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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第二章 冒険者の街ヴィルド編
179/529

179 ヴィルドでの暮らし

ギルド長がミーシャ君を連れて風呂場へ入っていった。

『嫌な予感がする。俺はそろそろ帰りたい。』

「(だめだよ。シンハ。)」

『うう…。』

などと、シンハと二人だけでひそひそと念話していると、ほどなく


「シンハー!」

と濡れたまんまのはだかんぼうがシンハに突進してきた。

「あ、こら。ミーシャ、ちゃんと拭いて!」

「きゃー!」

もうシンハにじゃれついてしまっている。

大人たちはあきれている。

ミーシャ君は毛だらけ…にはならない。シンハの抜け毛は霧散してしまうから。

仕方ない。風で乾かしてやろう。

「ミーシャ君。シンハ。ちょっと動かないでね。…結界。クリーン、ウォームウィンド。」

クリーンをかけてから、ぶわーっと一気にミーシャとシンハを乾かしてやる。

「おお。すごい。」

「さすがね。」

「はい。できあがり。毛はついてないはずだから。今のうちに服を。」

「ありがとう。すごいわね。一家にひとり、魔術師ね。」

「あはは。まいどー。」

「まったく、無駄に器用だな。お前は。」

風呂から上がってきたギルド長が呆れたように言った。

「また『無駄』だなんて。ごめんなさいね。失礼なオヤジで。」

とアマーリエさん。

「あはは。いえ。シンハと暮らしていると、結界とウォームウィンドは必要魔法なんですよ。」

「なるほどね。」


ようやく、今日の相談事である引っ越し祝いの話しをはじめる。

誰を呼ぶかのリスト作りだ。

最初はユリアとだけ相談するはずだったが、結局アマーリエさんが加わり、ギルド長も加わってしまっていた。

ふと脇をみると、ミーシャ君がシンハの脇でぐっすり眠ってしまっている。

それをギルド長が抱っこして部屋に寝かせに行った。

ああ、そんなふうに、僕も父や母に抱っこされたっけな、とまた思い出す。

本当の幸せは、こんなふうな小さなところにあるんだ、としみじみ思った。


シンハも本気で眠いようだ。

ミーシャ君のお相手もしていたから、きっといつも以上に神経を使っていただろう。

「今日はすっかりごちそうになってしまって。ありがとうございました。」

「いいえ。こちらこそ。魔兎、美味しかったわ。またいつでも来てちょうだい。たぶんミーシャもシンハ君に会いたがるだろうから。」

「ありがとうございます。パーティーにはもちろん、ミーシャ君も連れてきてくださいね。」

「ありがとう。」

「魔兎、美味かったぞ。」

「次はまた、別のレパートリーをご披露しますよ。」

「楽しみにしてるわ。パーティー。」

「そうだな。」

「う、ちょっとプレッシャーだ。料理、が、がんばります。」

「ふふ。おやすみなさい。シンハ君もありがとね。ごくろうさま。」

「ばう。」

「またな。」

「失礼します。」

「あ、下まで送ってくるわ。」


夫妻にあいさつして、ユリアと一緒に階段を降りる。

結局、デートにはならなかったな。

まあ、こんな形のほうが僕は楽しいけど。

「ごめんなさいね。すっかりなんだかうちの雰囲気にあわせさせちゃって。」

「ふふ。そんなことないよ。とっても楽しかった。…ちょっと安心した。ユリアがどんなふうに暮らしているのか、判ったから。」

「そう?まあ、あんな感じよ。…人間の家庭ってどこもああなのかしら。エルフは…もっと静かで会話も少ないのが普通なの。」

「そうか…。まあ、人間でもいろいろだとは思うけどね。」

「そうね。」

「今日は楽しかった。ありがとう。」

「ううん。あまり相談にのれなかったわ。ごめんなさい。」

「そんなことないよ。大体のところは相談できたし。良かった。今度、うちの家族も紹介するよ。」

「え、家族?サキに家族がいるの?」

「うん。シルルっていう妖精なんだ。」

「あ、もしかして、例の?」

「そうそう。幽霊騒動の。」

