200 ゲンさんとミスリル&三女王へのプレゼント作成
ついに200話!
読んでくださった皆さんに感謝!
そして自分も褒めてあげたい。
まだまだ続くよ!
ギルドから出ると、今日はゲンさんの店に寄った。
「よう。サキ。いや、サキ師匠。先日はすっかり馳走になっちまって。」
「いえいえって、師匠はやめてよ。ゲンさんのほうが師匠でしょう。」
「いやいや。いろいろと教えてもらわないといけねえからな。サキは師匠だ。」
「もう。それ禁止。ところで。またクナイと鏃が欲しいんだけど。」
「好きなだけ持ってってください。師匠ならタダでいいすよ。」
「またそんなことを。ちゃんと商売は商売なんだから、ケジメをつけないと。…クナイは50本、鏃は2箱ね。はい。代金。」
「すみませんね。値引きで…これ、お釣りです。」
「こんなに引いてもらうわけには。…わかりました。ありがとうございます。」
にらまれて、僕が折れた。
「ところで師匠、代わりといっちゃなんですが、ちょっと炉の加減を見てってくれませんかね。」
「炉?見ていいんですか?まじうれしいです!ゲンさんの炉が見れるなんて!」
「いや、あんなすごい剣を打つお方に見られては恥ずかしいですがね。」
「あーもう敬語はやめよう。ゲンさん。」
「判った。サキ。ちょっくら炉を見てってくんねえ。」
「判った!うん。その口調でいこう。」
「へへ。お互い、それがいいな。」
「うん。それがいい。」
僕はゲンさんの仕事場を見せてもらった。
こっちの世界では炉はドーム型。
まるで陶磁器を焼く竈のようだ。
「先日、ミスリルが手に入ったんだ。冒険者ギルドがオークションに出したんだよ。ミスリルなんざ、俺っちにはとうてい手が出せないシロモノだが、それを聞きつけた王都の貴族が、珍しさゆえに買って、さらに切り売りしたらしい。それが巡り巡って俺の店になぜか持ち込まれたんだよ。別の貴族が、斬れる剣を作れって、俺のところに送ってきたのさ。」
あー、その元のミスリルのインゴット、ギルドに売ったの、僕だ。
「へえ!じゃあ、ゲンさんの腕を見込んでっていうことだね?」
「まあな。王都にいる仲間が、何を血迷ったか、俺を推薦したらしい。」
「すごいなあ。」
以前、僕が採取した鉱石類のうち、試しにミスリルを固めてインゴットにし、オークションにかけることにしたんだ。
だって、一番安価な鉄鉱石は、生産者ギルドでないと買い取ってくれないそうだし、他のサファイアとかエメラルドとか、大量にあるダイヤモンドは、原石よりもカットして渡した方が高額だ。テストパターンとしては比較的大量に持っていて、かつちょっと高価なミスリルのインゴットを、3個だけ試しに冒険者ギルドに出したんだ。そうしたら、カークさんやケリスさんが、目の色変えて驚いていたっけ。あれをみると、とても他の貴石類は出せそうにない。精製したインゴット状態を見ただけであんなに驚くとは。
ゲンさんが入手したのはそのインゴット1個の約四分の一。普通は鋼にミスリルを混ぜるから、四分の一でも十分な量だ。
「で、このミスリルのかたまりで、剣を作るんだね。ミスリル剣だね。」
「正確にはミスリル入りの剣だ。
ミスリルなんざ、普通なら勿体ないから溶かしてコーティング材にするのがせいぜいだが、こんだけあるからな。いい鋼と混ぜて打とうと思ってる。そのほうが丈夫だし、かなり斬れるもんができると思うぜ。」
「なるほど。ミスリルを鋼に混ぜる時ってやっぱり魔力使う?」
「もちろんだ。そこで与える魔力の密度で、剣の質が決まるからな。サキもそうやって作ったんだろ?あの剣。」
「ああ。うん。たまたま偶然なんだけどね。非力を魔力で補ってたら、あんなもんができちゃっただけなんだよ。」
「たまたまって…。すげえな。」
「偶然だから、すごさがよくわからないけど。はは。」
それから小一時間ほど、ゲンさんと剣造り談義をした。自分が使っている道具のこととか、火力はサラマンダ任せだとか。
お互い、とても勉強になった。
特に、コークスの怪物が居たという話に驚いていた。
すでにこの世界にはコークスはあるそうだ。だがコークスについてはドワーフ族の秘伝とのこと。先日の家のお披露目でも、鍛冶小屋にたくさんあったので、実は驚いていたとのことだった。
ゲンさんも、僕の話から何かヒントを得たようで、目が職人の目になっていた。
「それにしても、俺が作るミスリル剣が、ろくでもねえ貴族の飾り剣になるのは嫌なもんだぜ。」
「まあ、そう言わずに。もしかしたら、すごい使い手に渡すかもしれないじゃない。それに、たとえその貴族の家で眠るとしても、きっと家宝にされるだろうし、数代後には大活躍するかもしれない。考えようだよ。」
「家宝は言い過ぎだが、まあ、材料が泣かない程度のものは作らねえと気が済まねえのは事実だあな。」
「そうそう。がんばって。できたらぜひ見せてね。」
「判った。絶対サキ師匠に見てもらうぜ。」
