162 幽霊の正体
はたして、幽霊の正体は…??(何が出るかな。どきどき。)
キィ。
鍵をかけたはずの扉が開いた。
そして。
ヒタヒタヒタ、という足音。
蚊帳があげられ、僕たちが寝ているはずのベッドに上がった!
そこで
僕は結界を発動。
「結界!金縛り!」
そしてさっと立ち上がり、幽霊の正体を見るため、ライトの魔法で部屋を明るくした。
「きゃあ!」
光の中に現れたのは。
なんと小さな女の子。
幼児の女の子の姿をしたお人形?いやいや、たぶん大きめの妖精だろう。
体長は30セントーくらい。
まるで大きめのビスクドールみたいだ。
だからなおさら、暗闇なら不気味だったかも。
それがベッドの上でまぶしそうにもがいていた。
「君、誰?」
さて。
僕とシンハはベッドの上で、アラクネ糸で作ったロープで縛り上げられたお人形サイズの女の子と対面している。
ソファでもあれば良かったのだが、あいにくこの部屋にはベッドの土台しか残されていなかったので、3人?ともベッドの上である。
なんとなく尋問場面としては締まりが無い。
「は、放しなしゃいよ!あたしにこんなことをして、無事に済むと思ってりゅの!」
威勢はいいが、幼児語だぞ。
「あのね。不法侵入はキミだよ。まずは、君が誰なのか、教えてくれるかな?」
「いーだ。教えてあげない。」
「ふうん。いいよ。じゃあ、魔法を使って頭の中に入り込んで、記憶を全部見て…」
「きゃあ!やめてやめて!話しゅからあ。」
ぐすぐす泣きだした。
僕は何もしていない。ただちょっと脅しただけだ。
「泣いたって駄目だよ。正直に言ったら、そのロープも解いてあげる。…君の名前は?」
なるべく優しく聞いてあげる。
「…ぐす。ないわ。」
まあ、誰かの眷属にならないと、妖精は名前を持たない。
「じゃあ、なんの妖精かな?」
「家につく妖精よ。」
「家につく妖精?」
『シルキーというやつだな。ただ古い屋敷につくと聞いていたが。』
シルキーはアカシックさんに聞くと、向こうの世界でもこちらの世界でもそう呼ばれているようだ。
「そういえば日本にもあったよ。座敷わらしというやつだ。それに近いのか…。でも、この家、ほとんど新築だよね。」
「この家にいた女の子と友達だったのよ。…アルマは、本当に死んじゃったの?」
「此処に住んでいたホフマン男爵の娘のことだよね。」
「そうよ。」
「うん。僕は聞いただけだけど、一家で王都に向かう途中で魔獣にやられたんだって。家族全員駄目だったらしい。」
「そう…。私、それを誰かに聞きたくて。でも、聞こうと思うとみんな恐がりゅし。」
「そりゃそうだよ。夜中にこそこそやってくるんじゃあ。」
「あ、あれは…アルマと約束したのよ。此処に住んでもいいけど、この家を守ってって言われたから。アルマが帰りゅまで、私がなんとかしないとって思って…。」
「なるほど。」
「…私、一度眠りゅと何日も眠っちゃうから、アルマが旅に出る時に見送って、あとはしばらく眠っていたの。次に目覚めたら、この家にいた使用人たちもだあれもいなくなっていて…。何が起こったのか判らなかった。だから、来る人来る人に聞こうとしたんだけど、私のこと見えないひとばっかりなんだもん。音で知らせるしかないもん。」
「なるほど。」
「…でも、そのうち、たぶんアルマたちに何かあったんだなって思ったの。たぶんもう生きていないだろうって思った…。だって、生きていたら、私になんとか連絡してくれりゅと思ったから。…待っても待っても、アルマは帰って来なかった。連絡も手紙も何も来なかった…。だから、死んじゃったんだなって思ったの。」
「…」
「でも、アルマと約束したから。変な人にこの家、渡したくなかったでしゅ。だから。」
「なるほどね。それで脅かして追い出してた訳か…。で、これからどうするの?」
「どうしゅるって言われても…。行くあてなんかないでしゅ。」
「君は何処からきたの?もともとこのあたりにいたのかな?」
「ううん。アルマと一緒に引っ越してきたの。昔は王都に居たでしゅ。アルマの生まれた家に。」
「なるほど。ホフマン男爵一家は、君のこと見えてたの?」
「ううん。アルマ以外は、私のこと見えなかった。でも、なんとなくアルマのママンは気づいていたみたいでした。パパのほうは妖精の存在なんて、全く信じていないみたいでしゅけど。」
「そうか。…もう、他の人を脅かしたりしない?」
「しないでしゅ!…する必要もないもの。」
力なくシルキーは答えた。
「もう暴れたりしない?」
「しないわ。力もでないし。」
「じゃあ、縄を解いてあげる。」
僕は念のため逃げられないように、僕とシンハとシルキーとを覆う結界をしたうえで、アラクネ縄を解いてやった。
「…ありがとう。」
「痛くしてごめんよ。」
「ううん…。仕方ないもん…。でも、不思議でしゅ。人間なのに私がしっかり見えるなんて。アルマも見えたり見えなかったりしたのに。」
