ。

僕は将来は普通に人族の女性と「そういう関係」になりたいと思うのだけど…。高望みなのだろうか。僕のまわりには何故か普通の女性、があまりにも少ないような気が…。

いやいや。考えないことにしよう。今は。恋愛より先にたくさんやりたいことがあるからね。うん。

ちらりとユリアの顔が浮かんだが、首をぷるぷる振って消した。


道すがら採取した草花を次々に亜空間収納に入れながら進み、ついでに河原で普通の小石も拾っていく。これは魔法陣をしるして幻影結界を作るための石だ。

十分に草花と小石が集まると、僕とシンハとシルルは例のゴブリン集落跡地にテレポートで飛んだ。

もちろんゴブリンの死体などただのひとつもない。

あの時、すべて高熱で燃やして消滅させた。そうしないと、アンデッドになるおそれがあるからだ。

その薪にするため、ゴブリンの棲家も徹底的に破壊して燃やしている。

今後も棲み着かれないようにするためでもある。

そういう訳で、もはや木の切れ端さえないただの広場だ。

すべて土に帰した。

はやくも雑草が生えはじめていたが、それでもまだまだ土が見えている。


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