「あ、また。『師匠』は禁句だってば。」
「がはは。」
ゲンさんとミスリル談義をした翌日。
ワイバーン階まではなんとか到達できたので、シンハも機嫌が良い。
今日は、ダンジョンはひとまずおいといて、いろいろやり残していたことに着手した。
まずは3女王のアクセサリー作りをした。
シルルを森のみんなにまだきちんと紹介していない。
だが森に行くためには、まず何かしらの手土産が必要だ。特にメーリア、ツェル様、ビーネ様に。
シンハいわく、まずはこの3女王のご機嫌をとるのが、森の平和のためだという。他の眷属たちもそう思っているだろうと。
過去に何か苦い経験とかあったのかなあ。
サラマンダや土の一番くんたち他の眷属にもなにかあげたいが、お菓子とか魔力とかしか欲しがらないし。女性体と男性体では欲しいものの方向性が違うようだ。
今回は、雑貨屋で見かけたような、松ぼっくりを加工したブローチと、ミスリルと宝石のブレスレットにした。
松ぼっくりブローチは、キングシダールという種類のキングトレントの松ぼっくりで、地球でのヒマラヤスギの松ぼっくりにそっくり。薔薇の花のような形をきれいに整え、花びら部分が取れてこないようにしっかり根元を接着。真珠粉や金粉、プラチナ粉をまぶし、花心部分は少し抉り、ブレスレットとおそろいの宝石をあしらった。
メーリアには目の色と水をイメージしてサファイアを中心に、周囲を小粒のタンザナイトと透明ダイヤモンドで飾る。
ツェル様には目の色と雰囲気をイメージしてルビーを中心に、周囲をピンクダイヤと透明ダイヤで飾る。
ビーネ様にはやはり目の色と雰囲気をイメージしてアメジストを中心に、周囲を小粒のブルーサファイアと透明ダイヤで飾った。
そして各ブレスレットもそれぞれおそろいの宝石を使った。
特にビーネ様は人化しておらず、蜂の姿だ。以前はブローチにしたけれど、ちょっと付けにくそうだったので、今回は首飾りにできるようにしてあげた。それから、蜂としては巨大だけれど、それでも人間よりも手足は細いので、ブレスレットは落ちないように小さめに作った。
ブローチとブレスレットには、それぞれ物理と魔法の結界機能、呪いや毒避け、治癒力アップの魔法効果をつけた。
同じ効果をそれぞれにつけたが、一緒に使えばもちろん効果は2倍になる、はず。
ブローチとブレスレットの裏側には、3人それぞれの名前を刻んだ。
シルル用にも松ぼっくりカチューシャ飾りは作ったけれど、ちょっと小型。使った宝石も小ぶりである。
そしてブレスレットは3女王だけにして特別感を出した。
うーん。やはり他の眷属たちにも、何か魔法道具を作ってあげたいな。
とにかく今回は3女王分だけとしよう。うん。
さて、3女王分の装飾品がようやくできたので、次にツェル様用の裁縫箱を作る。
これは、豪華なベッドとカーテンのお礼だ。
前世で見かけた、木製で上に把手が着き、天板を開くと3段に展開するタイプにする。
どうもこうした便利な箱は、この世界にはないようだ。
トレント材で箱を作り、組み立てを確認すると、一度分解して、天板には宝石や貝殻を埋め込む。図柄は、シンハの洞窟とメルティアの広場をイメージしたものにして、周囲には色とりどりの花をあしらった。花はどれも森の奥に咲いていたものだ。
側面の板には唐草模様を彫る。天板を開けると鏡も仕込まれていて、ちょっと身繕いするにも便利。
あとは針山とか染めたアラクネ糸とか、ルレット、チャコ、指ぬき、メジャーなんかも入れておく。ルレットやチャコはこの世界にはなかったが、そこは僕が自作。
縫い針は売っていたもののほかに、ミスリルで僕が作った特別な針をいっぱい入れた。アラクネ布を縫うには、普通の針では折れやすい。魔力を流しながらミスリル針で縫うのが効率が良い。
メジャーは売っていた布製のものを使ったが、透明なスライムゴムでコーティング。さらにくるくる回すと収納できるように自作した。あとは使いそうな水牛の角製のボタンとか、貝殻のボタンとか、市販品も入れた。
それでも隙間はいっぱいあるので、そこにはツェル様が使っている愛用の品々を入れればいい。
この世界にミシンはまだない。
僕自身は、亜空間収納内でミシンをイメージすると、魔法で縫えてしまうのだけれど、ツェル様たちにも便利な道具は使わせてあげたい。
アラクネ布は特殊だから、ミシン針もミスリルでないと。
ミシンもいずれ僕が自作して、プレゼントしたいな。
さて、裁縫箱は天板に凝ったので、やはり仕上がったのは翌日だった。(それでもとんでもなく早いとは自覚しております。)
ようやくプレゼントは揃った。
このほかにも自分が作ったたくさんのお菓子や料理、それと街で買った絵本や雑貨、ファッション雑誌(これは、主にツェル様たちにオーダーされたもの)などなどを持って、明日はシルルを連れて、森に行くことにした。
シルルのお披露目会だ。
ひとまずメーリアに念話で明日行くことを伝えた。
みんなに会えるのが楽しみだ。