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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第二章 冒険者の街ヴィルド編
149/529

149 スパイ発覚

翌早朝、5時。

盗賊討伐隊が東門に集合した。

受付した順に今回の合い印である黄色の布や地図、朝食と昼食の2食分が配られる。

シンハのような従魔にも黄色の布を付けることになっている。アラクネ糸ではなかったので、首輪がわりの七色の紐に結んだ。かっこいいよ。


全員そろったところで、隊長となる『蒼天の宴』のジョイさんが挨拶した。

「今回俺が討伐隊を率いることになった。『蒼天の宴』リーダー、Sランクのジョイナス・アルガイルだ!皆、よろしく頼む!

依頼は盗賊団の殲滅!依頼を達成して全員無事に帰還する!それが最大の目標だ!

いいか!今回の敵はなかなかに手強い!手柄ほしさに勝手に出るんじゃねえぞ!大切なのはチームとしての連携だ!

作戦は参謀役のカークに任せてある!俺からは以上だ!勝って戻ってくるぞ!いいな!気合いをいれろ!」

「「「おおー!!!!」」」

盛り上がったところで、カークさんの登場だ。


「おはようございます。カークアルキスタス・シガニーです。今回は私が参謀です。皆自分の役割をしっかり守るように。

なお、今回賞金首をあげた場合、全取りではなく、基本的には半分が討ち取った者またはパーティーに、半分は参加者で分配します。

ですのでジョイ隊長が今言ったように、功を焦る必要はありません。

それぞれがきちんと割り振られた役割を果たし、その上で敵殲滅に心がけてください。

なお、今回、盗賊団は捕まっている人質以外、すべて殺します。生け捕りにはしません。いいですか、盗賊はすべて殺します。

ただしまちがっても捕らえられている人を殺さないように。配慮すべきはそれだけです。

1人1殺または2殺を心がけてください。

作戦開始は今夜遅くの予定ですが、詳しいことは現地で話します。以上。」


カークさんは盗賊団を全員殺す、と言った。

それを聞いて、誰しもの表情がぴりっとなった。

全員殺せ。

それが冒険者に課せられた課題だ。


それからジルさんから諸連絡があり、昼休憩の場所と時間、それから夕方6時に現地近くの野営場所に各自集合、遅れないように、とのことだった。

ここから一緒に動いても、どうせばらばらになる。それなら集合時間だけセットしておき、あとはパーティーごとに動くというのが冒険者の常套らしい。

そうだよね。騎士団と違って、ここから統率とれと言ったって、聞くような連中ではない。


僕はテオさんとミケーネ、そして『蒼天の宴』さんらの近くを歩いている。

「まあ、ここから緊張してたってしゃあないしな。」

と『蒼天』のトビーさん。

あ、そか。そうだよね。と思う僕はやはり初心者だ。


「緊張、してますか?」

とテオさんが僕に尋ねてきた。

「え、ええ。まあ。…盗賊団の討伐って、全員殺すのが普通なんですか?」

「いや、普通は生け捕りを目指せっていわれるね。鉱山送りにできれば労働力になるし。でも今回のように大規模かつ相手が手練れだと、殺せとなるね。」

「なるほど。それだけ手強いと。」

「そう見ているということだね。」

「ランクとしたらどれくらいなんでしょうね。」

「冒険者ランク?そうだな。普通は幹部でCいけばかなり手強い相手といえるでしょうね。普通はEとか。せいぜいD。ただ狼と同じで群れると強くなる。」

「あーなるほど。魔狼狩りか。」

「基本はそうですね。相手が賢いとやりにくい。」

「なるほど。人質を盾にとられたりは嫌ですね。」

「今回はカークさんたちが殺せと明言するのですから、相当だと思いますよ。BとかAが複数いると思っていい。一番の賞金首はサモン・ドラーティ。元Aランク冒険者です。今ではもっと強いでしょうね。」

「S相当、ですか。気を引き締めないとですね。」

「ええ。」

Sランク相当がいるのに、Bで未成年の僕を引っ張り出すとは、ギルド総長はどういう奴だろう。

なんか、ますますむっとした。


ジルさんの隣に見かけない人がいる。

職員は黄色布のほかに、腕に緑の腕章を付けている。その人も腕章をしているし、ジルさんと頻繁に書類や地図を見ながら話しているから、職員ではあるが、見たことはない。今朝が初対面だ。

ただ、何度か嫌な視線を感じたのは、こいつかも、とは思った。なんか、嫌だな。なんとなく黒い靄を纏っている感じもするし。

ただ、冒険者の中には、犯罪者スレスレの奴もいるから、なんとも言えないが。


「あのひとは?知らない職員さんがいる。」

「ああ、ジルの隣ですか?彼はイサク・リアットとか言ってましたね。王領ギルドの職員です。今回の道案内役ですね。」

「ああ、そうなんですね。だから見かけたことがないんだ。」

とテオさんと話していると

『おい。』

シンハが僕に呼びかける。

「(うん?)」

僕も念話だけで答える。


『ジルとかいう奴の隣に居る奴。魂がかなり汚れている。気をつけろ。』

え!?

