153 「花咲き丘」での戦い
最初に集合した『花咲き丘』の上空に来てみると、すでに乱戦状態だったが、どうやら敵の裏をかくのに成功したようで、敵が丘の中央付近に押し上げられ、冒険者達が敵を取り囲むという構図になっていた。
「一人残らず殺せ!」
カークさんの声が聞こえる。
ギャギャ!
ミケーネの声だ。
魔術師の敵に嘴攻撃をしている。
あ、後ろの魔術師がなにか唱え始めた!
「シンハ!」
『承知!』
急降下で降り、ミケーネにファイアボールを当てようとしていた魔術師をシンハが襲う!
『ガウ!!』
「ぎゃっ!」
盗賊の魔術師はシンハの爪に一撃でやられた。喉を裂いたようだ。
まだひくひくしていたので、僕が引導を渡すため、飛び降りながら剣を心臓に突き立てた。
ぐさっという肉と骨を一緒に貫くなんともいえない感覚が、掌から伝わってくる。
これが人を殺すということ。
だが魔物をたくさん殺してきた僕には、思っていたより衝撃的ではなかった。
それより、死に際の表情のほうが少々きつい。
だから、心を無にして、淡々と斬るしかなかろう。
「サキ君!助かった。」
と言いながら、バシュッと脇から飛び出して来た盗賊を大剣横一閃で瞬殺するテオさん。おお!やっぱ元騎士はすげえ!
「あはは。テオさんほどでは。」
と言いながら、僕も飛んできた盗賊を一刀両断。
「君こそ!」
バシュ!
「いえいえ。テオさんこそ。」
ズサッ!
それからは、二人で淡々と敵を殺す。
二人の周囲は死屍累々と盗賊の死体の山ができていく。
「殺せ!ここに来た敵は全員盗賊だ!迷わず殺せ!」
と槍を自在に使いながら、カークさんが叫ぶ。というか、淡々と指示を出す。
冒険者たちも興奮はしているだろうが、意外に冷静だった。
ただ、手強い魔法剣士が一人いた。
今、カークさんは残り少なくなった敵を包囲しつつ、その魔法剣士を用心している。
「あんたが指揮官か。すげえなあ。俺とサシで勝負しようぜ。」
と魔法剣士が言った。
「挑発しても無駄だ。」
「なんだよう。面白くねえなあ。お、お前でもいいぜ。そこのかわいい坊や。俺と殺り合わねえか?殺し合いしようぜ!」
と言うと、僕に向かって無詠唱でファイアボールいや、ファイアランスを放ってきた!
それをわざと振り払わず、
「アイスランス!」
で迎撃し、すべてを打ち落とす。
「ほおお!すげえなあ、にいちゃん!名前、なんていうんだぁ?冥土の土産に聞かせろよ。」
『言うなよ。縛られるぞ。』
「(わかってるって。)」
そう念話で答え
「僕は…へのへのもへじだ!」
「なんだと!?」
僕はそう言って中空にへのへのもへじを書いて具現化し、そのまま拘束具として奴に飛ばす。
「うぐっ!なんだこのふざけた魔法陣は!くそっ!放せ!」
「でやあ!!!」
ひるんだ隙に、カークさんが槍を突き出す。
それをかわしながら地面を転がって避け続ける。
と、奴の目が光った。なにかの魔法だ!
「結界!」
僕はカークさんの前に結界を張る。
結界に魔法がぶつかった時、わかった。
「石化の魔法だ。みんな、気をつけて!」
「はっはっはあ。それも見破るか。すげえなあ。」
「貴様、何者。」
とカークさんが訊ねる。
奴はへのへのもへじ形の拘束魔法陣に拘束されたままで立ち上がる。
即席だったが意外と使えるな。へのへのもへじ。
「俺か?酔人フロイドって覚えているか?カークアルキスタス。」
「!奴はすでに死んだはずだ。」
「ああ、お前に殺されてな。だが俺は生きている。こうして、赤の他人の姿で!どうしてだと思う?お頭が俺をよみがえらせてくれたのさ!あの世からなあ!!」
そう言うと、なにか、口に仕込んだ魔石を砕いたようだった。すると
「があああああAAAAAA!!!」
と叫び、その体はみるみる一〇倍にも膨れ上がり、モンスターとなった!
