表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第二章 冒険者の街ヴィルド編
146/529

146 サキの提案

シンハを連れて昼過ぎの町を歩く。

査定がかかりすぎて、もう昼をまわっていたのだ。


「おなかすいた。屋台で食べる?それとも宿メシ?」

「俺はお前の料理が食べたい。」

「お、うれしいねえ。でも、今はせっかく町なかだから、屋台にしない?あつあつ串焼き、好きだろ?」

「まあな。」

「いっぱい稼げたから、今日はなんっでも好きなもん食べていいよ。」

と言ってみる。

「では遠慮なくいただこう。」

とえらそうにシンハは言って、鼻をひくひくさせた。


結局、僕とシンハは屋台をめぐって、具だくさんスープとオーク肉の串焼き、魔兎串焼き、ホルストック串焼きにカットフルーツの串ものなどなどを手に、ベンチに座った。

ここは市場の隣が屋台村のようになっていて、大きなテントが並んでおり、外だが屋根付きのところで食べられるのだ。


ベンチの下の土があまり綺麗ではなかったので、そういう時のために用意している布を敷き、シンハを座らせた。そしてシンハ用のトレイの上にボウルや皿を並べ、スープや串から外した肉類とかナンのようなパン、果物などをそれぞれ盛り付け、水入りボウルも添えて置いた。


「へえ。お行儀いいんだね。」

と近くに座った冒険者風のおねえさんに感心された。

「ええ。こいつ、結構きれい好きなんで。」

と言うと、笑ってじっとシンハを見ている。犬好きなのだろう。


シンハの尻尾が食べながらふっさふっさと揺れている。機嫌がいい証拠だ。

食べる時も、僕の足にシンハの体のどこかが必ず接触している。足だったりお腹だったり。

信頼の証なのか、はたまた単に甘えん坊なのか。

なので宿では裸足でシンハを撫でくりまわしたりもしているが、特に怒りもしない。

むしろじゃれて遊んでもらうのが楽しいみたい。

ちなみに、今シンハが敷いている布はアラクネ製である。

地味な薄茶色だが縁まわりに刺繍がされていて、ちょっとこじゃれている。


「ねえ、君、その犬が敷いている布、何処で手に入れたの?」

今度は商人風のおじさんに声をかけられた。

「え?ああ。これですか?何処だったかな。どっかの町の雑貨屋ですよ。何故です?」

「いや…ちょっと気になって…。まさかね。」

としゃがみこんで大胆にも布に手をのばそうとした。

うー。

とシンハがうなった。

食べている時は本能的に近づく者には警戒する。

それは普通の犬と同じだ。

「あ、危ないから。やめてください。食べてる時は機嫌悪いですから。」

「おっと。そうだね。ごめんよ。」

おじさんはあわてて立ち上がった。

シンハはまた無言で食べ始めた。

相変わらず僕にはぺったりくっついてるのに。

もちろん、僕が食事中のシンハを撫でても、うなったりはしない。むしろご機嫌になる。

『そいつ、この布がアラクネ製ではないかと疑っているようだぞ。』

とシンハが念話で話しかけてきた。

「(ふうん。目はいいんだ。このひと。)」

『気をつけろよ。』

「(ふふ。君が布を敷くならアラクネ製がいいっていうから。)」

とつい笑ってしまった。


「ん?なにか?」

「え?あ、いえ。なんでもないです。こいつ、感情の起伏が大きくて。すみません。」

と僕は商人さんにあやまった。

「君は怖くはないのかね?こんな大きな獣と一緒で。」

「え?全然。だって犬ですし。」

ふっさふっさと犬アピールするシンハ。

「普段はいい子なんで。僕のこと噛んだりもしませんし。」

時折わざとじゃれたふりして引き倒されるけど。

まだシンハ(の布)をじっと見ていたけど、どうやら店の子が商人さんを探しにきたようで、

「邪魔したね。じゃあ。」

と言って、僕くらいの男の子と一緒にテントを出ていった。

『アラクネ製だと見破ったとしたら、なかなかの目利きだ。取引するにはいい相手かもしれないぞ。』

「(まあね。また会えたらね。)」

などと言いながら、僕たちは食事を終えた。


デザートの果物も食べると、僕たちは満腹になってテントを出た。

今日はもうやることもない。

あとは宿に行ってポーションを作るとか、料理のレシピを考えるくらいか。

もちろん日課の「魔力循環」や剣術の型の稽古、ヴィオールの稽古はするけれど。


町中で必需品を買いながら、腹ごなしにぷらぷら歩く。

この町は活気があっていい。

王都に負けないほど賑わっていると言われる辺境伯領都である。

なにより道端に物乞いがほぼいないのが不思議なくらいだ。

日本ではそれが普通だけれど、僕のアカシックさんによると、この世界では貧富の差が激しく、スラム街が大きいのが普通だとか。

町自体もうす汚れているのが普通らしい。


だがこの領都は領主がしっかりしているせいか、スラムはあるが、さほど酷い感じはなく、街の道路も石畳で綺麗である。しかも領主が定期的に依頼をギルドに出しているそうで、道や下水を清掃する人を見かける。子供たちの場合も多い。主に孤児院の子供たちの収入源らしい。

