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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第二章 冒険者の街ヴィルド編
152/529

152 月下の一刀

「!やばい!」

僕はハピの目でイサクとトビアスを見ていた。

「!まずい!あいつ、意外にランクが高い!」

「!?」

はじけるように立ち上がった僕に驚くテオを残して、僕は隣にいたシンハごと短距離テレポートをした。


テレポートした先は空中。奴から50センチ隣。

そしてトビアスを逆さづりにしている右手を魔剣で切り落とした。

「!ぎゃああ!!!」


トビアスは頭から地面に落ちたが、とっさに両手で地面をつき、バク転で体勢を整えた。その直後に、自分の足からぽろりとはがれたあいつの手首を見る。

切り口がきれいだった。

誰かがあいつの腕を一刀両断に切ってくれたのだと理解する。

はっとして身構えつつ顔をあげ、そいつの姿を捉える。

自分にとって、敵か味方か、まだわからないのだから。


大きな月二つを背景に、白い大きな獣にまたがった、薄金色の髪の少年が、中空で剣を手にしていた。剣からはまだ血が滴っていた。

トビアスは我が目を疑った。

「…サキ?」

彼の目はアメジストのように紫色に妖しくも美しく光っていた。


地面には、今し方まで自分を宙づりにしやがったあいつ…イサクが、ぎゃあぎゃあわめきながら腕を押さえている。

「俺の!俺の!腕!腕がああああ!!!」

「ヒール。」

ごく普通のことのように、サキはあいつにヒールをかけた。

血止めのつもりか。


「トビーさん、だいじょぶ?」

まるで普通のことのように聞きながら、シンハにまたがったまま自分の脇に降りてきた。シンハがでかい。

「お、おお。助かった。わりいな。」

ようやくそう言えた。


今はほとんど殺気を感じないが、空中に現れた時のサキの放つ殺気たるや、どこぞのダンジョンボスにでも会った時のような、凄いものがあった。

トビーは、こいつが敵でなくて良かったと、肝を冷やした。

「こいつは連行する。まだ情報が聞けそうだから。」

と言って、サキはどこからかロープを取りだし、猿ぐつわも取りだし、指一本あいつには触れずにがんじがらめに拘束した。

奴の目も目隠しし、喉を凍らせ、耳も凍らせ。それも全部、指一本ふれずに。

「なにも見せず、聞こえず、話させず、がいいね。こいつ、結構レベル高いから。」


「…しっかし、すげえな。お前。」

「え、そう?」

とこてっと首をかしげる。いつもなら可愛いが、今は月明かりで逆光で不気味なくらい美しくて。

「指一本触れずに拘束かよ。」

「なんか、こいつ、昼間も気持ち悪かったんだよね。視線がさ。ぬめっとしていて。余罪がかなりありそうだ。」

「たとえば?」

「言うとさっき食べた美味しいゼリーを戻しそうだから言わない。」

「ははあ。お前、鑑定持ちだな。こいつを鑑定したんだろ。」

「…。」


サキは苦いものでも食べたように口をヘの字に曲げただけで、あとは無言。そして別のことを言った。

「僕はこいつをつれて戻るよ。トビーさんと、それから…メルルさん!二人は隊長に合流してアジトに向かってくださいねー。じゃあ!」

サキはそういうと、なんと軽々とシンハにまたがったまま空を駆け上った!呪文もなしで!

シンハが空をかけているのだ。


それまで様子をうかがっていたメルルがすくと立ち上がった。

「感づかれてたみたいだぜ。坊やに。」

「サキ、ただ者ではない。シンハも。」

「だあな。てか、アイツが来る前に助けろよ。」

「呪文唱え終わらないうちに、サキが現れてやつの腕、ぶった切った。」

「そうかいそうかい。…しっかし、マジすげえな。サキは。」

「シンハも。それに…二人ともカワイイ。モフモフしたい。」

「…言ってろ。」


僕が捕虜を連れて飛び戻る。空から結界を透視能力で見ると、もう野営地には人がおらず、作戦は開始されていた。

ジルと後方部隊となったDランクの女性3名だけがぽつんと、頑丈な結界の中で留守を守っているのが見えた。

まさか彼女たちにこいつをあずける訳にもいかないので、僕はそのままカークさんのところへ飛ぶ。

「こいつ、どうしよう。邪魔だなあ。亜空間に入ればいいのに。」

『死体じゃないから無理だろう。』

「そうなんだよねえ。よし、高い木のてっぺんに繋いでいこう。」

僕は途中の高い樹木を選んで、即席の檻に入れた奴をてっぺんにぶらさげることにした。


まず、HPとMPをぎりぎりまで魔石に吸わせ、かつ薬を嗅がせて眠らせた。魔法封じの呪具をつけさせ、それからアラクネさんから譲ってもらった特製の繭におしこめる。この繭は体力を奪い、かつ魔法封じにもなる敵を拘束する特製繭だ。その上で、結界を張った檻に入れている。そして、見張りにコウモリを二羽呼んでおいた。

これで異常があれば僕に連絡がくる。


「これなら万全でしょ。」

『…。やり過ぎな感じもするが。』

「いやいや。こいつ、意外にレベル高いから。やばいから。」

というと

『こういうところはやたらとお前は几帳面だな。サキを敵にまわすと恐ろしいな。』

とシンハにぶつぶつ言われた。

「だって…こいつ…さっきは言わなかったけどさあ、異常者だよ。相手を殺しながらでないと『勃たない』性癖なんだ。わかる?言っている意味。それに、こいつ、僕をそんな餌食にしようとしてたみたいだしさ。」

というと、さすがにシンハは

『なに!?そんなにやばい奴だったのかっ!今すぐ殺せ!殺してしまえっ!ガルル!!』

と慌てた。


「どうどう。おちついて。こいつの余罪はたぶん凄い。魂が汚れるくらいだからね。だから、すべて聞き出さないと。そして聞き出し終えたあとは…最後は僕が責任持って地脈に送るよ。」

と言った。

『…なにもお前が担うことは。』

「ううん。僕は世界樹の申し子だからね。そういうことはきちんとしないと。魂が地脈に戻れない。」

と言うと、シンハはため息をつき、

『…。かならず俺の目の前でやれよ。』

とだけ言った。

「うん。ありがとう。かならずそうするよ。」

となるべく笑顔で言った。

「さてと。まだ汚れたる魂はたくさんありそうだ。僕たちもカークさんに合流しよう。」

『わかった。』



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