「なるほど。そうだったわね。結局、一緒に暮らし始めたのね、シルキーのシルルと。」

「うん。可愛いよ。10才くらいの見た目かな。遠い親戚の子ということにしてるんだ。ユリアも知っての通り、妖精というのは一応みんなにはナイショだけどね。」

「そうだったわね…あ、じゃあ、今日は一人でお留守番させちゃったわね。シルルちゃんに。」

「大丈夫。今日は遅くなるって言ってきたし。見た目より大人だから。もう、寝てると思う。」

どうも行動が10歳児未満だが。


マンションの大扉の前で。

「じゃあ、ここで。今日はありがとう。」

「またね。シンハも。今日はありがとう。」

「ばう。」

「おやすみ。ユリア。」

「ん。夜道、気をつけてね。」

「ふふ。だいじょぶ。シンハがいるから。」

「そうね。おやすみなさい。」

「おやすみー。」

初デートはそんなふうにして終わった。


夜道を歩く。

空は満天の星空。そして月は二つ。

森の真ん中で見たのと同じはずだが、町の明かりのせいで少し明るくて、星が少ないかな。

それでも地球の日本とは比べものにならないくらい、星が今にも降ってきそうなほどたくさん見えている。

町中は夜だが少しも物騒ではない。

(まあ、夕方出会ったようなヤツらもいるけどさ。)


魔獣がいる森がこんなに近いのに安全なのは、強力な結界石が石塀に仕込まれているからだけではない。

さすがに、女性がひとりで歩いていて無事かと言われたら、日本のようにはいかないが、それでも他の都市より、ずっと治安はいいらしい。

衛兵たちが、夜通し見回りをしてくれているし、極端な貧困者がほとんどいないので、盗みのために殺人を犯したり、ということがほぼないらしい。

いちおうスラムはあるが。


この街では、冒険者になればなにかしらの仕事はある。

冒険者になれない者でも、いろいろと救済の措置がとられている。

そして領主すなわち辺境伯が、重い税を課さない主義だということが大きい。

領主は教会から委譲された孤児院を経営し、隣の領地からの孤児まで引き受けていると聞く。

この町を知れば知るほど、領主の影響は大きいなと、感じる。

この町の人々は領主を尊敬しているし、慕っている。

人々の間から漏れ聞こえて来るのは、領主の悪口ではなく、感謝の言葉が圧倒的に多い。

これはおそらく、この国でも珍しいのではないだろうか。

そういう訳で、僕は面会することになる領主がどんな人物なのか、会うのをひそかに楽しみにしている。


風が気持ちがいい。

町中だが、いやな臭いがない。

下水も完備しているし、すえた臭いもなく衛生的だ。

(臭わないのは、僕が側溝を掃除したのもあるけどね。)

この町は、活気があるのに、おだやかだ。

夕方の出来事でわかるように、近所のひとたちは、僕たち冒険者のこともあたたかい目で見守ってくれている。この町に家を持って本当に良かったと、今夜はしみじみ思った。


屋敷に到着すると、静かに玄関扉をあけて入っていく。

森閑とした大きな屋敷。

でも少しもさびしくないのは、2階でシルルが眠っていると判っているから。

レディの部屋を覗くのは御法度なのでしないけれど、安らかな寝顔で眠っているのが想像できて幸せな気分になれた。


部屋に入ると、シンハがそのまま寝室に行き、ベッドにどっかり上がった。

「あ、クリーン!こら。シンハ。行儀が悪い。」

『俺はもう眠い。』

「ふふ。今日はご苦労さま。眠いのは判るけどさ、これからは自分でクリーン、かけてからベッドに上がろうね。君、できるだろ?クリーン。光魔法得意なんだから。」

『おやすみ。』

「まったく。都合良く聞こえてないフリするんだから。…おやすみ。今日はご苦労さまでした。」

『うむ。』


僕ももう眠い。

歯磨きとシャワーは割愛でクリーンで済ませて。

ベッドにあがる。

明日は8時に孤児院集合だ。

熊親方と解体作業。遅刻厳禁なのだ。

ステイタス画面にある「目覚まし」もセットした。

おやすみなさい。シンハもよい夢を。



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