180 孤児院でのお手伝い
翌日、火の日、朝8時より10分くらい前に孤児院へ行く。
シンハに、魔力に入るかと聞いたが、俺は用心棒だ。というので一緒に行く。
でもさあ、孤児院って子供達がいるぞ。知らないぞう。
すでに熊親方たちは門前に集まっていた。
「おはようございます!」
「ようサキ!」
「先週ぶり!」
「あは。ですねー。」
そうなんだよね。僕の家の改造工事で、先週まで来ていた職人さんたちが4人。親方と僕を入れて6人だけだ。
他にこの仕事を受けた人はいないそうだ。
逆に好都合。あまり僕が魔法を使うところを見せたくないし。
「おはようございます。」
とマザーと呼ばれる院長先生と、シスターと呼ばれる尼僧さんとが出てきた。
「今日はよろしくお願いします。」
とマザー。
「よろしくお願いしやす。で、さっそく現場を拝見させていただきやす。」
という親方の言葉で、僕たちは孤児院の敷地に入ると、そのまま裏手へと案内される。
その途中で
「あ!白いわんわん!!」
と子供達にシンハがさっそく見つかった。
でも、お世話係のシスターに、
「わんちゃんはお仕事なのよ。」
と言って子供達を連れていってくれた。
『朝から嫌な予感がしていたんだ。サキ。魔力の中に入れろ。なで回されるのはかなわん。』
はいはい。
職人さんたちの最後尾を歩きながら、シンハを魔力に溶かす。
「あれ、犬は?」
「うん。どっか遊びにいった。敷地内にいるから大丈夫。そのうち戻ってくるよ。」
としらばっくれておく。
建物の裏手にまわると、そこはあまり整備されていない裏庭があった。一部分だけ畑が作られている。表からは見えなかったが、建物はL字に曲がっており、修道院と孤児院とが一棟だったらしい。そして今回壊すのは、L字の一辺にあたるところ全部。2階建で長さは80メルくらいか。
使用していないという修道院の部分は、石のブロックでできた堅牢な建物。だが結構荒れていて、窓ガラスが割れていたり、カーテンがボロボロだったり、ウチより幽霊屋敷っぽいじゃないか。
よくこんなところの横で暮らせたなあ。
「最終的には壊して穴になった面は壁にしてしまいたいです。窓は付けたいですが、お高くなりそうなら諦めます。」
という。たぶん収支はかつかつなのだろう。
「手入れが行き届かなくてお恥ずかしいです。先日の大雨で特に傷んでしまって。
修道院が移転してから、孤児院は辺境伯様の管轄ということになり、ミハエル・レビエント枢機卿様がヴィルドに来られるまで、教会からの支援がほとんど来なくなってしまいました。その期間が長かったので、このようなことに。
今回は見かねた領主様とレビエント枢機卿様が、庭を広げて畑にしてはどうかとおっしゃって、特別に資金をお出しくださいました。」
なるほど。領主とレビエント枢機卿が救いの神というわけか。
マザーやシスターたちは辺境伯から教会に依頼して来ているという形をとり、かろうじて教会との結びつきを残している。
それでも、レビエント枢機卿が来たので、かなりマシになったらしい。世界樹を祀る教会なんだから、がんばってもらいたいものだ。
中はもう、家具はなるべく移動させたが、大きなテーブルや各部屋の扉などはそのままになっているという。
家具は売れる物は売ってしまったので、今残っているのは家具屋も引き取らなかったものだけらしい。
もし引き取ってくれるならそれだけでありがたいと言われた。もちろん、本来の持ち主である教会は、建具や家具についても放棄状態ということだった。
親方も、欲しいなら、お前にやるぞと言ってくれたので、じゃあ遠慮無くいただいておこう。
親方とすれば、僕が仕事に魔法を使うことか前提なので、少ない報酬の補填という意味だろう。
なお、石材は解体資金を領主が出す代わりに、教会からもらうことになっているそうだ。それで街の石畳や外壁の修理材料にするらしい。
なのでそれ以外、窓や内装の木材などは廃棄予定だったそうで、欲しいなら僕がもらっていいという。
「窓のガラスもいいんですか?柱なんかトレントだし、太くて立派ですけど。」
「ああ。領主様は石材だけだし、木材もガラスも、俺は間に合ってる。保管場所も満杯なんだ。欲しいなら皆お前さんにやるよ。魔法代だ。」
「皆さんは?いいんですか?」
と周囲の職人さんにも聞いたが、すでに了解済みらしく、サキが持っていけ、と言ってくれた。
「わかりました。ではありがたくいただきます。」
ということで、じゃあ、ホコリ以外すべていただきましょう。
親方たちとまず段取りの打ち合わせ。窓や扉などは職人さんたちが外し、僕は外した建具と重くて動かせなかった家具を亜空間に収納。それから壁壊しに入ることと決まった。
「親方、これぐらいなら、僕一人で一気に解体しながら収納しますよ。新しく作る横の壁も、解体した建材で作ります。」
というと、
「やはりな。もう俺は驚かんぞ。」
と苦笑い。
ということで、職人さんたちは建具の取り外しにさっそく入る。
僕は大きなテーブルなど、収納しやすいものから先に収納するので、シスターに建物のあちこちを案内してもらう。年齢は18歳くらいだろうか。若いおねえさんだ。エマさんという。
「すごいですねえ。魔法で収納するなんて。」
と目を輝かせている。
「えと。できれば内密にお願いしますね。あまり人に知られたくないんで。」
と言っておく。
「わかりました。」
と真顔で言ってくれた。
「子供達は今何名くらいです?」
とさりげなく聞くと
「今は25名です。乳飲み子が2名おります。」
「わあ。大変ですね。」
「ええ。可愛いですけどね。」
「実は僕も、親がいないんで。」
この世界にね。
「まあ、そうなんですか。お若いのに、ご苦労なさったんですね。」
と同情されてしまった。
「でも熊親方とか、冒険者ギルドの皆さんとか、みんなによくしてもらっています。この街はいいところです。」
「ええ。私もそう思います。私は王都から来たのですけど、此処はいろいろ住みやすいです。物価も安いし、なにより領主様がご理解がありますし。」
「そうですね。…人手は足りないようですが、大丈夫ですか?」
と聞くと、
「昼間は3名ですけど、年かさの子達が手伝ってくれますし。夜には冒険者になった子たちが大人になって、此処に下宿してくれているんです。なので大丈夫。お家賃も入って、魔物の肉も取ってきてくれますし。」
「へえ。なるほど。冒険者さんたちがいるんですね。」
「はい。Cランクの『シャイニングバード』です。ご存じありませんか?」
「あー、知ってます!一緒に盗賊討伐に行きました!そうですか。それなら安心ですね!」
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