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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第二章 冒険者の街ヴィルド編
172/529

172 新しい家 最初の招待客

熊の親方と話し合って、一週間後。壁塗りも鍛冶小屋の仕上げも、各種扉や窓の設置もスムースに終わった。

どうやら素人の僕がたった3日間であらましを作ってしまったことに職人魂に火がついたそうで、親方みずからが金槌を手に、工房の職人総出でとりかかってくれたので、異常に早くできたらしい。

扉も熊親方太鼓判の、細工の得意な職人が作ってくれたので、シンプルだがすばらしい扉ができた。

親方たちの手技には感心するしかない。


改造工事の間、僕はシンハと何度か森を行き来して、不足気味になったトレントを仕留めに行ったり、庭の畑の仕切りに使う石を採取するなどの作業をしていた。

トレントは乱獲すると問題なのだが、それは森の王者であるシンハの指示で、最近間引かないと問題になりそうな地域というのがあったので、そこを中心に討伐したから、森にとっても良いことだったようだ。

残念ながらそのエリアは森の奥ではないので、メーリアや妖精たちにはちょっと会って、チョコレート菓子を渡した程度。

ごめんよ。今度ゆっくり森に帰るからねー。


夜は海猫亭に泊まったり、新居に泊まってみたりと、大工仕事の状況で寝場所を変えていた。シルルも、僕と一緒であれば海猫亭に泊まることができた。

マーサさんには

「隠し子かい?」

とからかわれたりもしたが、可愛いシルルは海猫亭でも大人気で、特別デザートが厨房のジルベルトさんから届いたりして、とても幸せそうに食べていた。


新しい家の改造も終わりかけたころ、ツェル様から呼び出しがあった。ベッドとカーテンができたと。

いそいそとアラクネ女王の巣近くにテレポート。

「サキ様!できましたわ!」

ババーン!と見せられたのは、超豪華なベッド!

「これは…すごいね。」

僕は絶句した。

提供したトレント材をふんだんに使い、ベッドの足は猫足ならぬシンハのような足の細工。ベッドヘッドは地球でいうところのロココ風。フレームは優雅な曲線を描き、光沢あるアラクネ布で、全面にアラベスク風織り模様があるクッション入りの布張り。さらに周囲を金糸銀糸で上品に刺繍している。

それでも、僕がなるべくシンプルに、と言ったので、金銀宝石は埋め込まず、縁回りを金箔貼りにすることもせず、木材を彫刻するだけにとどめたそうだ。


ベッドのマットレス部分は、僕が教えたスプリングを入れ込み、干したメルティアと藁と、アラクネ真綿を入れて、程よい堅さに整形してある。それをゴブラン織り風のこれまた豪華なアラクネ布で覆っている。

掛け布団も敷き布団も、もちろんアラクネ真綿入りのふかふかで、表生地は、絹のような光沢あるペイズリー風の模様織り。このあたりは僕が取り寄せてあげた最新王都のモードブックにあった模様を取り入れたようだ。

まことに上品でセンスがいい。

それに僕がお気に入りだと知っている七色グラデーションの薄い布の帳。これは蚊帳にもなる。しかも紋紗織りでこれも凝った文様が浮き出る薄布だ。

これは見たことがない。最新の布だろう。


「うわあ。すごい!まじ凄い!誰のベッド!?僕、こんな凄いところで寝てもいいの!?」

僕はさっそくスプリングの感触を全身で確かめながら、感激に声を上げていた。

シンハには、やめろと言われたが、これでは新居を見せないわけにはいくまい。だってこのベッドがどこにどう納まるのか、絶対見たいだろうから。


「寝室にこれが納まるところ、見たいでしょ。これからちょっと僕の家に一緒にいかない?今日なら大工さんもいないし。」

と言うと、

「え、よろしいんですか?私のようなものが行っても。」

と奥ゆかしい。

「ちょっとの時間なら大丈夫。ね、行こう。あとはここまで送るから。」

「でも…私だけという訳には。」

「じゃあ、メーリアとビーネ様にも聞いてみよう。」

シンハは呆れている。

『オレは知らんぞ。警告はしたからな。』

とつぶやいた。


メーリアは

「行く!絶対見たい!」

と二つ返事。

ビーネ様は

「わらわも見たいが、さすがにのう。水晶越しに見せていただければ十分じゃ。」

と分別あるお言葉でした。

なので、ビーネ様お持ちの水晶玉の片割れをお借りして、中継映像を送ることに。

「こんな素敵な魔道具があるんですね。」

というと、

「ダンジョンで出た秘宝じゃ。たまたま縁があって手に入れた。」

とのこと。


ということで、僕の魔力にメーリアとツェル様が溶けて、僕とシンハと一緒に北の草原までテレポートし、それから北門を通って町へ入る。

僕自身にプロテクト魔法をして用心すれば、魔力内に彼女たちがいることまではわからないようだ。よかった!

