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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第二章 冒険者の街ヴィルド編
186/529

186 辺境伯邸訪問 本日の装い解説

さて。話を今日のことに戻そう。

シルルをひとしきり喜ばせたのち、僕は3時の面会のため、自室に戻ると自分で仕立てたスーツに着替えた。

少し紫がかった濃いグレーのスーツに白いストライプ織りのシャツブラウス、黒リボンタイをして、青いベルベットのジレ(ベスト)を着る。

上着は少し丈長で、襟が立っていて、上品な金糸銀糸の刺繍が上着の襟元や裾、袖口にさりげなく入っている。ちなみに銀色の糸はミスリル糸と、一部プラチナ糸を使っている。金糸はほんのわずか、控えめに使用。いずれの金属糸も、僕が細く細く加工しアラクネ糸とより合わせたものだ。


森に居たときから、町に行くなら、格式張った礼服もいずれは必要かもしれないと、漠然と材料集めはしていたが、ツェル様と商売の話をするようになって、現実味を帯びてきた。いずれは貴族に対して売り込みに行くだろうから、例えば王族の前に出ても粗相のない、品のいいものを、と町中を見て歩いてデザインを考え、魔法と手縫いと亜空間収納も駆使して自分で仕立てた。


これらはすべてアラクネ糸で織りだした生地を使用している。

スーツは中太のアラクネ糸を使って綾織にしたもの。シャツは細めの糸で模様織りにしたもの。そしてジレは起毛させてベルベット状にした厚めのもの。

すべて風合いも色も異なるが、アラクネ100パーセントである。

色や生地の風合いは、ツェル様たちから提案されたり、僕が指示したりして作り上げた自信作だ。


たぶん、王都の貴族でも、これほど上等なものはなかなか持っていないだろう。それほどアラクネ製の生地は、今はとても高価なのだ。というか、今の僕のいでたちは、天文学的数字になるくらい高価なはずだ。


本当は腕のよい仕立屋にやってもらいたかったのだが、アラクネ布だとわかるといろいろとうるさいので、まずは自分で仕立ててみた。最初はブラウスだけ、と思っていたが、ミシンのように縫うことをイメージしながら亜空間収納内で魔力を使うと、ちゃんとミシン縫いまでできてしまった。それで結構自分でも縫えると判ったので、調子に乗ってスーツとジレまで自分でやってしまった。

もちろん裏地もアラクネ布。スーツの裏地は青紫だが、艶のある経糸と横糸でそれぞれ別の色糸で織ってあり、光線の関係で玉虫色にみえる。これも僕が指示してツェル様たちに織ってもらったもの。上着がひらっとすると青紫の玉虫色に光って色っぽい。


ボタンは街で売っていた高級ボタンを参考に、手持ちの材料で亜空間収納の中で自作。シャツのボタンは魔兎の角製。貝のようにつやつやして白い。丸ではなくわざとゆがませて光線の変化を受けるようにしてある。スーツにあわせて紫糸でクロスに縫い付け、さりげなくオシャレに。


カフスボタンだけは別に取り付ける方式で、カフリンクスというやつだ。

これは黒龍の角で縁をつくり、ミスリルと組み合わせてベースとしてある。それに楕円形にブリリアンカットをした、大きめサファイアを埋め込んだ。金具部分もミスリル製。アクセントに金も使ってある。裏側から光を取り入れるので、サファイアは美しく輝く。もう片面はミスリル製の平らな丸いもの。中央に、剣やジャンビーヤに入れたのと同じ世界樹マークを金でつくりはめ込んだ。このカフリンクスだけでもう一財産というか、値段が付けられない。


スーツのボタンは黒龍の角を多角形に加工。各面をマット状と艶ありとに加工してある。黒いので一見するとオニキスかジェットのようだが、魔力含有量が半端ないので存在感がある。


ジレのボタンは共布で作ったベルベットのくるみボタン。ベースは魔兎の角で、縁と裏側は18金製。普通なら銅に金メッキだが、メッキが面倒だったので、まるっと18金の板金で加工したためだ。24金にしなかったのは、強度が欲しかったから。これも日本ではありえない豪華さだ。


なお、スーツのズボンは、この世界にファスナーがないので、貴族は前または両サイドボタン留めにサッシェ(帯)装着か、または紐状のベルト方式で、それにサッシェをする。

このサッシェというのは、サッシュベルトまたはカマーベルトなどとも言われるものの原形と考えれば良い。普通にストールのような細長い布で、腰に巻き、脇でリボン状に結び垂らす。このズボンは両脇ボタンにサッシェ方式。ボタンはさすがに此処は魔水牛の角製の平ボタンであるが、ボタンの中でも魔水牛製は超高級品である。


