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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第一章 はじまりの森編
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16 シンハとおしゃべり 1 僕のこと、神獣のこと

シンハにサキと名前をもらって、僕はシンハに手伝ってもらいながら、森での生活に次第に馴染んでいった。

名前をつけてもらったせいか、シンハとは『念話』で会話できるようになっていた。これがとてもうれしい。

誰かと話すということは、たとえ念話でも大切なことだ。

シンハがいうには、何度か僕に向かって念話を使ってみたけれど、僕がキャッチしなかったらしい。おそらくまだ僕の魔法使いとしてのランクが低くて、受け入れができなかったのだろう。

僕が魔力を食べさせたことで、周波数みたいなものが合ったのかもしれない。

たぶん僕の魔力と名付けがきっかけで『開通』したらしく、シンハと念話ができるようになった。

シンハの念話は人間語で聞こえる。

念話だから、どんな言語でも一応通じるが、細かい言い回しはやはり人間語を意識して念話で話したほうが通じやすいらしい。

シンハは人間語で念話することができた。

念話は声の音色や口調もそれぞれらしく、シンハの念話は大人の男性の声で、口調も男らしいものだった。

それは夢の中で聞いた声と同じだった。


食料を調達しながらも、僕はいろいろな話をシンハとした。

僕は意識的にこの世界の言語を覚えるためもあって、通常は念話しながら口でもしゃべる方式をとっている。

だから傍目にはやたらひとりごとの多い変な奴に見えているだろう。

まあ、森には僕のひとりごとを聞く奴なんか、シンハ以外にいないだろうけどさ。

もちろん、獲物が近い時は、口を閉じて念話だけでお互い会話するのだ。

シンハはもちろん念話だけで語りかけてくる訳だが、何故かまるで声に出して発音しているかのように頭の中に聞こえてくる。

ただシンハも僕と同じように時折つぶやいているつもりなのか、グルルルとかバウワウとかワフワフとか吠えている。

とにかく、シンハと意思疎通がとれることになり、僕のこの世界に関する知識は飛躍的に増えた。たとえば、どんな魔獣がいて、それらはどんなクセがあって、どこが急所か、なども教えてもらい、僕の狩りの腕前も少しずつあがっていった。


シンハと意思疎通がとれるようになったことで、僕は自分の目の色が変わることもシンハから聞いてようやく判った。昼間は群青色。サファイアのような鮮やかで深い青だ。朝と夕方は真紅。そして夜にはアメジストのような紫色に変化する。

人間で青い目は時々いるけれど、こんなに綺麗なサファイアのような群青色はなかなかいないし、一日のうち時間で変化するというのもかなり珍しいらしい。

ただ、魔族には居たらしいから、魔力の多さが関係しているのかも。それに、どこかで魔族とつながりを持ち、生まれた子供の子孫ということなのかもしれない。

それから些細なことかもしれないが、この金銀色の髪はエルフっぽいとのこと。そして魔術師は髪を伸ばしていることが多いそうだ。髪が長いと魔力を外から集めやすく、発動も安定しやすいそうだ。貴族は魔力が多い者が多いこともあって、男性でも長髪は普通らしい。もちろん、短髪の魔法使いや貴族もいるけれど、とのこと。

僕は、全体に少し伸びてきたので、前髪は邪魔くさいので切ってみたが、不思議なことにこの色のせいか、髪が邪魔で視界が悪くなることがない。むしろあったほうが、さっきの理由から安定して魔力を周囲から集められている感じがした。このあたりの感覚は、前世ではわからなかったことだ。まあ、最近は長くなってきたので後ろでひとつに結んでいることが多くなってきたけどね。


それから、僕は体内の魔力をぐるぐる巡らせることで魔力が高まることがわかり、毎日必ずこの「魔力を練る」ことをしていた。魔力総量を上げるには、枯渇まで使う、という荒技もあるそうだが、かわりによく魔力を練ることと、ちまちまでもたびたび使ったほうがよい結果が得られるそうだ。僕もただ魔力を練って、防御魔法「結界」で自分をたえず覆っていたりと、地味に、できる範囲で使っていただけだ。でもそのおかげで最初のころよりかなり魔力総量が増えたし、使いたい時にすぐに発動できるようになった。


