175 プレゼントは手作りが基本
僕が階下に降りてきた時、たぶん妙な顔をしていたのだろう。
ユリアが心配して走ってきた。
「どうしたの?何かあった?」
「ん?いや。どうして?」
「だって、なんだか…いつもと違う。サキ、笑ってない。」
「え?そう?僕、いつも笑ってる?馬鹿みたいに?それはそれで考えちゃうなあ。」
「あら。そういうつもりじゃなくて。」
「はは。ごめん、混ぜっ返して。心配してくれてありがとう。…領主様とお会いする話だったんだよ。あのお屋敷を売っていただいたから、一度はご挨拶しろって。確かにそうだなと思ってはいたけど、僕、貴族のひとと会ったことないから、緊張しちゃうのは目に見えてるからさ。ちょっとブルーになってたわけ。」
「なあんだ。そうなの。」
ユリアはほっとしたようだった。
「丁度いいわ。私、貴族の作法、教えてあげましょうか。」
「え、ユリア、詳しいの?」
「あら心外だわ。私、何度も王宮へ行ってたのよ。隣の国のだけど。」
「あ、そうか。」
「ふふ。作法は此処の国と変わらないと聞いたことがあるから、大丈夫だと思うわ。教えてあげる。」
「ありがとう。そういうことなら、お願いするよ。」
「任せておいて!」
ユリアが自信満々で笑ったので、僕はほっとした。
ユリアと、また夕方に、と約束してギルドを出た。
ユリアと会話して、僕はまた明るい気持ちになれた。
やっぱり彼女の笑顔はいいな、と素直に思った。
そうだ。夕方に「デート」だから、何処で食べようかな。
高いレストランはお互い肩が凝るし、気さくなところがいいだろう。
いっそのこと屋台に誘ってみようか。
きっとまだ屋台ではあまり食べてないんじゃないかな。
あ、そういえば、ツェル様にベッドのお礼はどうしようかな。
熊親方のところへと向かいながら、いろいろ考え、途中、小間物屋を覗いてみる。
針や裁縫道具をアラクネさんたちの分まで大量に購入し、それからツェル様へのおみやげを探す。
お、まつぼっくりを薔薇の花のように加工したブローチがあった。
豪華なものより、こういうもののほうが喜びそうだ。宝石をあしらえば、それなりに高価なものになるし。あ、でもメーリアとビーネ様も、きっと欲しがるよなあ。じゃあ、ベッドのお礼は別に考えよう。あ、宝石入りの素敵な裁縫箱なんかどうだろう!うん。いいかも!
ほかのアラクネさんたちには、パイの差し入れかな。雄のアラクネさんたちにはミートパイ、雌のアラクネさんたちには甘いパイ…。
あ、そう言えば、キングトレントの若枝を残しておいたっけ。あれにまつぼっくりがあったな。
結局、僕は小間物屋でヒントを得て、自分で作ることにした。
ああ、それと、いつも屋敷でがんばってくれているシルルにもまつぼっくりブローチはあげたいな。
あとはシルルにはエプロンを。
隣の雑貨屋で可愛いエプロンが売っていたので、それを購入するか迷ったが、結局アラクネ布で自作することにした。
お揃いリボンのカチューシャも作ろう。
もちろん、これらには魔法で防御魔法を付与しよう。
僕はやっぱり何か作っていたほうが性に合っているみたいだ。
商店をいくつか見て、また香辛料なども買い足し。
それから熊親方の工房へ向かった。だが、道の途中でばったり、熊親方に遭遇。
「あ、親方!」
「おう。サキじゃねえか。」
「今、親方の工房に向かうところでした。」
「うん?」
「これ、僕が受けたんで。」
と言って依頼書を見せる。
「ああ、これかあ。お前さんが受けてくれりゃあ好都合だが…いいのか?割に合わねえ仕事だぞ。」
「構いません。少しは孤児院にもご奉仕したいし。資材運びは得意だし。」
「まあ、お前さんならな。こっちもありがてえ。いや、本音を言うと、お前さんに頼もうか、と話してたんだ。サキなら2日くらいで終わらせちまうだろうしよ。だがなあ。この依頼料じゃあなあ。言い出せなくてよ。」
「遠慮しなくていいのに。というか、僕の家の改造工事で、この仕事後回しになってたんじゃないかなって思って。」
「まあ、実はそうなんだ。なかなか人手も集まらねえし。」
「やっぱりでしたか。じゃあなおさら、僕が受けて正解でしたね。資材運びって、石とかですか?」
「ああ。北の壁沿いに孤児院があるんだが、敷地だけは広くてな。というのも、以前は教会付属の修道院と孤児院があったんだが、修道院は隣の王家直轄領に移転しちまって、今は領主様が援助されてる孤児院だけがある。それで使っていない修道院部分だけ壊して、そこを畑にしようということさ。」
「なるほど。じゃあ、一部解体ですね。」
「ああ。そうなるな。崩した石材は街の壁の補修とか街路の整備などのために、領主様が教会から格安で譲ってもらう話になっているそうだが、これまで建物を崩すのが大変で、手をつけずにいたというわけさ。明日からできるかい?」
「ええ。明日と明後日なら特に大丈夫です。」
「そっちも家の改造で忙しいのに。悪いな。」
「いえいえ。親方たちにがんばってもらっちゃったから、予定より早く終わりましたし。じゃあ。明日8時に現地集合で良いですか?」
「おう!よろしくな!」
「こちらこそです。あ、それと。」
僕は家の改造が終わったので、金の日に引っ越し祝いをする話をした。工房の職人さんたちもぜひ、と誘っておいた。熊親方は笑って快諾してくれた。
帰宅して、今夜は外で食べることをシルルに告げて、あとは鍛冶小屋に籠もって、夕方までひたすら細工物。
森のみんなへのプレゼントをいろいろ作った。
なにげに危険だと思ったので、自分でステイタスボードの時計で目覚ましをかけておいたから良かったものの、あぶなく夢中になりすぎて、ユリアとの夕方の約束をすっぽかしてしまいそうだった。やばいやばい。