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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第二章 冒険者の街ヴィルド編
181/529

181 解体魔法がとんでもねえ

話題に出た『シャイニングバード』は、男性2名に女性3名のパーティーだ。

そのうち女性3名が、例の『龍のアギト』討伐の時、職員のジルと一緒に野営地に残り、基地の保全をしていたのだ。

あとの2人の男性は、カークさんや僕のいた野営予定地だった「花咲き丘」の討伐隊に加わっていたのだった。


あのときはDランクだったはず。盗賊討伐は点数が高いので、Cに上がれたのだろう。

ゴブリン退治の時の女性の斥候も、そのうちの一人。ライラさんという。なるほど。なんとなくわかった気がする。なるべく割の良い仕事を見つけて、この孤児院を援助していたんだな。


「盗賊討伐のあと、うちに身を寄せていた人たちも、今は皆さん働き口が決まって出て行きました。でも時折顔を見せてくれます。」

「あ、そか。じゃあえーと、エッダさんとかアリスさん、ジェファさん、それから…ユニスちゃんとか?」

「はい。エッダさんたちは冒険者登録をして『シャイニングバード』と一緒にがんばっています。ユニスは、洗礼を受けて私たちの「家族」になりました。今、研修のためヴィルドの教会のほうに行っています。みなさんがんばっていますよ。」

そうか。ユニスちゃんは修道女になったのか。正確にはまだ見習いなんだろうけど。

「そう!そうか。良かった。」

「お会いになりますか?エッダさんたちなら連絡がつきますよ。ユニスは夕方帰ってきますし。」

「え、…いいえ。いいんです。」

「……。」


子供のユニス以外、盗賊の捕虜だった女性たちは、すでにあのとき純潔ではなかった訳で。そういう過去は忘れたいだろう。きっと特にあそこで出会った僕には会いたくないだろう。


「元気ならそれで。それに、冒険者ならそのうちギルドで見かけるでしょうし。」

と笑顔で言っておく。

実はエッダたちはもう見かけている。初心者研修会に参加しているのを見かけた。『シャイニングバード』と仲良くしていることとかは知らなかったけど。

その後も3人で楽しそうに冒険者姿で歩いているのを見かけた。だから、それで十分。むこうは僕に気づいていないようだったし。でもシンハが目立つから、街中では見られていたかもね。


ユニスには、1度だけ会いに来た。笑顔で「サキお兄ちゃん」と言ってくれた。エマさんは知らなかったのだろう。

「そうですか。じゃあ、エッダさんたちには、お仕事でいらしたことだけ、機会があれば伝えておきます。」

とエマさんはわかってくれた。



午前中で建具の取り外しが終わり、僕が扉や窓も収納した。

そして午後。

「じゃあ、ちゃっちゃとやりますか!」

と僕一人が気合いを入れる。

「マジでこれ全部一気にやるのか?」

と親方。

「うん!たぶんだいじょぶ。ただ、内部に人がいると危ないから。避難は終わってますよね。」

「ああ。院長に確認した。」

傍にはシンハ。ちゃっかり昼時からは僕の傍にいる。子供達が近くにいないのと、おやつという名の昼食を食べるために、顕現していた。

索敵で建物内部に人がいないのを確認。


「では。行きます。結界!」

建物の前にくると、僕はまず、結界を張った。

ホコリとかが飛ばないように、石が崩落しても、飛び散らないように。

それから、杖を取りだし、呪文を唱えた。

「イ・ハロヌ・セクエトー…解体!からの、建材収納!」

すると、端から次々に分解され、建材の石や屋根、材木などが次々と消えていく。

防音はしなかったので、バリバリ、ガラガラ、ミシミシ、バキバキ…といろいろな音がしている。


「うええ。すげえ!」

「うお!」

「まじかよ…」

「すごい…」

ちらりと見ると、職人さんたち、院長先生やシスターたちが唖然としている。みんな口をぽかんと開いて。

口からホコリが入るよ。いや、結界しているから、ホコリはたっていないけどさ。


結界の中はもうもうと砂埃。そのホコリも一緒に風魔法を使って収納。あとは亜空間内部でクリーン処理し、砂とか土は分別しストックして、本当にどうしようもないゴミは「ごみ箱」へ。