黒のサッシェは、ツェル様から森を出発する時にいただいたお餞別。アラクネ糸で織ったもので、艶のある紋織りの生地。脇で結んで小粋に垂らす。金糸とミスリル糸を織り込んだフリンジが優雅に揺れ上品である。

地球と違い、ジレを着てもサッシェをするのが準礼服以上の装い。サッシェをしていると街中ではほぼ貴族の証しみたいに思われているが、庶民でも貴族邸に行く時などはサッシェをする。


靴は貴族風にボタンがたくさんついた藍色のショートブーツ。これは靴屋で買ったポインテッドトウのブーツを見本に、柔らかい魔羊革を甲革に、ワイバーン革を靴底に、つま先とかかとにはアクセントと実利をかねて、丈夫な黒龍の鱗を薄くしたものを貼った。そのためつま先とかかとは、一見すると黒エナメルに見える。だがこの靴は、あたりが柔らかく歩きやすいだけでなく、魔力を通すと速く走れるし、鉄のように堅くもなる。しかも傷まない保存魔法つき。戦闘にも耐える靴だ。


カフリンクスや上着全体にも、防御の魔法などをいろいろ付与してあり、魔術師の正装としても遜色ないものである。というか、このまま森の最奥で龍種と戦えるほど、あらゆる意味で強靱な衣装ではある。


これらの衣装が貴族家に行っても王宮に行っても問題ないことは、ユリア先生にも確認済。

製作途中だったので、着ているところはみせていない。ボタンなどの素材は言うと卒倒されるから言わなかったが、生地がすべてアラクネ布製と聞いて、唖然としていた。


ちなみにこれら衣装一式をツェル様に見せたところ、なにか感じるところがあったらしく、次はぜひスーツを作らせて欲しいと言われ、快諾したらなんとさっそく数着作られてしまった。

どれもとても素敵だが、ちょっと豪華すぎ。王族も真っ青なきらびやかさなのだ。なので、悪いけどもう少しシンプルに、かつ地味に、とダメだしして、今やり直してもらっている。だって、タ○○ヅカのベル○ラみたいなんだよう。それはちょっと着て歩けない。


「おっと。これをつけないと。」

仕上げに胸元にシフォンのような薄いアラクネ生地でできた藍色のチーフを胸ポケットにさせば、何処の貴族令息かと思ってしまうのは自画自賛というやつか。


ちなみに背中まで伸びたプラチナブロンドの髪は魔法で切りそろえてある。特製メルティア水をシュッシュして髪をとかせば艶めいた髪に。香りもさわやか。香水嫌いのシンハもこの淡い香りなら問題ないと承諾済。

後ろでリボンで結ぶことも考えたが、貴族じゃないしパーティーでもないから、今日はこのままでいいだろう。


そうそう、今日はおめかし用のウエストポーチが亜空間収納バッグだ。これも柔らかな白大蛇革を、真珠粉入りの青と白銀色のラメ入り染料で染めた自慢の逸品。

四隅の補強にはトータス・グラトニアの甲羅を使用し、隅金具は18金。中央の留め具は黒龍の角製。ポーチのベルトは黒龍の革を切り出したもの。丈夫さで選んだのではなく、ただマット調でひたすら漆黒の革ということでこれにした。


冒険者は登城でも収納バッグの携帯は許されているそうだ。王城で王に謁見の時だけは部屋の入り口で預かられてしまうそうだが。

武器は預けるか、バッグに入れる。ただしもし許可なく王宮内でバッグからうっかり武器など出せば、重い罪に問われると、ユリアから教えてもらった。


『ほう。お前もちゃんとそれなりの格好をすると、それなりなのだな。』

とシンハさえ感心した。

「それなりってどういう意味だよ。ちゃんとシンハも行くんだからね。」

シンハも今日はおめかししている。

毛並みを整え、首輪も虹色と金糸とミスリル糸を入れた、アラクネ糸で作った新しい組紐細工の首輪に、鑑札をつけている。鑑札を付ける中央部分にも透かし彫りの金細工板が付いていて、豪華ですよ。

金やミスリルなどの金属糸は、アラクネ糸と繊維がからんでいれば、魔力を流すとちゃんと伸び縮みしてくれる。

『判っている。まあ、一緒に行けるところまでは行ってやる。』

領主邸内のどこまでシンハが行けるかは、判らないが。

まあ、面会する部屋の前くらいまでは行けるだろうと思っている。

なにしろギルド長が一緒だから。


「とにかく。相手は大貴族。悪いがいろいろとガマンしてくれよ。」

『俺を誰だと思っている。お前よりずっと経験は豊富なのだぞ。』

「はいはい。そうでした。」

などと言い合っていると、ぱっかぱっかという馬の規則的な足音。

ギルド長が馬車に乗って乗り付けたのだった。



商談用とはいえ、サキのオタク的クラフト魂には脱帽。

作者としては、小道具解説、楽しいです。ナハハ♪(*^_^*)v

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