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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第三章 ヴィルドと森の生活編
201/529

201 シルルの森デビュー

森に来ると季節がヴィルドよりはっきりわかる。

森の奥は、魔素が濃いせいか、少しヴィルドより秋が長い。まだ木々は紅葉真っ盛りで、森の恵みが多い。

此処は、春の花や秋にしかならないはずの果実がいつもとれたりするけれど、それでもやはり、紅葉はある。森が冬に備えようとしているのがわかる。


転移すると、ツェル様とメーリア、グラントにグリューネ、トゥーリもいる。それに小さな妖精たちや僕の眷属となった魔羊のヤクーとか魔鶏のヘム、フクロウのハカセなどがいた。ロビンとクルックはヴィルドに居たので、僕が魔力に溶かして連れてきた。神出鬼没のサラマンダも、僕が呼び出して連れてきている。久しぶりに眷属たち勢揃いだ。

「やあ。みんな、久しぶり。」

ホー、コケ、メーメー!動物たちは再会の喜びの声。

でも

「久しぶりじゃないわ!まったく。サキったら、何度も森に来てたんですってね。」

「本当に酷いわ。私たちに会わずにいつもさっさと町に戻っちゃって。」

二人の女性には開口一番怒られた。

「ごめんなさい!いろいろあって、忙しかったんだ。二人とも、機嫌直してよ。プレゼント、作ってきたからさ。」

「!プレゼント!?私たちに?」

「私にもあるの?」

急に目の輝きが違った。

「俺のは!?」

とグリューネ。

「あーこれは…、まずは女王様たちにね。君たちにはすっごく美味しいパイを焼いてきたよ。」

「やったぁ!俺、食えるもんのほうがいいもん!」

あはは。やっぱりね。


「えーと、その前に。紹介させて。こちらがシルル。領都ヴィルドの僕の家のシルキー、家守りの妖精だよ。君たちと同じく僕の眷属になってもらったんだ。仲良くしてあげてね。」

「は、はじめましゅて。よろしくお願いしまっする。」

ちょんとエプロンドレスをつまんで、シルルがお辞儀する。かんでるけど可愛い。

「まあ、可愛い!シルキーのシルルちゃんなのね。よろしくね!…でも、サキはちょっと目を放すとどんどん眷属を増やしちゃうのね。」

「ほんと。しかもこんな可愛い子を!」

「あははー。とにかく、仲良くしてあげてね。」

「もちろんよ。こんな可愛い子、私の巣穴に連れていきたいくらいだわ。」

「私もよ。ねえ、此処で暮らしてもいいのよ。たくさん妖精たちがいるから、さみしくないわよ。」


二人はすっかりシルルが気に入って、頭を撫でたり抱きしめたりしている。

まあ、この二人に気に入られれば、もう森では怖いもの無しだな。うん。

「ご、ごめんなさい。わたし、家守りなので、む、向こうに住むれす。」

「あらあ。残念。」

「いつでも遊びにいらっしゃいね。歓迎するわ。」

「ありがとうございましゅ。」

うん。噛むよな。森の大物二人に囲まれたら、緊張するもんな。


「困ったことがあったら、俺やトゥーリに言えよな!妖精どおし、仲良くしようぜ!」

「ありがとでしゅ。」

「また勝手に安請け合いしちゃって。あたしはトゥーリ。火の妖精よ。こいつはグリューネ。緑の精。いつでも相談に乗るわ。」

「よろしくお願いしましゅでしゅ。」

「(実は俺たち、メーリアやツェリ様たちより、サキに呼ばれることが多いんだ。屋敷にも行くから、よろしくな。)」

「(はいでしゅ。)」

とこそこそおしゃべりしているのが僕には聞こえた。

女王様たちは聞こえないふりをしているようだけど。

炎上する前にさっさとプレゼントを渡そう。


「こほん。で、さっき言ってた、二人の女王様へのプレゼントはこれだよ。こっちはツェル様に。そしてこっちはメーリアに。おそろいのブローチとブレスレットだよ。」

「わあ!綺麗!」

「これはサファイアとタンザナイト、それにダイヤモンドねっ。サファイアもタンザナイトもダイヤモンドも、水をイメージするから、私の大好きな石よ。ブローチにブレスレット!二つも!?ありがとうサキ。」

「私のは目の色と同じ赤いルビーだわ!透明はダイヤでしょうけどピンクはなあに?え?これもダイヤ!?素敵!デザインも素敵!ありがとう。サキ!」

二人に両側からハグとほっぺチューをされた。

「いえいえ。どういたしまして。」

なんかお姉様たちに僕のいろいろが吸い取られそうな気がしたので、さりげなくハグから脱出する。

「えーっと。ビーネ様は?」

「ちょっと用事があって、少し遅れるみたい。」

「そうか。ビーネ様にもおそろいのプレゼントを持って来たから。じゃああとでお渡しよう。」

ビーネ様はお忙しいようだ。まあ連絡したのは昨日の夕方だから、仕方ないよね。


「こほん。それから。ツェル様。」

「はい。」

「これはベッドとカーテンのお礼。ツェル様用だよ。開けてみて。」

「えっ!えっ!」

リボンをはずして包みを開けると

「わあ!」

「すごい!!」

「きれいでしゅ!」

女子3人が目を輝かせている。いや、トゥーリも入れて4人か。

「裁縫箱なんだ。いろいろ道具を入れる箱が必要だろうと思って。…ちょっと貸して。…こうやって開けると…。」

僕は天板を開けて、3段になるよう展開した。

「「わあ!」」

「しゅごいでしゅ!」

「からくり箱なのね!」

3段に展開する箱にみんなびっくり。

「すげえ!」

のぞきに来たグリューネも驚いていた。


「こんな凄い物…私だけもらっていいのでしょうか…。」

「だって、女王様みずから、凄いベッドを作ってくれた訳だし、カーテンもたくさん作ってもらったから。そのお礼だよ。どうもありがとう。あのベッドで毎晩、シンハもぐっすり寝てるよ。」