「ふう。と、こんなもんかな。」

僕は作業を終えた。ものの5分といったところか。それでも丁寧にやったつもり。


それから、削ったところまで歩いて行って

「壁、生成!」

と杖を振ると、今度はぱたぱたと石材が空中に飛び出しては一段一段、積み上がっていく。積み上がりながら、石と石の間にはパテを塗り、魔法で速攻で乾かし、また石が積み上がる…。

途中、1階と2階にひとつづつ窓も作る。窓には外した窓を再利用。これに3分。作った新壁の内側には古材を利用して補強を入れ、漆喰仕上げ。これに3分。


「ふむ。こんなところか。ついでに…屋根、修繕!」

と唱え、孤児院部分の屋根の穴も塞ぎ、雨漏り対策もばっちり。煙突の石のカケも直しておく。


「最後に…クリーン!!」

外壁がとてもきれいになった。内側の漆喰の亀裂も直ってきれいになっている、はず。

皆、唖然。

「まあ、こんなもんでしょ。」

と僕はぱんぱんと手を叩いて大満足。

さすがにちょっと魔力消費を感じたので、いつものように、さりげなくエリクサーという名の栄養ドリンクを1本飲んだ。

「ぷはあ。」

一仕事したあとの栄養ドリンク、美味しいよ。


『サキ。』

と足元からシンハの声。

「ん?」

『やりすぎだ。』

とシンハに白い目で見られた。

えー、そうかなあ。


「もうなんと言っていいか…。神の奇跡を見たようですわ!」

と院長先生が大興奮で言っていた。

「もしこれを魔術師にご依頼すると、普通は何千万ルビ…いいえ、億単位のお金を積まないとやってくれないでしょう!

『魔塔』でも、このような早さで出来る方がいるとは思えませんが!」

えーそうなんです?でも天下の『魔塔』でしょ。もったいぶっているとか?


「サキ、ほんっとうにこの金額でいいのか?」

熊親方からは規定額最高の500ルビに、手間が省けたお礼と言ってもう4,500も足してくれて、依頼達成証明書には代金5,000ルビと添え書きがある。

「もちろん。ていうか、いいんですか?依頼書より10倍も高いですよ。」

しかも、中級ポーションを2本も、親方から貰った。


「いいんだ。ほれ、「応相談」と書いてあるだろ。違反じゃねえ。」

「はあ。」

「つうか、こんなはした金ですむ話じゃねえわな。謝礼はまた別に考えとく。」

「え、いやいや、いらんです。家具とか木材とかガラスとか、たくさんもらいましたし。」

「何言ってる、そんなもんだけであの大魔法じゃ、まるで割りにあわんじゃないか。…わかった。金じゃねえものを考えとく…ふむ。採掘権なんてどうだ?」

「へ?採掘権?」

「ああ。とあるお貴族様のお客から謝金のかわりに譲られたもんだ。まあ、ハズレの可能性もあるが。お前さんならなんかうまいこと「やらかす」んじゃねえかと思ってな。あとで証書、やるわ。」

「はあ。」


なんでも、ヴィルディアス領内の「トカリ大渓谷」の採掘権らしい。「トカリ大渓谷」は隣のアルムンド帝国とこの国すなわちケルーディア王国の国境を成しており、お互い不可侵の土地だが、深い渓谷のそれぞれの崖側は、もちろんそれぞれの国の領土であり、採掘は認められている。だが、場所が場所だけに、大規模な開発は両国ともにできずにいた。


王国が先代の王の頃に、トカリ大渓谷を領地に持つヴィルディアス辺境伯に「採掘権」を無理矢理買わせて戦争のための軍資金を得たそうだ。辺境伯はそれをさらに分割して、安く払い下げたのがはじまり。だがいっこうに開発は進まず、また有益な鉱石が大量に採掘されることもなく、今では空手形なみの扱いだ。


でも、たしかに僕なら優秀な索敵くんもいるし、化けるかもしれない。

というか、「トカリ大渓谷」は「はじまりの森」まで伸びていて、その先は「ペルメア大渓谷」に続いている。昔の魔法使いのアンデッドがいて、瘴気の谷だったところだ。この領都に来るとき通ったが、ちらと山肌を鑑定したら、金やアダマンタイト、ミスリルの層があったわな。あのときはとにかく走り抜けることで精一杯で、試掘もしなかったけど。

地層が続いているなら、たしかに「化ける」かもしれない…。


ということで、孤児院の依頼はわずか半日ちょっとで終わってしまった。

そこで現地解散、お仕事終了となった。僕が収納した石材は、あとでギルドの指示する壁外の空き地に置く予定。


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