「うん。どうやら妖精とは相性がいいみたいでね。見えるし話せるよ。妖精語も話せるよ。」
「え?そうなのでしゅか?それはすごいでしゅ。『ちなみに、この言葉も判ります?』」
と後半を妖精語で言われた。
『うん。判るよ。』
と妖精語で答えると、本当に驚いたようにあんぐりと口をあけていた。
「なるほど。それで貴方しゃまのまわりにはいっぱい妖精が飛んでるのでしゅね。」
え?…ああ。そうだった。
周囲をよく見ると、確かに小さな粒々がきらっきらっと輝いて存在を示した。
みな幼体たちだ。森と違って、街には大きな妖精はなかなか居ない。
それから、普段、妖精や幼体たちは、僕が見ようとしない限りは見えない。
「全部の種類がいるなんて、しゅごい!」
「そ、そう?」
グリューネたち妖精と契約する前から、各属性魔法に困ったことはない。
こうした各種の幼体たちが、僕の周囲にいつも多くいるからだろう。
「…で、これからどうする?王都に帰る?」
「…」
シルキーはうつむいた。
「…此処に…居たら迷惑でしゅよね。」
「…。僕たちは留守にすることが多いよ。それでいいなら。それと、人間を無闇に脅かさないと約束してくれるなら。」
「!約束しましゅ!…本当に居ても、いいの?」
「いいよ。君のほうが先に住んでいたんだし。」
「わーい!ありがとうございましゅ!…お名前、聞いてもいいでしゅか?」
「僕はサキ。サキ・ユグディオ。隣はシンハ。フェンリルだよ。」
「えっ!?フェンリルってあのフェンリルしゃま!?」
「たぶん、そのフェンリルだよ。」
「あわわわ。ご、ごめんなしゃい!失礼いたしました。フェンリルしゃま。」
急におどおどしはじめた。
『よい。許す。普通に話せ。』
「は、はい!」
おっと。シンハのくせに偉そうじゃん。
「…で、君はアルマちゃんになんて呼ばれていたの?」
「アルマは…私をシルルって呼んでくれたわ。」
「シルル。素敵だね。またそう呼んでもいい?」
「またそう呼ばれるのは、うれしいわ。」
シルルは泣き笑いした。
アルマと契約ではないが、名前をつけてもらっていたのだ。妖精にとって名前はとても大切なものだ。その人と魂をつなぐような意味がある。
「じゃあ、あらためて、よろしく。シルル。」
「よろしくお願いしましゅ。…ご主人様!」
「えっと…眷属にした訳じゃないんだが…。」
「え、駄目…でしゅか?」
「いや、いいけど…僕でいいの?僕のこと、まだ何も知らないのに。」
するとぶんぶんと大きく頭をふる。
「フェンリルしゃまとこんなに親しくしておられるお方でしゅもの。それに…なんだかとてもいい香りが…くんくん。魔力も…おいしそうですし。じゅる。」
なぜそこでもじもじする?
「魔力が欲しいの?ならあげるけど。」
「!本当でしゅか!?」
『サキ。』
「ん?」
『少し慎め。』
「え?だって。おなかすいてるみたいだし。…僕の魔力でよければ、少し食べてみる?」
「ぜ、ぜひ!」
シンハが何故か呆れてため息をついている。
僕は小さなお団子状にした魔力を手渡した。
「ふわわ。おいしそう!本当にいただいてよろしいのでしゅか?」
「どうぞ。」
「いただきましゅ!」
ぱくっと食べたシルルは、それはもうとろけそうな顔をした。
「おいひい…夢みたい…しゅごい。ご主人様は本当に人間でしゅか?」
「人間だよ。ちょっと変わってるのは認めるけどさ。」
「けぷ。ふわわ。すぐにおなかいっぱいになりまひたぁ。」
「うん。何故か僕の魔力を食べると、みんなそういうねえ。まあ、食べても食べてもまだ足りないって言われたら僕だって困るけどさ。」
と苦笑する。
「えーと。君のお部屋は…アルマちゃんが使っていた部屋がいいよね。此処の隣だったかな?」
「はい。…よろしいのでしゅか?」
「うん。他に住人は今のところいないし。構わないよ。」
「ありがとうございましゅ!」
「家具は今は何もないけど。欲しいものがあったら教えてね。あとでどうせ他の部屋の分も買う予定だから。」
「はい!ありがとうございましゅ。お部屋までいただけるなんて、はじめてでしゅ!」
ふふ。喜んでくれてなにより。
「じゃあ、明日…いや、もう今日か。朝になったらギルドに行って、正式に家の売買契約をしてもらうから。そうしたら、僕が家主になるから。安心して待っていてね。」
「はい!ありがとうございましゅ!」
結局、それから朝までシルルも一緒にベッドに居て、いつのまにかシンハに寄り掛かって眠っていた。むこうの部屋にはベッドも土台しかないからね。アラクネ羽毛布団が心地よかったのもあったみたいで。
そういう訳で家につく妖精シルキーのシルルと、僕はいつのまにか契約してしまったことになっていた。
まあ、たくさん眷属はいるので、別に構わないけど。
幽霊の正体は、可愛い妖精ちゃんでした。サキったら、また眷属増やして。