さすがにへのへのもへじは霧散した。
「な、なんだ!」
『ワレハフジミ。シナナイカラダ、アタエラレタ。オレハ、マオウニ、ナル!!』
火の魔人と化したフロイドは、溶岩のようなものを打ち出してくる。
「皆、下がれ!」
カークさんが指示する。冒険者たちが下がる。
「アイスウォール!」
僕が氷の結界で皆を守る。結界にでかいファイアボールがいくつも当たり、シュウシュウと水が蒸発する。
『すさまじいな。火山のようだ。』
僕が上に飛び出し、
「アイスバレット!」
と氷弾丸を撃ち込む。
だが奴の体に当たる前に、熱気で消える。
「アイスジャベリン!」
三つ又槍を複数打ち込む。
今度はさすがに消えなかったが、それでも威力は削がれ、すべて炎の手に叩き落とされた。
カークさんが結界の脇に飛び出して、突撃する。
「こっちだ!」
囮になるつもりか。いや、囮は僕がするってば。
アイスソードにした魔剣を肩に担いだままで、僕はカークさんとは逆方向から攻撃する。
「アイスバレット!」
「アイスジャベリン!」
僕たちの飛び道具を奴は振り払う。その隙に
「でやあ!」
とカークさんの槍が奴の腹を貫く!
だが、傷はすぐに修復。
『ウハハハハ!!コレダ、コノカンカク!オレハ、シナナイ!傷ツカナイ!ハハハハ!!!』
魔力無限なんて、あるわけがない。いずれ尽きるはず。
僕とカークさんが切り刻む。
「アイスソード!」
胸を僕が横薙ぎにぶった切る。だがまたくっついた。
核は何処だ?心臓がダメなら頭か!?
「グレートスピア!!」
カークさんの必殺技が、奴の眉間を貫いた。
今度こそ!
だが。
『ウハ、ウハハハハハ!!カーク!!オレヲ見ロ!フジミダ!』
奴の体を透視する。
「!核が移動している!頭からまた胸に降りていった!」
と僕が叫ぶ。
『オレハ、フジミダ!!オレ、ハ、フ・ジ・ミ…』
「「!?」」
ぼこっぼこっとカラダのあちこちから人面疽のようなものが。そして、どろどろにカラダがとけていく…
『ナンダ、コレハ、ウソダ!イタイ、イタイ!ダズゲデグデェェェ!!』
と言っているうちに溶岩のようになっていった。
まるで溶岩スライムのようだ。僕は
「アイスクオーツ!」
と言って奴を水晶のように凍らせた。
「核は!?」
「胸です!」
その場所を赤い丸でカークさんに示し、そこだけ氷も薄くした。
『イダイ、ダズゲデグ…レ…』
そしてカークさんが奴の核に、槍を突き刺す!
「でやあ!!!」
ガシャン!と氷とともに、核が割れた。
『ギャ!!』
それが最後の声だった。
シュウウウ…と氷がとける。
あとには人間に戻りきれなかった半分溶岩の男の死体があった。
「魔力が尽きたんだな。」
とカークさんが荒い息を整えながら言う。
「おそらく。魔力の暴走に耐えられなかったのでしょうね。」
光の粒が、黒い靄とともに中空に舞う。
僕は世界樹の杖を取りだして奴の頭だったところに杖を触れさせ、祈る。
「イ・ハロヌ・セクエトー…世界樹よ。哀れなる罪人の魂を清めたまえ。魂よ。静けさを取り戻し、地脈に帰れ…。」
場が清められ、黒い靄は消え失せ、光の粒だけが天空へと昇っていった。
「これで、アンデッドにならずにすむでしょう。」
「サキ。君は聖者か?」
「いいえ?どうしてです?」
「いや…。なんでもない。ありがとう。」
となぜかカークさんに感謝された。
キャイキャイ!とミケーネがうれしそうにとことことやってくる。
「ミケーネ。テオさん。」
ミケーネを撫でてやると、すっごく喜んでいる。
「サキ君。怪我はないか?」
「大丈夫です。…カークさん、例のヤツですが。」
僕はカークさんに、かくかくしかじかとイサクとのことを述べる。
「…で、ひとまず木の上に結界で封じて生かしてあります。」
「わかった。あとは俺が尋問する。ありがとう。」
「かなりやばい奴です。気をつけて。」
「ああ。」
「さてと。僕、テオさんたちと先に『あっち』に合流しますね。そろそろ突入みたいですから。」
というと、
「サキ!行くなら伝言を。…さっきのフロイドのことを隊長に伝えてくれ。アイツと同じようなかなりやばいやつがいるかもしれん。」
「わかりました。テオさん!ミケーネ!一緒に行きましょう!」
というと、僕はテオさんにも飛行魔法をかけた。
「おお!」
きゃいきゃい!
ミケーネははしゃいでいる。
「気をつけて!」
とカークさん。ようやく僕が行くことを諦めてくれたみたいだ。
「はーい!」