「(じゃあ、もしかして…盗賊団のスパイ!?)」

『スパイ?ああ、間諜のことか。おそらくそうだろうな。』

「(じゃあ、今回の作戦は。)」

『おそらく敵に筒抜けだろうな。』

「うわあ。」

僕はつい嘆き声を発してしまった。

「うん?どうしたんです?」

とテオさん。

「いえ。シンハが今ちょっと情報をくれて…。」

周囲にはほかの冒険者もいるから、今は何も言わない方がいいだろう。


王領ギルドが大敗したのもこいつのせいか。

細心の注意を払ってこっそりイサクを鑑定する。

「げ。」

僕は思わず眉をひそめた。

鑑定内容は…間違いなく、まっくろクロ。ただそれだけではなく、人として酷いものだった。


あまりのおぞましさに一瞬本気で酸っぱいものがこみ上げそうになったが、どうにか気を取り直し、またシンハと念話で話す。

「(…。なんとかカークさんに教えないとね。)」

『そうだな。』

あ、今度はカークさんも交えて話している?まずいな。作戦だだもれじゃん。

と思っていると、何を考えたかシンハがとととっと走り出す。

「シンハ?」

シンハはカークさんの前にまわると

「ばう。」と小さく吠えた。

「うん?」

カークさんは普段シンハがとらない行動に戸惑っている。

「ばう。」ともう一度。

それでカークさんは困ったように僕を探した。


目があったので、明るく手を振って、僕はさりげなくかけよった。

「カークさん!ちょっとご相談が。」

と言って腕をしっかりからめる。するとはっとしたようにジルの隣のイサクが聞き耳を立てる。あいかわらず視線がぬめっていて嫌だ。

「実はー、夕食の献立でサプライズを考えてましてー。そのことでご相談が。ちょっといいですか。(あっちで。)」

とさりげなく促す。

イサクがじっとまだこちらを見ているので、いたずらっぽく会釈して

「すみませーん、参謀をお借りしまーす。」

と愛想よく言っておく。腕はしっかりカークさんをひっぱって。

イサクが僕を見て愛想笑いをした。

その笑みが、またぬめりとしていて、一瞬ぞくりとした。

性的ななにかを僕に感じたようで、気持ち悪かった。

うわ。やだ。

「クリーン。」

思わず周囲の空気を清浄化してしまったくらいだ。

「??」

急にクリーンしたのでカークさんは驚いたみたい。

でもとにかく今はカークさんに話さないと。


テオさんの近くではあるが、僕はさっと魔法で自分の掌に文字を書く。

「うん?なんですか?サプライズって。」

「ええ、実は」

と言って掌を見せながら、でも口では

「フルーツ入りのゼリーというデザートがありまして」

と説明を始める。

本当は森の仲間達とのパーティー用に作ったんだけど。

掌には

『イサクは魂が汚れている、とシンハが言う。

盗賊団の間者と思われる。気をつけて』

と書いている。

それを見てはっとするカークさん。

「それで、人数分あるんで、配ってもいいですか?いいですよね。」

「…わかった。」

とまだちょっと緊張した顔でカークさんが言った。

「それは美味そうだな。」

「味は保障します。」

と言いながら、また掌の文字を消して魔法で書く。

『イサクの見張りは、僕の眷属にさせますのでご心配なく。』

と書いた。

昼はロビン、夜はコウモリのハピたちがいいだろう。


「…わかった。…では少し作戦も変更ですね。野営地や時間も考えないと。せっかくのデザートですし。」

とカークさんがつぶやく。

「そうですねえ。野営地については、良い場所があれば、お知らせします。」

と小声で言っておく。

「続きは昼にご相談しましょう。」

「ですね。」

とひそひそやったのち、僕とカークさんは意味深な笑顔で別れた。

カークさんは何食わぬ顔で先頭へと戻って行った。


「夕食のサプライズ、ですか?」

カークさんにジルが無邪気に訊ねている。

聴力を強めてその様子を盗み聞き。

もちろんイサクも、ジルとカークさんの会話を聞いている。

「うん?ああ。美味しいデザートがあるそうだ。皆に振る舞ってくれるそうだよ。」

「へえー!そうなんですか!楽しみー。」

イサクも、なんだ、本当に夕食の相談だったかと安心したようで、緊張が解けたのを感じた。



夏休み特別企画!?

今日からしばらく毎日更新!

乞うご期待!

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