166 バーベキューでお祝い
「ただいまー。」
「おかえりなしゃいましぇ!」
相変わらず幼児語だ。
「ただいま。シルル。今日は悪かったね。もっと早く帰ってくるつもりだったんだけど。…なんだか、家のなか、すごく綺麗になってるんじゃない?」
「おっほん!」
「シルルが掃除してくれたの?ありがとう!」
「えへへー。」
頭を撫でると、うれしそうにでれっと笑った。
「すごいな。窓もぴかぴかだ。」
「シルル、がんばったでしゅ!お掃除は実は得意なのでしゅ!」
「すごいや。」
今までは、なるべく人を近づけないように、幽霊屋敷のふりをしていたそうだ。
それで掃除もわざとせずにいたらしい。
それでもアルマの部屋だけは、綺麗にしていたようだが。
家の大掃除は明日しようかと思っていたが、シルルががんばってくれたおかげで、ほぼしなくてすむことになった。
さっそくシルルの歓迎会と家を手に入れたお祝いを兼ねて、ささやかながらバーベキューを庭ですることになった。
シンハの好きなワイバーン肉や、買ってきたばかりの新鮮な鯖モドキ、各種野菜などを焼く。
そうだせっかくだから、ハピたちも呼ぼう!コマドリのロビンとコウモリのキキ、そして仲間のコウモリたちには盗賊退治でお世話になった。
あのあとすぐに、ロビンとキキには僕の魔力団子を。ほかのコウモリ達には全員にヒールを、してあげたけどさ。あーでも、まさかコウモリたくさんは此処には呼べないものね。とりあえず今夜のところは、コウモリは代表でハピだけね。
あとは夜に強いハカセだな。いつも僕とシンハの相談役をしてもらっているんだ。
コマドリのロビンは、今日はもう暗すぎる時間だから、昼間に呼んでお菓子でもあげることにしよう。
ハピとハカセくらいなら、召喚しても街の結界に揺らぎを与えるとは思えないしな。
「ハピ、召還!ハカセ、召喚!」
魔法陣が現れて、その中央にハピが現れた。続いてハカセも。
『キキッ、ここは?あ、あるじ!キキキ!』
「やあ、ハピ。」
ハピは僕を見ると嬉しそうに飛んできて、僕の頭の上を旋回した。
『空気が違うキキ。なんだかおいしそうなにおいがする!』
「バーベキューしてたんだ。食べていって。」
『あるじありがと!』
「こちらこそ。この間は君や君の仲間にお世話になったね。ありがとう。さすがに此処にコウモリ達全員は呼べないからさ。今度、森のどこかに果物を「お供え」しておきたいなあ。」
『じゃあ、森をちょっと入ったところに、集合場所があるから、そこがいいキキ!』
と僕にイメージを送ってきた。
「ダンジョン近くの洞窟だね。わかった!」
それからハピとハカセをシルルに紹介し、お互いよろしくとあいさつしていた。
『ホー、此処、あるじのおうち?』
「うん。新居だよ。よろしくね。」
『おいらもハカセも、時々この町まではやってきてる。縄張りだキキ。』
「縄張り広いんだね。森の奥から飛んでくると…片道時速50キロとしても…10日以上かかるよね。」
『巡回しながらのんびり来るから、普段はそれくらいキキ。急げば3日以内には来るキキ。』
なんか凄くない?
『でもあるじに召還してもらえば一瞬だホー。いつでも呼んでいいホー。』
『キキキ。同じく。』
「ありがとう。これからは森にもちょくちょく行くようにするよ。…さて、肉が焼けた。君たちも食べて食べて!」
『ホホー。』
『キキキ!おいしそう!』
「さあ、シルルも食べて。」
「ありがとうございましゅ!あちち!」
「気をつけて。…はい。葡萄ジュース。」
「ありがとうございましゅ!わあ!おいちい。」
ふふ。皆和気あいあいで楽しいパーティーになった。
バーベキューも一段落して。
皆思い思いの場所に座って、葡萄ジュースを飲んだり、梨をつついたりしながらおしゃべりをしている。
「ツェル様とか、メーリアはどうしてる?」
『あるじ、なかなか会えないって、ため息。ホー。』
『最近、アラクネダンスも見てないキキ。』
「そうか…。」
『でも、なんかツェル様は、今朝は張り切ってたホー。』
「ああ、うん。ベッドとカーテンを作ってくれるみたい。今度行ったら、少し長く森にいられるようにするよ。」
何かおみやげを買って行こう。
特に3人(?)の女性たちにはいろいろ世話になったし。
ツェル様とは商売の話もしないといけない。
まだ生地をどう売り込むか、決めていないが、特別な布なので、領主案件にしたいと思っている。
此処の領主はなかなか人望もあるようだし、王都での発言権も強いようだし。
もし、領主がこの件にかんでくれれば、領主にもメリットの大きい話だ。
家も持ったことだし、こちらからご挨拶にうかがうか。
なんといっても、この家は領主から売ってもらったことになっているのだから。
「うん。丁度いい時期だな。明日、ギルド長に相談して、なるべく早く領主に会いに行こう。おみやげはアラクネ布でできた男性用の飾り帯と女性用のストール、それに魔蜂のハチミツ、だな。」
かねてよりおみやげはそう決めていた。
そして僕自身がアラクネ製生地で作ったローブを着ていくんだ。
もちろん、見本の生地は反物で数反持っていき、領主に預ける。
結局そのまま差し上げるのだけれど、きっと役に立ってくれるだろう。
夜も更けてきた。
シルルは大掃除で疲れたのだろう。
こくりこくりと眠り始めている。
パーティーはお開きだ。
僕はハピとハカセを召喚解除で森に送り、シルルを抱っこすると、屋敷に入った。
シルルが使っている部屋に入ると、ベッドは土台しかなく、此処でずっと眠っていたのかと思うと、いくら妖精だといってもちょっと切なくなった。
予備に収納していた布団類を出して、ベッドに敷く。これもアラクネ綿を入れたふわふわ布団だ。きっといい夢がみれるだろう。
その布団の上にそっとシルルを降ろし、布団をかけてやる。
「よい夢を。」
そうつぶやいて、シンハと一緒に部屋を出た。
それから僕たちも寝室に入った。
寝室の隣は、今は客間だが、改造して寝室から行き来できるようにして、此処にも小さな風呂場とトイレを作ろうと思う。
下までいちいち行くのは特に冬場は嫌なものだからね。
明日は大工の熊親方たちが来る。
忙しくなりそうだ。
おやすみ。