魔法は使えば使うほど成長するようなので、新しい魔法を考え付いては次々に実践していった。もちろん、隕石を落とすような大魔法をやろうということではない。たとえば小石を飛ばす「ストーンバレット」は、二つ三つからはじめて今では同時に20粒は操作できる。それもすべて弾丸のように高速回転をかけて、である。さらにコントロールはターゲットを最初に決めればミサイルのように敵を追うことも可能。バレット系は石、火、氷、水、風(魔力を飛ばす)ができるようになった。これらの威力はイメージと込める魔力量で強弱が加減できる。いわば銃なしの弾丸発射であり、雷魔法と共に僕の得意技になった。シンハによるとこの世界に銃も火薬もないそうだから、僕のバレットはかなり有効だろう。だが対人戦では使いたくはないが。


それから風魔法の「かまいたち」と「真空切り」。どちらも原理は同じだ。空気操作で一瞬真空を作りつつ切り裂くのだが、かまいたちは数を出せる小さい真空切りで、真空切りは大きなかまいたちで基本1つしか出せないかわりに、牛くらい大きな魔獣を軽く袈裟懸けに真っ二つに切れる。初期に使っていた「ウインドカッター」は、(僕の場合は)「かまいたち」より威力が無いし不安定なので、今ではもう使っていない。いずれ僕の技量があがれば、ぶれない「ウインドカッター」や大きな「かまいたち」も発動できそうだ。


あとは川漁でよく使う雷撃系魔法。軽いのが「電撃」、ワイバーンを斃したのが「いかづち」。とくに「いかづち」は「いでませ!いかづち!」と叫ぶのが呪文だ。シンハ曰く、本当はもっともっとすごーく長い呪文でないとあんな威力は出ないらしいけど。


この体は地球人だった時とは比べものにならないほど、強靱でしなやかで、かつ大変器用だ。運動神経はオリンピック選手よりいいみたいで、走るスピードも凄いし、飛んだりはねたりもめちゃくちゃ得意。魔力で強化しなくとも、軽く2階建の屋根の上までジャンプできる感じ、といえばわかるだろうか。もはや地球人基準で考えてはいけないようだ。これが異世界人の平均仕様なのかをシンハに尋ねると、そんな訳あるか、と怒られた。

『エルフや獣人にならいるかもしれん。だがすべての能力値となると…高位魔人レベルかもしれんな。』

とはシンハの談。さらりと言われたが、ちょっと驚いた。

この世界には数は人族より圧倒的に少ないが、魔族とか魔人と呼ばれる人たちはいるそうだ。


動体視力も凄くて、魔獣の動きがスローモーションでわかる感じだし、その攻撃をさらっとかわせるくらいに運動神経もいい。特に狩りになると、集中力が増して、本当にスローモーションのように相手の動きがよくわかり、一瞬でその対処も体で無意識に対応出来ている。まるで敵は二倍のスローモーションなのに、こちらは二倍速で素早く動けている感じ。そしてこれまで狩りの経験などないのに、基礎的な本能みたいなところで熟知して動けてしまう感じだ。もちろん、それを理解した上で訓練をすれば、ますます狩りの腕前も磨きがかかるというもの。それでもお師匠様のシンハは神獣だから、二倍速の僕よりさらに速くて、ちっとも勝てないけどね。


目と言えば、シンハの「聖なる目」だが、本人としてもまだよくわからないそうだ。ただ、以前よりさらに遠くまでよく見えるようになったことと、妖精は以前より少しきらきらに見えるようになった程度だとか。僕も妖精と同じくちょっときらきらしてるらしい。なにゆえ?しかも、痛めたのは右目だけなのに、左目も同じく「聖なる目」の鑑定結果だ。もともとだったのか?それとも、治療の過程で僕の浄化や魔力などが目や視神経に入ったからか?いずれにせよ、両目ともにいろいろ「よく見える」ようだ。

『もしかすると、複数の「人間」を見るともっと違いがよくわかるかもしれんな。』

とつぶやいた。

「?どゆこと?」

『我もまだこの目のことはよくわからん。結論は急がぬこととしよう。』

と言うと、なにか仮説は持っていそうだったが、それ以上このことについては話そうとしなかった。


「そういえばさ、」

『なんだ?』

「神獣ってこの世界にどれくらいいるの?シンハはフェンリルでしょ?そのほかには?」

『4種類と言われている。フェンリル、白龍、ホウオウ、ユニコーンだな。』

「おぉ、なんか、和洋折衷だな。」

『ワヨウ?』

「ああ、僕の元いた世界の言葉だよ。東と西のエリアの文化が入り交じっているという意味かな。」

『なるほど。…フェンリルもいたのか?』

「ううん。4つ足の神獣といわれるものは白虎だった。白いトラね。でもシンハはトラより獅子って感じだね。」

『獅子か。こちらでもフェンリルは獅子と呼ばれている。』

「へえ!そうなんだ!向こうの世界では、獅子は空想の動物だけど、一説には実際にいるライオンという動物…ケモノだとも言われているね。シンハとは尻尾が違うし、オスは首の周りの毛が長いんだ。獅子は百獣の王と言われているしね。」

