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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第二章 冒険者の街ヴィルド編
161/525

161 泊まってみよう

という訳で。

僕とシンハは幽霊屋敷に泊り込むことにした。

『おい。相棒。ほんっとうに此処に泊まるのか?』

「あれえ?シンハ。森の王者は幽霊が恐いの?まさかねえ。」

『ば、馬鹿を言うでない。俺がそんなものを恐がるはずがなかろう。』

ふふ。空威張りするシンハがちょっと可愛い。

「まあ、正体を確認しないと、お金を払う訳にはいかないものね。えーと。今日は最低限の掃除をして、厨房と食堂、それから2階の主寝室を使うことにしようか。お風呂はどうする?」

『ふん。どうでもいいぞ。』

「じゃあ、さっさと今言ったお部屋とお風呂を掃除して、明るいうちにまずお風呂、済ませちゃおうか。」

『そ、そうだな。』

やっぱりあのお風呂には魅力を感じているようだ。

広いし、立派だもんね。


僕たちは屋敷を部分的に掃除した。

特に厨房と浴室は念入りに掃除する。

それから浴槽に水をたっぷり張り、漏れがないか確認する。特に問題ないようなので、そのまま火魔法で湯を沸かす。

明かりには屑魔石を仕込む。ほう。なかなか雰囲気のある素敵な浴室ではないか。


さっそくシンハと一緒に風呂を楽しむ。

この湯船はシンハが入っても泳げるくらいに大きい。

でもシンハがゆっくり入れるように、森の洞窟に作った風呂のように浴槽の一部を盛り上げて、浅瀬を作ってあげたいな。

今日は机風なものを石で作って沈めて、浅瀬を作ってあげた。

「ふうー。生き返るー。極楽極楽。」

『ふむ。なかなかいいな。やはり、お前の魔力を含んだ湯につかるのは、気持ちがいい。』

「そう?褒められたと思っておくよ。熱くない?」

『丁度いい。』

僕の肩先に顎を乗っけて、くつろいでいる。

よほど心地いいのか、ぐるぐるとうなっている。

僕もシンハを撫で撫でしながらお風呂を楽しんだ。

たっぷり風呂を堪能したあとは、冷やしたポムロルジュースをぐびっと飲む。

もちろんシンハにも皿にあげている。

くー。美味い!

「いいお風呂だったねえ。ところで、ごはんは何を食べたい?」

『なんでもいいぞ。』

「お肉でしょ?」

『まあな。』

「んー。じゃあ、今日はオークの網焼きと、魔兎入りポトフにしよう。それでいい?」

『ああ。美味いなら、いい。』

「まったく。」


僕たちは次に厨房に移動。

ストックしてある野菜を切って、ソーセージを切ったものを少しと、魔兎肉を少し入れたポトフをまず作る。

ことこと煮込んでいるうちに、焼き肉の仕込み。

香草やニンニク、塩などをすり込んで、酒をかけて肉を柔らかくしておく。

網は…ふふふ。これはお手製だよ。

ミスリルをわざとよれよれの太めの針金にしたものを縦横に組んだ網だ。

それを竈の上に置いて、サラマンダに火加減を任せる。

もちろん僕の魔力を少しごちそうして。

竈には香りが桜に似たチェルトレントという樹木のチップを加えて、少し香りのある煙で(いぶ)しつつ、網焼きする。

こうすると、油っぽい部位でも適度に油が落ちて、美味いステーキになるんだ。


オーク肉は森ではあまり食べる機会がなかったけど、此処ヴィルドに来てみると、屋台の串焼きはオークが多い。豚肉という感じだが、レアとかミディアムでも食べられるのが地球との違いだ。オークはクセが少ないので、肉料理の定番だ。燻製もよく合う。

