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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第二章 冒険者の街ヴィルド編
155/530

155 魔族の侯爵

洞窟の中央広間へと出てきた時、奥のほうで鳴っていた剣戟が急に止み、

GUGYAAAAA!!

という狂気の魔物の叫び声とともに、邪悪なるものが中央広間にすごい勢いで走ってくるのを感じた。

「!シンハ!走れ!」

僕は杖を真横に構え、結界を広間の脇道に設置して塞ぎ、敵の侵入を妨げることに全力を注ぐ。

『オレが戻るまで持ちこたえろ!』

「当然!」

シンハが洞窟入り口へと走り出した時、広間奥の脇道から、何かが結界に突進してきた!


それより数分前。

先行してアジトを奇襲していたジョイナスたちは、盗賊らと広間で大乱闘を繰り広げたのち、逃げた奴らを追って奥の脇道へと入った。

「殺せ殺せ!盗賊は皆殺しだ!」

「頭目がいねえ!探せ!」

「俺は此処だ!」

奥にはもうひとつ、小ぶりな広間があり、その奥の小部屋から、両手に剣を持って大男が現れた。

「!サモン・ドラーティ!」

「ふふ…ふははは!サモン、だと?そいつは、俺のエサになった。」

「なんだと!?」

そしてジョイナスたちの目の前で、サモンの姿はメキメキと音を立てて大きくなり始め…

「!?」

まるで繭から大きな蛾でも生まれるかのように、体の表面が割れ、さらに大きな男…いや、巨人が現れた!

「!」

「!?」

その巨人は、頭に角があり、全体に青黒い体躯をしており、禍々しい黒い靄を纏わり付かせながら、ワイバーンのような羽根を広げた!

まるで巨神…。

「ひ!」

誰かがその禍々しい殺気に、喉奥で悲鳴を上げた。

それほどまでに、その存在は圧倒的だっだ。

GUGYA!!!


一瞬、Sランクであるにも関わらず、ジョイナスは絶望感に見舞われた。

すでに冒険者となって20余年。『蒼天の宴』のリーダーとして、Sランクとして、どんなS級魔物が出ても、これまでなんとかして倒してきた。その自負があるのに、足がすくむ。


「ファイアランス!!」

普段無口なメルルが、突然魔法を奴に向けて発射した。

ズババババ!!キュン!バキュン!

鋼のような奴の皮膚はそれらをはじき返し、傷ひとつ負っていない。

だがメルルの咄嗟の攻撃で、ようやくジョイナスははっとした。

「怯むな!野郎ども!行くぞっ!!」

そう叫ぶと、大剣を構え、突っ込んでいた。

ガキンガキン!!2太刀、3太刀と殺気を乗せて浴びせかける。

魔物はそれを鋼鉄のような腕ではじき返す。

その間にも、我に帰った他の冒険者たちが、矢を射かけ、足を狙って斬り込み、と一斉攻撃を仕掛けていた。

けれど魔物は鬱陶しそうにしながらも、一番の難敵はジョイナスだとばかりに、他の攻撃には目もくれず、ジョイナスの必殺の剣技だけをいなしている。

やはりSランクの剣捌きは、殺気を放ち、魔物にとっても脅威なのだろう。

だが。

にたりと、魔物は笑った。

『面白い獲物が来た。貴様らの相手はあとでしてやる!』

そう言い捨てると、眼前のジョイナスたちを飛び越えて、さっきの大広間へと走り始めた。

「!追え!」

はっとしてジョイナスは皆を鼓舞し、魔物のあとを追って広間へととって返した。



何か『凄まじい存在』が奥から走ってくる。

そしてその走り来る『凄まじい存在』が放った衝撃波が、先に広間にいる僕めがけて飛んできた!

僕は条件反射で

「結界!」

と自分の前に10枚の強固な結界を張った。バリン!パリンパリンパリィィィン!!!

広間奥に張った結界だけでなく、自身の前に張った10枚の結界が割れる。おうふ。残り5枚か。すげえな。

黒龍の時より強化された結界が合計6枚割られた。広間奥に張った結界以外に5枚。これはかなりの難敵だと判断せざるをえない。

それより、冒険者たちは?

まさか全滅なんてことは…ああ、大丈夫みたいだ。後ろから走ってくる。テオさんも。メルルさんとトビーさん、隊長さんもいる。


僕は、広間奥に結界を張り直さず、魔物をわざと中央広場の広いところに引き入れた。

「!」

なんだこいつは!?

赤黒い、人型魔物。かなりの巨体だ。

「…悪魔?あ、いや、デビル族か。」

そう。まるで絵に描いたような悪魔なのだ。角があり、ワイバーンのような羽根があり、尻尾がある。

デビル族は魔族の1種族。この世界でも「悪魔」と我々人間は言うが、彼らはそれを嫌がる。「悪」とつくのは心外らしい。この知識は、アカシックさんからのものだ。


たしかにこの世界の人間も魔法を使えるから、魔族、といえなくもない。

だがこの世界で魔族というのは、人間族、獣人族、エルフ族、ドワーフ族(これらを総称して「人族」という。)以外で、かつての大戦争で敵対した種族の総称だ。主な種族に吸血鬼ヴァンパイア族やデビル族、魅了で魔力を吸うサキュバスなどがいる。

大戦争で人族の連合軍に敗れ、今は温厚な魔王のもと、北の不毛な土地で、細々とだが穏やかに暮らしていると聞いていたのだが…。


わあ、ナマでデビル○ン見てるみたい!って感動しているばやいではない。

それに、あそこまでかっこよくはない。

なんか、あの往年のアニメにでてきた魔物の悪役みたいな?