『ほう!百獣の王か!』

気に入ったようで、ふさふさの尻尾がとても大きく揺すられている。

「それに、仏様…えーと、神様の使いだとも言われていて、たしか文殊菩薩っていう知恵の神様を乗せているとか。」

『ほう!獅子はむこうでも偉いのだな!』

「そうだね。」

この食いつきようは。獅子が気に入ったようだ。

「…で、この世界の神獣たちは、あとは何処にいるの?この近くではないんでしょ?」

『ああ。俺が会ったことがあるのはホウオウだけだ。奴は大陸の東のほうにいた。』

「ふうん。それって鳥の姿?」

『ああ。極彩色の長い尾を持ち、火山に棲む。不死と言われるがどうだかな。』

「へえ。元いた世界の神獣と似ているよ。…で、あと白龍だっけ?それは?」

『白龍は、今は眠っている。何処にいるか俺は知らんが、ホウオウが知っているというので会いに行ったのだ。白龍は治癒が得意で知恵者だというのでな。だが、奴しか知らない別の空間で眠りについているそうだ。』

「じゃあ会えなかったんだね。」

『ああ。あと200年は眠っているだろうとさ。』

「ふうん。…あとは、ユニコーンか。一角の馬みたいな?」

『その通りだ。神馬(しんめ)ともいう。これはホウオウも場所は知らないそうだ。』

「そうなんだ。じゃあ、いつ何処で会えるかわからないんだね。」

『ああ。だがどこかのダンジョンとつながった草原らしいから、いつか会えるかもしれん。』

「おお!ダンジョン!やっぱりこの世界にもあるんだねっダンジョン!」

つい食いついてしまった。

『ダンジョンを知っているのか。異世界にもあったのか?』

「ないよ!ゲームで潜ってたけど!」

『げーむ??』

「とにかく!いつか会えるかもしれないって思うだけでワクワクする!」

『まあ、な。』

「で、各種族どれくらいいるの?まさか一匹ずつじゃないんでしょ?」

『一匹ずつだ。』

「え」

『神獣は4種1匹ずつと決まっている。』

「え、ちょっと待って。でもさ、シンハはお母様と暮らしていた時期があるんだよね。」

念話で話すうちに、シンハが「母から聞いた」とか、「母が言っていた」と言うことがあるからだ。

『ああ。世代交代の時にはそういうこともある。母とは10年ほど暮らした。だがそれは例外だしホウオウの場合は火山に飛び込んで生まれ変わるらしいから、それさえもない。』

「えー、そうなの?じゃあ、シンハは基本的には子孫を作らないの?」

『俺が寿命を感じたら、母がそうしたように、フェンリルの子を作るのだろう。俺には父はいないと言っていたから、母の場合はひとりで(はら)んだのかもしれない。普通は近い種族のものと交尾してつくるらしいがな。ああ、ただし好んだ相手を孕ませることはできるぞ。母はそうしなかったようだが、母には兄弟は居たそうだ。正確にはフェンリルではなく、白狼種だがな。白狼種は神獣ではなく、神獣の眷属だ。』

一人で孕む?処女懐胎じゃないか。衝撃だ。

「えーと、じゃあシンハはその、誰かを孕ませたことは?」

『いや、孕ませたことはない。フェンリルは自分の寿命の長さを知ってから、子を作るものだと母が言っていた。もちろん、乞われて交わったことは何度もあるぞ。神獣とは強いからな。交わればその魔力が身につく。それを相手は望むのだ。』

「うわあ。なんか自分で話題振っといてなんだけど、急にオトナの話になっちゃった。このまま聞いていてもいいのかな。」

『この辺は強い魔獣が多いから、白狼種といえど、そうたやすくたどり着けない。俺が交わったのも白狼種だが、昔旅した時の話だ。』

「う、うん。なんか…聞かなきゃよかったかも。」

『なんでお前が顔を赤くしている?ああ、お前はまだ「いろいろと」コドモだったな。』

「わ、悪かったね。ボクはまだ「いろいろと」コドモですう。」

『ふふん。まあ、そのうちオトナになったら、俺の「武勇談」も聞かせてやる。楽しみにしていろ。』

「ふえーい。」

なんだか最後のほうは色っぽい話になったけど、僕はフェンリルが1匹だけ、というのを知って、シンハの孤独の深さを知ったような気がした。


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