終わると、シスターのような女性が、子供たちにクリーンの魔法をかけていた。

すごいな。魔法。


宿に戻る前に、僕は公園のベンチから町の様子をなんとなくながめながら、途中で買ったポムロルジュースを飲んでいた。

シンハにも小さなボウルにあけて与えている。

僕はさっきから考えていたことを、口にした。

「シンハ。お金入ったし、家、買おうか。」

シンハがもくもくと飲んでいる。

聞こえていないのか?僕は重ねて言った。

「ねえ、シンハ。聞いてる?この町で家を買おうって言ったんだよ。」

さすがにシンハは驚いたようで、ボウルから顔をあげて僕を見つめた。

『なん、だと?』


「家を買おう。」

『急にどうした?』

「え、だってさ。いっぱいお金入ったし、他に使い道もない。新築もいいと思うけど、まあ綺麗な中古物件があれば僕はそれでもいいな。この世界の家に住んでみたいというのもあるし。住みやすいように改造すればいい。」

『…宿ではだめなのか?』

「ダメじゃないけど、宿が嫌なのはシンハじゃないかな。

だっていろんな匂いがするから、辛いんじゃない?

それに、やっぱりなにかと窮屈でしょ?おとなしい犬のフリをするのは。自分の家なら、のびのび暮らせる。もちろん、中古物件の時には、徹底的にクリーン魔法するから、匂いは大丈夫だよ。」


『…森では嫌か。』

「もちろん、森は森ですっごく気に入ってるよ。だけどさ、毎晩あそこに寝に帰れるかっていうと、そうもいかないでしょ。」

『王都でなくていいのか?』

「王都?なんで王都?王都は行ったことないし。行ってみたいとは思うけど、絶対物価が高いし。

此処がいいよ。だって王都はシンハの食料があまりないと思う。不便だ。此処ならすぐに狩りに行けるし。美味い魔物の肉も結構安く売ってる。森も近いし狩りもできる。

家を持つなら、此処がいい、というか、他にはちょっと考えられない。」

『なるほど。』

「定住するという訳じゃなく、これからもあちこち見て歩こうと思っているけど、基地を此処に作っておくのはいいかなと思ったんだ。そろそろ鍛冶も料理もしたいし。」

『!なに、料理!?』

「あー、でも…シンハが嫌なら家を持つのはやめにしようか。」

『いや、持とう!家を買え。俺はお前の家に住みたい!』

「…本当に?」

『ああ。』

「…。僕の料理、食べたいだけとか?」

『い、いや、いやいやそうではないぞ。』

「ほんとうに?」

『ほ、ほんとうだ!』

どうもあやしい。というか、絶対料理だよなこれ。と思う。


『…こほん。吟遊詩人のセシルとはずっと旅暮らしだった。それはそれで面白かった。だが辛いことも多かった。

一番こたえたのは、寒い冬。旅の途中でセシルが病気になった時だ。あれは本当に困った。お前は病気はしなさそうだが、精神的にへこたれそうだからな。うん。いくら一瞬で移動できるとしても、家はあったほうがいいだろう。』

とシンハは言った。なにげにディスられてないか?まあ、いいや。

「判った。じゃあ、本気で家を探すよ。なければ新築する。シンハはどんな家がいい?」

『そうだな…。庭は広いほうがありがたいが…だがほどほどでいいぞ。無理するな。』

「無理はしないよ。じゃあ、庭はなるべく広くして、屋敷は小さくする。空間魔法で見た目より広くできるしね。あ、でも鍛冶場は作るよ。もちろんいろいろ調理できるキッチンもね!

それと、絶対お風呂!もう風呂ありはマストだよねえ。

うわあ。なんか、楽しみになってきた!明日、ギルド長に相談しよう。きっといい物件を知っていると思うんだよね。」

『うむ。町の有力者だからな。それがいいだろう。』

「わーい。なんか、すっごくたのしみー。」



サキが家を買おうと決めたようです。が、一筋縄では行かないのが世の常、なんですよねー。


いつも、いいね!や評価(ページ下にある☆印)、ありがとうございます。創作の励みにしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