『うむ。あれは良いものだ。感謝する。』

「そ、そんな…。シンハ様にまで…。ああ。でもうれしいですわ!」

「あとでアラクネの皆さんにはお菓子のお返しをするつもりだけど、まずは女王様に、ね。」

「ありがとうございます!サキ様!」


天板のモザイク絵を見て

「これはシンハ様の洞窟と、メルティア広場ですね。」

「うんうん。なんか、思いついたの、その風景だったから。」

「お上手ですわ。」

「細工も見事ね。」

「ありがとう。」

『ふむ。サキのわりには、よく特徴を捉えているな。』

「僕のわりには、ってなんだよう。がんばったんだぞう。」

『褒めてやっているのだ。』

「はいはい。」

一応、前世では美術の成績は良かったんだぞ、これでも。

「ツェル、良かったわね。」

と笑顔でメーリアが言う。この二人、なにかと仲がいい。

「ありがとうメーリア。お仕事がはかどりそう。使うのが楽しみだわ。」


それからみんなでまずはお茶会。あとでそのまま食事会になるだろうけど。

新作のブルーベリータルトとか、定番のポムロル(リンゴ)パイとか。それとヴィルドで仕入れた紅茶とかで一服。ヤクーたちには果物とお水を出してあげる。


「で、ツェル様とはあとで商談をするとして、みんなにちょっと聞きたいことがあるんだ。」

僕はずっと気になっていたことを、皆に聞いておくことにした。

「実は最近、突然変異の魔物がヴィルドの近くに出没してるんだけど、何か心当たりはない?こっち方面にも出たとか、どこかで見かけたとか。そんな話を聞いたとか。」

「突然変異体?」

「うん。そうなんだ。数ヶ月前になるけど、ゴブリンだったよ。ただのゴブリンのはずが、皆、弓矢とか剣とか、自分たちで作ったものを振り回していてね。体にイレズミをしていたんだ。ゴブリンキングも、ただの個体じゃなくて、数段格上だった。統率してて、集落作ってて。」

「そういえば、魔狼たちが変だったわ。ずいぶん前だけど。」

とツェル様。

「毒針を飛ばす奴だったの。私も子供達といっしょに退治したけど。」

「あら、貴女も?私も2体、退治したわ。」

とメーリア。

「どこで!?」

と聞きつつも、あっさり退治したんだー、と内心冷や汗をかく。二人ともお強いのね。

「ここからはかなり遠いところよ。えーと…ヴィルドから見て北東にある森ね。妖精達が恐いやつがいるって騒ぐので、私がわざわざ出向いて退治したのよ。」

「いつのこと?」

「たしか…サキとシンハ様がヴィルドに着くちょっと前くらいだったかしら。」

なるほど。すると僕たちが退治した時期に近いな。


「私はそれより前だわ。場所はシンハ様のテリトリーの際あたりだから、全然ちがう場所ね。たいして強くはなかったわ。毒も私たちには効かないし。でも、瘴気を纏っていて、気味が悪かった。」

「それから、私の知ってる妖精が会ったのは、スライムね。森の外。街道近くだったそうよ。やたら好戦的で、ヤバイ奴だった。」

「!スライム!?普通は温厚だよね。街道だって!?」

スライムの変異体は初耳だ。まだ居るならやばいじゃん!

「ああ、大丈夫。氷の妖精たちを派遣して、すぐに凍らせて退治したから。瘴気を纏っていて、やっぱり毒針を飛ばす奴だったそうよ。一匹だけだったから、もう大丈夫と思うわ。」


「さっきの魔狼も、たぶんそのスライムも、この森の奴じゃないわね。」

「ん?この森じゃない?」

「ええ。どちらももともとはこの森の奴じゃないわ。『流れ』よ。此処は長年シンハ様が守ってくださってきた森だから、酷い奴は育たないはずなのよ。」

「そうそう。凶悪な奴は黒龍だけでたくさんですもの。そういえば、あいつももともと此処の森産ではなかったですわね。」

「うん。流れだね。」

「そりゃ、このあたりは魔素が濃いから、強い奴はそれなりにいるけどね。私やツェル様に手出しできるような奴はいないと思うわ。」

とメーリア。

「なるほど!」

僕はそこは強く納得できた。この二人に勝てる奴はいな…げふんげふん。


「黒龍だって、この領域には手を出さなかったわ。シンハ様が大切にしている場所ですもの。」

『おっほん。』

おとなしくしていたシンハが、急にえらそうに咳払いした。

判ったよ。はいはい。お前さんが王様でした。

僕はそう思いながらも、笑顔で頭を撫で撫でする。

尻尾はご機嫌にふられていた。



誤字訂正しました。ありがとうございました。

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