それに、肩に醜い人面がくっついている。さっきの叫びはこいつか。

「くっそー。我らがヒーロー、デビル○ンをおとしめやがって!」

と僕はちょっとこの世界の人たちとは違う怒りを覚えた。


『貴様、人間か?』

ドスの効いた声が巨体の口から放たれた。

「!しゃべった。」

言語は古代語だ。驚いて釣られて古代語でつぶやくと、

『ほう。我の言葉がわかるか。人間。いや、お前…聖者か?』

また聖者認定。今日3回目だ。

『聖者ならばなおさら生かしてはおけぬな。いいだろう。お前の魔力はアイツに似て美味そうだ。食らって我が糧としてやろう。光栄に思え!愚かなる聖者よ!』

「僕は聖者なんかじゃない!それから、アイツって誰!?」

『ふ、はははは!そんなにもそっくりで否定か!そうか。まだ覚醒してもいないのか。いいだろう。覚醒前に食らってやる!オレの中で覚醒し、怨念にまみれ、オレの糧となれ!』


「サキ!気をつけろ!」

ばたばたと奥から冒険者たちが駆け込んできた。

先頭はジョイ隊長。

「隊長!こいつ、誰!?」

「賞金首のサモン・ドラーティが変化した!悪魔だ!」

「くそ!悪魔め!」

「悪魔だ!Dランクは下がれ!気をつけろ!」

いやだからみなさんその言い方は人種差別だってば!って言っても今は無駄か。

『人間ども、よく聞け。サモンはオレが食った。オレは魔族。デビル族侯爵、第3天魔王ゼベルウル。』

「こいつ、なんて言ってる?」

冒険者は普通、古代語がわからないか。

「デビル族の侯爵ゼベルなんとかだって。」

「なに!?侯爵、だと!?」

皆身構える。そうか。侯爵となると、手強いんだな。

『サモンが封印を解いてくれたのだ。その礼にあいつを食ってやったわ!相当の殺人鬼であったようだな。聖者とはまた違った意味で美味この上なかった。』

と舌なめずり。

古代語がわかる魔術師が、こしょこしょと隊長らに通訳している。

『今日は良き日だ。聖者まで食えるとは。』

「だから。聖者じゃないっつーの!」

『否定してかわいいのう。いいぞ。まずは全裸にして首に鎖をつけ、性奴隷とし犯してやる。それからじっくり食ってやろう!』

またしてもいやらしいやつがでてきた。

この討伐、そういうのばっかり。もう嫌。

古代語がわかる魔術師の皆さんは、特に女性は顔を赤らめている?

「今の、通訳しないで!」

思わず叫んだが、一部には伝わってしまったようだ。

ぶふっと笑いがもれた。

だれ、笑ったの。蹴るよ。


「はん。僕の美貌に迷った訳ね。じゃあ、しびれるような魔法を、差し上げましょう。轟雷スペシャル!!!!」

ドッカンバリバリバリ!!!とすさまじい音で落雷をくらわせる。怒りもあって、いつもよりかなり強め。冒険者たちにいかないよう、また耳を痛めないよう、結界してあげたし。

『くっ!貴様!』

「いかがです?侯爵様?しびれましたか?」

『お前は生かしては置かぬ。即刻食ってやる!』

「食いしん坊ですねえ。女性に嫌われますよ。みんな!『やっておしまい!』」

今度はヤツを取り囲んだコウモリ達の口から一斉に、再度バリバリバリバリ!!!と轟雷スペシャルを浴びせる。

最近こういう飛び道具技も覚えたんぜい!

「くー!一度言ってみたかったんだよ。ドロ○○ョ様のきめゼリフ!」

わかる人はだれも居ないが、おもわず興奮しその場駆け足みたいになって、日本語でつぶやいてしまう。

そう、僕は昭和なアニメはかなり知っている。なにしろ病室で、痛みを紛らすためにアニメの配信を見まくったからね。

シンハが此処にいれば、絶対『お前、大丈夫か?』と冷たい目で言ってくるに違いない。だが今は残念ながら居ないのだ。ほんと、残念。


と、突然

GGYAAAAAA!!

と人面疽が叫んだ。皆その音攻撃に耳を塞ぐ。

コウモリ達がばたばたと落下した。

くそう。

「ちっ!うるせー。戻れ!コウモリ達!!」

僕はハピの眷属たちを僕の魔力に強制的に引っ張り込み、避難させた。

彼らの「耳」が破壊されていた。かわいそうに。僕はすぐにヒールして眷属たちを治してあげた。コウモリたちは魔力内で治癒し、解放。洞窟から退避させた。


『サキ!』

ばたばたと音がして、コウモリ達と入れ替わりに、今度は表門の入り口からシンハと、カークさんたちがやってきた。


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