シンハはミディアムが好きだから、よく燻したあとで軽く焼いておしまい。

僕は中まで火を通し、さらに塩を加えて味を強くする。

ちなみに地球と違って、基本的にどんな肉もレアでも大丈夫。

ただし寄生虫バルトベータだけは要注意だけれど。ちょっとやばいなと思ったら、バルトベータ用虫下し薬か、並ポーション2本飲めば、退治できるらしい。

僕は肉を調理する時に、必ず状態や鮮度などを含め鑑定しているから大丈夫だけどね。


シンハは甘いものも好き。

だからパンは食べやすく切って、フライパンであぶり、焦がしバターで軽く味付け、それにジャムをかけてあげる。

「いただきます。」

『うむ。』

いつも、お先にどうぞ、というのだが、律儀に僕が食べるのを待っていることが多い。

熱いからさましているのだ、と言い訳するが、どうやら僕と一緒に食べたいらしい。たしかに猫舌ではあるが。

なので、焦がしバターのパンは最後に出す。

「どう?味、濃すぎない?」

『いや。俺には丁度いい。』

「ならいいけど。」

シンハは味に敏感だから、塩も香りも控えめにしているつもり。

たいてい、美味いと言って食べてくれる。

しょっぱかったら正直に言って、と言ってあるのだが、あまり言われたことはない。

お前と同じ味付けで大丈夫なんだぞ、といわれるが、なんとなく薄味にしてしまう。

だからといって、薄味が不満ではないようで、やっぱり濃い味よりは薄いほうが口にあっているようだ。

隠し味を言い当てる、なかなか味にはうるさいグルメ犬である。

あ、犬じゃないが。


さて、今日もおいしく食事をし、デザートは、今日は普通に冷えた梨と巨峰のような葡萄。シンハ用の梨は、皮つきで食べやすい大きさに乱切り。種もとらない。

僕は普通にむいて食べるけど。

僕が剥いた梨の皮や芯もシンハは食べてくれる。

なので剥く時はわざと分厚く剥いて、皮のほうにも可食部分がたくさん残っているようにする。


食堂の前は庭で、今はベランダの扉をあけている。涼しい夜風が気持ちいい。

虫よけの結界をしているから、風は来ても虫は部屋にはいってこない。

この世界で便利だなーと思うのは、こういう時。

結構虫はいるからね。日本と違って。

「さてと。そろそろ寝るか。」

『お、おう。』

なんか、シンハさん、びびってませんか?

大丈夫かなあ。


「ね、シンハ。」

『なんだ。』

「正直に言って。シンハって、幽霊こわいの?」

『ば、ばかをいうな。アンデッドだってレイスだって怖くはないのに、何故そんなことを聞く?』

「ふふ。ならいいけどさ。ちょっと今夜は楽しみだねー。」

『ふざけたことを言っていないで。二階に行くぞ!』

「おー。」


シンハをからかいながら、戸締りをして、二階の主寝室に入る。

ベッドは土台しか残っていないので、布団を多めに出して敷き、ふわふわにしてシーツを敷く。掛け布団は魔鶏とアラクネ綿の最高級ふわふわ布団。ちょっとギルドで聞きこんだけれど、こういう製品はないようで、たぶん王族だって使っていないだろう。ベッドの真上の天井には蚊帳を吊る金具があったので、薄いアラクネ製の蚊帳を設置し、いつものようにベッドを覆う。すると、まるで森にいたときと同じようにほっとする空間ができる。

そしていつものようにシンハと一緒にベッドに入る。


「どんなことがおきるかな。なんだかワクワクする。」

『…。危険な奴でないといいが。』

「シンハは本当に幽霊だと思っている?」

『…。違うような気がしてはいるが。』

「じゃあなに?」

『…いずれ判るさ。』

くわっと大あくびをするシンハ。

「そうだね。…ひとまず、おやすみー。」

『ああ。』

僕はいつものように、シンハを撫でているうちに、いつしか眠りについていた。


ギッ

はっとして僕は目を醒ます。

今、何か音がした?

ステイタスボードを頭に思い描くと、時計が出る。見るとまだ夜中の12時をまわったばかり。

日本にいた頃ならようやく寝るか、という時間。

ギギッ。

確かに何か物音がした。

階下だ。

シンハはと見ると、どうやら目を閉じてはいるが、耳は盛んに動いているから、覚醒はしているようだ。

ギシッ

やはり、誰かが階段を登ってくるような音だ。

ミシ。

こっそり、こっそりと。


さすがに僕はシンハをこづく。

「(シンハ。聞こえた?)」

『ああ。聞こえている。』

「(確かに誰か来るね。)」

『ああ。』

「(じゃあ、作戦どおりに。)」

『判った。』

僕たちはこっそり寝床を抜け、扉から見て寝床の向こう側に身をひそめた。



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