これまでも僕とシンハは何度も町の外から森へテレポートで行き来しているが、誰からもクレームも噂も出ていないし、その点でもきっと大丈夫だろう。


玄関前で二人を顕現させる。

「目を開けて。」

「わあ!ここが!サキ様のおうち。」

「中へどうぞ。」

僕は大広間を説明し、2階へと二人を案内する。

「どこもかしこも、素敵だわ。」

「落ち着いた雰囲気なのに、明るくて。素敵ですわ。」

「ありがと。寝室はこっちだよ。」


僕は居間を通り抜け、主寝室に入ると、これまで使っていたベッドを亜空間収納に仕舞い、運んできた新しいベッドを設置した。


「ああ、よかった。寸法もぴったりですわ!」

「素敵ねえ。サキとシンハ様にぴったりだわ。」

とメーリアも満足げ。

「本当に、アラクネさんたちは、いい仕事をするわね。本当にすごいわ。」

薄い帳も設置して、完成。

それからみんなでベッドの上に横になる。

シンハとメーリアは当然のように。ツェル様はちょっと恥ずかしそうに。

「みんなで寝てもまだ余裕。大きなベッドだ。これなら寝相が悪くても、落ちないね。」


ひとしきり、ベッドの感触を堪能すると、窓にカーテンも取り付けてみた。

窓には鎧戸があるので、オーダーしたのは光を通す薄いカーテンだ。

カーテンも取り付けると、寝室はますます素敵になった。ぐっすり眠れそう。


それから、二人に各部屋を見せてあげた。ビーネ様にも映像を送る。音声はお互い聞こえないけれど、楽しそうだ。たぶん。


シルルを紹介しようと思ったが、何故かいない。最近は近所の八百屋さんとも仲良くなったので、買い物に行ったのかもしれない。子供でもいける距離に八百屋と肉屋と魚屋が並んでいるからだ。そこは貴族街入り口なので、治安もいい。

お仕事しているなら、召喚するのも気が引ける。まあ、シルルの紹介はあらためて。


ベランダでお茶と新作の洋梨パイをごちそうする。

庭はまだ花を植えていないが、いずれこうする、ああすると教えると、ツェル様はうれしそうに僕の話を聞いてくれた。

メーリアはふわりと飛んで、空中から畑や庭を眺めている。


「本当は、もっと自由に行き来できるといいんだけど。なかなかそうもいかないかな。」

「ええ。サキ様の眷属にしていただきましたので、できるだけお役に立ちたいと思いますけれど…。私にも守るべき領分がありますので。女王ですから。」

とツェル様。

「うん。そうだね。そこはビーネ様も同じだろうね。」

「私はもっと自由だけどね。」

とメーリア。

「水があるところなら、基本的にはどこにでも行けるから。」

とのこと。

「そうだね。メーリアはまたちょっと違うね。」

「あら、もう夕日の時間だわ。そろそろ戻らないと。侍従たちが騒ぎ出すわ。」

「そうか。じゃあ、送るよ。また近いうちに森で会おうね。」

ということで今回はお開き。


ツェル様には、いずれあらためてお礼をするつもりだが、今日のところはクッキーの詰め合わせをプレゼント。ビーネ様に水晶を返しながら、此処でもクッキーを渡し、最後にメーリアと湖に飛んで、クッキーと妖精たち用に砂糖菓子も渡した。

でも1時間かからずに、無事屋敷に戻ってきた。


すると

「ごしゅじんしゃま。ご飯でしゅよー。」

シルルの声だ。

「はーい。今行くー。」

僕たちは何事もなかったかのように食堂へと急ぐのだった。



えーと、本文中、邸内が明るい、という話が出てきました。

今更ですが、実際の中世ヨーロッパではガラスがとても高価で、そのためガラス片を繋ぐステンドグラスが発達しました。城でも窓が小さく、城内は暗かったようです。


このお話の異世界では、外見はロマネスク様式からゴシック様式への過渡期の感じですが、アーチの概念がとても遅れている想定です。

板ガラスはまだ高価ですが、庶民の家にもガラス窓が普及し始めました。

サキの屋敷はもともと貴族邸なので、透明度は高くないものの、そこそこの大きさの板ガラスと、色ガラスを少しだけ組み合わせた、おしゃれなステンドグラス窓がはまっていました。

そのため、邸内はわりと明るいのでした。


なお、カーテンは、ヴィルドでも窓には必ずあるもの、という概念が普及しつつありますが、やはり貴族邸や裕福な家庭でないと、すべての窓にはつけられないという想定です。


現代の日本に住む我々からすると、大きな透明ガラスの窓に、布をたっぷり使ったカーテンがあるのは、ごく普通のことですが、異世界ではまだまだ考えられないことのようです。


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